いつの日か…   作:かなで☆

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暁秘伝のネタバレが少し含まれています。
ご了承ください。


第五十七章【対面】

 朝から暑い一日だった。

 夏の季節を超え、ほんの少しの残暑を残すのみとなったここ最近には珍しい気候。

 それは夕方になってもおさまらず、水蓮は山道を歩く足を止め、木の陰に入って座り息を一つ吐き出した。

 「ここも違った…」

 つぶやきを向けた先にあるのは、少し前に踏み入れていた竹藪。

 ここからではすでに見えないその場所を思い出しながら、もう一度ため息をつく。

 

 

 数か月ほど前にイタチから剣の話を聞いたものの、封印場所は未だイタチも見つけられていないままだった。

 壁画には詳しい場所は書かれておらず、残されていた一番大きな手がかりですら、【小川がそばにある竹藪】というあまりにも漠然としたものだった。

 

 容易には見つけられないようにとの事であろうが、探し当てるにはかなり困難。

 

 

 他にもいくつかの条件が書かれており、イタチは何カ所かに目星をつけているようだったが、なかなかすべてが当てはまる物にはいきつけない。

 

 おそらくその場所には何かしらの目印があるはずだとのイタチの言葉を水蓮は思い返す。

 特殊な術式か、結界か。

 どちらにしても、普段とは違う気配をとらえることができるはずとの考えのもと、イタチは単独任務の行き帰りや、組織から許されるほんの少しの休息の時間を、ずっと探索にあてていたようであった。

 それでも、壁画を見てから2年がたった今でも、そこへとたどり着くことはできないままだった。

 すべての話を聞いたあの夜以来、水蓮も今日のように一人での移動の際に、イタチ同様その場所の探索を始めていた。

 しかし、竹藪を見つけたとしても、そこに特に変わった気配を見つけられず、気持ちには焦りが見え始めていた。

 この世界に来てから2年と数か月。

 記憶していた通りなら、そろそろナルトの修行が終わり、原作はいわゆる『2部』に突入する。

 時間がどの様に過ぎるのか、どの間隔で事態が動いて行くのか、正確な流れはつかめない。

 知っている内容通りに進むのであれば、問題なく剣はイタチの手におさまるのであろう。

 それでも、何の確証もない状況にすべてを委ねるわけにはいかないと、水蓮は気を揉んでいた。

 「とにかく早く見つけないと…」

 気持ちを奮い立たせるように、勢いをつけて立ち上がる。

 しかし、気合を入れて進ませた足がすぐに止まった。

 行く先へと向けた視線に捉えた人影。

 やや距離があり、その姿はまだはっきりとは見えないが、線の細さから見て女性のようだ。

 その足取りが少しふらついているように見えて気にかかり、水蓮は少し早足でその人影に近づく。

 距離が少しずつ詰まり、日の光を受けて美しい藤色の髪が艶めきながら風に揺れるのが見える。

 「きれいな髪…」

 遠目にも輝きが見て取れるその髪に思わずつぶやいたとき、少し強い風が吹き流れ、その勢いに押されるようにその人物がゆらりと体を揺らめかせて地面に座り込んだ。

 「大丈夫ですか!」

 慌てて走り寄る。

 そして、その姿をしっかりととらえて、水蓮は息をのんだ。

 

 自分と同じ暁の衣をまとっていた。

 

 美しい藤色の髪には白い花の髪飾り。

 ゆくりと自分に向けられた切れ長の瞳は、少し息苦しそうな様子を浮かべてはいるものの、彼女の持つ妖艶さが色濃く揺れていた。

 

 …小南…

 

 思わず口からその名がこぼれそうになり、慌てて唇を結ぶ。

 小南は水蓮の纏う暁の衣を見て顔をさらにしかめた。

 「あなたは…」

 見覚えのない顔にあからさまに警戒を示す。

 それでもなにかよほどのダメージを負っているのか、その場から動けない様子だった。

 水蓮はゆっくりとそばに座り、小さく会釈をした。

 「初めまして。水蓮と言います」

 「水蓮…」

 しばし黙して、小南は「ああ」と息を吐く。

 「確かイタチと鬼鮫のところに入った、うずまき一族」

 「はい。医療忍者の水蓮です」

 もう一度改めて頭を下げ、水蓮は水筒を取り出そうと外套の中のカバンに手を差し入れた。

 「闇に降る雨」

 その行為を遮るように鋭く発せられたその言葉。

 水蓮はハッとして動きを止めた。

 小南は額に少し冷や汗を浮かべながらも、瞳に厳しさをたたえ水蓮をじっと見据えている。

 その視線を受け止め、水蓮はうなずき小さな声で返す。

 「痛みに咲く花」

 返された言葉に、小南はようやく警戒を解いた様子で体の力を抜いた。

 

