いつの日か…   作:かなで☆

78 / 146
第七十六章【二人、出会う】

 人ごみから少し離れた場所に大きな木が数本立ち並んでいた。

 そこは祭りの明かりがほんの少し届く程度で薄暗く、その喧騒も程よい心地で耳を触って行く。

 並ぶ木の中から一つを選び、自分の体の3倍はあるであろう太い幹に背を預け、水蓮はため息をついた。

 「見事にはぐれちゃったな…」

 いつもは見失うことのない鬼鮫の大きな背中。その感覚が抜けず、油断して目をそらした瞬間にはぐれてしまったのだ。

 「絶対怒ってるよね…」

 見つけた瞬間に『あなたはまた勝手に!』と詰め寄ってくる鬼鮫が目に浮かぶ。

 その気になればどちらともなく見つけられるだろう。

 それでも、水蓮は少しほとぼりをさまそうと祭りの賑わいから身を離し今に至っている。

 少し灯りが少なくなったからか、先ほどまで気づかなかった星の輝きに目を奪われる。

 「こんなに星出てたんだ」

 最近滞在の多い西アジトでは高さゆえに見える星は一つ一つが大きい。

 それに比べるとずいぶん小さい光ではあるが、いくつか星座の形が見て取れ、水蓮は不思議な感覚に陥る。

 「星の形。やっぱり同じ…」

 すべてがそうなのかはわからない。それでも、あちらの世界で見たものと同じ並びが見える。

 幾度となく見上げてきたこの世界の空。

 特に星空を見ると、いつも今までの事を思い出す。

 事故にあう直前まで、こんな事が起こるとは何一つ考えもせず過ごしていた。

 寝て起きて食事をし、学校に行き勉強。友達とたわいのない話をしたり将来の事を話したり。

 まだ叶うかどうかも分からない夢を語り合って、いつか自分の店を持てた時の事を想像したりもした。

 内装はどうするか。店内で食べれるカフェのようにするのなら、テーブルはどんなものがいいか、どこから仕入れようか。

 いつの事になるか、実現するかどうかも分からないのに、ネットでいろいろと調べて、絶対にここのショップのこのカップを置こうと、勝手に決めたり。

 そう簡単ではない事を簡単にできると思っていた。今思えば、ばかげていた。それでも真剣だった。

 しかし、この世界に来てそれは完全に叶わなくなった。

 だが、それより大事だと思える物を見つけた。

 何よりも大切だと思える人を見つけた。

 愛する人と生きることの幸せを知った。

 そして、切なさと苦しさも知った。

 失うことの恐怖も。

 この世界に来なければ知ることはなかったのかもしれない。

 たとえ知ったとしてもこれほどまでに深い物ではなかっただろう。

 この世界ほどの闇や痛みは、あちらの世界にはない。少なくとも自分が暮らしていた場所にはない。

 

 

 「命は生まれ、命は死ぬ…」

 

 

 いつかイタチが言っていた言葉。

 それはごくごく自然に起こること。

 だけどこの世界ではそれが不自然に行われてゆく。

 奪われてゆく。

 消えてゆくのだ。

 

 望まずに、望まれずに。

 

 望まれて生まれてきた命が望まれず消えてゆく。

 

 

 そして、イタチも…

 

 

 「どうして…」

 誰よりも平和を愛し守ろうとする彼が、なぜ死ななければいけないのか…

 いや、イタチだけではない。

 本当はきっと誰も皆願っているはずなのだ。

 心の奥底で、気づかぬうちに。気づかぬ場所で。

 きっとそれを願っている。

 それでもこの世界は、いまだ奪い合うことを止められない…

 「どうして…」

 決して見えぬその答え。覚悟していたはずのこの先。

 今を必死に生きると決めたその決意。

 すべてが得体のしれないものに覆われ始めていた。

 

