急に決まった修vs風間。遊真と伊佐を除くC級は、時枝によってラウンジに向かった。
「今のお前じゃ勝てないぞ」
「分かってます」
「無理はするなよ」
「はい!」
烏丸に言われ、威勢良く返事をすると、風間と一緒に修は訓練室に入った。
『模擬戦開始』
(風間さんの武器はスコーピオン。それも二刀流、間違いなくアタッカーだ。この場合は距離をとって射撃で……)
修がレイガストを盾にしつつ、アステロイドを手元に出して下がろうとすると、風間の姿が消えた。
「⁉︎」
その直後、正面からスコーピオンを刺された。
「な………‼︎」
『トリオン供給機関破壊、三雲ダウン』
その後も、何度か戦うが、カメレオンによってボッゴボコにされていく。
「姿を消すトリガーか……。ボーダーには面白いトリガーがあるな」
「『カメレオン』。トリオンを消費して風景に溶け込む隠密トリガーだ」
「ふーむ……。俺ならどう戦うかな……」
烏丸と遊真が話しながら観戦する。
「うーわ……俺、風間さんと個人戦したくない」
「まぁ、伊佐には相性悪いだろうな」
そんな会話をしてる間にも、修は何回も死んでいく。
「烏丸先輩」
すると、木虎が声をかけてきた。
「どうした?」
「もうやめさせてください。見るに堪えません」
「キトラ」
「三雲くんがA級と戦うなんて早すぎます。勝ち目はゼロです」
「なんだ、修の心配か?」
「なっ……ちがいます!」
「オサムだって別に今すぐ勝てるとは思ってないだろ。先のこと考えて経験を積んでんだよ」
「『ダメで元々』『負けても経験』、いかにも三流の考えそうなことね。勝つつもりでやらなきゃ勝つための経験は積めないわ」
言うと、遊真と烏丸は少し目を見開いく。
「なるほど……」
「お前いいこと言うな」
「いえ、それほどでも……」
烏丸に褒められ、顔を赤くして咳払いする木虎。
「しかしまあ、いつ終わるかは始めた二人次第だからなあ」
だが、ちょうどそのタイミングで風間がスコーピオンを引っ込めた。
「お、終わったっぽいよ」
中では、風間が倒れて息を乱してる修を見下ろして言った。
「……もういい。ここまでだ。時間を取らせたな」
「ありがとう、ございまし、た……」
「……迅め。やはり理解できない……黒トリガーを手放すほどのことなのか……」
「え……⁉︎黒トリガーを……⁉︎」
「……? なんだ、知らないのか?」
聞き捨てならない、と言った様子で修が聞くと、風間は親指で外の遊真を指しながら説明した。
「迅はあいつをボーダーに入隊させるのと引き換えに、自分の黒トリガーを本部に献上した。お前たちの部隊を本部のランク戦に参加させるためだそうだ」
(迅さんが……僕たちのために黒トリガーを……⁉︎)
膝の上のこぶしをギュッと握りしめ、修は帰ろうとする風間に言った。
「風間先輩、すみません」
「?」
「もうひと勝負、お願いします」
「………ほう」
風間はニヤリと微笑んだ。
*
「あれ?まだやるみたいだぞ?」
中の様子を見ていた遊真が声を上げた。
「なんで……⁉︎もう充分負けたでしょ……⁉︎」
「さぁ……なんか喋ってたっぽいけどな」
中の様子を、烏丸は黙って眺めていた。
*
頭の中で修は自分の武器を確認しながら、風間を睨んだ。
『ラスト一戦、開始!』
開始した直後、修の手から放たれたのは光の粒だった。
「………なるほど。超スローの散弾」
「風間さんは透明のままじゃ弾丸を防御できない。考えたな修」
伊佐、烏丸と呟いた。
「けど、カメレオンなしでも風間さんは強いぞ」
そう言った直後、風間はスコーピオンで散弾を切り落とす。そして、修に正面から突っ込んだ。
すると、修はレイガストを構えて、反対の手で大玉のアステロイドを出す。
(弾丸の壁で動きを制限して、大玉で迎え撃つつもり……⁉︎)
(やりたいことはわかるが、そう簡単には当たらないぞ。視線で狙いが丸わかりだ)
風間がそう思いながらどう対処するか決めてる時だ。
「スラスターON‼︎」
「っ⁉︎」
修のシールド突撃で風間に一気に間合いを詰める。
「シールド!」
ばら撒かれた散弾を防ぐため、風間は背中にシールドを張った。壁に追い込まれた。
「ッ」
スコーピオンで修に反撃するが、レイガストの盾モードで壁に閉じ込められる。
「っ‼︎」
そして、風間の顔の目の前に穴が空いた。
「アステロイド」
(ここで、ゼロ距離射撃か……‼︎)
レイガストに閉じ込められた小さな空間が大きく光を放った。
舞い上がった煙が晴れ、決着が露わになる。だが、修の首にスコーピオンが突き刺さっていた。
『伝達系切断、三雲ダウン』
(作戦はこれ以上ないくらいうまくいったのに……!)
ガクッと膝をつく修。
それを見て、木虎が呟いた。
「惜しかったわね……」
「いや、そうでもないよ」
遊真の言った通り、ドサッと腕が落ちる音がした。煙が完全に晴れ、出てきたのは体の左半分を失った風間だった。
『‼︎ トリオン漏出過多!風間ダウン‼︎』
「え……それじゃあ……」
「最後は相打ち、引き分けだ」
風間がそう言った直後、周りから声にならない歓声が上がった。
『模擬戦終了』
その声と共に、風間と修が訓練室から出てきた。
「風間さんと引き分けるなんて……!」
「勝ってないけど、大金星だな」
「オサム、やったじゃん」
「やった……のかな?」
パンッと手をあわせる修と遊真。
「うちの弟子がお世話になりました」
「烏丸……そうか、お前の弟子か。最後の戦法はお前の入れ知恵か?」
「いえ、俺が教えたのは基礎のトリオン分割と射撃だけです、あとは全部あいつ自身のアイデアですよ」
「……」
「どうでした?うちの三雲は」
「はっきり言って、弱いな。トリオンも身体能力もギリギリのレベルだ。迅が押すほどの素質は感じない」
「……………」
「だが、自分の弱さをよく自覚していて、それゆえの発想と相手を読む頭がある」
「!」
「知恵と工夫を使う戦い方は、俺は嫌いじゃない」
そう言うと、風間は修に背中を向けた。
「邪魔したな、三雲」
風間はどこかに行ってしまった。