太刀川隊作戦室。負けて不貞寝してる国近を捨て置いて、綾辻と伊佐はゲームをしていた。
「で、どうなの?」
「何が?」
「クガユウマくん、だっけ?勝てるの?緑川くんに」
「余裕」
「………そうなの?」
「遊真は俺と違って正面からぶつかっても勝てるからね」
「ふぅーん……でも、トッキーから聞いたよ?そのクガくんと引き分けたんでしょ?」
「そりゃもちろん、俺が自分のフィールドに誘い込んだからだよ」
「そういう誘い込むの得意だもんね〜、ケンくんは」
「それでも引き分けだったからね。まぁとにかく、空閑くんは負けないよ」
「なら、いいんだけど……」
「じゃ、俺帰るわ」
その台詞と共に伊佐のボルテッカーが綾辻を場外にぶっ飛ばした。
「ムカつく」
*
数日後、伊佐は元々、3000ポイントあったため、B級にはさっさと上がれたが、遊真は間に合わなかった。
今は、学校。
「「「三雲くん!B級昇格おめでとう!」」」
クラスメイトが修に声をかけた。
「え⁉︎な、なんで⁉︎」
「ボーダーの正隊員は全員、広報サイトに名前が載るんだ!俺は全員暗記している!」
「三好ちょっとコワイ」
で、更にざわざわと修の周りに集まるクラスメイト。遊真もその後ろでその様子を見つつ、時々話に参加したりする。
すると、先生が入ってきた。
「はいはいみんな、もうチャイム鳴ってるわよー」
「あ……先生すみません。僕、2時から防衛任務があって……」
「まぁ、そうなの?じゃあお昼終わったら特別早退ね。お仕事頑張って」
「おおー」
「特別早退!プロっぽいなー!」
「そりゃプロだもん」
「いや……はは……」
苦笑いで返すしかなかった。
*
昼休み。屋上で修はグッタリした様子で座り込んだ。
「人に囲まれるのは疲れる……」
「オサムしょっちゅう囲まれてるじゃん」
そんなことを話してると、「修くん」と声をかけられる。千佳ともう一人女の子が来ていた。
「おーチカ」
「そっちの子は?」
「一緒に狙撃手になった出穂ちゃん」
「ども、夏目出穂っす」
「チカのともだちか。どうぞよろしく」
「よろしくっす」
お互いの紹介を終えた所で、修は遊真と昼食を再開。
「そういえば、大規模侵攻の情報はC級にも来てるのか?」
「一応来てたよ。戦えないけど、避難とか救助のサポートにはトリガー使っていいことになったらしい」
「なるほど……」
「キオンもアフトクラトルも、あと10日くらいでこっちの世界から離れる。それまでどうにか凌ごうぜ」
「あと10日……」
そんなことを話してる時だ。遠くで出穂と飯を食ってた千佳がピクッと反応する。
直後、大量の数の門が開き始めた。
「これは………!」
さらに、ポケットから緊急呼び出しが鳴る。修達は慌てて教室に戻った。
「先生!」
「三雲くん」
「呼び出しがあったので現場に向かいます。学校のみんなをなるべく基地から遠くに避難させてください」
「分かったわ」
「みんなも、近界民が警戒ラインを超えるかもしれない。先生に協力してみんなを避難させてくれ」
「でも、一人窓から飛び降りて行っちゃったけど」
「えっ?」
「なんだっけ、あの目立たない奴」
「軽い天パの子」
「あいつなら大丈夫だ。あいつもボーダーだからな」
「えっ?」
そして、修と遊真は校門の前に出た。
「千佳、お前はみんなと一緒に避難しろ。警戒区域には絶対近づくな。必要な時は迷わずトリガーを使え。みんなを助けるんだ」
「うん、わかった」
「夏目さん、千佳のこと頼む」
「了解っす、メガネ先輩」
「空閑」
「ほいよ」
「一緒に来てくれ。トリオン兵を食い止めるぞ」
「そう来なくっちゃ」
千佳にちびレプリカを渡し、二人は現場に向かった。
*
伊佐は早くも自転車で警戒区域に入った。直後、モールモッドやら何やらの群が見えた。
(数が多い……いつもみたいに慎重にやってる場合じゃないな)
直後、ハンドガンを二丁取り出す。そして、目の前のモールモッドをアステロイドで蹴散らした。直後、バンダーが遠くから砲撃。それを自転車から飛び降りて大きくジャンプして回避し、空中で回転しながら、アステロイドを乱射。一発も撃ち漏らすことなく、トリオン兵を片っ端から片付ける。
「っ!」
着地した直後を狙って、モールモッドが鎌を振るった。その脚が当たる直前で、アステロイドをゼロ距離射撃し、鎌を射ち落す。
「この前は、世話になったな」
そう言うと、ゼロ距離で口の中に乱射。そして、次の獲物に向かった。
*
「トリオン兵はいくつかの集団に分かれて、それぞれの方角へ市街地を目指しています」
本部司令室で、沢村の落ち着いた声が響く。
「本部基地から見て、西・北西・東・南・南西の5方向です!」
(分かれたか。厄介だな。こちらの戦力も分散する。だが追うしかない。各個撃破では間に合わない)
そう判断した忍田は次の指示を飛ばした。
「現場の部隊を三手にわけて、東・南・南西の敵にそれぞれ当たらせろ」
「了解」
「ちょ、ちょっと待ってください本部長!西と北西はどうなるんです⁉︎」
