いつの日か…   作:かなで☆

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第六十六章【収束】

 日の光が、いつもの何倍もまぶしく感じられた。

 

 数時間とはいえ地下に入っていた影響か、それとも深く沈んだ心のせいなのか。

 水蓮は里の出入り口から顔を出して思わず目を細めた。

 あたりを見回すと、そこには先に脱出した血継限界の者たちの姿はもうすでになかった。

 

 

 「あーね!大丈夫だったか?」

 「オレを待たせるんじゃねぇ」

 ほっと息をついた水蓮に飛び来た声。

 イタチの予想通り、外で待機していたのはデイダラとサソリだった。

 明るいデイダラと、サソリの悪態。

 いつもと変わらぬそれが、先ほどまでの事を一気に遠く感じさせる。

 それでもすべては現実のもので、ザギの死もこれから起こる悲惨な出来事も決して消すことはできないのだ。

 「なかなか出てこねぇから、心配したぜ。うん」

 「ぐずぐずしやがって」

 二人が変わらぬ調子でスッと水蓮に歩み寄る。

 涙は止まっているものの、そのあとを見られるのはよくないだろうと、水蓮はほんの少し顔をふせた。

 「ごめんね。待たせちゃって」

 極力いつものようにと返したその声はどこか力が入りきらず、幾度となく顔を合わせてきたサソリとデイダラがその異変に感づく。

 「あーね?」

 「なんだその辛気臭い空気は」

 「旦那がそれを言うのかよ」

 「どういう意味だデイダラ」

 そんなやり取りをしながらもう一歩、歩みよる二人。

 さらに顔を伏せて気まずい空気を漂わせた水蓮の前に、すっとイタチと鬼鮫が入り込んだ。

 「ゆっくりはしていられませんよ」

 「デイダラ、さっさとやれ」

 急かして放つ二人に、デイダラとサソリがいらだつ。

 「命令するんじゃねぇよ。うん」

 「待たせておいてその言いぐさは何だ」

 険悪なムードを漂わせる二人に小南がため息をつく。

 「やめなさい。そんなことをしている場合ではない。早く終わらせなさい」

 デイダラとサソリは不満げな顔で小南に振り返るが、さすがに言い返さない。

 「へいへい」

 「わかっている」

 デイダラがさっと自身の作り出した鳥に飛び乗り、サソリがそれに続く。

 「派手にやっていいんだな?」

 ニッ…と笑みを浮かべてデイダラが腰につけたポーチに手を入れた。

 その様子に水蓮の心臓が音を立てる。

 「待てデイダラ。まだやるな」

 水蓮の様子に気づき、ふわりと羽ばたいた鳥の背に向かってイタチが静止をかけた。

 「なんだよ!やれって言ったり待てって言ったり。ややこしいんだよ!うん!てか、命令するな!」

 デイダラの上げた抗議に応えず、イタチは水蓮に向き直る。

 「無視かよ!」

 その声すら気に留めず、イタチは別の場所に用意されていたデイダラの鳥に目を向けた。

 そこにはすでにアゲハが乗せられていた。

 「お前は西アジトで待て」

 「イタチ…」

 「すぐに戻りますよ」

 「鬼鮫…」

 二人にはまだやることがある。

 

 里の殲滅。

 

 デイダラが爆破し残党を狩る。

 

 イタチも鬼鮫も、またその手を血に染めるのだ。

 この里は地下にあり、地盤は緩い。

 デイダラの爆破でほとんど片がつくだろう。

 だが、たとえ直接手を下さなかったとしても、イタチはその心に大きな痛みを負うのだ。

 自らにそれを課す。そういう人なのだ。

 鬼鮫とて、決して何も感じていないわけではない。

 任務から戻り、暗夜に一人静かに身を浸す鬼鮫を水蓮は幾度となく見てきたのだ。

 そしてそれは水蓮も同じであった。

 たとえイタチと鬼鮫が水蓮を関わらせずにいたとしても、血の色に手を染める二人を送り出すことは、それと同等なのだということを、しっかりと感じ、受け止めていた。

 それでも、自分は進まねばならない。

 立ち止まらず、イタチの歩く道を共に歩み続けると決めたのだ。

 

