【完結】I_AM_GOD.:異世界で神様はじめました。 作:家葉 テイク
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「禁止です」
俺の野望を、カレンはその一言で、バッサリと斬り捨ててしまった。
俺による迫真の交渉から二時間後。
俺はクレル達と共に村の有力者に面通しを終え、いよいよ開拓を始めようと村の向こうに広がる森の前に立った。
この世界は村や道じゃなければ大体森か山か丘というアバウトな感じらしいので、村の人達曰く『別にどこの森を吹っ飛ばしたって気にしないよ』とのこと――なのだが、俺はそうは思わない。
何故って、それで失敗した世界を知っているからだ。
山の森をばっさばっさ切り倒したら土砂崩れが発生して痛い目を見たり…………そういうのがあるとアレだから、広げる範囲についてはかなり吟味する必要があるのである。
これについては、同じく現代日本出身のクレルも同意してくれた。
クレルの民については森のあれこれとか言っても分からないと思うんで、『別に山の近くの森を削っても、大した人数住めないでしょ?』と説明しておいたところ、とても納得してもらえた。
やっぱり、文化に応じて説明の仕方を変えていくっていうのは大事だと思うのだ。
この世界、技術に関してはわりと現代レベルに近い――というかほぼ同じところすらあると思うのだが、それ以外の面――特に精神文化面については現代とは大きくかけ離れてるからな。
で、話は戻すが……森の前に立った俺は、適当な小石を拾って目の前に狙いを定めたのだ。
『リフレクトキャノン』。
コイツをぶっ放せば、森の一角や二角(?)くらいは簡単に吹っ飛ばせるってものだ。あとは半端に残った木々を魔法で処理すれば簡単に開拓が完了するという寸法である。
水魔法があるから、万一の山火事にも対応できるしね。
…………という話にしようと思ったのだが、そこで冒頭に戻る。
「何でダメ……?」
石を構えたところで梯子を外された形の俺はしょぼんとしながら問いかける。せっかくの名案だと思うのに、何で止めてしまうん……?
そんな抗議を目で訴える俺に、カレンは落ち着き払って説明を始めた。
「……アルテシア様。ご自分の信仰Pをご確認ください」
「一七八九とあるね」
「五〇〇人の集落が問題なく居住できる規模の土地、それから農作業や牧畜などが可能になるほどの用地を確保できる広さで森を開拓するのに、『リフレクトキャノン』はいったい何発必要になるの思いますか?」
「…………七発くらい?」
「あ?」
「色々込みで七〇発くらい使うと思います」
「『リフレクトキャノン』は一回撃つのに信仰Pを何点消費しますか?」
「大体一〇点くらいです」
「では、計算をしましょう。一〇点相当の消費が七〇回続くと、信仰Pは何点消費しますか?」
「七〇〇点です」
「しかも、『リフレクトキャノン』では木々を吹っ飛ばすだけなので『有難み』は薄いですよね? おそらく信仰P獲得も一〇〇人あたり一〇〇点といったところですね?」
「その通りだと思います」
カレンの言う通り、『財産や健康を守ることへの尊敬』に該当はするんだろうけど、木々を吹っ飛ばすだけでその後の整地は全部クレルの民任せだからもらえるのは最低の一〇〇点だろう。
そうなると、クレルの民全員から信仰Pをもらうとしてもそのポイントは合計で五〇〇点。対して『リフレクトキャノン』の消耗は大体七〇〇点くらいになるだろうから、普通に考えれば二〇〇点の赤字になってしまうのだ。
「私が止めた理由、お分かりいただけましたか?」
「はい………………」
もう、俺は何も言えなかった。
でもさでもさ、必殺技で地形破壊って、男の子の浪漫だと思うんだよ……。だってカッコ良いじゃん。この世界なら森林破壊とか気にしないでも良いしさー…………。
「お、分、か、り、い、た、だ、け、ま、し、た、か?」
「はいっ!!」
…………うん。懐事情(信仰P)に関してカレンに逆らうことだけはやめよう。
「でも、そうしたらどうすれば良いんだ? 俺の『権能』が、多分一番破壊力に関しては上だと思うんだが…………」
「何も、一番でなくても良いじゃないですか」
俺の疑問に、カレンはさらりと答え、人差し指を立てながら記憶を引き出し、
「ほら、この間使っていた、アレです。土魔法の」
「
「そう! それです。それを使わせればいいじゃないですか!」
