俺が綾辻さんの彼氏か   作:杉山杉崎杉田

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第3話

 

 

翌日、伊佐は退院した。元々、身体だけはヤケに頑丈なので、特に医者の判断に不振などはなかった。

だが、今日は学校は休み。病院を出て自分の家に向かった。その途中、前から男が一人歩いてきていた。

 

「よう」

 

「………あ、俺のこと?」

 

「お前だよ」

 

その男は前髪を上げておでこを出している嵐山のようなヘアスタイルに、ゴーグルを首からぶら下げた男だった。

 

「どうも。ボーダーの迅悠一です」

 

「俺は伊佐賢介です。何かご用ですか?」

 

「君だよな。トリガーを無しでモールモッドを捕獲したってのは。ボーダーじゃその噂でもちきりだぜ」

 

「僕の力だけではありません」

 

「そこでだ。俺はお前に色々と才能があると見たわけなんだが、どうだ。うちに来ないか?」

 

「お断りします」

 

「うわあい、即決。話だけでも聞いてくれよ」

 

「まず第一に、あなたがボーダーの人間である証拠がない」

 

(…………意外と用心深いな。ますますボーダー隊員向きだ)

 

「早く俺の前から消えてください。防犯ブザー鳴らしますよ」

 

(しかも防犯アイテムが可愛い)

 

思わずニマニマしたくなる可愛さをなんとか抑えつつ、迅は続けた。

 

「うーん……証拠、と言われてもなぁ。この服、一応ボーダーの服なんだけど……」

 

「外見だけのものはどうやってでも偽装できるでしょう」

 

「そうなるよなぁ……。あっ、じゃあこれでどうだ」

 

言うと、迅は黒いトリガーを取り出した。

 

「風刃、起動」

 

そのトリガーからは刀身が出て来て、尻尾のようなものが11本生えている。

 

「分かりました、信用しましょう」

 

「えらく素直だな今度は」

 

「意地張っても仕方ありませんから」

 

「じゃあ、詳しい話するから、少しうちに来ない?」

 

「うち、というのは、ボーダー本部のことですか?」

 

「うんにゃ、ボーダーの玉狛支部にだよ」

 

「………誘拐じゃないでしょうね。防犯ブザー鳴らしますよ」

 

「違うから、でもその前に少しだけ付き合ってくれ」

 

「はい?」

 

「実は俺は今から少し任務でさぁ、昨日、伊佐くんの学校に現れたっていうイレギュラー門の原因を調べなきゃいけないわけよ」

 

「いいですけど……手短にお願いしますよ。今日は彼女が僕の家に泊まるんですから」

 

「うっほい、彼女いんの?泊まるってなんで?」

 

「退院した直後だから、面倒見てあげるって幼馴染系ヒロインみたいなこと言い出したんですよ」

 

「ははっ、良い子じゃないか。大事にしてや……」

 

と、言いかけたところで迅の口からは開いたまま何も出てこなかった。

 

「…………マジ?」

 

「どうかしましたか?」

 

「い、いやなんでもない!なんでもないぞ、さて、行こうか」

 

そう言いつつも、迅は心の中で本部で綾辻にセクハラは控えようと心に決めた。

 

 

迅が向かった先は警戒区域内だった。

 

「あの、一般人は入っちゃいけないんじゃないんですか?」

 

「どうせもうすぐ一般人じゃなくなるんだからいいんだよ」

 

テキトーな人だな……と思いつつも迅の後に続く。目的地に到着して、その場にいたのは、伊佐にとって見覚えのある顔だった。

 

「三雲くんと空閑くん……?」

 

「! 伊佐……!なんでここに?」

 

先に気がついた修が迅を見て目を見開いた。

 

「あなたは……!」

 

「おお、メガネくん。久し振りだな」

 

「知り合いですか?」

 

「まぁ、少しな。それより、お二人はここで何を?ここ、警戒区域だぜ?メガネくんはともかく、そっちの白いのはここに来たら……」

 

