【完結】I_AM_GOD.:異世界で神様はじめました。   作:家葉 テイク

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6.妹巫女メイドも悪くないな

    19(アルテシア=day185613/2181pt)

 

「はぁぁ~~~暇だ…………」

 

 ある日。

 

 俺は借りた宿で窓の外を眺めながら、憂鬱な気持ちを溜息にして吐き出していた(詩的表現)。

 

「アルテシア様、少しは働く気概を見せないと」

「でも、言っても何もすることないだろ?」

 

 そう言って、俺は眺めていた窓の外の景色を指差す。

 

 窓の外は、これでもかというくらいの豪雨だった。

 

 俺が交渉してからの二日間で、クレルの民はだいぶ村に馴染んでいたのだが……その後四日間、この土砂降りのせいで俺達は見事に足止めされている。

 

 …………いや、これは俺も正直計算外だった。

 

 どうも、このへんはけっこう雨が多い地域らしくて、一度降り始めるとなかなか止まないんだとか。言われてみれば俺が顕現した場所にも湧き水とか出てたし、山を歩いている時も妙に地面(っていうか草)が湿っていたりしたから、雨が多い地域なんだろうな。

 

 近くに山とかあるし、おそらく湿った空気が山にぶつかるせいで村の上空で雲になりやすいんだろう。

 

「この雨じゃ、外に出るわけにもいかないしなぁ~…………」

「まぁ、そうですねぇ……」

 

 俺の嘆きに、今回ばかりはカレンも同調してくれた。

 

 俺は雨はあんまり好きではないので、早く晴れて欲しいところだが……農業メインのこの世界では、こういうのも恵みの雨なんだよな。

 

 しかし、好き嫌いよりも困るのはクレルの民の移住作業だ。木を引っこ抜くのはぶっちゃけ一日、二日で完了してしまったのだが、家を建てるのはそう簡単にはいかない。今は土魔法で作った仮設住宅に寝泊まりしている状態だ。

 

 …………じゃあ最初から建築は土魔法でよくね? と思ったりしたのだが、なんでも魔法で作ったものはすぐに劣化してしまうんだとか。水とかも水魔法の水を飲むと脱水症状で倒れたりしちゃうらしいし、家にするにはちょっとリスキーだ。

 

「雨と言えば、あれほどあった木材が建材に使う分以外全部木炭に変えられたのはびっくりしたな」

 

 俺の言葉に、カレンはこくりと頷く。

 

 この村では、木炭の消費が凄まじいらしい。

 

 なんでも、雨がよく降るので湿気が慢性的に多く、それを取り除くために木炭をどの家庭でも使うのだとか。まぁ、木造建築だと湿気は大敵だしな。

 

 お蔭でこの宿も、雨にも拘わらずあんまりじめじめした感じはない。

 

 いくらあっても多すぎるということはないとかで、開墾以外にも『巨腕』で木炭用の木を引っこ抜いていたのは、流石に驚いたが。

 

「恵みの雨とは言うが、シニオン村の人達にとっては危険とも隣り合わせなんだろうな」

「でしょうねぇ。何せ、川が氾濫する危険も孕んでますから」

 

 そのへんはシニオン神が気合を入れて治水事業とかをやっていたらしく(この神ほんと何者だ?)、川の氾濫は過去一度も起こったことがないらしいが……。

 

「街も人通りが少なくなっちゃってるし、早いとこ止んでほしいよな」

「でも、この雨の中出向いてくれる人もいるじゃないですか」

「まぁね」

 

 神様バレしてからというもの、村の人達はちょいちょい俺にお供え物をしてくれるようになった。

 

 肉屋のオッサンは通りすがるとニコニコ笑いながら干し肉くれるし、八百屋のオッサンは挨拶すると嬉しそうに林檎をくれる。酒場のオッサンも顔を見せるとクレルの民の件で感謝しながら蜂蜜酒をくれるし。

 

 雨が降り出してからも、ことあるごとに色々持ってきてくれる。

 

 正直落ち着かないが、日本人的には神様にはお供え物をするものだと思っているので、これも神様の義務として受け止めることにしている。

 

「…………なんというか、アルテシア様のそれは供え物というよりは可愛い女の子がご飯を食べる様を見てほっこりしているだけなのでは…………」

「えっ」

 

 マジ? てっきり神様だからだと思ってたんだが…………。

 

「アルテシア様は元々『凄腕の冒険者』だと思って村の人達に身構えられていましたからね。そうではなく、『心優しい神様なのだ』と分かったのでみんなが警戒心を解いてくれたんですよ」

「あー……なるほどなぁ……」

 

 道理で、神様バレしてから畏まられるどころかどことなくフレンドリーになった気がしたんだ。

 

 神様っていうと身構えられると思ってたんだが…………そうか、そうだよな。この世界の人達は俺の世界と違って、神様と言えば神話の中だけの存在じゃなく、五〇〇年前から生活に密着している存在なんだよな。

 

 変に人間だって騙るのも、良し悪しなのかもなぁ。この村には人間として信仰を集める方法を試すために留まったのだが、まさか『変に人間ぶる方がよくない』ということを学習するとは。なんとも因果な話だ。

 

「…………しかし、本当にやることがありませんねぇ……」

 

 雨が降ってしまっては、さしものカレンもお手上げらしい。いつもとは真逆でのんきにベッドの上をごろごろしていた。

 

 まぁ、カレンがこんな風にしているのは、俺の信仰Pにけっこう余裕があるからなんだが。

 

 俺って要らない子じゃね? という疑惑はあったものの、クレルが作業の指揮をするにあたってこの状況は俺(アルテシア)のお蔭だからな――ということを、噛み締めるように言い続けていたらしい(カレン情報)。

 