 痛みにその身が、心が朽ち果てても…

 

 イタチの望む最期のその時まで…

 

 「先に戻っていろ」

 イタチがもう一度促す。

 鬼鮫もその隣で小さくうなづいた。

 それが二人の望むこと。

 「わかった」

 決してうまくはつくろえていない笑みで答える。

 だが鬼鮫とイタチには十分であった。

 「お願いですから今度は大人しく待っていてくださいよ」

 「【なりゆき】には注意しろ」

 皮肉を交えて二人が笑う。

 水蓮は気まずく顔をひきつらせながらうなだれた。

 「善処します…」

 そして、ゆっくりと顔を上げて二人を見つめる。

 「気を付けてね」

 「ああ」

 「心配いりませんよ」

 水蓮は二人のどこか切なさを帯びた笑みを受け止め踵を返した。

 その先では小南がすでにイナホを抱きかかえて鳥の背に乗り、水蓮を待っていた。

 「行くわよ」

 小南がすっと手を差し出した。

 その手につかまり鳥の背に乗ると、かすかに触れ合った小南の体から柔らかい香りがした。

 そっと視線を向けると、藤色の髪が風に揺れ、隙間からオレンジ色の瞳が見えた。

 そこには、イタチと鬼鮫の笑みに浮かんでいたのと同じ切なげな色が揺れていた。

 

 この世界を生きる忍は皆その色を抱き、痛みに耐え忍び、答えの見えぬ道を歩いているのかもしれない。

 

 それでもと、答えを求めて。

 

 深くしみついたその色をすぅっと押さえ込み、小南は厳しい口調で指示を言い渡した。

 

 「一人も逃すな」

 

 「余裕だぜ、うん!」

 「わかっている」

 「了解しました」

 「承知した」

 

 それぞれの返答を聞き、小南はチャクラを流して鳥を操り、空へと羽ばたかせた。

 鳥の羽ばたきは柔らかくしなやかで、水蓮達を優しく持ち上げた。

 

 

 それが小南のチャクラ。

 彼女の持つ本来の姿なのだろうと、水蓮は小南の背を見つめた。

 

 凛とした佇まい。

 

 だがやはり、そこには言い表せぬほどの切なさがあふれていた。

 

 

 

 

 アジトへと向かう途中、アゲハが目をさまし、ポツリポツリと自身の力の事を話し始めた。

 

 【晶遁】

 それはイタチが話したように空気中の全ての物を水晶へと変換する力。

 しかしその属性や力の起源は知られておらず、アゲハも自身の身に危険が迫った時、自然とその力に目覚めたのだという。

 それはイナホと同じ11歳の時であったと、そう話しながらアゲハは未だ気を失い眠ったままの娘の髪を撫でた。

 「私を買った男はこの力について調べていたけれど、やはり詳しくは何もわからなかったようです」

 過去の忌まわしい記憶がよみがえったのか、アゲハは暗く沈んだ表情でそう話した。

 「ただ、この力を使用する者は決まって短命であるとそう言っていました。それでも、あの男はそんなことはお構いなしで私にこの力を操れるようになれと、厳しい訓練を課してきました。そして、あの島に連れてゆかれ、ザギと再会したんです」

 ザギはすでに何度も島には来ていたようで、その圧倒的な強さからかなり有名であったらしく、アゲハを買った男はザギを倒し名を上げようとしていたのだと、アゲハは心底嫌悪の口調で話した。

