いつの日か…   作:かなで☆

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第六十二章【蠢く炎】

 外の気配を探りながらイタチが扉を開け、一同がそれに続く。

 しかし、ほんの数歩進んで先頭のイタチが足を止めた。

 すぐ後ろにいた水蓮。最後尾の鬼鮫と小南も立ち止まり目を細める。

 先ほど通ってきた通路の向こうに、いくつもの気配を感じる。

 見張りの人数よりはるかに多い。

 

 出払っていた人員が戻ってきたのだ。

 騒ぎにはなっていないその様子から、入口においてきた水蓮の影分身はうまくやり過ごしたようだが、里の忍たちはどうやらこちらに向かって入ってきているようであった。

 

 水蓮の体に少し力が入る。

 間に挟まれて移動していた一行もその様子から緊張を高めた。

 

 イタチが無言のままに鬼鮫に目を向ける。

 それを受けて鬼鮫がうなづき、静かに踵を返して逆方向へと歩きだした。

 この大人数を挟んでいてもしっかりと見える大きなその背は、迷いなく歩みを進めていく。

 「すでに調べつくしている」

 耳元で本当に小さな声が揺れた。

 安心させようとするその響き。水蓮は笑みを返した。

 

 

 しばらく進み、鬼鮫は行き止まりとなっている壁の前で立ち止まり静かに印を組み壁に手を付けた。

 数秒後にそこに、小さな扉が現れる。

 大きな鬼鮫の体ではかなり腰を曲げないと通れないサイズ…。

 開かれたその扉の向こうにはさらに地下へと続く階段が見て取れた。

 鬼鮫と小南を先頭に中へと歩みを進める。

 扉は閉まると再び結界が張られる仕組みなのか、閉じると同時にただの壁へと戻った。

 

 中はところどころに小さなランプがついており、歩くには十分な明るさがある。

 階段を降り切ると、そこに広がる空間は初めに水蓮が想像していたような、いわゆる洞窟。

 天井はそう低くはないが、道幅は決して広くなく、この大人数ではかなり窮屈に感じ、まるで閉じ込められたような息苦しい感覚になる。

 そして何より…

 「暑い…」

 一気に噴き出した額の汗を、水蓮がぬぐう。

 先ほどまでと気温が全く違い、まるでサウナのような熱がこもっていた。

 空気中に漂う熱気の出所を探して水蓮があたりを見回す。

 しかし何も見つけられない水蓮に鬼鮫の声が飛び来る。

 「進めばわかりますよ」

 言葉半ばに歩き出す鬼鮫に一同が続く。

 いくつかに分岐のある通路。

 他里からの襲撃の際の逃走経路だろうとイタチが水蓮に話した。

 「何カ所かに作られた出口にながっているんですよ」

 イタチの声が聞こえたのか、鬼鮫が補足する。

 「この通路は、里の正面入り口付近につながっています」

 水蓮は里に入ってすぐに鬼鮫に出会ったことを思いだした。

 あの時、この場所を調べ終えて、こうしてこの通路を通ってきたのだろう。

 

 

 ほどなくして水蓮たちは熱気の答えを目の当たりにした。

 やや開けた場所。

 さらに低い位置に大きな穴が開いていた。

 その穴の底では、あちらこちらから小さな焚火ほどの炎が噴き出している。

 一つ一つはさほど大きくはないが、その数の多さがこの空間の温度を以上に高めている要因であった。

 

 薄暗い穴の底で蠢く炎。

 ここが閉塞された地下空間であるということが、その光景の不気味さをさらに際立たせている。

 「なにこれ…」

 見たことのない奇妙なその光景に、水蓮は言い表せぬ恐怖に襲われる。

 「石炭火(せきたんび)だ」

 聞いたことのない言葉に首をかしげる。

 「森林火災が起こった際に、露出していた石炭層に着火することがある。その着火した石炭層はその後地下で徐々に燃焼してゆく。それを石炭火とよぶ」

 進みを止めぬまま話しながら、イタチは額の汗を軽く拭った。

 「石炭層に火が入ると、地面の下の石炭層の燃焼はたとえ酸欠状態であっても徐々に進む。そして、空気の乾燥によってできた地面のひび割れから酸素を取り込み、一気に火力を増して火を噴く」

