いつの日か…   作:かなで☆

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第八十四章【調査】

 翌朝、日が昇りだしてすぐに皆目をさまし、軽く食事を済ませてすぐに島の調査に動き出した。

 

 

 「どうです~?せんぱ~い」

 上空であたりを探るデイダラにトビが声を上げた。

 デイダラはあたりを数回見回してから水蓮たちのもとへと戻り降りる。

 「何カ所か建物があるな、うん。そうでかくはないけどな」

 「建物…」

 つぶやいた水蓮に一同が視線を向ける。

 それを受けて、水蓮は首を横に振った。

 「人はいない。よっぽど警戒して気配を消してたらわからないけど…」

 それでものちの訓練で水蓮の感知能力は、時にイタチや鬼鮫が気配を殺していても、かすかにではあるがそれを捉えられるようになってきていた。

 それを知る二人はおそらく人はいないだろうと読み考える。

 「ああ。確かに人の気配はしなかったぜ。うん」

 昨夜水蓮と共に空から島を一回りして確認したデイダラも強くうなづいた。

 昨日は雲が出て月の光がなかったため先ほど見えた建物に気付かなかったが、それでも怪しい気配がなかった事には間違いはない。

 「では、以前は誰かいたという事ですかね」

 「そうだな」

 鬼鮫とイタチがうなづき、トビが「幽霊屋敷とか…」と、おどけてデイダラにまとわりつく。

 「やめろ!ひっつくな!」

 力任せにトビを突き飛ばし、デイダラは「どうすんだ? 行くか?」とイタチに問う。

 「そうだな。建物に結界が張られているようなら可能性はあるな」

 「地下というのも考えられますしね」

 「確かに、何か強力な結界が張ってあれば、感知には触れない可能性もあるよね」

 水蓮たちのその会話にトビがうんうんとうなづき「じゃぁ、しゅっぱーつ!」と右手を高くつきあげた。

 

 

 島の中は本当にただ自然のままに木々が生い茂り、道という道もなく、渦の国のような美しさというよりは猛々しく、野性味にあふれている雰囲気。

 鬱蒼とした枝や葉を切り落としながら、鬼鮫とデイダラを先頭に道を開いて歩みを進める。

 デイダラの言う建物に近づくと、人工的に作られた道のようなものがかすかに形を残しており、過去に人が出入りしていた形跡を感じる。

 「一年は経っていないか…」

 道の状態を見定めつぶやいたイタチの言葉に前を歩いていた鬼鮫がうなづきを返した。

 目的の建物は横に大きく作られたコンクリート製の一階建て。

 入口は特に隠されているでもなく、鬼鮫の調べる限りトラップもないようであった。

 「中はどうだ?」

 イタチに言われ、水蓮は中の様子をじっくりとさぐり答える。

 「特に何も感じない」

 「そうか」

 「まぁでも、一応調べますか」

 先ほどの話の可能性もある。それに『尻尾のいっぱいある生き物』がなんなのか、本当にいるのか、それを調べなければ任務は終わらないのだ。

 水蓮はうなづいて扉に手をかけた。

 が、デイダラがそれを止めた。

 「あーね。まて」

 短くそう言ってトビに向き直る。

 「おいトビ、お前がはじめに行け」

 デイダラに背中をポンッと押されたトビがドアの前によろけ出る。

 「えー! なんで? こういうのは先輩が『よしおれが行く。ついて来い』って言うもんでしょ?」

 トビの不満の声にデイダラが顔をゆがめて詰め寄る。

 「こういうのは一番下っ端がやるもんだ。先輩を危険にさらすんじゃねぇよ。うん」

 「一番下っ端はぼくじゃありませんから」

 トビはひょこっと水蓮に跳ね寄り「ほら、ここ」と指をさした。

 思わず身を引いた水蓮をイタチが引き寄せ、デイダラがトビの手を軽くたたく。

 「指さすんじゃねぇ。訂正だ、一番役に立ってねぇやつが行け」

 「ひど…」

 「事実だろうが。うん。とにかくなんでもいいからさっさと行け!」

 声を荒げてデイダラがトビを蹴り飛ばす。

 「うわぁっ!」

 飛ばされた先で鬼鮫がタイミングよく扉を開き、その向こうに広がる薄暗い空間にトビの姿が溶け消えたのを確認して、デイダラが「先に調べろ」と再び扉を閉めた。

 「ちょ! 先輩! 開けて下さいよ! ぼく暗いの駄目なんですって。…え? あれなんだ?」

 急にトビの様子が変わり、慌てふためく空気が漂う。

 「ん?」

 デイダラが顔をしかめて扉に近寄る。

 「おいトビ、どうした?」

 「ひ、やめて…」

 かすれた声が聞こえ、次に「ぎゃぁぁぁぁ!」と大きな叫び声が響いた。

 「おい! トビ!」

 慌ててデイダラが扉を開ける。

 「大丈夫か!」

 しかし声は返ってこず、薄い闇に静けさが流れるばかり…

 「トビ…」

 デイダラが緊張しながら中に一歩踏み入れたその瞬間…

 