 「だけど、私はザギと戦うことはできなかった。ザギはただ一人の私の家族だった。泣き虫な私をいつも励まし、守ってくれた。そんなザギと戦うくらいなら、いっそ…」

 小さく震えた体を水蓮はそっと支えた。

 「そんな私の気持ちにザギは気づいたんだと思います。それに、いずれにしても戦わぬ私は【恥】として殺される。それなら、自分の手でと」

 そうしてアゲハはザギの力を受け、先ほどと同じ状況に陥ったのだという。

 「だけど、ザギは3度目をためらった。その一瞬のすきをついて、一人の男性が私とザギの戦いの場に身を投げ入れてきたんです」

 「それが、イナホの父親…」

 水蓮のつぶやきにアゲハはうなづいた。

 「もう決着はついているだろうと。そうして私は助かり、彼の申し出で彼の主人であった人物に引き取られたんです」

 その人物は、自身が血継限界の力を手に入れるための研究をしており、研究材料となる術者を探しにその島に来ていたのだという。

 研究材料と言っても、アゲハに対して何かを施すようなことはなく、術の発動時のチャクラの流れや遺伝子の研究が主であり、穏やかに時を過ごしてきたとアゲハは話した。

 「彼がそうするように進言してくれていたようでした。彼はずいぶん気に入られていましたから、そのおかげで私は何も辛い思いをすることはなかった」

 そして、後に主は独自の力を手に入れ、二人は解放された。

 自由の身となったアゲハとイナホの父は結婚し、あの町で暮らすこととなった。

 「とても幸せでした。だけど、ナズナが生まれてすぐに彼は病で亡くなり、その後を4人で生きてきたんです」

 話を聞き終わり、小南が一つ息を吐く。

 「そんな島の話は聞いたことがない」

 情報には長けている暁。その目すらもかいくぐって存在する島。

 

 一体何者が仕切っているのか…

 

