いつの日か…   作:かなで☆

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第九十七章【封印の地へ】

 翌朝。

 しっかりと日が昇ってから二人は出立した。

 先の二日間と同じく良い天気で心境は複雑な物の、森を抜けるには問題のない気候。そう言う意味では安心感があった。

 合間に幾度か休憩をはさみ、2時間ほどで森を抜けた。

 イタチの言うように辺りには何もなく、ただ長い道が続いている。

 その道を二人は静かに歩き続けた。

 

 

 そして、日が真上に上る頃。

 水蓮とイタチはその地にたどり着いた。

 

 

 

 封印場所となっている平地の真ん中に立ち、二人は顔を見合わせてうなづき合い、静かに姿勢を落として地面にチャクラを流して術式を確かめる。

 「行くぞ」

 「うん」

 少し緊張した面持ちのイタチに水蓮が強くうなづきを返す。

 ゆっくりと深呼吸をし、同時に印を組む。

 

 少しのずれもなく組まれてゆく印

 

 それに伴って二人の体の周りに淡い光がふわふわと漂い始める。

 横目にその光を見ながら水蓮とイタチは印を組み続け、最期の結びを行い地に手をついた。

 目を合わせて同時に術を解く。

 

 『解!』

 

 

 ぶわぁっ!

 

 一気に周りを漂っていた光が膨れ上がり、視界が真っ白になる。

 思わず目をつぶった瞬間。二人を浮遊感が襲った。

 それは、過去に水蓮がこの世界に飛ばされた時のものと酷似していた。

 「これは!」

 覚えのあるその感覚に、水蓮は慌ててイタチに手を伸ばした。

 「イタチ!」

 「水蓮!」

 イタチも水蓮を手繰り寄せようと手を伸ばし、その手が繋がれた瞬間。光と共に二人の姿がその場から消えた。

 

 

 

 ほんの数秒後。

 一瞬失った足場が急に与えられ、水蓮とイタチは数歩よろめき身を支え合った。

 「大丈夫か?」

 「う、うん。大丈夫」

 互いの無事を確かめ合い、一つ息をつく。

 「今のは…」

 「時空間移動だと思う。私がこっちに来た時と同じような感覚だったから」

 「あれが。時空を飛ぶのは初めてだ」

 体に感じた不思議な感覚を思い出し、イタチは自分の両手を見つめて何度か握った。

 「一瞬煙になったような…変な感覚だな…」

 瞬身とはまた違うその不安定な感覚にイタチは顔をしかめ、あたりを見回した。

 「ここに封印されてるのか…」

 そこは何かの建物のようで、あたり一面白い壁で囲まれており、部屋の奥には祭壇のようなものが見える。神話に出てくる神殿のような感じだ。

 ふと足元に目を向けると術式の書かれた円陣があり、イタチが興味深げに手でなぞって確かめる。

 「見たことのない文字が使われているな…」

 足場は1メートル程地面から高い位置にあり、備え付けられた小さな階段を二人はゆっくりと降りた。

 その最後の一段を下りるのとほぼ同時に、部屋の中に大きな声が響いた。

 

 「遅い!」

 

 イタチが珍しく体をびくりと揺らし、隣で水蓮が「わぁっ!」と声を上げた。

 反射的にイタチが水蓮を背にかばい、声の飛来た方向に警戒の視線を向ける。

 水蓮もイタチの背から少し顔を出した。

 

 そこにいたのは12歳ほどの少女であった。

 美しく結いあげられた黒く長い髪。花と絹糸で作った水色の髪飾りが良く映える美しい顔立ち。

 白と水色を基調とした着物のような…巫女服のようないでたちで、小さな手には自身の身の丈の半分ほどありそうな黒く細長い笛のようなものを持っている。

 「何者だ…」

 封印に関しても、この場所に関しても何も情報がないイタチは強い警戒をあらわにしている。

 その理由は水蓮にもわかった。

 

 まったく気配を感じなかったのだ。

 

 時空間で飛ぶ瞬間。水蓮は危険がないかを感知するためチャクラを練っていた。

 もちろんこの場所についてからもそれを解いてはいない。

 にもかかわらず、まったく気配を捉えられなかったのだ。

 

 只者ではない…

 

 

 イタチ同様警戒のまなざしで少女を見つめる。

 しかし、その少女は全くお構いなしでこちらにずかずかと大きな歩幅で歩み寄り、すぐそばで立ち止まって再び声を上げた。

 

 

 「遅すぎるぞ!ワシをどれだけ待たせるつもりだ!」

 

 「……?」

 「え…えと…」

 無警戒に詰め寄られてイタチと水蓮が戸惑い顔をしかめる。

 そんな二人の腕を少女は乱暴につかみとり、グイッと引っ張った。

 「さっさと来い!間に合わん所だったぞ!」

 「ちょ…ちょっと待って」

 「お…おい。放せ…」

 二人が腕を引くがまったくびくともせず、驚くべき力でぐいぐい引きずられてゆく。

 「つべこべ言わずについて来い!もう時間がない。さっさと剣の封印を解くのだ!」

 厳しい口調で言われ、切羽詰まった状況を感じ取り二人はとりあえず少女に従った。

 「こっちだ」

 先ほどの部屋を出ると大きな庭が広がっており、美しい光景につい目を奪われる。

 色とりどりの花が地面を埋め尽くし、庭というよりは花畑のようだ。

 「すごい」

 その広さと花の量に水蓮が感嘆の息を漏らす。

 「景色を楽しんでいる場合か。急げ」

 更にグイッとひっぱられて水蓮は足を速めながらも戸惑いの声を上げた。

 「あ、あの。ちょっと待って」

 「時間がないとはどういう事だ」

 「それを説明している時間も惜しい! あとだ! 封印をすべて解いてから姉者に聞け」

 投げつけるような口調に水蓮とイタチは顔を見合わせて小さくため息を吐き出した。

 