 「わぁぁぁぁぁ!」

 

 扉のわきに隠れていたトビが大きな声を出してデイダラの前に飛び出した。

 

 「どわぁぁぁっ!」

 

 虚を突かれて思わず声を上げるデイダラ。

 その様子にトビが「ひっかかったぁ!」と、声を上げて笑いあちこちを飛び跳ねた。

 「てめぇ…」

 デイダラは体をわなわなとふるわせ、素早くトビを捕まえて締め上げる。

 「ふざけやがって! やっぱ一回死ね!」

 「うぐ。く、苦しい…。ギブ。センパイ、ギブ…」

 声をくぐもらせながらトビがバシバシとデイダラの腕をたたき、じたばたともがく。

 それでもデイダラは怒りが極まったのかさらに腕に力を入れた。

 「や、やめて…」

 「うっせぇ! 下らねぇことしやがって!」

 「でも先輩だけですよ」

 「ああ?」

 ひきつったままの顔でデイダラが水蓮たちに目を向ける。

 そこには全く動じた様子のない3人。

 「ほらね…」

 「…う…」

 動揺したのが自分だけだったことを知り、気まずさから腕の力が緩む。

 その隙にトビがさっと身を離した。

 「感知要員が何もないって言った後に何か起こるわけないじゃないですか。先輩怖がり」

 ププ…と笑いをこぼしたトビにデイダラが顔を赤くして詰め寄る。

 「てめぇっ! 心配してやったってのに、なんだそれは!」

 胸ぐらに掴みかかろうとトビに向かってデイダラの腕がのばされる。

 しかしそれを鬼鮫が掴んで止めた。

 「いい加減にしてください」

 そこに生まれた間に、トビがさっとイタチの背に隠れる。

 「離せ鬼鮫の旦那!」

 怒りおさまらぬ様子のデイダラに鬼鮫がため息を返し、イタチがひどく冷たい声で「黙れ」と言い放った。

 「何も気配がしないからと言って油断はできない。騒ぎ立てるな」

 「…う…」

 イタチの冷たい視線にデイダラが言葉を詰まらせた。

 「やれやれ。あなたたちはいつもこう騒がしいんですか?」

 あきれた様子でデイダラの腕を離し、鬼鮫がため息をつく。

 デイダラはフンッと息を荒げてむすっとした表情で歩き出した。

 「おいトビ」

 「はいはい」

 トビがさっと懐中電灯を出してそのあとに続く。

 その様子に鬼鮫が苦笑いを浮かべた。

 「仲が悪いのかいいのか…」

 その言葉に水蓮は複雑な気持ちだった。

 トビ…マダラは、『暁の底辺にいるトビ』としての存在に徹底している。

 こうしてそばで見ていると本当は別人なのではないかと勘違いするほどだ。

 それでも彼は『トビ』ではない。とはいえ、イタチからその事実を聞いたわけでもない水蓮にとってその事を分かち合える存在はおらず、おどけたトビを見るたびに奇妙な気持ちになる。

 だがそれは決して表には出せない。

 水蓮は自分自身にあれは『トビなのだ』と思い込ませ、彼と同じように徹しようときめ、鬼鮫に「そうだね」と笑って返した。

 

 建物内は随分と殺伐としており、暮らしていたという感じは見受けられない。

 ところどころに長机が置かれており、大きな身振りで動くトビがそばを通ると埃が舞い小さな窓から差し込む細い日の光に染まった。

 「なんでしょうね、ここは…」

 鬼鮫が壁に並ぶ棚の扉を開けて中を覗き込む。

 「何か入ってる?」

 後ろから同じく覗き込んだ水蓮の目に映ったのは大小様々な瓶。

 その中の一つを鬼鮫が手に取りふたを開けた。

 空気にかすかに漂う匂い。

 覚えのあるその匂いに水蓮がつぶやきを漏らす。

 「麻酔薬…」

 水蓮は別の瓶を手に取り中身を確かめる。

 そちらはアルコールの香り。

 「消毒液みたい」

 ふたを閉めて元に戻し、建物内を改めて見回す。

 「こんな無人島で医療機関というわけでもないだろうし」

 再び棚の中に視線を戻し「それに」と顔をしかめる。

 「どれもほとんど使われていない」

 その言葉に鬼鮫もうなづく。

 「あまり必要ないけど念のために置いてあったのか、それとも」

 「カモフラージュか…」

 後ろにいたイタチが低い声で目を細めた。

 「もしくは薬を作っていたか」

 その視線の先には瓶の隣に並ぶビーカーや試験管。

 長机の上にもいくつか置かれたままになっていた。

 

