【完結】I_AM_GOD.:異世界で神様はじめました。 作:家葉 テイク
5(アルテシア=day185602/2918pt)
――夕方。
夕焼けによって昼間よりもいっそう赤みの増した岩山の傍の道を、俺とカレンはのんびりと歩いていた。
左手には岩山、右手には林という大自然満載なロケーションだったが、盗賊達――ただのならず者だと思っていたけど盗賊だったらしい――が整備でもしたのか、下草はきちんと刈られていて、岩山とは違う柔らかい地面が露出していた。といっても、道幅は精々二メートルもない程度だけど。
そんな道を、俺とカレンが横並びに歩いている。いや、カレンの方が気持ち前に出ているか。
とりあえず何をするにも近場の村か街に行かなければ始まらないわけだけど、俺はこのあたりの地理に全く詳しくない。
そこのところは幸いカレンが(盗賊団が話していたのを聞いていたりとかで)知っていたので、彼女の先導に従って歩いている状況なのだ。
「――というわけなんだよ」
道中、俺はカレンに当面の旅の目的を説明していた。説明って言っても人々の尊敬や畏怖から得られる信仰Pっていうポイントが俺の存在の源で、それは何もしないと大体一か月くらいで尽きるっていうことくらいなんだけど。
「………………つまり、このまま信仰Pを集めないと、アルテシア様は一か月ほどで消滅してしまう。信仰Pを集めるのがアルテシア様の生きる為の唯一の手段であり、その過程で行われる人助け諸々が使命みたいなものである、と?」
「うん、そういうことになるな。正確には人助けに限らないんだけど、俺はするつもりないし」
「…………それって、厳しくないですか? 人助けって言っても、カウントされるのは一〇〇人規模の人助けからなんでしょう?」
「原則的にはね。まぁ、だからと言ってマッチポンプみたいなことはしたくないし、他に方法がないわけでもないし……
「神職者、でしたっけ……」
俺があっけらかんとした調子で言うと、カレンは少し呆れ気味になりながら言った。
「そ。確かー……継続的信仰Pってヤツでさ。普通の信者……信仰者は一〇〇人集めてやっと一日一~一〇点っていうカウントだけど、神様のお世話をする人……神職者は一人で一日一~一〇点の信仰Pが入るんだ。つまり、カレンが俺の付き人をやってる以上、俺は毎日最低でも一点ずつ手に入るわけ」
「……でも、アルテシア様は普通に暮らしているだけで一日に一〇〇点の信仰Pを消費しているんですよね……?」
カレンはどこか疑わしげ(?)な表情を浮かべていた。
さっきから思ってたけど、カレンはそこはかとなく現代的な俺の説明でも飲み込みが早い。この世界ではそういう説明が分かりやすいものとなってるのか、それとも別の理由があるかは知らんけど、カレンが有能だってことはよく分かる。
この話をする前にカレンの生い立ちを聞いてたんだけど、普通の農民の娘なんだよなぁ……カレン。学校行ってる訳でもないのにこの飲み込みの早さは凄いと思う。
「まぁな。でも、それで尽きるのは一か月後。『権能』の消費分を加味しても二〇日は大丈夫だろう。つまり、二日も稼げる計算だ。現状カレンを神職者にするくらいしかやってないのに二日だよ。一か月もあれば何かしらチャンスがあるだろ」
楽観論だと思われるかもしれないが、それでダメそうだったら……まぁその時考えよう。流石に俺も、カレンを抱えている身で無責任に消滅するつもりはないが……だからといって、今からダメだった時のことを考えて焦ってもしゃーない。
「まぁ、
それに、今の俺にはそれよりも気になることがあった。
徐にカレンを――より正確にはその胸元を指差した俺は、確かな決意を込めて言う。
「それより、まずカレンの服を調達しよう!」
改めて言うが、カレンの衣服は殆どボロ布だ。ボロ布に両腕用と頭用の穴をつけて被ればこんな感じかな? という具合だ。今は首輪に繋がれてた紐を引き千切って腰のあたりに巻いて、最低限の動きやすさみたいなものは確保しているが……やっぱり、粗末なのには変わりない。
ちなみに、足元は裸足だ。本人は気にしてなさそうだが、俺としてはかなりおっかなびっくりだ。俺が靴を履いていれば、あげたかったのだが……生憎俺も裸足なのでできない。まぁ、俺は神様だから足場が悪くても怪我はしないけど。
ちなみに、カレンに聞いてみたところ、村にいた頃に着ていた服はとっくのとうに売り払われてしまったらしい。残ってたなら盗賊のアジトに乗り込んで奪い返そうと思ったのだが…………こればっかりは、新たな服を手に入れる為には買うしかない。
年頃の女の子にこんな格好をさせておくのはあまりにも可哀想だし、俺自身もこんな格好の女の子を連れ回していると思われるのは不本意だし、何より危険だ。