 

 しばらく長い廊下を進み、水蓮たちは大きな崖に囲まれた場所へとたどり着いた。

 少女は水蓮たちの腕を離して二人の前に立ち、立ち姿を整えて一つ深呼吸をした。

 「はじめるぞ」

 その言葉に呼ばれたように、一人の男性が少女の隣にさっと姿を現し水蓮たちに辞儀をした。

 

 「市杵(いつき)すぐに執り行う」

 「かしこまりました。サヨリ様」

 市杵と呼ばれた男性は少女…サヨリの隣に立ち、声を上げた。

 「三光(みひかり)のかけらを預かりし我らの生きるこの地の神。サヨリ姫の(みこと)の名のもとに、長き眠りより守り主を呼び起こす」

 言葉の終わりに強い風が吹きサヨリの衣が美しく揺らめいた。

 市杵が自身の胸の前で手を組み合わせ、力を練りあげる。

 そこに淡い光が生まれ、市杵はその光をサヨリの笛に注ぎ込んだ。

 サヨリは洗練されたしなやかな動きで手に持っていた長い笛を横に構え、水蓮たちに背を向けて言葉を放つ。

 「目覚めるのだ!八雲」

 その声は崖に反響して広がり、それがおさまるより早くサヨリが笛を吹く。

 美しい音色が風に溶け、吹き止むと同時に崖に向こうに大きな光が生まれ、何かがこちらに近づいてくる気配がした。

 大きなチャクラの塊を水蓮もイタチも捉え、警戒に身構える。

 緊張を高める二人の前に現れた存在にイタチが顔をしかめた。

 「(きじ)か?」

 「あれが、雉…」

 実物を見るのは初めてであった水蓮がつぶやきを漏らした。

 しかしその声に交じった驚きは、初めて見たことに対してではなく雉の大きさに向けての物であった。

 しばらく前に見た大蛇丸の人口獣の鷹と同じほどの大きさ。

 その巨体から豪快に広げられた翼の羽ばたきの音が、崖にこだまして重く辺りに響きわたる。

 近づくにつれて大きく太い爪がはっきりと見え、雉はその爪を光らせながら切り立った崖に食い込ませて貼りつくように降り立った。

 その最後の翼のはばたきに強い風がうまれ、水蓮たちに吹き付けた。

 「…っ!」

 「すごい…」

 踏ん張ったものの数歩後ろに押しやられる。

 倒れぬよう力を入れて風の収まりを待ち、二人は改めて雉の姿を目に映して喉を鳴らした。

 小ぶりな恐竜ほどの大きさ。長い尾。体を彩る赤、青、緑のいくつかの色が日の光にまぶしいほど輝いている。

 大きな翼がゆっくりとたたまれるが、警戒を現すようにほんの少し膨れ上がった。

 そして黒い瞳がこちらにギロリと向き、妖しげな眼光がきらめいた。

 

 ケェェェェェェンッ!

 

 くちばしが大きく開かれ、甲高い声があたりに響く。

 嘶きはあたりの空気をびりびりと音鳴らせ、その場に電気が走ったような衝撃をもたらす。

 空気の震えに耐えながら水蓮が雉を見ると、雉は目が合った瞬間大きな翼を再びふり広げてすさまじい風を起こしながら飛び立ち、別の崖に飛び移った。

 

 ドォンッ!

 

 着地の大きな地響きが鳴り、雉が変わらず警戒をあらわにして水蓮とイタチを見据えた。

 

 

 「なんか…すごい荒れてるんですけど…」

 「あの雉が剣を守っているのか?」

 

 「そうだ」

 サヨリが二人に振り向く。

 「あの八雲の中に剣のかけら…ワシらは三光のかけらと呼んでいるが、それを封印し守っている。

 そしてワシは、八雲を守るために神の力を引き継ぎし者だ」

 「神の力…」

 現実味を感じがたいその言葉に水蓮が目を細める。

 「巫女のようなものか?」

 疑問を重ねたイタチがそう問うが、市杵が「またそれとは違う存在だ」と返した。

 その隣でサヨリが雉を見据える。

 「今それは重要ではない。とにかく早く封印を解かねばならぬ」

 厳しいまなざしでサヨリは精悍な声を響かせた。

 「さぁ!やれ!」

 

 ・・・・・・・・・・・

 

 数秒の沈黙が落ちた。

 

 サヨリは顔をしかめながら二人に振り返り「どうした、早くやれ」と、短く言って再び雉に向き直る。

 

 ・・・・・・・・・・・

 

 再び訪れた沈黙にサヨリと市杵が「ん?」と疑問を浮かべて水蓮とイタチをみつめ、水蓮とイタチが同じく「ん?」というような表情を返す。

 

 そこに流れた三度目の沈黙を水蓮が遠慮がちに終わらせた。

 

 「やれって、何を?」

 

 隣でイタチが顔をしかめ、水蓮が困ったようにサヨリを見つめた。

 そんな二人の様子に市杵が「まさか…」と言葉を漏らし、サヨリが体を震わせた。

 「お前ら、まさか封印の解き方を受け継いでおらんのか?」

 ひきつった笑みを向けられて、イタチと水蓮が言葉を並べた。

 

 

 「ここに来れば…」

 「わかるのかと思って…」

 

 

 その返答に市杵が顔を青ざめ、サヨリがさらに体をわなわなと震わせた。

 

 「なんだとぉぉぉぉぉ!」

 

 サヨリの大きな声が崖に響き、こだました。


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