ご注意・ご了承のほどよろしくお願いいたします。
川のせせらぎだけが静かに聞こえる中、イタチは求め描く目的を口にする。
「オレの目的は二つある。一つはサスケの中から大蛇丸の呪印を消し去ることだ」
水蓮は黙ったまま言葉を聞き入れる。
「渦潮の里で戦った榴輝の体とチャクラが変化しただろう。あれは大蛇丸の術によるものだ。強力な力を得られるが、精神を蝕まれる。闇にな。術というよりは呪いのようなものだ。あれと同じものがサスケにも埋め込まれている」
ほんの小さな火種を大火にする力があると、イタチは厳しい瞳で言った。
「呪印はサスケを一生苦しめ、2度と登れぬ闇の谷底へといざなう。だが、容易に取り除けるものではない。大蛇丸同様執念深く根の深い術だ」
大蛇丸の顔が浮かんだのか、イタチは顔をゆがませしばし黙した。
そして、水蓮をじっと見つめる。
「大蛇丸の呪印からの解放。そのために十拳剣が必要なんだ」
水蓮は脳裏にその光景を浮かべながら強くうなずく。
イタチも同じくうなずき、一瞬のためらいの後真剣なまなざしを浮かべた。
水蓮を見つめる目に力がこもってゆく…
「もう一つの目的。これはサスケの目的でもある。その目的を持たせるために、オレは見せなければいけなかった。両親を殺したオレの姿を…」
イタチの夢の中で見たその光景がよみがえる。
震えていた、あの小さな背中が…。
「そうすることで、決してぶれない憎しみを、オレへの憎しみを植え付けた。どんな悲しみよりも強い感情。それがサスケの生きる力になる。そして、何者かに利用されようとも、最終目的がオレである限り、あいつは全てをはねのけてオレのもとへ来る。必ず…」
両親を手にかけ、泣き、震えていたイタチ…。
その胸中で、サスケの事を想い、すでに覚悟していた。
その先を。
「それこそが、オレとサスケの目的」
風が吹いた…
静かなその風が二人の髪を夜の中に揺らめかせる…
「呪印を封印したのち」
水蓮はその先の言葉が聞こえぬよう耳を塞ぎたい衝動に駆られた…
言葉が零れ落ちる唇の動きが見えないよう、目を閉じたくなった…
だが、体が動かなかった。
目をそらすことができなかった…
自分の鼓動が聞こえるほどの静寂の中、イタチが静かに、穏やかな口調で告げる。
「サスケと戦い、サスケに討たれる」
言葉の終わりと同時に、水蓮の両目から涙があふれ出た。
…知っていた…
覚悟の上で、そこへ向かって寄り添っている…
それでもイタチの口から聞くその『目的』は、あまりにも痛みが強かった。
逸らせぬままの目から、涙が追い溢れてくる。
イタチはその涙ごと水蓮のほほを両手で包み込んだ。
「水蓮。それがオレの求める最期なんだ」
静かな声だった。
恐れも、迷いも、後悔もない静かな声。
気づけば、いつの間にか蛍の光が弱まっていた。
それがまるでイタチの命の灯のようで、悲しみが一層深まった。
「うちは一族を殺したオレを討てば、サスケの名は【うちは一族の仇を取った英雄】として世間に認められる。そうなれば、木の葉の里はサスケを受け入れざるを得なくなる。あいつは里に帰れる」
イタチはそのことを想像したのか、嬉しそうに微笑んだ。
その笑みを浮かべたまま言葉を続ける。
「オレはもう戻れない。だが、あいつはまだ帰れる。故郷に」
必死にこらえていた様々な物が、嗚咽となって水蓮の中からあふれ出た。
「それこそが、オレが兄としてあいつにしてやれる最後の事」
どこまでもサスケの兄として生きる覚悟…
そして死にゆく覚悟…
その想いを乗せて、イタチは言葉を馳せてゆく。
「あいつは、里を、仲間を愛している」
愛に溢れた瞳…
「自分が生まれ育ったあの里を、誇りに思っているんだ」
誇らしげな強い言葉…
「里に帰りたいと思っている…」
だけど、それは…
止まらぬ嗚咽に呼吸を遮られ、息苦しさに襲われながら、水蓮は言葉を絞り出した。
「それはあなたも同じ」
イタチの胸元をぎゅっと握り、額を押し当てる。
伝わり聞こえるイタチの鼓動は、穏やかで優しい波打ち。
「どうして…」
この人は恐れないのだろう…
「オレはそのために生きてきた」
「どうして…」
イタチは戻れないのだろう…
「オレは闇に生きる事を選んだ」
「どうしてあなたはそんなに優しいの…」
見上げた先で、イタチはやはり柔らかな顔で微笑んでいた。