その判断に根付が言うが、忍田は落ち着いた様子で答えた。
「心配はいらない。西と北西にはすでに迅と天羽が向かっている」
「おお……!こういう時は頼もしいねぇ」
「問題は他の三方だ。防衛部隊が追いつく前に市街に入られるわけにはいかない。鬼怒田開発室長」
「わかっとる、冬島と組んで対策済みだわい」
そう言ったように、防衛システムが作動し、トリオン兵を捉えた。
「いざとなれば基地からも砲撃できるが、早う隊員が着かんと基地のトリオンが空っケツになるぞ」
「いや、充分だ。部隊が追いついた」
そう言った通り、東に諏訪隊、南西に鈴鳴第一、南に東隊が現着した。
「風間隊、嵐山隊、荒船隊、柿崎隊、茶野隊もトリオン兵を排除しつつポイントへ向かっています」
「よし、合流をいそがせろ。各隊連携して防衛に当たるんだ」
*
伊佐に向けて、さらに砲撃が飛んで来る。それを回避して、バンダーを倒した隙に、他のモールモッドがする抜けて市街地に向かった。
「チィッ……!」
そっちにハンドガンを向けた時、モールモッドが真っ二つに割れた。
「!」
「お待たせ、ケンスケ」
「空閑くん……!助かった」
「無事か、伊佐!」
さらに、修も到着。一気に3人でトリオン兵を片付けていく。その時だ。通信が入った。
『忍田さん、こちら東!新型トリオン兵と遭遇した。サイズは3メートル強、人に近い形態で二足歩行。小さいが戦闘力は高い。特徴として隊員を捉えようとする動きがある。各隊警戒されたし、以上』
すると、今度はレプリカが言った。
『シノダ本部長。その新型はおそらく、かつてアフトクラトルで開発中だった捕獲用トリオン兵、ラービットだ』
『捕獲用……⁉︎捕獲は大型の役目じゃないのか……⁉︎』
『役目は同じだが、標的は違う。ラービットは、トリガー使いを捕獲するためのトリオン兵だ』
『! なんだと⁉︎』
『A級隊員であったとしても、単独で挑めば食われるぞ』
*
司令室。レプリカから忠告を受けた直後、沢村から報告が入った。
「基地東部、風間隊が新型と戦闘を開始!諏訪隊は一名捕獲された模様」
「!」
「基地南部、東隊は一名緊急脱出!柿崎隊と合流して新型と交戦中!南西部では、茶野隊、鈴鳴第一がそれぞれ新型と遭遇しています!新型の妨害でトリオン兵の群れを止められません!警戒区域を突破されます!!
「捕獲された諏訪の状態はどうだ?」
「トリオン体の反応は消えていません!緊急脱出はできないようですが」
「よし、諏訪隊は風間隊が取り返す!南と南西には嵐山隊と非番の隊員が向かっている。交戦中の部隊は戦力の維持を最優先しろ!B級部隊は全部隊合同で市街地の防衛に向かう」
「全部隊……⁉︎それでは東・南・南西一箇所しか回れんのじゃないかね⁉︎」
「そのとおり、一箇所ずつ確実に敵を排除していく」
根付に言われても落ち着いて返した。
*
修達。ラービットの相手を正隊員がすることによってトリオン兵が急増したのだ。
『敵が多過ぎるな。ここは退いた方がいい』
「でもここを通したら千佳たちが……!」
『B級隊員は全員合流せよ、との指示が出ている。一箇所ずつの各個撃破に切り替えたようだ』
「一箇所ずつ⁉︎それじゃあその間、他の場所は……!」
『トリオン兵の排除は、避難の進んでいない地区を優先するとのことだ。避難がスムーズな千佳たちはあとに回されると思われる』
「そんな……!」
「三雲くん!ボンヤリすんな!」
伊佐は声を張り上げると共に、敵を蹴散らす。直後、ビルからラービットが現れた。
「っ⁉︎」
「新型トリオン兵……⁉︎」
それが、修の真上に降りてきた。
「盾モード!」
レイガストでガードするも、大きく地面が凹んだ。そして、腕を振り上げるラービット。そこに、空閑の蹴りが炸裂した。
「空閑!おまえ……」
「うお、こいつかってーな」
「黒トリガーは使うなって言ったろ!」
「けど、このままじゃチカがやばいんだろ?」
「………!」
「出し惜しみしてる場合じゃない。一気に片付けるぞ」
その空閑に弾丸が降り注ぐ。
「命中した!やっぱこいつボーダーじゃねーぞ!人型の近界民だ!」
「本部‼︎こちら茶野隊、人型近界民と交戦中!」
「そこのメガネ!早く逃げろ‼︎」
茶野がそう言った直後、ラービットが起き上がった。そして、茶野と藤沢が見つかった。
「食われる‼︎」
だが、その間に伊佐が入った。そして、口と腹の中にメテオラを起爆させた。
「無事ですか?えーっと……茶野隊さん」
「いや退散しねぇよ。助かった」
「無事か!伊佐くん、茶野!」
さらに嵐山隊が到着した。
「あ、嵐山先輩‼︎人型近界民が………‼︎」
「落ち着け、茶野。彼は味方だ」
「味方……⁉︎」
そして、嵐山は本部と通信する。
「本部!こちら嵐山、伊佐が新型を一体排除した!トリオン兵を減らしつつ、次の目標へ向かう!」
だが、本部の声は聞こえにくい。雑音がひどい。本部の方を見ると、イルガーが本部に突っ込んでいた。