いつの日か…   作:かなで☆

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サスケ真伝のネタバレがほんの少し含まれています。
(真伝のストーリーに触れてはいませんが、作中に登場する設定を少し引用しています)
ご了承ください。


第六十四章【忍の闇。力の目覚め】

 「オレ達は戦争孤児だった」

 ザギがうずくまるアゲハを見据えたまま吐き出すように言った。

 「同じ町に同じ頃に生まれ、幼くして戦争にあぶりだされ、あちこちをさまよっていた。他にも何人か一緒にいたが皆死に、最後にオレとアゲハが残った。それでも、もう死ぬ寸前だった」

 当時を思い出すようにザギの目が細められた。

 「だが、オレ達は運よく物好きな金持ちに拾われた。それからの数年は信じられないほど静かな、穏やかな時間を生きた。だけど」

 今度は瞳を憎しみに染める。

 「それは一瞬で終わった」

 グッとこぶしを固く握り、苦悶の表情を浮かべる。

 「オレとアゲハの能力の開花。それがすべてを狂わせた」

 ふぅ…とゆっくり吐き出された息と共に、その表情が切なげなものへと変わって行く。

 「その能力が血継限界だと知るや否や、オレ達はその力を使いこなせるようになるまで厳しい訓練を受けさせられ、力を身につけた途端売られた」

 水蓮がその事実に目を見開く。

 「戦争孤児の中には血継限界を持つ者が多くいる。なぜなら戦火を生き抜くためにその力が無意識に開花し、それによって守られ生き延びるからだ。オレとアゲハは戦争後の開花だったがな。オレ達を拾ったやつもそれを知っていて、何人もの戦争孤児を拾い集めていたんだ。血継限界でなければ、それはそれでいずれ奴隷としてこきつかうために」

 戦争という闇の奥にある痛み。

 それは幼い子供に最も深く刺さるのかもしれない。

 水蓮は息苦しさを感じ胸元を抑えた。

 「お前らは知らないだろう」

 切なげなまなざしでザギは言葉を続ける。

 「売られた血継限界が見世物にされる場があることを」

 「見世物?」

 イタチが顔をしかめた。

 「血継限界コレクター。そう呼ばれる者たちが年に数回集まる場がある」

 ザギは、怒りを交えながらもどこか呆れたような口調で「イベントだよ」と吐き捨てた。

 「場所はどこにあるのかわからないが、どこかの島だ。買い集めた血継限界を持ち寄り、戦わせ、ただ自慢し合う。『どうだ、俺のおもちゃは強いだろう』とな」

 「ひどい…」

 思わず水蓮の口からこぼれたその言葉に、ザギがまた記憶をたどり目を細めた。

 「ひどいなんてもんじゃない。オレ達のような戦争孤児に言葉巧みに近寄り、拾ってすぐに逆らえぬよう術をかけ、血継限界だと分かった途端売り飛ばす。そして、あの場で見世物にされる」

 ギリ…っと、歯をかみしめる音が聞こえたような気がした。

 「血継限界同士の戦いだ。その末は分かるだろう」

 水蓮が目をぎゅっと閉じうつむいた。

 「ほとんどの場合でどちらかは死ぬ」

 イタチの体がピクリと揺れる。

 同じ血継限界の力を持つものとして、他人事ではない。

 その胸の痛みは、表に出さずとも水蓮にはひしひしと伝わり来た。

 鬼鮫も何かを感じたのかイタチにちらりと視線を落とした。

 「もしそうでなくとも、負けた者は【恥】として消される」

 

 ゴォッ…と炎が上がった。

 

 その炎の色が、まるで涙のようにザギのほほに筋を作る。

 「オレとアゲハはそれぞれ別のところに売られ、そしてあの島で再会した。対戦相手としてな」

 苦痛に耐える母の隣で、イナホが息を飲み母とザギを交互に見た。

 今の話を聞き、どちらも生きていることに疑問を浮かべる。

 「オレ達の戦いには途中で邪魔が入った。まぁ、ほぼ決着はついていたがな。その後あの島で会うことはなかった。だから、お前はもう死んだんだろうと思っていた」

 ザギは寂しそうな、苦しそうな複雑な瞳でアゲハを見つめ、イナホにちらりと視線を投げた。

 「まさか子供を産んでいたなんてな。ずいぶんいい人生を送ったようだな」

 皮肉の色。

 それがザギのその後の人生が壮絶だったのであろうことを物語っていた。

 「オレは後にあの島に来ていたこの里の長に拾われた。この里のために生きないかと。縛りの術を解き、自由を与えることを約束してくれた。オレには断る理由はなかった。そしてオレはこの里に忠誠を誓った。オレの夢は何ら変わっちゃいないんだよ。アゲ…」