 その為、クレルの民は俺に感謝するようになり、そこからクレルの民伝いでシニオン村の人々も俺に感謝するようになった結果――おそらく『健康や財産を守ることへの感謝』で信仰Pが手に入ったのだ。

 

 クレルの民五〇〇点、シニオン村の村民で五〇〇点、合計一〇〇〇点の臨時収入である。

 

 …………まぁ、それだけにカレンからは『あそこでクレルを主体にしなければ……』というお小言を頂いたのだが。

 

「そういえばアルテシア様は、この後どうするおつもりなんですか? この村での信仰はかなり集まっていますし……このまま定住してしまうのもアリだと思いますが」

「あー、それな」

 

 それに関しては、俺は最初から決めていた。

 

「まぁ、この雨が止んだら、村は出るつもりだよ」

「………………やっぱりですか」

 

 おや、予想外だと言うかと思ってたんだけど、読まれてたか。

 

「この村に留まるつもりにしては、あまりにもこの村でのポストに執着していないようでしたので。……ですが、良かったんですか? この村におけるアルテシア様への信仰はなかなかのものがあります。継続的信仰Pにしたって、このまま村に留まり続ければ将来的には一日一〇〇点賄えるかもしれませんよ?」

「そこまで行ったら、絶対にクレルと競合するだろ」

 

 カレンは、俺の言葉に黙ってしまった。

 

「…………一つの土地に、活発的に信仰を集める神様が二柱なんて歪すぎるだろ? そんなの、絶対に信仰している信者同士で対立するよ」

 

 俺の前世の世界でも、すぐ近くに二つの宗教があったせいで争いが絶えない地域があったのを覚えている。専門的な知識はないから詳しいことは分からないが、少なくとも一日一〇点レベルの信仰を持つ信仰者が二種類いたら、いがみ合いの種になりかねない。

 

 ただでさえ、クレルの民は元々盗賊をやっていたこともあって、現状は薄氷の上みたいなものなんだ。不確定な要素はなるべく排除した方がいい。

 

 かといって、五点とかその程度の信仰P収入だと、今度は緩やかに死んでいくしかなくなるしな。村の手助けにしたって、いつまで経っても助けが必要とは限らないんだし。それに、信仰を強めないようにするとなると、手助けもやりすぎてはいけなくなる。

 

 よって、シニオン村の平穏を守る為には俺がほどほどのところで出て行くのが一番なのだ。

 

 …………が、カレンとしては納得が行っていないらしく、むっとした感じになってしまった。まぁ、それでも言い返したりしないあたり、将来の危険性をしっかり把握してくれてるってことなんだろう。

 

「そう可愛い顔するな、よしよし」

 

 恨めしそうに上目遣いで俺を見るその顔が可愛くて、ついつい頭を撫でてしまう。

 

 カレンはむず痒そうにしていたが、特に嫌がったりはしていないようだった。

 

「カレンはまだ一五にもなってないのに、しっかりしてるよなぁ」

 

 そんな様子を見て、俺は思わず呟いていた。こうしていると子供っぽいところもあるなぁとちょっと安心するが、それでも全体的に俺が中学生……いや高校生のときよりも大人びていると思う。

 

「え? 私、一六歳ですけど」

 

 などとしみじみしていたら、カレンがそんなことを言っていた。

 

 …………え? 一六? 一六って高校生? …………高校生? ってことは、肉体年齢的には俺と同じくらいってことか? 俺の肉体も、年齢的にはそんな感じっぽいし。

 

 思わず、カレンのことをまじまじと見てしまう。

 

 切れ長の瞳は確かに大人びた雰囲気を感じさせるが、輪郭の丸みにはまだまだ多分に幼さが残っている。

 

 特に、栗毛の髪が引っかかるところもないくらいストーンと落ちた胸部装甲には、何か哀れを感じさせるものすら…………。

 

「…………ひんにゅ、」

「あ?」

「なんでも」

 

 NGワードに触れかけてしまった俺は、慌てて軌道修正をはかる。

 

「いや、実は俺、前いた世界に歳の離れた妹がいてなー」

「…………妹さん、ですか?」

「かなりのお兄ちゃん子でな。事あるごとに俺に甘えてた。俺が働き始めてからは、なかなか構ってやれなくて…………そのまま妹は結婚して、それで俺はそれを見届けた後、病気で死んだ。確か、最後に頭を撫でた時は、ちょうどお前くらいの歳だった…………と言おうと思ってたんだが……」

 

 一六歳なんだよな。最後に頭を撫でた時……親父とお袋が死んだ時は、まだ一三歳だったからなぁ。

 高校生の頃の妹って、俺は写真くらいでしかまともに見なかったなー……。

 

「そうかー…………高校生かー……」

「高校生、ですか?」

 

 思わずぽつりと呟いた俺の言葉に、カレンが首を傾げる。あぁ、こっちじゃ高校生は通じないんだよな。

 

 なんて言えばいいか…………。

 

「俺の世界で、勉強を生業にしてる子どものことだよ」

 

 そう軽く説明すると、カレンは無言で俺に抱き付いてくる。

 

「ちょ、カレン……どうした!?」

 

 カレンが甘えてくるなんて、珍しい…………というか初めてのことだったので、俺は思わずわたわたしてしまう。とりあえず、背中に手を回してみたが……。

 

 これからどうすれば?? と軽くパニックに陥っていると、カレンは俺の顔を見上げて、

 

「私のことを、妹だと思ってもいいんですよ? お姉ちゃん」

「……………………」

 

 ……俺の脳裏を、一瞬にして色んな感情が駆け巡った。

 

 色々と返答に悩んだ末、とりあえず俺は一番伝えなくてはならないことだけを言うことにした。

 

「だから、俺は元男なんだって…………」


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