いつの日か…   作:かなで☆

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※イタチ真伝の内容が含まれています。
ご注意・ご了承のほどよろしくお願いいたします。


第五十六章【共に】

 川のせせらぎだけが静かに聞こえる中、イタチは求め描く目的を口にする。

 「オレの目的は二つある。一つはサスケの中から大蛇丸の呪印を消し去ることだ」

 水蓮は黙ったまま言葉を聞き入れる。

 「渦潮の里で戦った榴輝の体とチャクラが変化しただろう。あれは大蛇丸の術によるものだ。強力な力を得られるが、精神を蝕まれる。闇にな。術というよりは呪いのようなものだ。あれと同じものがサスケにも埋め込まれている」

 ほんの小さな火種を大火にする力があると、イタチは厳しい瞳で言った。

 「呪印はサスケを一生苦しめ、2度と登れぬ闇の谷底へといざなう。だが、容易に取り除けるものではない。大蛇丸同様執念深く根の深い術だ」

 大蛇丸の顔が浮かんだのか、イタチは顔をゆがませしばし黙した。

 そして、水蓮をじっと見つめる。

 「大蛇丸の呪印からの解放。そのために十拳剣が必要なんだ」

 水蓮は脳裏にその光景を浮かべながら強くうなずく。

 イタチも同じくうなずき、一瞬のためらいの後真剣なまなざしを浮かべた。

 

 水蓮を見つめる目に力がこもってゆく…

 

 「もう一つの目的。これはサスケの目的でもある。その目的を持たせるために、オレは見せなければいけなかった。両親を殺したオレの姿を…」

 イタチの夢の中で見たその光景がよみがえる。

 震えていた、あの小さな背中が…。

 「そうすることで、決してぶれない憎しみを、オレへの憎しみを植え付けた。どんな悲しみよりも強い感情。それがサスケの生きる力になる。そして、何者かに利用されようとも、最終目的がオレである限り、あいつは全てをはねのけてオレのもとへ来る。必ず…」

 両親を手にかけ、泣き、震えていたイタチ…。

 その胸中で、サスケの事を想い、すでに覚悟していた。

 

 その先を。

 

 「それこそが、オレとサスケの目的」

 

 風が吹いた…

 

 静かなその風が二人の髪を夜の中に揺らめかせる…

 

 「呪印を封印したのち」

 

 水蓮はその先の言葉が聞こえぬよう耳を塞ぎたい衝動に駆られた…

 

 言葉が零れ落ちる唇の動きが見えないよう、目を閉じたくなった…

 

 だが、体が動かなかった。

 

 目をそらすことができなかった…

 

 自分の鼓動が聞こえるほどの静寂の中、イタチが静かに、穏やかな口調で告げる。

 

 「サスケと戦い、サスケに討たれる」

 

 言葉の終わりと同時に、水蓮の両目から涙があふれ出た。

 

 …知っていた…

 

 覚悟の上で、そこへ向かって寄り添っている…

 

 それでもイタチの口から聞くその『目的』は、あまりにも痛みが強かった。

 逸らせぬままの目から、涙が追い溢れてくる。

 イタチはその涙ごと水蓮のほほを両手で包み込んだ。

 「水蓮。それがオレの求める最期なんだ」

 

 静かな声だった。

 恐れも、迷いも、後悔もない静かな声。

 

 気づけば、いつの間にか蛍の光が弱まっていた。

 それがまるでイタチの命の灯のようで、悲しみが一層深まった。

 

 「うちは一族を殺したオレを討てば、サスケの名は【うちは一族の仇を取った英雄】として世間に認められる。そうなれば、木の葉の里はサスケを受け入れざるを得なくなる。あいつは里に帰れる」

 イタチはそのことを想像したのか、嬉しそうに微笑んだ。

 その笑みを浮かべたまま言葉を続ける。

 「オレはもう戻れない。だが、あいつはまだ帰れる。故郷に」

 必死にこらえていた様々な物が、嗚咽となって水蓮の中からあふれ出た。

 「それこそが、オレが兄としてあいつにしてやれる最後の事」

 

 どこまでもサスケの兄として生きる覚悟…

 

 そして死にゆく覚悟…

 

 その想いを乗せて、イタチは言葉を馳せてゆく。

 

 「あいつは、里を、仲間を愛している」

 

 愛に溢れた瞳…

 

 「自分が生まれ育ったあの里を、誇りに思っているんだ」

 

 誇らしげな強い言葉…

 

 「里に帰りたいと思っている…」

 

 だけど、それは…

 

 止まらぬ嗚咽に呼吸を遮られ、息苦しさに襲われながら、水蓮は言葉を絞り出した。

 

 「それはあなたも同じ」

 

 イタチの胸元をぎゅっと握り、額を押し当てる。

 伝わり聞こえるイタチの鼓動は、穏やかで優しい波打ち。

 「どうして…」

 

 この人は恐れないのだろう…

 

 「オレはそのために生きてきた」

 

 「どうして…」

 

 イタチは戻れないのだろう…

 