 目を閉じると真っ暗で、心が深い闇に落ちていく。

 吸い込まれそうな自分にハッとして水蓮は目を開き首を大きく横に振る。

 「だめだだめだ。こんなこと考えてちゃ進めない」

 グッとこぶしを握りしめて目に力を入れる。

 こんな事ではイタチを支えられない。沈んだ顔をしていても何もいい方向にはいかない。

 「そうだよ。笑っていたい。笑顔でいたい」

 一日でも、一秒でも多くイタチと一緒に笑っていたい。

 イタチの柔らかい笑みを思い出して自然と笑顔になる。

 が、やはりすぐにその表情が陰る。それに気づき、また慌てて首を振る。

 「だめだって! もうっ!」

 「ぶはっ!」

 自分に向けた叱咤の言葉に、別の声が重なった。

 噴き出されたその声は水蓮の頭上から。

 慌ててそちらを見上げると、長く伸びた枝に人がさかさまにぶら下がっていた。

 「何やってんだ?変な顔して」

 「っ!」

 水蓮の思考が一瞬で真っ白になった。

 思いのほか近くにいたその存在。

 うす暗闇でもはっきりと見える美しい青い瞳。ほんの少しの光に照らされ輝く金色の髪。

 ほほに入った髭のような筋…

 「きっ!」

 叫びそうになって慌てて口を抑える。

 人の多い祭りのさなかに叫び声など。騒ぎを呼んでしまう。

 かろうじて理性が働いた。

 それでも口から声が飛び出しそうで、水蓮は息を止めた。

 

 ナ…ナ…

 

 「な…」

 こらえきれずその一言がこぼれる。

 「な?」

 木の枝からひょいっと飛び降り、その人物が水蓮の前に着地した。

 「な…な…な」

 「な…?」

 顔を引きつらせる水蓮を覗き込み不思議そうに首をかしげる。

 それを見つめながら、必死に言葉をこらえて飲み込み、水蓮は胸の中でその名を呼んだ。

 

 

 ナルト

 

 

 「どうしたんだってばよ」

 固まって動かない水蓮に、ナルトはニッと笑顔を見せた。

 

 

 ど、どど、どうしよう…

 

 ナルトだ…

 うずまきナルト…

 

 本物だ…

 

 どうしよう…

 

 水蓮の頭の中を同じことがぐるぐるとまわる。

 「大丈夫か? ねぇちゃん」

 グッと近寄り顔を覗き込んでくるナルト。

 ハッとして身を引き、急に息苦しさに襲われその場に崩れ落ちて咳き込む。

 「うわ! どっか悪いのか?」

 「だ…大丈夫」

 大きく息を吸い込んで呼吸をする。

 あまりの事に息を吸うのを忘れていたのだ。

 「なんでもないから」

 呼吸を整えながら気持ちも何とか落ち着かせる。

 「本当に大丈夫かよ」

 正面に腰を落とし、ナルトは水蓮の背を撫でた。

 「大丈夫」

 いや、大丈夫じゃないか、この状況…

 

 水蓮は顔をひきつらせて考えをめぐらせる。

 

 もし今鬼鮫がここに来たりしたら大変なことになる…

 人の多いこの町で派手な戦闘…

 アジトからそう遠くないこの場所なら、イタチも騒ぎに気付いてこちらに来るだろう…

 そうなってしまっては鬼鮫の手前ナルトを逃がすことはできない…

 今のうちに何とかうまく町を離れるか、ナルトを離さないと…

 というか、どうしてこんなところに一人で…

 違う。きっとサクラは一緒だろう。ということはカカシも?

 

 パッと原作の流れがよみがえる。

 

 デイダラとの戦闘でカカシはカムイを使っている。

 確かそのあとは寝込んでいたはず。

 ヤマト隊長との出会いはサスケ奪還に行く直前。

 

 様々な場面が浮かび、今までにない速さで脳が回転する。

 

 まさかサスケ奪還に向かう途中?

 いや、でもそんな大切な時に祭に来るだろうか…

 原作と少し時間にずれがあるんだろうか…

 というか、ヤマト隊長が一緒ならサイもいる?