 「それが、これ…」

 再び視線を吹き出す火に向ける。

 よく見れば、時間差でいたるところから噴き出している。

 それは、一気に吹き出せば隙間なくそこを埋め尽くしそうな量であった。

 空間の息苦しさも、閉塞感からではなくこの炎が原因なのだろうと水蓮は少し大きく呼吸をした。

 酸素が薄いのだ。

 

 生命に必要不可欠な物の欠乏は、必要以上に恐怖を呼ぶ。

 

 ゴクリと水蓮の喉が鳴った。

 高さもかなりあり、落ちれば助からないであろう穴の底を見ながら、狭い通路を歩く足に力を入れる。

 「…あそこが出口です」

 やや歩いて鬼鮫が指をさした先にはただ壁があるのみ。

 しかし、そこについてすぐに鬼鮫が印を組むと壁に先ほどと同じ大きさの小さな扉が現れた。

 小南がその扉を開き、捕われていた人々に先に出るよう促す。

 「里を出てすぐのところに、仲間が待機している。指示に従って場を離れなさい」

 「いつの間に…」

 手回しの良さに言葉を漏らした水蓮に、イタチが「デイダラとサソリだろう」と、小さくつぶやいた。

 デイダラの粘土製の鳥で脱出させるつもりなのだろう…。

 水蓮はうなずき、一人また一人と、それぞれ礼を述べて扉をくぐって行く背を見つめた。

 順に出てゆき、あとはイナホとその母を残すのみ。

 安堵の表情で顔を見合わせる母と娘の姿を見て、水蓮もほっと胸をなでおろした。

 先ほど鬼鮫に会ったあたりが出口なら、おそらくもう心配はないだろう。

 それに外にはデイダラとサソリがいる。場は整っているはずだ。

 「見つからなくてよかった」

 大きく吐き出された息に、扉の向こうを様子見していた鬼鮫が振り向く。

 「ここはまぁ、この環境ですからね。普段はほとんどだれも来ないようです。ただ…」

 微妙な笑みを浮かべ、言葉を続ける。

 「不定期に見回りは行われているようですがね」

 「不定期にって」

 水蓮は顔をひきつらせた。

 「なんか、嫌な予感しかしないんだけど…」

 その声が先か後か…。

 水蓮たちをすさまじい突風が襲った。

 「…………っ!」

 何の前触れもなく吹き襲った風に、一同は一気に吹き飛ばされた。

 風で扉が音を立てて閉まりただの岩壁へと戻る。

 飛ばされた体は幸いにも穴とは逆の方向に飛ばされたが、水蓮は激しく壁に叩きつけられた。

 「つぅっ!」

 背中を打ち付け、小さくうめきを上げる。

 あまりにも突然の出来事に、イタチと鬼鮫ですらその体をはじかれていた。

 「くっ…」

 「なんですか、いったい」

 それでも二人は壁にぶつかるようなことはなく、鬼鮫は風の力を利用して回転し、手で地をこすりながら。イタチは風に対して体を縦に返し、外套を絞り込んで抵抗を軽減して。それぞれ態勢を立て直して静かに着地した。

