俺が綾辻さんの彼氏か   作:杉山杉崎杉田

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第11話

 

「だーかーらー、あれは群がってた人たちを追い出しただけなんだってば」

 

「だからってあんな風に言うことないでしょ⁉︎後で絶対『作戦室で夜の作戦してたの?』みたいなこと聞かれるじゃん!」

 

「夜の作戦ってなんだよ。夜戦のこと?」

 

「軽巡洋艦じゃないよ!」

 

「あれ、艦これ知ってるんだ?」

 

「誰の所為で覚えちゃったと思ってんの⁉︎」

 

「いいじゃん。昔の戦争のことも今後役に立つかもよ」

 

「陸と海じゃ全然違うから!というかそれ以外にも色々と間違ってるから!」

 

その様子を見て、嵐山は毎回喧嘩の愚痴聞かされるのも納得してしまった。

 

「……あの、二人とも」

 

「そうだ!嵐山さんはどっちが悪いと思います?」

 

「えっ」

 

「ハルちゃん、他人を巻き込まないの」

 

「ここは歳上の裁判長に聞いたほうがいいに決まってるじゃない!」

 

「誰が裁判長?」

 

「他の人を巻き込まないの。子供じゃないんだから」

 

「んなっ……!ケンくんのが私より歳下でしょ⁉︎」

 

「その歳下よりガキっぽいのがハルちゃんじゃん」

 

「いや、伊佐くんが少し大人びてるだけだと思う」

 

「そんな事ありませんよ嵐山さん。ケンくんって意外と子供っぽい所あるんですよ?コーヒーとかブラック飲めないし」

 

「いや、それ子供っぽいって言われるほどじゃ……」

 

「あとお化け屋敷ダメなんですよ。無表情で涙だけ目元に浮かべてるの」

 

「それはハルちゃんもだけどね。てかハルちゃんは顔に出して泣くからね」

 

「一々暴露しなくていいの!」

 

「いや、その台詞、そっくりそのままリフレクター」

 

二人のやり取りを見て、つくづく愚痴を聞かされるのも納得してしまうが、それと同時に綾辻にギャップを感じた。普段は真面目に仕事をする彼女にも、こうして彼氏とじゃれ合う事もあるんだなと感じた。

 

「ま、まぁまぁ落ち着けよ二人とも。伊佐くんは何しに来たんだ?」

 

「ハルちゃんにお願いがあってきました」

 

「? 何のだ?」

 

「オペレーターについて教えて下さい」

 

「オペレーター?昨日、小南さんにボコボコにされたって言ってたじゃない。戦闘員なんじゃないの?」

 

「色々、諸事情があるんだよ。お願いします」

 

素直にペコリと頭をさげる伊佐。

 

「…………」

 

「それにほら、昨日小南さんと宇佐美さんに色々教えてもらったって言ったら嫉妬してたじゃん?だからちょうどいい機会かと……」

 

「ゼッッッタイ教えない!」

 

帰れ!と締め出されてしまった。プリプリと怒って仕事に戻る綾辻と、扉の向こうの伊佐を見ながら嵐山は呟いた。

 

「………今のは伊佐くんが悪い」

 

 

この後、土下座までして許してもらった伊佐は、画面の見方や操作方法などを教えてもらった。

 

「ありがとう、ハルちゃん。今度のデート代奢る」

 

「………その時のお昼代もね」

 

「はいはい。じゃ、また」

 

伊佐が出て行き、一気に作戦室は静かになった。

 

「……良い子じゃないか。頭も良いし顔も良いし。性格はちょっと正直過ぎるけど……」

 

「でしょう?一応、自慢できる彼氏ですよ」

 

「どこでどうやって知り合ったんだ?」

 

「えーっと、三年前くらいですかね。私がボーダーに入る前、一回トリオン兵に襲われた事があるんです。その時に、助けてくれたのがケンくんなんですよ」

 

「へぇ……どうやって?」

 

「それは……」

 

聞かれて、綾辻は口籠った。何か言いにくい事なのかと思った嵐山はそれ以上聞かなかった。

 

「なるほど、まぁ言いにくいなら聞かないよ」

 

「ありがとうございます。それで、私てっきりケンくんはボーダーの人なのかと思って入隊したんですけど……まさか無関係だったとは……」

 

「ああ、それで入ったんだ……」

 

 

それから3日間、修や遊真や千佳が特訓してる中、伊佐は太刀川隊、風間隊、冬島隊、三輪隊、それと嵐山隊についての情報を頭に詰め込んだ。

で、今は再び嵐山隊作戦室。中に入ると、綾辻だけだった。

 

「もう、嵐山隊に命令は来たの?」

 

「うん。ケンくんがこの前来たのって、この為だったんだ」

 

「まぁね。じゃ、始めよう」

 

言うと、伊佐は椅子に座った。

 

 

これから始まろうとしている戦闘は、城戸司令が吹っ掛けたものだ。遊真vs三輪隊の一件で、ブラックトリガーの存在を知った城戸は、3日後に帰って来る遠征部隊を待って、黒トリガーを強奪しようというものだった。