 

 新生7班と戦う…

 

 鬼鮫と自分が彼らと対峙しているところを想像して血の気が引く。

 

 イタチのいない状況でそんなことになったら…

 大変な騒ぎになる上に収拾がつかない…

 

 ど、どうしよう…

 

 「ぶはぁっ!」

 先ほどよりも豪快に吹き出された声は、次に笑い声になった。

 「だはは! おもしれぇーな。ねぇちゃん!」

 「え?! なにが!」

 「何って、顔、顔が…ぷはっ!」

 コロコロと変わる水蓮の表情が面白かったらしく、ナルトは腹を抱えて涙まで浮かべながら大きな声で笑い出した。

 「ちょ! ちょっと! そんな大きな声出さないでよ!」

 「ぬぐっ!」

 ナルトの口を慌てて押えるが、勢い余って二人一緒にバランスを崩す。

 「うわっ!」

 「きゃっ…」

 

 

 ドサッ

 

 音を立ててナルトが地面に背を打ち付け、その上に水蓮が覆いかぶさる。

 「いたた。ねぇちゃん大丈夫か?」

 反射的に水蓮を守ろうとしてか、ナルトの手が水蓮の背に回された。

 「大丈夫、ごめん」

 慌てて起き上がろうとしてハッとする。

 背に添えられた手から、ナルトの持つチャクラがほんの少し水蓮の感知の力に触れた。

 

 

 あたたかい…

 

 

 ふわりとした温かいチャクラ。

 それは光をも感じさせ、夜なのに視界が一気に明るくなったように感じる。

 

 とても優しく、柔らかく、まるで春の日差しのような穏やかさ…

 

 そのチャクラが寄り添うように水蓮の心を包み込んだ。

 

 ポタ…

 

 

 知らぬ間に、水蓮の目から涙がこぼれた。

 それはナルトのほほに落ち、地面へと流れ落ちる。

 雫は一つにとどまらず、次から次へとこぼれてゆく。

 「どうしたんだってばよ。どっかけがしたのか?」

 ナルトはゆっくりと水蓮を起こしながら自身も体を起こす。

 「大丈夫か?」

 そっと肩に触れた手からまたぬくもりが注ぎ込まれ、さらに水蓮の涙を誘った。

 水蓮自身も分からなかった。なぜ涙が出るのか。

 ただあまりの優しさに、胸がどうしようもなく苦しくなった。

 今まで抱えていたものが、急にあふれ出したような感覚に陥った。

 「ごめ、大丈夫。だいじょうぶ…」

 とはいうものの、時折しゃくりあげて泣く水蓮に、ナルトはおろおろしとしだした。

 「な、なんかあったのか? 辛い事とか、悲しい事とか…」

 肩に置かれた手が、何とか慰めようとぎこちなく動く。

 

 辛い事。悲しい事?

 

 「いっぱいある…」

 

 か細い声で言葉が落ちる。

 「何があったんだってばよ」

 軽く覗き込まれた青い瞳の美しさがまた水蓮の胸の苦しさを膨らませた。

 「わからない」

 今までのどれが辛くて、何が悲しかったのか。

 「わからない…」

 何を言っているのだろう。と水蓮はそう思った。

 あると言っておいて、それが分からない。そんな事を言われても困るだけだ。

 「ごめ…」

 「わかるってばよ」

 「え?」

 思わず顔を上げる。

 「なんかそれ、わかるってばよ」

 見つめた先でナルトの笑顔が少し変化する。

 先ほどまでの無邪気な物ではなく、少し大人びた、切なさを交えた笑顔。

 「オレもいっぱい辛いことも悲しいこともあった。けど、どれがって聞かれたらどれを答えたらいいのかわからねぇ。いや、わかってるんだけどなんか分からないんだってばよ。全部言えばいいって言われたら言えるかもしんねぇけど、どう言えばいいかわかんねぇ」

 「そう。そうなの。わからないのよ」

 言うとまた涙があふれた。

 ナルトはもう慌てることはなく、静かな声で話を続けた。

 「この話をエロ仙人…あ、オレの師匠にしたらさ、そういう時は一番初めに辛かった事を思い出せって言われた」

 「一番初め…」

 「それが分からなければわかるまで考えろって。そうでないと他の事も分からねぇんだってよ」

 

 いちばんはじめ…

 

 「オレはまだそれがなんなのかわからねぇ。ねぇちゃんは?」

 「私の一番初めは…」

 ぱっと、この世界に来た時の事を思い出す。

 