………………確かに、アレを使えば木をばっさばっさと処理できる。しかも、引っこ抜いたりもできるだろうから整地の手間もだいぶ省ける。
その上破壊する訳じゃないから引っこ抜いた木は丸々再利用できてしまう。なんだ一石二鳥じゃないか。
「よし。そうと決まれば早速クレルに話してくるよ」
そう言って、俺は少し離れたところで神職者集団と一緒にいたクレルの方へと歩いて行く。
「……ん? どうしたアルテシア。例の『跳ね返し』を使うんじゃなかったか?」
「いや、それがな…………カレンに止められちゃって」
「はぁ? なんで…………あぁ、そういうことか」
怪訝な表情を浮かべたクレルだったが、俺がバックルに刻まれている数字を見せると一発で納得してくれた。うんそうなんだ。かなりカツカツなんだ。
「なんか…………すまねぇな」
「いや、いいんだ」
ちなみに、クレルはあの戦闘で五〇点そこそこしか信仰Pが減少しなかったらしい。完全に試合に勝って勝負に負けてるじゃないか……と自分で自分に呆れたのはほろ苦い思い出だ。
いいんだ、こうして和解できたから、それが俺にとっては一番の勝利なんだ。フフフ……。
「で、てめぇが『権能』を使えねぇなら、具体的にどうする? …………一応俺にも考えはあるが」
「まぁ代替案はあるけど……。そっちの案ってのも聞いてみようか」
「いや、何てことねぇよ。
あ、発想が被った。カレンのと。
「なんだ、俺の考えていたのと同じじゃんか」
……という感想は微塵も表に出さず、俺はしれっとカレンの発想を自分の物にしておく。だって二人とも思いついてたのに俺は全然だったなんてカッコ悪いんだもの……。
ともあれ、方針が一緒なら迷う心配はない。
「それなら問題ないな。じゃあ、俺は連中に指示出して来るから」
「おー、頑張れよー」
そう言って、俺は自分の民に作戦変更の伝達をしに行くクレルを見送る。
……あれ? ひょっとして俺、要らなくね?
18(アルテシア=day185607/1785pt)
地盤ごと粉砕しているのではないかと思うくらいの轟音が、その場に連続する。
森の作業現場には現在、三本の『巨腕』が生み出されていて、雑草でも引っこ抜くみたいに木を引っこ抜いては端の方に無造作に置いている。
そういえば『
『一人が発動している魔法に、魔法現象として顕現しないレベルの「魔力の波」をぶつけて、波長の増幅みたいな要領で威力を上げているから、コントロール自体は発動している一人に依存する』
という大変よく分からない解説を頂いた。
……うん、魔法の理論は今度勉強しよう。カレンに教えてあげたいし。
で、本格的にすることがなくなった俺は、カレンと共に工事現場を遠巻きに見守っている。
…………良いんだ、今は要らない子でも。俺が真価を発揮するのはここじゃないから。
俺の役割はクレルやクレルの民が村と共存するときに生まれるであろう摩擦を少しでも軽減することだから。
「…………しかし、困りものですね」
横にいるカレンは、そう言って渋い顔をしていた。
「『リフレクトキャノン』を開墾に使うのは採算が取れないので論外ですが、かといって何もしないのでは信仰Pを稼ぐことができません」
「まぁ、そうなんだよなぁ」
しかし、何かやることと言ってもなぁ…………。そうだな、村人達の様子を確認してみるか? こっちの方でやることはないし、何かありそうなところに行った方が健全だろう。
「村の方に行ってみるか?」
「そうですね。ちょうど、向こうの方々も気になっているみたいですし…………」
そう言ってカレンが俺の後ろを指差すので、振り返ってみると……そこにはこちらの様子を不安そうに伺う村人達の姿があった。
まぁ、あんなでっかいのがいたら不安にもなるよな。
「……アルテシア様、本当に大丈夫なんでしょうか?」
村人達の方へ歩み寄ると、心配そうに工事の現場を遠巻きに見ていた村人のうちの一人がそんなことを聞いてきた。
「私どもを襲ったりするつもりはないみたいですが、あんな大きいもの、危ないのでは…………」
村人達の不安は、主にあの『巨腕』に向けられているらしい。実際怖いし、これは仕方ないと思う。
そんな村人達を安心させるように、俺は微笑む。
「心配要らない。彼らはもうお前達を襲ったりしないから。クレルも俺の考えに共感してくれた。恐れるようなことはない」
…………とまぁ、具体性はまるでない説得だが、最近俺は学んだ。