だが、遊真は旧ボーダー創設時代の空閑有吾の息子であることを知った忍田本部長は反対。それを無視して強行的に奪おうというものだった。

だが、遠征部隊の実力は黒トリガーに対抗できるレベルの部隊だ。そこで迅は伊佐に指揮を頼んだのだ。自分達だけでも勝てる未来は見えていたが、伊佐がどれだけの頭を持っているかを知るためだ。

現在、迅は夜道で遠征部隊を待っていた。

 

「! 止まれ!」

 

前から声がした。現れたのは太刀川、出水、風間、菊地原、歌川、当真、三輪、奈良坂の8人。

 

「迅……‼︎」

 

「なるほど、そう来るか」

 

三輪、太刀川と声を漏らした。

 

「太刀川さん、久しぶり。みんなお揃いでどちらまで?」

 

その様子を狙撃位置についた佐鳥が眺めていると、耳元に通信が入った。

 

『佐鳥さん。敵でいない人はいますか?』

 

「太刀川隊の唯我と、冬島隊の隊長、あとは三輪隊の米屋と古寺だけだよ」

 

『ありがとうございます。そのまま狙撃位置から動かないでください』

 

「ほいほい」

 

一方、迅達。当真が声を発した。

 

「うおっ、迅さんじゃん。なんで?」

 

「よう、当真。冬島さんはどうした?」

 

「うちの隊長は船酔いでダウンしてるよ」

 

「余計なことをしゃべるな当真」

 

風間に注意され、黙る当真。太刀川が聞いた。

 

「こんな所で待ち構えてたってことは、俺たちの目的もわかってるわけだな」

 

「うちの隊員にちょっかい出しに来たんだろ?最近、うちの後輩たちはかなり良い感じだから、邪魔しないで欲しいんだけど」

 

「そりゃ無理だ、と言ったら?」

 

「その場合は仕方ない。実力派エリートとして、可愛い後輩を守んなきゃいけないな」

 

「なんだ、迅。いつになくやる気だな」

 

「おいおいどーなってんだ?迅さんと戦う流れ?」

 

太刀川に続いて当真が戯けたように言った。その隣で風間が口を開いた。

 

「『模擬戦を除くボーダー隊員同士の戦闘を固く禁ずる』。隊務規定違反で厳罰を受ける覚悟はあるんだろうな?迅」

 

「それを言うならうちの後輩だって立派なボーダー隊員だよ。あんたらがやろうとしてることもルール違反だろ。風間さん」

 

「………!」

 

「立派なボーダー隊員だと…⁉︎ふざけるな!近界民を匿っているだけだろうが!」

 

「近界民を入隊させちゃダメっていうルールはない」

 

声を荒げた三輪に落ち着いた口調で迅は続けた。

 

「正式な手続きで入隊した正真正銘のボーダー隊員だ。誰にも文句は言わせないよ」

 

「いや、迅。お前の後輩はまだ正式な隊員じゃないぞ」

 

「!」

 

「玉狛での入隊手続きが済んでても、正式入隊日を迎えるまでは本部ではボーダー隊員と認めてない。仕留めるのになんの問題もないな」

 

「へぇ……」

 

続いて、風間が言った。

 

「邪魔をするな、迅。お前と争っても仕方がない。俺たちは任務を続行する。本部と支部のパワーバランスが崩れることを別としても、黒トリガーを持った近界民を野放しにされている状況は、ボーダーとして許すわけにはいかない」

 

「城戸さんの事情は色々あるだろうが、こっちにだって事情がある。あんた達にとっては単なる黒トリガーだとしても、持ち主本人にしてみれば命より大事なものだ。おとなしく渡すわけにはいかないな」

 

その台詞に伊佐は若干違和感がした。それはどういう意味なのか。だが、話は進んでしまったため、思考は途切れた。

 

「あくまで抵抗を選ぶか……。お前も当然知ってるだろうが、遠征部隊に選ばれるのは、黒トリガーに対抗できると判断された部隊だけだ。他の連中ならともかく、俺たちの部隊を相手にお前一人で勝てるつもりか?」

 

「俺はそこまで自惚れてないよ。遠征部隊の強さはよく知ってる。それに加えてA級の三輪隊。俺が黒トリガーを使ったとしてもいいとこ五分だろ」

 

そう言った直後、ニヤリと口を歪ませた。

 

「ま、『俺一人だったら』の話だけど」

 

「……なに⁉︎」

 

直後、屋根の上にダン!と着地する足音が聞こえた。

 

「!」

 

「嵐山隊、現着した。忍田本部長の命により、玉狛支部に加勢する!」

 

「嵐山……!」

 

「嵐山隊……⁉︎」

 

「忍田本部長派と手を組んだのか……!」

 

嵐山、木虎、時枝が迅の隣に降りた。

 

「嵐山たちがいれば、はっきり言ってこっちが勝つよ。それに、もう一つ強力な助っ人もいる」

 

「なんだと……?」

 

「何より、俺のサイドエフェクトがそう言ってる。俺だって別に本部と喧嘩したいわけじゃない。退いてくれると嬉しいんだけどな、太刀川さん」

 

「……なるほど。『未来視』のサイドエフェクトか」

 

太刀川はニヤリと微笑むと、腰の孤月を抜いた。

 

「おもしろい。お前の予知を、覆したくなった」

 

それを合図に全員が臨戦態勢に入る。

 

「やれやれ、そう言うだろうなと思ったよ」

 

戦闘開始だ。

 

 


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