 名を呼ばれ、アゲハは苦しげに顔を上げた。

 「オレの夢はあの時のままだ。大切な物を守るためにこの力を使う」

 「違う…」

 しかしアゲハはそれを否定する。

 「今のあなたは里の利益のために、里に利用されているだけ」

 ピクリとザギの体が揺れる。

 「本当に里を守るためなら、その力で里を繁栄させるための手段を探すべきよ。里の利益のために他者の命を奪うなんて、そんなのはあなたの描いていた形じゃないはずよ」

 その言葉に今度は水蓮の前で、小南の体が小さく揺れた。

 「あなたはそんな人じゃない。本当のあなたは、誰よりも優しい」

 「うるさい!」

 ザギが怒鳴りでアゲハの言葉を遮った。

 「お前に何が分かる!オレがどんな人生を送ってきたか!どんな地獄を生き抜いてきたか!そこからオレを救ってくれたのは里だ!この里だ!オレは、里のためならなんだってやる!里を守るためなら人をも殺す。たとえ利用されていようとも。それが、忍だ」

  

 

 痛いほどの沈黙が落ちた。

 

 

 何があろうと、人の命を奪うことは許されはしない。

 それでも、大切な物を守るために忍は戦い、時には他者の命を奪い、別の命を守る。

 

 それは断ち切りきれぬ深い闇の連鎖。

 

 そこには本当の意味での悪と正義の区別がつけられるのだろうか…

 

 水蓮はあまりの息苦しさに呼吸を少し荒くした。

 

 「こんな話は無駄だ」

 ザギがひどく冷めた口調で言い放った。

 今この場において、何が正しい答えなのかはここにいる誰にも導き出せないのだ。

 「それに、お前だって今我が子を守りたいがために、オレを殺すつもりだろう」

 アゲハがグッと地面を握りしめて大きく息を吐き、イナホに柔らかく笑みを向けた。

 「イナホ、ヤツデとナズナを頼んだわよ」

 「おかあさ…」

 イナホの言葉を途中に、アゲハはまだ術に侵されていない肩でイナホの体を突き飛ばした。

 はじかれたその体を水蓮が抱きとめる。

 アゲハはそれを見届けて水蓮に懇願の表情を浮かべた。

 「イナホをお願いします」

 

 ドクンッ!

 

 イナホと水蓮の鼓動が大きく音を立てて重なった。

 

 自分はもう術から逃れられないと覚悟を決めた目。

 

 「イナホ。あなたたちは生きて」

 

 柔らかい穏やかなほほえみ。

 ほんの一瞬その温かさを残し、アゲハは立ち上がり背を向けた。

 「お母さん!」

 イナホの叫びと共にアゲハはチャクラを練り上げる。

 体が一気にザギの術に侵されてゆく。

 それでもアゲハはひるまない。

 「アゲハ…」

 ザギの瞳に悲しみが浮かんだ。

 しかしそれをすぐに消し去り、厳しい色でアゲハを睨み付けた。

 「まるであの時の再現だな!」

 同じようにザギの体からすさまじいチャクラが放たれ、空気をビリビリと震わせた。

 「っ!」

 息を飲む水蓮の身をイナホと共にイタチが抱えるように守り、小南の前に鬼鮫が立つ。

 「イタチ!」

 水蓮が見上げた先で、イタチは感情を押し殺したような瞳を浮かべていた。

 

 もうザギとアゲハの衝突を止められない…

 

 イタチは水蓮を守ることを選んだのだ。

 「…………」

 何かを言おうと開きかけた水蓮の口を閉ざすように、イタチはグッと水蓮を抱き寄せた。

 その胸元を、水蓮はギュッと握りしめた。

 

 手が小さく震えた。

 

 「ザギ!あなただけを死なせはしない…」

 アゲハの声にザギが答える。

 「いいぜ!あの時つけられなかった決着をつけてやる!」

 二人のチャクラがぶつかり合う。

 「蒸遁!」

 「晶遁!」

 ザギの声にアゲハの声が重なり、同時に印が組まれた。

 しかし、その声にさらにもう一つの声が重なる。

 「だめぇぇぇっ!!」

 水蓮の腕の中にいたイナホが母の死を拒み叫びをあげた。

 その瞬間、悲痛の叫びと共にその小さな体からまばゆい光が放たれ、硬い金属がぶつかり合うような音が鳴り響いた。

 

 キィィィィィィンッ!

 

 甲高く耳に突き刺さるその音とまぶしさに、水蓮は思わず目を閉じる。

 数秒後に音が消え、開いた水蓮の瞳に映ったのは自分たちを取り囲む透明の壁。

 六角柱のそれはまるで…

 「水晶…」

 小南のつぶやき。そしてその視線の先には、水晶の壁の中心に静かにたたずむイナホの姿があった。

 




順調ではありますが、重いですね…話が(~_~;)
でも、まだ少し先とはいえ、終わりも近づきずつある(と思われる)今日この頃。
どうしても、重いストーリー運びになってきてしまいます…。
どこかでもう少しほっこりした物も入れたいな…とは思うのですが(^v^)
どうなるか…未定。

いつも読んで下さりありがとうございます。

これからもよろしくお願いいたします(*^。^*)

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