 突然考えられないことが起こって…

 ありえない事態にただただ驚いて…

 イタチに会って。支えたいと思った。そばにいて力になりたいと思った…

 自分の事なんて考える余裕がなかった…

 

 だけど本当は…

 

 「辛かった…」

 

 言葉と共に、一度止まった涙がまたこぼれた。

 「突然知らないところに来て。わけがわからなくて、怖かった」

 「そっか」

 やさしい声でナルトが相槌を返した。

 「大変だったんだな…」

 まっすぐに水蓮を見つめる青い瞳が柔らかく揺れる。

 その瞳を見つめながら水蓮は小さくうなづいた。

 「大変だった…」

 もう帰らないと決めたあの世界。帰りたいという想いよりもイタチへの想いが勝っている。

 それでも帰りたくない世界ではないのだ。

 こちらの世界よりはるかに長く生きた世界。自分が生まれた場所。

 それはやはり大切な物に違いはない。

 だがそれでもと、心を奮い立たせ進んできたのだ。

 「すっげー頑張ってきたんだろうな」

 ナルトの瞳がさらに優しさを増した。

 

 気持ち良く晴れた日の青空のように…

 

 「なんかわかんねぇけど、分かるってばよ」

 

 春の日の、太陽の光のように…

 

 「ってか、さっきから分からないのか分かるのか、よくわかんねぇな」

 

 へへ…ッと笑うナルトにつられて、水蓮も少し笑う。

 だが次の瞬間隻を切ったように涙があふれ出した。

 かろうじて声はこらえたものの、涙は止まることなく零れ落ちる。

 

 その涙を手で受け止めながら、水蓮は自身の感情をかみしめていた。

 

 ずっと辛かったのだと。

 

 今まで、出会った人たちのために、そしてイタチのために幾度もつらく苦しくなり涙を流してきた。

 だが、自分のために涙を流すことを忘れていた。いや、避けていたのだ。

 自分が辛いということを受け止める勇気がなかったのだ。

 それに気づいたら壊れてしまう。本能でそれを察知していたのかもしれない。

 それでも今、きっかけがあったとはいえこうして受け止められたということは、あの時より自分は強くなったのだろうとそう思う。

 それと同時に分かったことがあった。

 なぜ何が辛いのかがわからなかった理由が。

 それはきっと、今までのその出来事がただ辛いだけではなかったからなのだ。

 悲しいだけの出来事ではなかった。

 すべてが今の自分の糧になっているからなのだ。

 

 乗り越えられたわけではない。

 それでも、今を生きる力になっている。

 辛く悲しいだけで終わっていない。

 

 そういう事なのだ… 

 

 「なぁなぁ。他の事もわかったか?」

 涙がおさまりだした頃合を見計らい、ナルトがそう尋ねる。

 その瞳には先ほどまでとは違う、好奇心の色が溢れていた。答えを聞きたいという気持ちが。

 水蓮はまだ少しにじむ涙を拭い取りナルトに返す。

 「内緒」

 「えー! なんだよそれ、ずるいってばよ」

 ガクリとうなだれる。

 が、すぐに顔を上げてニカッと笑った。

 「でもまぁ、そういうのは自分で見つけなきゃ意味ないんだろうな」

 目の前の笑顔に水蓮は大きくうなづいた。

 そう。自分で見つけなければいけないのだ。

 人に聞いたところで理解できない。

 そして、彼なら必ず見つけるのだろう。

 水蓮はやはりまだ少し涙をにじませながら、それでもナルトに笑顔を向けた。

 「ありがとう。なんかすっきりした」

 自身の気持ちを受け止めた事で強さを見つけられたのか、その心は霧が晴れたようにすっきりとしていた。

 「そっか」

 満面の笑みでそう返し、ナルトは何か思い立ったように右足のポーチに手を入れた。

 「これ、ねぇちゃんにやるよ。今日はこれを川に流す祭りなんだろ?」

 差し出された手の中にあったのは鳥の形の吊り下げ人形。

 それを「ん」と、水蓮に突き出す。

 「でも、これはあなたが買ったんでしょ?」

 「あ~なんつぅか、さっき店のおばちゃんの押しに負けて買ったんだ。でも、オレもう帰んなきゃいけねぇから」

 吊り下げ用のひもをつまんで持ち上げ、水蓮に改めて差し出す。

 「代わりにねぇちゃんが流してくれってばよ。あ、もう買っちまったか? てか、ねぇちゃんの願い事がこれと違ってたら意味ないか」

 目の位置まで上げて揺らす。

 「それ、どういう意味なの?」

 揺れる鳥の人形の向こうで、ナルトがまぶしいほどの笑顔を浮かべてそれに答えた。

 