 忍び里や国が秘密裏に薬の開発を行うこともあるのだとイタチはそう言って棚の扉を閉めた。

 それと同時に「おい、イタチ」と、少し離れたところにいたデイダラの声が壁に反響して響いた。

 見ると、デイダラは壁につけられていた掛け時計をはずし、壁に手を当てて何かを探っている様子だった。

 「何か見つけたようですね」

 鬼鮫の言葉に水蓮とイタチがうなづき、そちらへ向かう。

 「どうした」

 イタチがデイダラの後ろから様子を覗き込む。

 デイダラは「ここだけ手触りが違う」と壁の一カ所を指さした。

 その場所をイタチがすっと撫で、目を少し細めた。

 それは何かを感じているのではなく、デイダラの言う違いが分からない様子であった。

 鬼鮫も同じく手を伸ばし、首を少し傾げた。

 「特に違うようには思いませんが…」

 つぶやきながら鬼鮫はイタチを見た。

 イタチは「だが…」と壁を見つめたまま言葉を続けた。

 「デイダラが言うならそうなんだろう」 

 さらりと流れたその言葉。

 ほんの一瞬デイダラが息を飲んだのが分かった。

 「お、おう…。当たり前だろ」

 フンッと顔を背けたデイダラのその声には、決して少なくはない照れと嬉しさが混じっていた。

 属性が土であるという事もあるが普段から粘土に触れているデイダラは、そういった類の物に関しては今ここにいる誰よりも優れているのだ。

 それに加えて洞察力も鋭い。

 イタチはそれを認めてそう言ったのだ。

 何かにつけてイタチをライバル視して毛嫌いした様子を見せるデイダラだが、彼もまたイタチを心のどこかで認めている。

 それゆえ、その言葉は思いのほか嬉しかったのだろう。

 しばらくの間背を向けたまま振り向かなかった。

 そんなデイダラに水蓮は小さく笑みを浮かべ、今声をかけてはデイダラが必死に抑えてるものがあらわになるだろうと視線を外した。

 だが、そこに軽い口調の軽い声が響いた。

 「あれ~? 先輩照れてるんっすか? 良かったですね。イタチ先輩に褒められて」

 バシバシとトビがデイダラの背を叩く音が室内に響く。

 

 「はぁ…」

 水蓮があきれた息を吐き出し。

 「彼は本当に…」

 鬼鮫が頬をひきつらせる。

 そんな二人に気付かぬまま背を叩き続けるトビ。

 その腕をデイダラがガシッ…とつかみ、ひねりあげて羽交い絞めにし、一気に締め上げた。

 「やっぱ死ね!うん!」

 「うぐっ…なんで…」

 「なんでじゃねぇ!」

 力いっぱい叫んだその声に、イタチが静かに…冷たく言葉を響かせた。

 

 「黙れ」

 

 「う…」

 鋭く刺さったその一言に、デイダラは口をつぐんで腹立たしげにトビを突き飛ばす。

 「わわっ…」

 トビは大げさによろめいて見せ、イタチのそばにひょいっと身を寄せた。

 「もう、本当に暴力的なんだから。イタチ先輩からも何か言ってやってくださいよ~」

 しかしイタチはまったくトビに目をくれず、壁をじっと見つめていた。

 どうやら写輪眼で調べているようだ。

 その瞳に力がこもり、模様を万華鏡へと変えてゆく。

 「イタチ、私が…」

 イタチの体への負担を心配して水蓮が声を上げた。

 何か術がかかっているのなら、チャクラを流せば分かるかもしれない。

 それが結界や封印術なら水蓮も多少の自信があった。

 しかしイタチはまるでその声が聞こえていないかのようにまったく反応を示さず、そのまま壁を調べややあってから瞳をいつもの写輪眼に戻して一つ息をついた。

 「結界だな。かなり高度だ」

 「じゃぁ、私が…」

 しかし、水蓮のその言葉の途中でイタチはすでに印を組み始めていた。

 それは止めようのないスピード。

 どうすることもできず、水蓮はただその様子を見守るほかなかった。

 

 タン…と、イタチの両手が壁につけられ術が解かれてゆき、壁に走った淡い光が消えた後には、人が一人通れるほどの穴が現れていた。

 その先には階段が見て取れる。

 「地下…」

 つぶやいてすぐ、水蓮は今度は先に…と感知の力でその奥を探った。

 「どうだ?あーね」

 調べ終えた頃合を計りデイダラが問う。

 水蓮は集中を解き「特に何もいないみたい」と、階段の先を見つめた。

 「んじゃぁ、べつにいいか…」

 「いや…」

 調べる必要はないだろうとの意を述べたデイダラの隣をすり抜けてイタチが階段へと足を進ませた。

 「念のため調べる」

 有無を言わせぬ口調であっという間に地下の暗闇の中に姿を消す。

 一瞬で見えなくなったその背を追うように鬼鮫が続き、水蓮も慌てて足を踏み入れる。

 「トビ」

 デイダラの一言にトビが後ろから懐中電灯で足元をてらし、階段を下りながらつぶやくように言った。

 「なんかイタチ先輩やる気満々ですね」

 その言葉に、水蓮は何か正体のわからない不安が胸中に広がるのを感じていた。


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