 それは、あらかじめイタチから聞かされていた主要メンバーの中での合言葉。

 

 互いのチャクラでも十分に分かり合えるが、動きが表立ってきた昨今、メンバーに姿を変えて巧みに組織に近寄ろうとする忍びも現れるかもしれないと、用意されたものだ。

 

 まだ会った事のないメンバーがいる水蓮にとっては特に必要だろうと、組織の許可のもとイタチと鬼鮫から教わっていた。

 「大丈夫ですか?」

 水蓮は水筒を取り出して差し出す。

 「ええ…」

 うなずきながら水筒を受け取り、小南は小さくうなずく。

 「私は小南よ」

 水蓮もうなずいて返す。

 「鬼鮫から小南さんの事は聞いています」

 組織のメンバーや人間関係については、合言葉を聞いたときに鬼鮫から説明を受けていた。

 小南は「そう」と答えて水を口に含み、ゆっくりと息を吐き出す。

 「ありがとう」

 返された水筒を受け取り際に小南の髪がゆれた。

 何かの香りがふわりと流れ立ち、水蓮は顔をしかめる。

 「花の匂い?」

 「ええ…」

 小さな頷きとともに再び揺れた少し独特なその香りは、本当にかすかに匂う程度。

 良い香りではあったが、なにか違和感のようなものを感じる。

 頭の奥に、ジン…と響くような、思わず拒絶したくなるような感覚。

 そして胸の奥に走る、射し込むような鋭い痛み…。

 「これ、もしかして…」

 以前読んだ花の本にあった言葉を思い出す。

 「花粉毒」

 つぶやいた言葉に、今度は小南が顔をしかめる。

 水蓮は取り出した手ぬぐいを水筒の水で濡らして軽く絞り、小南の頭にそっとかぶせた。

 「名前の通り、毒性のある花粉です。大量に吸い込むと胸のいたみや、頭痛、吐き気を引き起こしたりするんです。何か、変わった花に触れませんでしたか?」

 小南はすぐに思い当ったのか、うなずいた。

 「さっき、ちょっとした戦闘になって。相手が香りを使った幻術を。その術に見たことのない花を使っていた」

 「きっとその花ですね。香りで催眠と幻覚の効果を高めて、さらに動きを鈍らせるために毒性のある花粉で体にもダメージを…」

 「どうりで…」

 小南はうんざりしたように息を吐き出した。

 「外套についた香りはさっき洗って落としたのに、なぜか体の重さが取れないままで。それに…」

 すっと落とされたその瞳が、暗い色で揺れた。

 「それに?」

 水蓮の問い返しに、小南はハッとしたように顔をそらした。

 「いや、さっきチャクラを使いすぎた…」

 「…………」

 そらされたその瞳に、水蓮は見覚えがあった。

 

 イタチと同じ瞳…

 

 何か辛いことを思い返している時の…

 

 花粉毒のせいだけではない。戦闘でチャクラを使いすぎただけでもない。

 

 何か、精神的にダメージを受けている…

 

 だからと言って自分に何かを語るようなことはないだろう…

 

 水蓮は何も気づかぬふりで小さく笑みを作った。

 「髪や体に花粉が付いているから、症状が治まらないんだと思います。

 とりあえず、私の持っている解毒薬が合うかどうか診ますので、どこか人目につかないところへ」

 うなずき、立ち上がろうとする小南の体を水蓮が支える。

 その体の軽さに、ドキリとする。

 

 思っていた以上に細く、軽い。

 

 小南への知識は少ないが、自来也と共に過ごしていた頃の彼女は『暁』の闇は似合わないというのが水蓮の印象だ。

 そこには何か言い知れぬ闇と痛みがあるのだろうと、胸の奥が少ししまった。

 