 「平和」

 

 とくん。と水蓮の胸が鳴り、イタチの顔が浮かんだ。

 

 「平和…」

 「カナリヤの人形らしいんだけど、平和をあらわしてるんだってよ」

 しばし無言でそれを見つめ、水蓮は静かに両手を差し出した。

 その手にナルトがゆっくりと人形を乗せる。

 小さく軽いはずのその人形は、なぜかとても重く感じた。

 「本当に…」

 ぽつりと水蓮の口から言葉が零れ落ちた。

 「ん?」

 ナルトが首をかしげる。

 「本当に来ると思う? この世界に平和が」

 手の中の鳥からナルトに視線を動かし、じっと見つめる。

 

 「絶えず争いの続くこの世界に…」

 

 静かな風が二人を撫でて流れてゆく。

 

 「絶えず命が消えて行くこの世界に…」

 

 自分のそばで消えて行った命が脳裏をかすめる。

 

 「みんな死んでゆくのよ。どんどんいなくなっていく…」

 

 これから消えてゆく命…

 

 「心から平和を願って戦っているのに…」

 

 イタチの笑顔が浮かんだ…

 

 「死んでしまう」

 

 ポタリと、大きな粒が水蓮の瞳から大地に落ちた。

 「こんなにも悲しいこの世界に、本当に平和は来るの?」

 先ほど収まったはずの涙が、再びで視界を滲ませる。

 その滲みの向こうにナルトを映し、水蓮は答えを待った。

 目の前にいるのは自分よりも若く、小さな青年。

 それでも聞かずにはいられなかった。

 彼から答えがほしかった。

 そして彼なら答えてくれると、そう信じていた。

 

 うずまきナルトならと。

 

 黙ったままじっと自分を見つめる水蓮に、ナルトは少しも目をそらさず、瞬きもせず答えた。

 

 「くる」

 

 その言葉が発せられた瞬間。ナルトの背後から急に光がさしたように感じた。

 今まで感じていた輝きの何倍もの光。暖かさ。優しさ。そして、強さ。

 

 「絶対に来る。いや、オレが絶対にそうしてみせるってばよ」

 

 決して大きな声ではない。強い口調でもない。

 静かな、穏やかな言葉の流れ。

 だがそれがなぜか、とても心の深くに響いた。

 ナルトは水蓮の視線を受け止めてうなづき、もう一度言った。

 「オレが絶対にこの世界を平和にしてみせる」

 かつて映像を通して観たあの笑顔が目の前にあった。

 幼さをまだ拭いきれていないその笑顔は、それでも何者よりも心強く感じる。

 これからナルトはサスケに再会して、連れ戻せなかったことに落胆し、それでもとカカシとの修行に入る。

 また強くなるのだ。

 だが、イタチとサスケの戦いの後の彼がどうなるのか、物語がどう進むのかを水蓮はまだ知らない。

 それでも、水蓮の中には確信があった。

 

 出会った瞬間から今まで、そして今も。ひしひしと感じる。

 

 

 必ず何とかしてくれる

 

 必ず何事も成し遂げてくれる

 

 必ずこの世界を平和に導いてくれる

 

 

 【ナルト】という存在からそれを感じるのだ。

 

 

 これが物語の主人公

 

 

 改めてその存在を実感した。

 

 水蓮は手の中の人形を胸元で握りしめ、涙を止められぬままナルトを見つめた。

 「お願い」

 この世界を救ってほしい。

 「お願い」

 今まで出会ってきた人たちの涙を無駄にしないでほしい

 「お願い」

 イタチの願いを、夢を、想いをつないでほしい

 

