ラッドの駆除が終わった。そのラッドを探すのに付き合わされた伊佐は不機嫌そうな顔な顔でベンチに座り込んでいた。その横に修と遊真が座ってると、迅が3人に言った。
「いやー助かったぜ3人とも。悪いな」
「ほんとですよ」
ブスッとした顔で言うのは伊佐だ。
「俺はボーダー隊員でもなんでもないってのに……」
「悪かったよ」
「しかしホントに間に合うとは……。やはり数の力は膨大だな」
「何言ってんだ」
遊真が近くのラッドの死骸を眺めながら言うと、その頭を撫でながら迅が言った。
「間に合ったのはお前とレプリカ先生のおかげだよ。お前がボーダー隊員じゃないのが残念だ。表彰もののお手柄だぞ」
「ほう。じゃあその手柄はオサムにつけといてよ。そのうち返してもらうから」
「えっ」
「あーそれいいかもな。メガネくんにつけとけば、クビ取り消しとB級昇進は間違いない」
「ま、待って下さい!僕何にもしてないですよ⁉︎」
「十分してると思うよ。三雲くんがいなかったら、俺と三雲くんはモールモッドに狩られて、ボーダーは空閑くんの力を借りれなかった」
「そんな無理矢理な……」
「パワーアップできるときにしといたほうがいいよ。拾ったiTunes Cardでも使えれば戦力倍増できる」
「いやその例えはどうかと思うが、俺もそう思うぞ」
伊佐の意見に賛同したのは迅だ。
「それにたしかメガネくんは、助けたい子がいるから、ボーダーに入ったんじゃなかったっけ?」
「………」
そう言われてしまえば、修も頷くしかない。
「じゃ、決まりだな。とりあえずメガネくんと伊佐くんは俺について来い。遊真は、今日はここまでだな」
「ふむ、分かった。じゃあ二人とも、またな」
「ああ。じゃあな」
「またね」
遊真と別れた。
*
「じゃ、まずはメガネくんの昇進を終わらせるから、伊佐はここで待っててくれ」
「えっ」
そう言われて伊佐が残されたのはラウンジのような場所。機密保持がどうのとか言ってたくせにこんなあっさり一般人をこの中に入れてもいいのか、と思ってると、見覚えのある顔が近付いてきた。
「やぁ、伊佐くんか」
「! 嵐山さん?」
「どうしたんだ?こんな所で」
「迅って人に連れて来られて置いてかれたんです」
「……ああ、なるほど。迅にか」
嵐山は隣に座った。
「ボーダーには入るのか?」
「入りません」
「即答か……。 何でだ?」
「ゲームの時間が減るからです」
「……………」
馬鹿正直に答えられ、少し引いた。
「ま、まぁそういう考え方もある、かな。でも、あくまで俺自身の意見だけど、俺は君にボーダーに入って欲しい」
「……なんで俺なんかを?」
「話を聞いただけだから何とも言えないけれど、君には自分が命を落とすかもしれない危険な中でも落ち着いて行動し、考えられる頭脳がある。それだけでも適性は高いと思うんだ」
「……………」
「まぁ、本人の意思が一番だと思うけどな。入るなら、俺は君を歓迎するよ。君には恩がある」
「はぁ?なんの?」
「あの学校には俺の弟と妹が通ってたんだ。良かったよ、無事で……」
「シスコンもブラコンも気持ち悪いんでやめたほうがいいですよ」
「偉く毒舌だな君は……。というか弟と妹の心配くらいしてもいいだろ」
そんな話をしてる時だ。ようやく迅と修が戻って来た。もう一人男の人がついてきた。
「お待たせ伊佐。……と、嵐山」
「よう、迅。こんにちは、忍田本部長。じゃ、またな伊佐くん」
嵐山はその場を去って行った。
「なんの話ししてたんだ?」
「ボーダーに誘われました」
「やっぱかー」
「それより、その方は?」
伊佐が尋ねると、忍田は自分から名乗った。
「私は本部長の忍田だ。君が生身でモールモッドを捉えたっていう伊佐くんかな?」
「はぁ、そうですけど」
「少し話がしたい。時間をくれるか?」
「……………」
「おお、スゲェ……。忍田本部長を相手にそこまであからさまに嫌な顔できる奴、そういないぞ……」
思わず迅がそう呟くほど、嫌な顔をした。
「嫌ならいいんだ。また日を改めるが」
「いや、嫌じゃないですよ。ただ話長くなりそーだなーって。俺、朝礼とか校長の話聞けないタイプなんです」
「いや、そんなに長くするつもりはないよ」
「…………」
とりあえず移動した。
*
「単刀直入に聞こう。ボーダーに入らないか?」
「出たよ本日3回目……」
その台詞に忍田はピクッと反応する。
「すでに誘われていたのか?」
「迅さんと嵐山さんと忍田本部長さんで3回です」
「それで、どうだ?」
「いやだからゲームの時間が減るから御断り……」
「ボーダーで正隊員になれれば、活躍に応じてお金がもらえるが、決して少ない額ではない。課金も出来るんじゃないか?」
「やりましょう」
「早っ⁉︎」
手の平地獄車に修が引き気味に反応した。
*
入隊の手続きだけして、今日は解散になった。一応、転属先は玉狛にしておいた。それでも正式入隊日を迎えるまでは正式な隊員というわけではない。
疲れ切った目で、家の前に到着すると、笑顔で女の子が待っていた。
「何処に行ってたの?」
「…………げっ」
綾辻だった。ニコニコ微笑んでいる。ただし、怒ってる時の笑顔だ。
「どうも、ハルちゃん」
「今日は約束したよね?私、泊まりに行くからって」
「や、今回は俺も悪かったよ。色々と成り行きと事情があったとはいえ。だからまずはその成り行きと事情を聞いてください」
「言ってみ?」
「えーっと……多分知ってると思うけど、あ、いやいい。まずは中入ろう」
家に入った。二人ともソファーに座って今度こそ説明開始。
「まぁ、一口に説明するのも難しいんだけど、少し迅さんって人と色々あったんだよ」
「それって、ボーダーの?」
「そう。それでまぁ、色々あったんだよ」
「嘘だね」
「や、なんでよ」
「今日はボーダー総出でトリオン兵の駆除があったんだよ」
「ラッドの駆除でしょ?」
「あれっ、なんで知ってるの?」
「だってそれ、俺も手伝ったもん」
「………ふぅーん、」
最初は疑わしそうな顔をしていたが、迅の名前とラッドのことを出されれば頷かざるをえない。
「まぁ、信じてあげる」
「どーも」
「でも無理はダメだよ。病み上がりなんだから無茶しちゃ」
「無茶ってほどじゃないじゃん。それより、飯作るからゆっくりしてて」
「ケンくん」
「え、何」
ズイッと綾辻は顔を伊佐の目の前に近付ける。
「なんだよ。近いよ。キスしたいの?」
「したいけど違う。無理しちゃダメって言ったばかりでしょ?ご飯は私が作ります」
ピシッと固まる伊佐。
「や、そのくらい無理のうちにも入らないから。むしろ可能だから」
「ダメ」
「ダメなのはハルちゃんだよ。いいからそのくらい俺が」
「ダーメ!私はケンくんが心配なの。大人しくしてなさい」
「俺のこと本当に心配なら今すぐ君が大人しくしてて」
「いいから!じゃあ料理して来るね!」
行ってしまった。この後、地獄を見た。