 

 山道から少し外れて、生い茂る木々の中へと踏み入り、水蓮は大きな木の幹に小南を隠すように座らせた。

 「症状を聞かせていただけますか?」

 小南は一つ息を吐きだし、小さくうなずく。

 「今は少しおさまっているけど、胸の痛みがひどかったわ。息苦しさもあって。あとは、目のかすみと冷や汗も少し」

 「頭痛や吐き気はありますか?」

 小南は「いえ」と首を横に振り、目を細めた。

 まだ胸の痛みがかなりあるのか、細く白い指でギュッと胸元を握りしめる。

 述べられた症状の通り息苦しそうなその様子に、水蓮は呼吸器系に異常をきたしていると判断する。

 それでも、念のためチャクラをたたえた手を小南にかざし、全身を診る。

 チャクラを通じて伝わる体内の異常。

 水蓮は自身の考えに確信を得て小さくうなずく。

 「この薬で効果が得られると思います」

 カバンの中から自身で調合した解毒薬を取り出し、小南に手渡す。

 「私の医療忍術でも解毒はできるんですが、体力も削ってしまうので、ひとまずこれで」

 ダメージを受けた体での戦闘によって、かなり体力を消耗している小南の様子から最善の処置を選ぶ。

 「ただ、付着した花粉を落とさないとまた同じことになるので、薬が効いている間にどこかで…」

 うなずき薬を飲み干した小南が、不思議そうに手に持った瓶を見る。

 「これ…」

 「どうかしましたか?」

 「苦みがほとんどないわね」

 特に苦みのきつい物が多い解毒薬には珍しいその味に、少し驚いた様子で瓶を水蓮に返す。

 「イタチが苦いの苦手なので。なるべく苦みを抑えて調合してるんです。と言っても、イタチや鬼鮫が毒を受けることなんてあまりないんですが」

 少し照れたように笑って瓶を受け取る。

 水蓮のその表情にふわりとした空気が生まれ、小南は思わず小さく笑みを浮かべて返した。

 「…そう…」

 「30分くらいで効いてくると思います。このあたりは治安もいいですし、私が周りを見張っておきますから少し休んでください」

 しかし小南は首を横に振ってゆっくりと立ち上がった。

 「大丈夫よ…」

 そう言って踏み出した一歩目ですぐにふらつく。

 「無理ですよ、まだ」

 歩いて移動しようとするその様子から、まだチャクラも戻り切っていない事がうかがえ、水蓮は慌てて体を支える。

 「平気よ」

 とてもそうは思えないが、なおも歩き出そうとする。

 浮かべられた表情には、どこか苛立っているような空気。

 それは水蓮に対してではなく、小南自身に向けられたもの。

 先ほど言っていた戦闘で何かあったのか、それとも今の自分の状況を不甲斐なく思っているのか。

 どちらにせよ、一人にはできない。

 支える手に力を入れて、水蓮は小南に笑顔を向ける。

 「あの、歩けるようでしたら、もう少し行った所に洞窟があるんです。近くに池もあるのでそこでとりあえず花粉を洗い落としませんか?その方が症状もすぐにおさまると思いますので」

 「…イタチの?」

 「はい。時折使うアジトです。3日後にそこで落ち合うことになっているんです。ちょうどそこに向かう途中で…」

 「そう…」

 小南は少し考えるように黙したが、水蓮の言うようにするのがいいだろうと判断したのか、うなずきを返した。

 花粉が飛散しないようにと頭にかぶせた手拭いが揺れ、小南の横顔がちらりと見える。

 

 夕陽色の瞳。

 

 だが、そこには悲しみと切なさが色濃く表れ、本来の輝きを覆い隠していた。




いつもありがとうございます(●^o^●)
ずっと登場させようかどうしようか迷っていた小南…。
この間久しぶりに暁秘伝を読んで、やっぱり書きたくなって書きました(^_^;)
上手くつなげていけたらよいのですが…。
暁では(この作品において)女性はこの二人だけ…。
どんな感じになるのか…。私もちょっと楽しみです(*^_^*)

それではまた次回…(^○^)

読んでいただき本当にありがとうございます!

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