 全てを言葉に込めた。

 ナルトはまるでそのすべてが分かったかのように笑顔で強くうなづいた。

 

 「オレに任せろってばよ」

 

 太陽にも負けぬほどの輝きをたたえたその笑顔に、水蓮の胸の中にあたたかい希望の光が溢れた。

 

 もっと強くなろう。強くなりたい。彼のように…

 

 水蓮はグイッと力強く涙を拭った。

 そんな水蓮をじっと見つめ、ナルトは少し不思議そうな顔をした。

 「なんか、変な感じがするってばよ」

 「変?」

 突然の言葉に水蓮が首をかしげる。

 「ねぇちゃんと喋ってると、何かがこうつながるっていうか、重なるっていうか。なんでかすんげぇ考えてることが分かるっていうか。そんな感じがするんだってばよ」

 

 ドキリと胸が鳴った。

 

 それは水蓮も感じていた事だった。

 何かが自分とナルトをつなげている。

 二人の間に働くほんのかすかな力の作用。

 

 

 共鳴

 

 

 互いの中にある九尾のチャクラが呼応しているのだ。

 水蓮は自分にもナルトにも九尾のチャクラが流れていることを知っている。

 それゆえにナルトの感じている「不思議」がそれだと分かるのだ。

 

 「それに、ちょっと懐かしい感じがするんだってばよ」

 ナルトは少しさみしげな笑顔で自分の胸元をつかんだ。

 合わせて水蓮も同じように自身の胸元にそっと触れ、考えをめぐらせる。

 

 一度はナルトの母であるクシナの中に取り込まれたチャクラ。

 もしかしたら何らかの形でクシナの気配を帯びているのかもしれない。

 ナルトはそれを感じ取っているのかもしれない。

 本当なら今ここでナルトに自分の持つ九尾のチャクラを渡すべきなのだろう。

 それが自分が引き継いだ役目なのだ。

 だが、今それを行ってもし暁に知られたら、全てがダメになってしまう。

 

 今はまだできない…

 

 水蓮は様々な物を押し込めてナルトに笑顔を向けた。

 「なんでだろうね」

 「なんでだろうな」

 二人は顔を見合わせて笑った。

 「あ、そういえばまだ名前言ってなかったな」

 笑顔を浮かべたままそう言ったナルトの髪を風が揺らした。

 

 「オレは、うずまきナルトだってばよ」

 

 やはり光とぬくもりを感じさせるその笑顔に、水蓮も負けじと微笑みスッと手を差し出した。

 

 「私は…」

 

 ほんの一瞬の間を置き、水蓮は名乗った。

 

 「水蓮」

 

 なぜかは分からない。

 だがナルトにはその名を伝えたかった。

 こちらの世界で生きるために与えられたその名前。

 それを知っていてほしかった。

 

 「よろしくだってばよ」

 「よろしく」

 

 

 二人の手がゆっくりと、そしてしっかりと重なった。




いつもありがとうございます(*^_^*)
ようやく出会った二人の主人公ですが、やはり原作主人公ナルトの方が力強さを感じますかね…。
どういう風に二人を描こうかずっと悩んでいたんですが、水蓮が本当のところをさらけ出せるのはもしかしたらナルトしかいないのかもしれない…と思い、こういう形になりました。

この先二人がまた再会するのはいつになるのか…。
どうなるのか…
ん~…どうなるのかな(~_~;)

何にせよ、二人の出会いは大きな節目ですね…
描き始めた当初は、実は最後までナルトは出さずにおこうか…とか考えてもいました。
NARUTOなのに、ナルトが出てこない…みたいなwww
今までもまぁ、十分そんな感じでしたが(^_^;)
さて、次は鬼鮫&自来也です。

実は今回の【祭りイベント】ではナルト&水蓮と同じくらい書きたかったパートかもしれません…。
イタチ&サクラもですが…って、結局どれもすんごい書きたかったパートですね(笑)

内容途切れないようにしたいので、なるべく早く投稿できるようにしたいと思います
(*^_^*)

これからもなにとぞよろしくお願いいたします!

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。