 水蓮は計り知れないこの世界の闇に体が震えた。

 「それで、その子が使っていた父親の能力とはどういったものなの」

 小南の問いにアゲハは再びイナホの髪を撫でた。

 「冥遁と言われるものです。あれは、もともと彼の持っていた力ではなく、実験の際に偶然彼の身についたもののようです」

 「冥遁…」

 つぶやいた小南の隣で水蓮も顔をしかめる。

 「相手の術を吸収し、自分の力として発動するものです。しかも、その力を2倍、3倍にも大きくすることができるんです」

 【晶遁】と【冥遁】その両方を持つイナホは、もはや恐れるものなどないように思える。

 しかしアゲハは沈痛な面持ちで話を続ける。

 「どちらも強力な力です。でも、大きな力にはそれ相応のリスクが伴う」

 先ほどのアゲハの話に合った言葉。

 『短命…』

 小南と水蓮の声が重なり、それぞれの脳裏に大切な存在が浮かぶ。

 「そうです。あの人も力が原因だったかどうかはわかりませんが、その病は原因不明で治療法も見つけられなかった。そして私も、ここ数年は体調が良くなくて…」

 それでイナホは自分に教えを乞うと来たのだろうと、水蓮はイナホを見つめる。

 「でも、もしかしたら力を使わなければ、それは免れるかもしれません」

 祈るようなアゲハの言葉に、イナホがわずかに身じろぎをして、うっすらと目を開いた。

 「イナホ」

 まったく訓練されていない体で強力な力を使ったゆえか、イナホのダメージは大きい。

 母の呼びかけにも、ほんの少し顔を動かすのがやっとという様子。

 それでも、自身の状況が先ほどまでと違うことに気づき「お母さん…」と小さな声でつぶやいた。

 そこには母を心配する気持ちが溢れている。

 「大丈夫。もう大丈夫。全部終わったから」 

 やさしく頬を撫でる手に、イナホはニコリと微笑み、水蓮をその目に映す。

 「先生たちが助けてくれたの?」

 消え入りそうなその声に、水蓮と小南が顔を見合わせた。

 そんな二人にアゲハが目配せをし、イナホにうなづいた。

 「そうよ。水蓮さんたちが助けてくれたのよ」

 「そっか。やっぱり先生はすごい。先生ありがとう」

 とぎれとぎれに言葉を紡ぎ、イナホは安心した笑みで再び眠った。

 「私も同じでした」

 アゲハがイナホの手をキュッと握った。

 「初めて力を使った時、その記憶が失われていたんです。あのまま何も知らず生きて行けていたなら…」

 フッ…と陰りを見せたその瞳が向けられた先では、幾度目かの爆音が鳴り響き、薄黒い煙が上がった。

 その光景を焼き付けるように見つめるアゲハと同じ様に、水蓮と小南もそちらを見つめた。

 「彼の、ザギの夢は、あの力で人の命を救う事でした」

 アゲハのほほを涙が伝った。

 「あの時代、多くの血が大地に流れ、汚れ、様々な病が蔓延していました。多くの命が、特に幼い子供の命がそれによってたくさん失われた。私たちと一緒にいた仲間も」

 

 いわゆる伝染病であろうと、水蓮はその光景を想像して目を伏せた。

 

 「ザギは、そうして死んでいく仲間を見送り、悲しみ、怒り、『自分が変えて見せる』と、そう言っていた」

 

 アゲハの言葉に、小南の瞳がかすかに揺れた。

 「彼は、本当にやさしい人なんです。力に目覚めたのも、私を守るためでした。私はザギのあの力に命を救われたんです」

 戦いの中でだろうと、水蓮と小南は想像する。

 だがそうではなかった。

 「私の体から、病の根源を消してくれたんです」

 思わぬ言葉に、二人の眉がひそめられた。 

 「私も、原因不明の病にかかり、一度死にかけたんです。その時、ザギの力が目覚めて、彼の蒸遁の酸の力で体内の病原を滅してくれたんです」

 「そんなことが…」

 思わず水蓮が言葉をこぼす。

 医療忍術を使うからこそ分かる。

 忍術では病の根源は消せない。

 その病原の強さによるのかもしれないが、命を落とすような病は無理だ。

 だがそれを酸の力で滅した。

 「そんなことが…」

 あまりの事実に再びつぶやかれたその言葉に、アゲハが柔らかく微笑む。

 「あの人の優しい気持ちが、想いが、私を救ってくれたんです。彼はその力を使いこなせるようになって、いつか病に苦しむ人を救いたい。そして、血に汚れた大地を浄化したい。そう言っていた。それが、彼の夢だった」

 

 水蓮はハッと息を飲む。

 

 『この術は地中からも対象者を狙える』

 

 ザギの言葉がよみがえった。

 それは、夢をかなえるため、命を救うために、その身に着けた力だったのだ。

 

 「ザギは本当にやさしい人なんです」

 アゲハはスッと手を持ち上げ、先ほどまで術が刻まれていた個所を見つめて、小さく体を震わせた。

 「私がチャクラを練ってすぐに、彼は術を解いていた…」

 震えが大きくなる。

 「彼は、冥遁の力を知っていた」

 

 水蓮はグッと手を握りしめた。

 

 そのすべてが、やはり彼は自身の手ですべてに幕を引いたのだと悟る。

 

 「本当に優しい人…」

 アゲハの瞳から絶えずこぼれ続ける涙の中に、水蓮と小南はそれぞれ愛する者の姿を映していた。

 

 強い力を持ち、平和を望みそのために戦いながら痛みに耐え続ける。

 争いの絶えぬこの世で争いの終息を心から望み、その身を血に染めてゆく。

 小南の愛する弥彦はそうして死に、水蓮の愛するイタチもまた死に向かって進んでいる。

 

 

 ただ愛するものを守りたいだけなのに…

 

 

 

 なぜ…

 

 

 二人は同じ言葉をこの世界に投げかけた。

 

 

 なぜ…

 

 

 だが、この世界は何も答えてはくれない…

 

 

 「こんな力、目覚めなければよかった…」

 アゲハの声に、いつの間にか眼下の大地に落とされていた二人の視線が引き上げられる。

 「何度もそう思いました」

 

