熊谷が緊急脱出した。これで西岸は空閑と村上のみとなった。一方の東側は、伊佐が来馬、太一の二人を相手に射撃戦を挑んでいた。
二人の射撃を瓦礫を壁にして回避しつつ、撃ち返す。来馬と太一はシールドを張りながら反撃する。
『東側の伊佐隊員対来馬隊長、別役隊員!お互いに激しい撃ち合いとなっております!』
『なるほどな。いくら精密射撃っつっても、ハンドガンなら使える弾は一発ずつだ。シールドを張ってれば守れる』
太刀川が顎髭を触りながら言った。
『一度に撃てる弾の数も違う、こりゃ意外と伊佐厳しいんじゃないか?』
『なるほど……。迅さんはどう思われますか?』
『そうですね。射手以外の射撃勝負なら人数が多い方が有利ですから、伊佐隊員が不利かもしれません。でも、伊佐隊員には知恵がある』
『なに、お前なんか視えてんの?』
『どーだろうねー』
『うーわお前そういうとこセコイわ〜』
『そんなん言うけどさぁ、太刀川さんだって前さぁ、俺の3DS壊れてる間にハンターランク上げてドヤ顔してたじゃん』
『仏の顔も三度ですよ、二人とも』
次はない、と宣告されて二人は黙った。
「………あの二人仲良いな」
「ていうか、迅さんもモンハンやるんだね」
「今、ボーダー内で結構モンハン流行ってるよ?」
「絶対伊佐の所為だろうなぁ」
「この前、三輪くんがケンくんにタン掘れ一緒にやるの強請っててビビった」
「マジでwww」
「あ、そういえばいずみん。今度上位のタマミツネ手伝ってくんない?」
「タマミツネくらい自分で狩れるでしょ」
「いや面倒だからあんま行きたくない」
「あーわかる。タマミツネって外見とは裏腹にめんどいもんね」
そのまま3人はモンハン談義に花を咲かせた。
モニターの伊佐は、射撃を止めると小さく深呼吸した。そして、再びハンドガンを構える。
『変化弾』
そう呟くと、弾を乱射。銃口から出て来た弾丸は来馬と太一を囲むシールドの周りをグルグルと回り始める。
『おーっと、これは……⁉︎』
『変化弾で、囲んでるな』
『あーなるほどね……』
『何、お前なんか視えた?』
『いやーこれは言わない方がいいでしょ』
画面上の伊佐は更に変化弾をぶっ放し、来馬と太一を囲む弾の数を増やしていく。その数が20を超えた時、弾丸を全て二人の頭上に持ち上げたあと、まとめて真上から叩き落とした。
『! 来馬先輩!』
いち早く気付いた太一が、来馬を突き飛ばしながら横に回避した。二人の間にシールドをブチ破って弾丸が降り注ぐ。
二人とも横に逃げ、孤立したのを伊佐は見逃さなかった。アステロイドで太一の頭を狙撃した。
『伊佐選手、変化弾を巧みに使い、シールドを破り、そこから狙撃!別役隊員緊急脱出!玉狛第二2点目獲得!』
『おお……。まぁバイパーはリアルタイムで弾の軌道を変えられるからな……』
『とはいえ、アレだけの弾数を普通操れるか……?』
二人ともドン引きしていた。
*
(伊佐が一人落とした……)
那須の猛攻を凌ぎながら、修は心の中で呟いた。那須の放った弾丸を、自分に当たる分だけレイガストで防ぐ。
(僕も、ここで落とされるわけにはいかない)
そう心の中で呟いて、手元にアステロイドを出した。
(撃ち返さないと撃たれっぱなしになる……。伊佐が来るまで持ち堪えてやる……!)
直後、後ろからトリオンが修の体を貫いた。
「ーーーッ⁉︎」
放った何発かの弾丸は変化弾だった。修の後ろにわざと飛ばし、戻って来るように設定しておいたのだ。
修が緊急脱出したのを見ることもなく、那須は次の獲物を探しに向かった。
*
西岸では、千佳の援護射撃もあって、遊真は村上と川の中に一緒に落ちて、スコーピオンで倒した。
残りは、遊真、千佳、伊佐、来馬、那須の五人となった。遊真は川から上がろうとしていて、千佳は修の指示待ち、那須は来馬と伊佐の戦いに混ざって乱戦に持ち込もうとしていた。
その来馬は伊佐の攻撃をなんとか建物を盾にして凌いでいた。
(無駄弾は撃てない。あそこの壁からあぶり出す……!)
メテオラを放ち、建物ごとブッ壊した。
「!」
煙からほんの少し見えた来馬のあたまを狙撃しようとした時、別の弾丸が迫って来る。
「………ッ‼︎」
慌ててエスクードでガードする伊佐。那須が参戦して来た。
(このタイミングで……)
小さく舌打ちしながら那須を見上げると、さらに弾丸を飛ばして来ている。その弾丸をアステロイドですべて撃ち落とした。
が、さらに横から誘導弾が飛んで来る。
「ッ‼︎」
片方のハンドガンをしまって、レイガストのシールドモードを飛ばしてガードしつつ、後ろに退がって建物を盾に隠れた。
(2対1か……)
伊佐は残りのトリオン量を確認する。
(………面倒だな。空閑くんは川に落ちたっぽいし、雨取さん人撃てないし……)
内部通信をした。
『三雲くん、聞こえてる?』
『あ、ああ。すまない、僕が……』
『そういうのいいから。つか、どーでもいい』
『えっ?ど、どーでもいいの?なんか辛辣……』
『それより、雨取さんに援護させて。俺もうメテオラ使えないから。崩し役させて』
『わ、分かった……』
そう言うと、また伊佐はハンドガンを出した。
那須さんvs修はテキトーになってしまったわけではないんです。当時の修がどんなに頑張っても、那須さんには瞬殺される未来しか見えなかっただけなんです。