小石を踏んで足に怪我を負って、そこにばい菌が入ってとか……医学が発達してないっぽいこの世界では、割と致命傷くさい気がする。
それでなくとも、面倒を見ると決めたのなら衣食(住はちょっと待ってね)まで見るのがデキる
「私の服なんかより、信仰Pを集めるのが先なんじゃないですか……? それが目的なんですから」
「そりゃ、困ってる人がいたら助ける程度のことはするけどな。でも、別にそんな急いでやることでもないし」
「…………不真面目ですね」
「真面目にやりすぎても、身体と心によくないからなぁ。ほどほどが一番だよ」
前世じゃそれで力尽きて死んじゃったからな。神様は不死身なんだけど、鬱とかにならないとはルールブックでは言われなかったからそっちは分からない。少なくとも、俺は神様になってまでメンタルを病むのは御免だ。
と思っての発言だったのだが、カレンは呆れたように溜息を吐くだけだった。
ちょっとがっかりしたかな? まぁ、ほどよく幻滅してくれた方が本人の為にもよさそうだけども。
「……まぁ良いです。そのあたりはアルテシア様の従者である私が気を付ければ良いんですし……それに、今後の方針よりもまず今日寝る場所のことを考えないと」
寝る場所か。
「今日中には着かない感じなのか?」
「はい。盗賊の話では、歩いて半日かかるということだったので……女の足で半日歩き通しは、アルテシア様ならともかく私だと……」
「あー、そこは大丈夫だ。俺も体力自体は普通の人間と同じだから。半日も歩けば普通に疲れるから」
申し訳なさそうに言うカレンに、俺はそう言っておく。一応、地面の反発からくる足の疲れとかはないけど、そもそも基礎体力がな。むしろ、農民の娘として健康的に過ごしていたカレンの方が俺よりも体力ある可能性すらあるから。
「でも、そうなるとこのあたりで野宿にしたほうがいいのか……? もうすぐ暗くなるだろ」
「そうですね。暗くなってから寝床を作ろうとしても難儀すると思いますし……」
…………とはいえ、俺はサバイバルスキルないから、どうすればいいかわからない。
昔、海外のサバイバル番組で見た感じだと、枯れ枝とかを組んで屋根を作るみたいなこと言ってた気がするけど……素人が真似しても仕方ないよなぁ。っていうか、そもそも再現できる気がしない。知識があっても技術がついていかないというか。
こればっかりは、カレンでもどうしようもない問題だろうし……、
「あ、アルテシア様、よさそうな場所を見つけました。今日は此処で野宿としましょう」
……って思ってたんだけど、いつの間にさらに前に行っていたカレンが木々の間を指差していた。
見てみると、カレンの指差す先には確かに二人分寝られそうな、それでいて木々のお蔭でわりと防備がしっかりしてそうな場所があった。素人判断だけど、確かによさそうな場所だ。
「お、おう……。ところで、何でここがよさそうだって分かるんだ?」
「村にいたとき、よく森の中で遊んでいたんです。だから寝床にできそうな場所は何となく分かるんですよねー」
「そ、そっか……」
そういえば、忌児なんだから一人で遊ぶことが多いよな……。一人で遊ぶことといえば限られるだろうし、そりゃ、そういうことに詳しくなるのも当然の流れか。
「……酷なことを聞いたな」
「いえ? 結果として今、アルテシア様の役に立っているのですから酷ではないですよ。まったく、人生何が役に立つか分かりませんよね」
な、何この子メンタル
「さて、寝床は見つかったが……このままだと冷えるだろう。火をおこさないとな……獣避けにもなるし。そこで……!」
気を取り直して、俺は適当な木の棒を手に取ってみる。
身体能力人間並みな俺だが、それは厳密な意味で人間と同じことしかできないってことにはならない。
人間だれしも、何かを傷つける時は無意識にリミッターがかかるもんだ。たとえば木を全力で殴れば、拳が傷つくのは間違いない。
そういうのを避ける為に『拳が壊れないような殴り方』だったり『全力を出さない殴り方』みたいな迂回路を作る必要がある。
だが、神様である俺にそれはない。
つまり、『理論上の人間の全力』を出すことができるって訳だ。
それはどういうことか……?
たとえば木の棒をグルグル回してたら、掌がヒリヒリして痛くなり効率が下がるのが一般人の限界だ。
だが、俺ならそれがない! つまり常人よりも効率的に火をおこせるってことになるんだよ!!
……ほんの少しな、とか言うなよ。こういう風にでも思っておかないと、なんか俺って意外と使えないんじゃね? って思っちゃうから。
えーと、サバイバル番組によると、こういうときは適当に乾いた感じの草を集めて……そこに棒を突き立てて思い切り回転させ続ける! こうすることによって摩擦熱により草の発火点を超え、火がつく!