 「オレは闇に生きる事を選んだ」

 

 「どうしてあなたはそんなに優しいの…」

 

 見上げた先で、イタチはやはり柔らかな顔で微笑んでいた。

 

 「どうしてあなたは、笑っていられるの…」

 

 すべての苦しみを、闇を、痛みをその身に受けて。

 それでもなお、穏やかに笑う…

 「どうして…」

 溢れて止まらぬ涙と共に繰り返されるその言葉に、イタチは一層優しい顔で返す。

 「お前がいるからだ」

 大きく、それでいて繊細な手が水蓮の髪をなでる。

 「お前がそばにいてくれるから、オレは強くいられる」

 「イタチ…」

 「水蓮…」

 小さく震える細い肩を、イタチの手がやさしく支える。

 「これが…」

 瞳にほんの少し不安な色が揺れる。

 「これがオレのすべてだ」

 「……う……」

 水蓮は今までのすべてを抱きしめるように、自分の胸をぎゅっとつかみ、ゆっくりとうなずく。

 「オレはお前の思っていた人間とは違ったんじゃないか?」

 

 確かにそうかもしれない…

 

 水蓮は涙で滲む視界の向こうに、必死にイタチを映す。

 

 怒りに駆られ、狂気を覗かせる一面…

 

 迷いも、悩みも、弱さもあった…

 

 自分が知っていた、強く冷静冷淡なうちはイタチとは違っていた…

 

 水蓮はもう一度うなずき、イタチを見つめる。

 「だけど、もっと好きになった…」

 イタチの瞳から不安が消えてゆく。

 どちらともなく唇を合わせ抱きしめあう。

 「水蓮」

 強い響きを持つイタチの声を合図に、弱まり消えそうになっていた蛍の光が、再び強く輝きだした。

 「オレはサスケを呪印から解放し、サスケに討たれる」

 まるで自身の中に確認するかの様に、イタチは丁寧に言葉を紡いだ。

 「そのためには十拳剣が必要だ。お前の力が必要なんだ…」

 「…………」

 無言のままの水蓮の背をそっとなでる。

 「お前に酷な事を言っている…」

 イタチの声が少し震えた。

 「オレが死にゆく手伝いをさせようとしているんだからな…」

 言葉を返せず、水蓮はイタチの背に回した腕に力を入れる。

 「何も話さず、ただ一緒に剣をとも考えた…」

 同じようにイタチも力を入れる。

 「だが、お前には話しておきたかった。知っていてほしかった。オレのすべてを…」

 「イタチ…」

 息が苦しいほどに互いを抱きしめる。

 「お前の中に残しておきたかったんだ。オレの生き様を…」

 水蓮は、何度も強くうなずく。

 「全部忘れない…」

 「ああ。忘れないでいてくれ…」

 安堵の息が、言葉と共に水蓮の耳元で揺れた。

 

 二人は同じ決意の色を浮かべた瞳で見つめ合う。

 

 「共に背負ってくれるか…」

 強い光を放つその瞳から、本当に小さな涙が一粒こぼれた。

 「イタチ…」

 その涙は、蛍の光一つ分にも満たないほど小さい。それでいて今ここにある幾百のその光より美しく尊い。

 水蓮はイタチのその涙を、大切にすくい上げた。

 「あの時言ったでしょ」

 出会った時の事を思い出す。

 「私の力はあなたの為にあるって」

 両手でイタチの頬を包み込む。

 「あなたの道を共に歩ませて」  

 「ああ。共に歩んでくれ」

 降り注ぐ言葉に、水蓮は瞳を閉じた。

 二人の涙の粒が重なる。

 

 喜びなのか、悲しみなのか、苦しみなのか

 

 その涙の正体は分からない。

 ただお互いに愛しくてたまらない気持ちだけは、確かに感じることができる。

 

 その想いを、蛍の美しい光が包み込んでゆく。

 

 幾度も想いを重ねながら時折見つめ合うその瞳には、光の粒に照らされた紫陽花が映る。

 それは、切なく、そして優しい輝きを放ち、二人の記憶に深く刻み込まれていった。




いつもありがとうございます☆
イタチ真伝の内容をイタチが語る…。これは本当にもう私の願望で…(~_~;)
誰にも吐き出せなかったものを、イタチに吐き出させてあげたい!という感じです
(●^o^●)
何度も真伝を見ながら泣きました(T_T)

さて…本作品もそろそろ原作の二部近く…。
終わりも近いのだろうか…と思いながら描き進めています…。
大筋はできているものの、当初なかった話なんか思いついたりして…まだもう少し長くなりそうかな…。でも、あんまり長いのもどうなんだろう…。と、そんなことを考えながら、【いや、やっぱり書きたいことは書ききろう…】とか、一人であれこれ考えています(笑)

これからも、完結に向けてまい進してまいります!
ただ、十月まで色々と身辺が忙しい時期に入るので、遅くなったり…気分次第で早くなったりと不定期になるかと思いますが、なにとぞよろしくお願いいたします!
いつも本当にありがとうございます(^_-)-☆

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