 「水蓮!」

 すぐさまイタチが水蓮に駆け寄る。

 二人のその前に鬼鮫が背を向けて立ち、鮫肌を構えて臨戦態勢に入る。

 「大丈夫か」

 座り込む水蓮の肩にイタチが手を置く。

 「だ…大丈夫」

 そう答えたものの、突風の衝撃と壁にぶつかったダメージでめまいがし、水蓮は立ち上がれず顔をしかめた。

 しかし、うっすら開いた瞳にイナホの母がうずくまっているのが見えてハッとする。

 「イタチ、イナホは…」

 視線を走らせたイタチに小南がうなづく。

 「心配ないわ」

 衝撃を受けながらもその身を守っていた小南がさっと外套を開く。

 イナホはその中でしっかりと守られ、無傷であった。

 突然の事にきょとんとしていたが、倒れこむ母の姿を目に留め、慌てて駆け寄る。

 「お母さん!」

 「大丈夫。…大丈夫よ」

 母親はゆっくりと立ち上がった。

 多少のダメージを受けてはいるが、大きなけがはないその様子に水蓮はほっとする。

 「よかった…」

 「立てるか」

 「うん」

 しかし、差し出された手につかまろうとして水蓮はハッと息を飲んだ。

 伸ばした自分の手の甲に黒い炎のような模様が浮かんでいたのだ。

 「これ…」

 イナホの母親達につけられていたものと同じもの。

 イタチはすでに気づいていたようで、うなづき自身の手の甲を水蓮に向けた。

 そこには同じ模様。

 「まさか…」

 水蓮が視線を送った先では、鬼鮫が振り向かぬまま左手の甲をこちらに向けた。

 「お前もか…」

 しっかりと浮かんだ模様にイタチがため息を吐く。

 「私もよ」

 見れば小南も同じであった。

 この中でその模様がついていないのは、小南に守られていたイナホだけであった。

 「油断したな…」

 イタチが目を細める。

 

 違う…。

 

 イタチの額に浮かぶ汗を見て水蓮はその言葉を否定していた。

 この空間の暑さによる汗だけではない。

 イタチはチャクラを使い過ぎている。

 油断ではなく、疲労から反応が遅れたのだ。

 それに加えてここは酸素が薄い。

 軽度の酸欠状態で体の動きと思考が鈍っている。

 それゆえ唯一チャクラ消費がまだ少ない小南ですら、そばにいたイナホを守れたものの自身は避けられなかったのだ。

 「一体どんな…」

 対象者に触れることなく、複数人の術を封じる。

 母から多くの封印術の知識を受け継いだ水蓮にもその術は分からなかった。

 「風遁に封印術を掛け合わせたのか。いや、違うな」

 イタチが術の分析に思考をめぐらせながらゆっくりと水蓮を引き起こす。

 「吹き荒れた風の中に奇妙なチャクラが流れていた」

 厳しい色を浮かべるその瞳。

 水蓮はハッと気づく。

 「イタチ、目」

 小さくうなづいたイタチの目は写輪眼のままであった。

 その写輪眼でも読み切れなかった術。

 「まさか」

 思い当たった水蓮の考えにイタチがうなづく。

 「おそらくこれも血継限界だ」

 「だけど、術を封印する物じゃない」

 もしそうならイタチの写輪眼は消えるはずだ。

 「ああ。どうやらチャクラコントロールを乱す術のようだ。オレは普段からこの目だからな。多少のチャクラの乱れがあっても維持はできる」

 しかしイタチは静かに瞳を黒く戻した。

 それは、維持はできても何かしらのリスクを負うという事。

 水蓮は試しにチャクラを練ろうと印を組む。

 だがその手を小南が制した。

 「やめておきなさい。チャクラを練ろうとすると普段の何倍ものスタミナを削られる。それに…」

 すでに試したのだろう。

 小南はスッと手を水蓮に見せた。

 浮かんだ模様の周りが火傷のように赤く腫れていた。

 「たぶん風の中にチャクラの針のような物を混ぜ込み、経絡系を刺激してチャクラコントロールを乱す術ね」

 「チャクラを練ればスタミナが膨大に消費され…」

 「その上、術を使おうとすれば体が焼けるおまけつき。ということですかね」

 思い思いにため息をつきながら、小南、イタチ、鬼鮫が立ち並び水蓮たちをその背に隠した。

 「やれやれ…。あなたといるとすんなりいきませんね」

 鬼鮫がうんざりした口調でほんの少し視線を水蓮に投げた。

 しかしその声に答えたのは水蓮ではなく、低く太い男の声だった。

 「世の中そうすんなりはいかないもんさ」

 すべての視線が注がれたその先。

 一つの黒い影が、吹きあがった炎の光に妖しく揺れた。




順調で…連続投稿です~(*^。^*)
久しぶり☆
でも、この小南イベント(?)が終わったらそろそろ原作と重なるかと…。
なので、情報を整理しないといけないので、また投稿間隔はまちまちになるかと(~_~;)
書けるときにいっぱい書こうと思います(^○^)

ちなみに私の地域では今日NARUTO放送日。
新聞のTV欄を見て、まだ最終回ではない事にほっとするという(ーー;)。
あー本当に終わってほしくないな…。

でも、アニメは終わっても、【いつの日か…】はまだ続く…多分…

ただ、少しずつ最終地点も見えつつある今日この頃…
アニメの終わりと相成って、ちょっとさみしーくなってます。

最後へと向かってこれからも水蓮、イタチ、鬼鮫と共に頑張ってまいります!

いつも読んで下さり、本当にありがとうございます!!(^v^)

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