「どうしてあなたは、笑っていられるの…」
すべての苦しみを、闇を、痛みをその身に受けて。
それでもなお、穏やかに笑う…
「どうして…」
溢れて止まらぬ涙と共に繰り返されるその言葉に、イタチは一層優しい顔で返す。
「お前がいるからだ」
大きく、それでいて繊細な手が水蓮の髪をなでる。
「お前がそばにいてくれるから、オレは強くいられる」
「イタチ…」
「水蓮…」
小さく震える細い肩を、イタチの手がやさしく支える。
「これが…」
瞳にほんの少し不安な色が揺れる。
「これがオレのすべてだ」
「……う……」
水蓮は今までのすべてを抱きしめるように、自分の胸をぎゅっとつかみ、ゆっくりとうなずく。
「オレはお前の思っていた人間とは違ったんじゃないか?」
確かにそうかもしれない…
水蓮は涙で滲む視界の向こうに、必死にイタチを映す。
怒りに駆られ、狂気を覗かせる一面…
迷いも、悩みも、弱さもあった…
自分が知っていた、強く冷静冷淡なうちはイタチとは違っていた…
水蓮はもう一度うなずき、イタチを見つめる。
「だけど、もっと好きになった…」
イタチの瞳から不安が消えてゆく。
どちらともなく唇を合わせ抱きしめあう。
「水蓮」
強い響きを持つイタチの声を合図に、弱まり消えそうになっていた蛍の光が、再び強く輝きだした。
「オレはサスケを呪印から解放し、サスケに討たれる」
まるで自身の中に確認するかの様に、イタチは丁寧に言葉を紡いだ。
「そのためには十拳剣が必要だ。お前の力が必要なんだ…」
「…………」
無言のままの水蓮の背をそっとなでる。
「お前に酷な事を言っている…」
イタチの声が少し震えた。
「オレが死にゆく手伝いをさせようとしているんだからな…」
言葉を返せず、水蓮はイタチの背に回した腕に力を入れる。
「何も話さず、ただ一緒に剣をとも考えた…」
同じようにイタチも力を入れる。
「だが、お前には話しておきたかった。知っていてほしかった。オレのすべてを…」
「イタチ…」
息が苦しいほどに互いを抱きしめる。
「お前の中に残しておきたかったんだ。オレの生き様を…」
水蓮は、何度も強くうなずく。
「全部忘れない…」
「ああ。忘れないでいてくれ…」
安堵の息が、言葉と共に水蓮の耳元で揺れた。
二人は同じ決意の色を浮かべた瞳で見つめ合う。
「共に背負ってくれるか…」
強い光を放つその瞳から、本当に小さな涙が一粒こぼれた。
「イタチ…」
その涙は、蛍の光一つ分にも満たないほど小さい。それでいて今ここにある幾百のその光より美しく尊い。
水蓮はイタチのその涙を、大切にすくい上げた。
「あの時言ったでしょ」
出会った時の事を思い出す。
「私の力はあなたの為にあるって」
両手でイタチの頬を包み込む。
「あなたの道を共に歩ませて」
「ああ。共に歩んでくれ」
降り注ぐ言葉に、水蓮は瞳を閉じた。
二人の涙の粒が重なる。
喜びなのか、悲しみなのか、苦しみなのか
その涙の正体は分からない。
ただお互いに愛しくてたまらない気持ちだけは、確かに感じることができる。
その想いを、蛍の美しい光が包み込んでゆく。
幾度も想いを重ねながら時折見つめ合うその瞳には、光の粒に照らされた紫陽花が映る。
それは、切なく、そして優しい輝きを放ち、二人の記憶に深く刻み込まれていった。
いつもありがとうございます☆
イタチ真伝の内容をイタチが語る…。これは本当にもう私の願望で…(~_~;)
誰にも吐き出せなかったものを、イタチに吐き出させてあげたい!という感じです
(●^o^●)
何度も真伝を見ながら泣きました(T_T)
さて…本作品もそろそろ原作の二部近く…。
終わりも近いのだろうか…と思いながら描き進めています…。
大筋はできているものの、当初なかった話なんか思いついたりして…まだもう少し長くなりそうかな…。でも、あんまり長いのもどうなんだろう…。と、そんなことを考えながら、【いや、やっぱり書きたいことは書ききろう…】とか、一人であれこれ考えています(笑)
これからも、完結に向けてまい進してまいります!
ただ、十月まで色々と身辺が忙しい時期に入るので、遅くなったり…気分次第で早くなったりと不定期になるかと思いますが、なにとぞよろしくお願いいたします!
いつも本当にありがとうございます(^_-)-☆