こんな一言でも、神様である俺が言うとそれだけで重みが生まれてしまうのだ。
正直分不相応な気がしないでもないが、こういうときにはとてもありがたい。実際のところ、『不安だ』って気持ちに理屈はないからな。だから理屈の通じないゴリ押しでねじ伏せる以外に方法はないのである。
「それに、クレルの民の開墾はお前達にとっても良いことがある」
「……いいこと?」
「あの木だよ」
俺は、今も大量に積み上げられている木々の山を指差す。
あれだけの木を、ものの一時間とかからずにバッサバッサと引っこ抜けるんだ。色々な力仕事ができるだろう。
「アレは別に神様の力とかじゃあない。魔法だ。技術だ。つまり、クレルの民と合流すれば、今までは負担だった力仕事を楽にする為の『ノウハウ』だって得られるんだよ」
……と、そんな風に説明すると、村人たちは完璧に理解しているとは言い難いが、なんとなく『いいこともあるんだな』程度には理解してくれたようだ。
「そりゃあ、ありがたいことですなぁ……。実は最近村人も増えて来て、新しい家が必要になってきておったのですが……彼らの知恵を借りれば、開墾も進みやすくなるでしょうな」
と、村人の一人が頷く。
いや……ただの村人じゃない。この人、村長のオッサンだ。
「正直なところ、どうなっているのか不安でもあったのですが…………こうして実際に見てみると、アルテシア様の仰られていた言葉が改めて実感できました」
オッサンはそう言って、遠い目で工事現場を眺めていた。村人も同じようにクレルの民たちの作業風景を眺めている。
…………やっぱ、いくら神様だから説得力がある、納得してもらえると言ったって、それはあくまで納得してもらえるだけなんだよな。
言葉だけじゃ限界がある。
こうやって、実際に生の人々を見てもらうのが、信頼を育む一番の近道なんだなぁ…………。
…………そうなると、あの説得も含めて、俺って要らなくね? って話になりそうなんだけども。
19(アルテシア=day185607/1781pt)
工事現場から少し離れても自分の存在の無意味さを突きつけられた俺は、一旦村に戻ってヘコんでいた。
…………いや、まぁそんなことで拗ねるほど子供ではないが。
単純に、あそこは俺が見てなくても大丈夫だなと判断したので、村の様子とかを見て回ろうと思ったのだ。
うん。やることない場所に留まるのがいたたまれなかったとかじゃないよ。ホント。
「…………しかし、意外と順調そうですね」
「ああ。そうだな。実はけっこう心配だったんだけど、一安心だよ」
感慨深そうなカレンの言葉に、俺は素直に頷いた。
本当に、こういうのは初めてだったのでどうなるか分からなかったのだ。前世で交渉事をするときと似たような気分で臨んだのだが、思っていた以上にうまく進んでる。
「安心してる暇はないんですけどね。信仰Pを集めないといけませんし……」
「それなんだよなぁ」
なんて言い合いながら村を歩いていると、ふと向こうで村人とクレルの民が話しているのが見えた。
しかも、なんか村人の方はまくしたてているかのような感じだ。
「……ちょっとカレン、あれ……!」
そう言って、俺はカレンを物陰に引っ張りながら二人の様子を伺う。
ひょっとして、俺が恐れていた事態が起こったか……!?
いくら村の有力者に話を通しているとはいえ、まったく反発がないとは限らない。どこかしらで衝突が起こっているはずだとは思っていたが、まさかこんなところで……!
だが、こんな時こそ俺の出番だ。
こういう軋轢を、両者に関係のない俺がおさめることで合流も円滑に進むってもんだ。
そういうわけで、俺は二人のいさかいを止めようと、まずはその前に二人の会話に耳を傾ける――。
「…………というわけで、要望があれば開墾の手伝いはできるぞ」
「本当か! ありがとう、ウチは子供の世話をしないといけないから人手が足りなかったんだ! 是非とも頼むよ!」
………………いさかいだと思ってたら、村人とクレルの民が和やかに話しているだけだったでござる。
「…………普通の話ですね」
「…………だな」
拍子抜けした俺は、肩の力を抜いて物陰から出る。
やっぱり俺、要らないっぽいが………………まぁ、神様なんてそもそもお助けキャラみたいなもんだし、お助けが必要ないんならそれが一番なわけで。
シニオン村の人々とクレルの民は、順調に共存の道を歩んでいた。