と、言いかけた所でまた迅の口は止まり、別のことを聞いた。

 

「お前、向こうの世界から来たのか?」

 

直後、修と伊佐は「⁉︎」みたいな反応をし、遊真はいつでも応戦できるように身構えた。その遊真に迅さんは言った。

 

「待った待った!俺はお前を捉える気も倒す気もないよ!俺は向こうに何回か行ったことがあるし、近界民にいいやつがいることも知ってるよ。ただ俺の副作用がそう言ったから、聞いてみただけだ」

 

そう言うと、迅は改めて自己紹介した。

 

「俺は迅悠一、よろしく!」

 

「俺は空閑遊真。背は低いけど15歳だよ」

 

「待った」

 

口を挟んだのは伊佐だった。

 

「空閑くん、近界民だったの?」

 

「うん。そうだけど」

 

「……………」

 

直後、伊佐の表情は変わった。真顔になった。それにゾクッとしたのか、遊真は再び心の中で身構え、修はなんとかごまかそうと言い訳を頭の中で巡らせた。

だが、伊佐から返ってきたのはまったく別の言葉だった。

 

「ありがとう。俺の両親をブッ殺してくれて」

 

「「「…………はっ?」」」

 

3人からマヌケな声が出る。

 

「うち、両親が頭のおかしい家族だったからさ。虐待が多かったんだよ。そんな時に、俺が家にいない間に近界民が家ごと親を消してくれて、本当に助かった」

 

その言葉に嘘はなかった。それは遊真と本人にしか分からない事だったが、遊真も嘘だとは思わなかった。

 

「ま、その話はいいや。で、迅さん。ここに来た理由は?」

 

「あ、ああ。実はついさっきなんだが、伊佐くんの顔を見たときに、伊佐くんとメガネくんと遊真がここで何かしてる未来が見えたんだ。多分、それがイレギュラー門の元っぽかったからここに来たんだ」

 

「未来が見えた?頭大丈夫?」

 

「いやマジでマジで。俺には未来視の副作用があるんだ」

 

まず、副作用がなんだか知らない伊佐にとってはほんとに何言ってるのか分からない台詞だったが、別に嘘でも本当でも良かったので聞き流した。

 

「で、その原因は分かったんですか?」

 

「ああ、原因はこいつだった」

 

答えたのは遊真だった。遊真の手には小さいトリオン兵が摘まれていた。

 

「! なんだこいつは……⁉︎」

 

声を漏らしたのは修。そして、その質問には遊真からニュルッと出てきた小さな何かが答えた。

 

『詳しくは私が説明しよう。初めまして、ジン、ケンスケ。私はレプリカ。ユーマのお目付役だ』

 

修には挨拶しなかったところを見ると、すでに知っていたようだ。

 

『これは隠密偵察用の小型トリオン兵「ラッド」ただし、門発生装置を備えた改造型のようだ。現場を調べたところ、バムスターの腹部に複数格納されていてらしい。ラッドはバムスターから分離した後、地中に隠れ、周囲に人がいなくなってから移動を始めたらしい』

 

「つまり、そのラッドを倒せば……」

 

「いや〜……キツイと思うぞ」

 

修の台詞を遊真が否定する。レプリカが再び説明を始めた。

 

『ラッドは攻撃力を持たない、いわゆる雑魚だが、その数は膨大だ。今探知できるだけでも数千体はいる』

 

「数千……⁉︎」

 

「全部殺そうと思ったら、何十日も掛かりそうだな」

 

修も遊真も顎に手を当てたが、そこに迅が口を挟んだ。

 

「いや、メチャクチャ助かった。ここからはボーダーの仕事だな」

 

そう言うと、不敵に笑った。

その後、ボーダーのC級隊員も含めた全勢力で、ラッドの駆除が始まった。

 

 




全然、綾辻さんが出ねぇ……。次の話か次の次では必ず出します

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