『空閑、どうする?』
修が目の前のヴィザ翁を前にして聞いた。
『こいつのデータはレイジさんからもらってる。俺とレプリカがやるから、オサムは逃げろ』
『……わかった』
修は別の道からC級を引き連れて逃走する。
「おっと、」
その修に杖を向けるヴィザ。
「これ以上逃げ回られるのは、ご勘弁願いたい」
「レプリカ」
『心得た』
直後、レプリカの頭から門が出てきた。そして、その門から呼び出されたのは、黒いラービットだった。
「っ⁉︎ これは……⁉︎」
動揺したほんの一瞬の隙を突いて、遊真の蹴りがヴィザ翁を襲う。杖でガードしたものの、地面に叩きつけられた。
修はC級を連れて走り出した。
*
伊佐、出水、米屋。伊佐は正面から突撃した。そこに飛んで来る魚。
「アステロイド」
伊佐は両手にハンドガンを持って、魚を撃ち落とす。1匹も撃ち漏らさなかった。すると、空から鳥が飛んで来た。
「ッ……!」
すると、伊佐は大きくジャンプして、空中で身体を横に傾けた。魚と鳥の間に飛び込み、回転しながら上下の敵を撃ち落とす。
「マッジかよ!あいつキメェな!」
「ハウンド」
楽しそうに笑いながら援護に向かう米屋と、伊佐の撃ち漏らしを撃ち落とす出水。
(これ程の者が玄界にはいるのか……だが、着地点を狙えばいい)
伊佐の着地点を予測し、ハイレインはクラゲを置いた。だが、伊佐は地面にアステロイドを放つ。直後、地面からコロッとキューブが出てきた。
「!」
「大当たり」
接近した伊佐がハンドガンをしまって、スコーピオンを最大まで伸ばして正面から身体を斬った。だが、スコーピオンはキューブとなって落ちる。マントの下に蜂が潜んでいた。
「!」
伊佐の真後ろから鳥が襲い掛かる。
「さらばだ」
「そっちがね」
後ろから米屋の突きが迫っていた。気付いていたのか、横に逃げるハイレイン。だが、穂先がギュインッと曲がった。
「ッ!」
それがハイレインの肩を抉る。伊佐の後ろの鳥は出水に落とされていた。
「斬撃を喰らうのは久し振りだな」
横に大きく飛び退いたハイレインに、伊佐はアステロイドで追撃するが、魚を大量に纏わせてガードするハイレインを見て、これ以上は厳しいと思い、一旦米屋と出水と合流した。
『出水さん、助かりました』
『いやいや、お前それよりなんで足元のアレ気付いたんだよ』
『多彩そうなトリガーだし、俺が何か仕込むとしたら着地点かなって思ったんです』
『いや、それ以外にもツッコミ所あるだろ……。それで、何かわかったのか?』
米屋に聞かれて、伊佐は『はい』と短く答えた。
『マントの下に蜂、魚と鳥は陽動、本命はクラゲみたいに仕込みタイプみたいですね。他にもあるかもしれませんが、向こうはこちらの動きを封じれればいいと思っているみたいです』
『何でだ?時間が掛かって困るのは向こうだろ』
『向こうにはおそらくですけど、ワープできる黒トリガーがあります』
『ワープ?』
『木崎さんと烏丸さんが足止めしていた黒トリガー使いが空閑くんたちの前に移動しています。そうとしか思えない』
『なるほどな。……ってことは、俺たちも同じ事をされてるって事じゃねぇかよ』
『俺に考えがあります。こいつらの狙いは雨取さんだ。なら、雨取さんの付近までワープするのを待って、狙撃手に狙わせます』
『………なるほど、逃げられた振りをするってわけか』
『まぁ、その為には全力で足止めするフリをしなければならないんですけどね』
『OK、分かった』
*
ヴィザ翁vs遊真。迫り来る斬撃を遊真は避けていた。
「レイジさん達の情報がなかったら、何も出来ずに落ちてたな」
『だが、このままでは手も足も出ないぞ。まずはあのブレードを何とかしなければ』
「ブレードを何とかする手はある。ただ、隙がない」
その直後だ。ヴィザの背後から近付いて来る影があった。
「近界民確認。これより排除する」
「………重くなる弾の人?」
「新手ですかな」
三輪が歩いて来ていた。孤月を抜いて、ハンドガンを構えてヴィザ翁に向けた。
「オルガノ……」
杖から斬撃を飛ばそうとした直後、三輪がハンドガンを二、三発杖にブッ放した。広がる刃に鉛弾が付き、ズシンッと重くなる。
「!」
「これは……!」
直後、その重りを踏み台にして、三輪はヴィザに斬りかかった。杖の鞘を抜いて、鞘でガードするヴィザ。
そして、剣で斬りかかり、三輪は遊真の横に退がった。
「手伝ってくれんの?」
「ふざけるな。お前に手を貸すつもりも、手を借りるつもりもない。奴は、俺が殺す」
「でも、俺の相棒が言うにはあいつの黒トリガーは国宝らしいけど。それに、レイジさんととりまる先輩の二人を退けたらしいよ」
「……………」
「一人でやるって言うなら止めないけど。どうする?」
「………援護したければ勝手にしろ。俺は俺のやり方でやる」
そう言うと三輪は再びヴィザに向かって行った。
*
出水、伊佐、米屋側。伊佐が正面から突撃する。スパイダーを巧みに使って鳥や魚を回避して、ハイレインが纏っている魚の隙間を狙撃する。
「チッ……!」
死角を突いて、伊佐の背後から来る攻撃を出水が落とし、ハイレインの死角を米屋が突く。
(中々にイラつかせる攻撃をして来る……。奴らを崩すにはまず、後ろの射手が邪魔だ)
そう判断すると、トカゲを出発させた。だが、足元に予めシールドを張っておいたのか、バチッと音を立てて防がれる。
『伊佐の予想通りだ。シールド出しておいて良かったぜ』
『すみません、俺なんかを守らせてしまって』
『気にすんな。それより、このままいけば勝てるんじゃねぇか』
『相手にこちらを殺すつもりが無いからですよ。ここで出来るだけ敵のトリオンを削れば、その分狙撃手が殺しやすくなります』
そう伝えると、より一層攻撃する3人。
(指揮官はどいつだ。こっちにワープがあるとはいえ、それまでに俺が落とされては元も子もない)
戦闘しながらハイレインは冷静に分析する。3人の間合いや過去の戦闘を見て、指揮を取ってるのを探す。
(射手か槍が天パか。3人とも服もエンブレムも違う以上は、別々の部隊の者のはずだ。だとすると、これは全て今考えてアドリブの戦術のはずだ。それに、射手と槍はランバネインの時に見ていたが、作戦を立てているようには見えなかった。だが、天パは我々が雛鳥を狙ったことを見破り、ラービットの弱点も素早く見付けてあっさりと単独撃破して見せた。だとすると、指揮官はあいつだ)
ハイレインはミラに連絡を取った。
「ミラ。今はどこにいる?」
『泥の王を回収して、玄界の拠点の前で待機しています』
「ラービットをすべてこちらに回せるか?」
『可能ですが……金の雛鳥は放棄するのですか?』
「いや、こっちに一人邪魔な奴がいる。そいつを倒した上で、出来れば捕獲したいと思っている」