ちなみに乾いた感じの草を使うのは、湿ってると中の水分が邪魔をして火がつきづらくなるからだと俺は勝手に思ってるぞ!
と、
ぼっ、と勢いよく火がつく音がした。
俺の背後で。
振り向くと、そこには自分の背丈以上の炎を悠々と操っているカレンの姿があった。炎はデカいが、周りに燃え移る様子はない。それどころか、カレンの制御によって徐々に小さくなっていき、普通の焚火サイズにまで落ち着いた。
「……カレンさん何してんの?」
「何って、火おこしですよ? 私は学がないので魔法は殆ど使えませんが、盗賊が使っていた呪文を見様見真似で覚えたんです」
……………………。
なんか俺って意外と使えないんじゃね?
い、いやいや! 此処は自分に卑下するところじゃない! むしろカレンを褒め称えるべきところだ! なんか当人も自慢げにしてるし!
「へ、へぇ~……。凄いなカレンは。しかし、さっきの炎の大きさとか凄まじいものがあったぞ。才能あるんじゃないか?」
「まぁ、私は忌児ですからね。このくらいは」
……? 別に今、忌児って関係……あ! 忌児って、ひょっとしてルールブックにあった魔力の高いヤツのことを言うのか? 言われてみれば忌児と言いつつ、カレンって別に何かしら身体的に特徴があるわけでもないしな。
なんてことを考えていたら、カレンの身体から何かもやのようなものが出ていることに気付いた。
…………これは…………『魔力』、だな……?
……なんかカッコつけちゃったけど、アレだろう。俺が魔力について意識したから、魔力がオーラ的な感じで見えるようになった的な感じだろう。ルールブックには書いてなかったけど。
魔力の高い人間が忌児になるとしたら、魔力を感知する感覚がデフォルトで備わっていないと筋が通らないので、これは分かり切ったことだ。
「アルテシア様?」
カレンの身体から漂う魔力のもやを眺めていると、いつの間にかカレンが俺の顔を覗き込んでいた。おっと、思考に耽りすぎていたか。っていうか、未だにアルテシアって呼ばれることに慣れない。ただでさえ様付けも慣れてないのに。
…………首輪つけてる中学生くらいの女の子を様付けで呼ばせるって、正直なんか凄い良心が痛むんだよなぁ……。本人がやりたくてやってることだし、無理にやめさせるのもアレかなぁって思うから放置してるけど……。
「あぁいや、ごめん。考え事してた」
「……アルテシア様、私の役目は
カレンはちょっと呆れた感じでそう切り出した。
「だから、たとえ
…………カレンさん、それ励ましてるつもりなんだろうけど、思いきり刺さってる……。俺の心に刺さってる……。
「…………」
最後のトドメを刺された俺は、いじけてその場に三角座りをする。
しかたないよ、うん。
一応ルールブックでこの世界の大陸が一つしかないこととか、そういう世界レベルの地理は聞いてるけど、細かい位置関係とかは知らないんだもん……。
能力にしたって『権能』の一点特化の上に身体能力は凡人並だから、高威力で四属性もあるカレンとは活躍できるチャンスの数が違いすぎ……、
……いや、もしかすると此処は、往年の奇妙な能力バトル漫画よろしく、一点特化の能力を応用して、応用チートを模索すべき時なのでは!?
俺の能力は『一定の条件(まだ分かんない)を満たさない対象を倍返し(多分)にして跳ね返す』ことだ。これを上手く利用すれば、なんか凄い応用技が完成するんじゃないか……!? それこそ、前の世界の戦略兵器並のアレが……!
うおおお、俺の超中二病マインドが
「……アルテシア様、どうしました? さっきからなんかニヤニヤし始めてますが……」
「カレン、意外と辛辣だよね」
俺は上機嫌でツッコみながら、
「……休憩する前にやるべきことを見つけた。ちょっと離れたところで実験してくるから、ここで待っててくれ」
そう言って、俺は颯爽と林の奥の方へと駆けて行った。フッフッフ、ここから俺の応用チート物語が始まるんだ!
……結果?
なんか色々失敗して林の一部が更地になった挙句、轟音で凄まじく周りの動物を刺激するわ砂埃の中走り回ったせいで身体中汚れるわで、カレンにめっちゃ怒られました。
暗くなるまでに少しでもここから離れようってことで、その後も余計に歩くハメになってしまった。
……いやほんと、カレンには申し訳ないことをしたと思う。これからは軽率に『権能』使わないから、奴隷生活の中で学んだ盗賊直伝のドスの利いた声で叱るのはやめてくれ……。正直マジビビりしたから……。
幸運にも野生動物が巻き添え食らってたから夕食GETという実績が手に入ったけど、それがなかったらどれほど肩身の狭い思いをしたか……。
え? 応用チート? そんな甘い話ねーよ(笑)