 力がなければ、弥彦は死なずに済んだんだろうか…

 

 胸を刺す痛みを感じながら小南はアゲハに目を向ける。

 その隣で、水蓮も静かにアゲハを見つめる。

 「だけど」

 アゲハがゆっくりと悲しみを笑顔へと変えた。

 「そうではなかったからこそ、私は生き延び、あの人と出会うことができた。この子を、子供たちを生むことができた。それは闇深い私の人生の中で、最も幸福な出来事です」

 

 悲しみと痛み。そして闇の中に見つけた光。

 

 希望

 

 それは誰にも与えられるのだろうか…

 

 見つけることができるのだろうか…

 

 許されるのだろうか…

 

 たとえ血に染まった身だとしても…

 

 

 水蓮と小南は同じ思いを胸中にめぐらせた。

 

 「ザギは、私が死んだと思い孤独に駆られ、心を闇に染め、命を守るための力で命を奪い生きてきた。そしてその罪から目を背けまいと、自身の術で苦しみ死ぬことを選んだ。私がザギを苦しめ、その命を奪った。私もその罪を背負い、目をそむけず生きていきます。どんなに苦しくても、どんなに痛くても。子供たちを守るために…」

 

 アゲハの瞳にもう涙はない。

 

 そこにあるのは深い悲しみと、それでも愛するものを守るためにまっすぐ生きていきたいという、強い光が輝きを放っていた。

 

 

 

 

 

 町の入り口から少し離れた場所に、水蓮たちを乗せた鳥は羽を下ろした。

 いまだイナホは起きぬままではあったが、静かな寝息がその後の良い目覚めを伝えている。

 「ありがとうございました」

 イナホを背に、アゲハは静かに辞儀をした。

 「町はしばらくうちの者に見張らせる」

 小南の視線の先には黒い影が二つ。

 距離がありその姿ははっきりとは見えないが、飛段と角都であろうと、水蓮はかすかに見える赤雲に目を細めた。

 「あの里の者を逃がすわけにはいかないだけよ」

 再び礼を述べようとしたアゲハに、小南はそっけないそぶりで返した。

 「でも、おそらく大丈夫だと思います」

 水蓮が小南の言葉を補足する。

 「つかまっていた人たちが逃げ出したことは知られていませんから」

 たとえ残党が出たとしても、そして小南の言っていた天隠れの里の『本来の里』に住む者たちが恨みを抱いたとしても、その矛先はすべて暁に向けられるだろう。

 アゲハは水蓮の言葉にうなづき、柔らかく微笑みを返した。

 「水蓮さん。あなたが、イナホの【先生】だったんですね」

 その言葉に、ここまでその事を話す間もなかったことに気付く。

 「はい。すみません、一度も挨拶のないままで」

 ようやく交わされた握手に、事態が一応の収束を告げたのだと実感する。

 手を離し際にイナホの体が揺れ、細い腕が母の体をキュッと抱きしめた。

 「お母さん」

 小さな呟き。

 イナホはぬくもりに安堵し、再び深く眠った。

 その様子に水蓮とアゲハはまた笑みを交わした。

 「イナホが何も思い出さぬよう。2度とあの力を使わずに済むように、争いからは身を離し、穏やかに暮らします」

 水蓮はうなづき、イナホの髪を撫でた。

 

 もう会うことはないだろう…

 

 自分との関わりは、イナホを危険に縁させる。

 

 「イナホに…」

 そっと頬に手を当てる。

 ふっくらとした頬が少し脹らみ、可愛らしい笑みが浮かんだ。

 「元気でと、伝えてください」

 「はい」

 アゲハは静かにもう一度頭を下げ、ゆっくりと背を向けた。

 その背を見つめる水蓮と小南の髪を少し冷たい風が揺らした。

 

 その風の中に、もうすぐ町を照らすであろう夕日の気配を感じながら、二人は親子の姿が町の中に消えゆくまで見つめた。


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