いつの日か…   作:かなで☆

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第二十二章【与えられた任務】

 デイダラとサソリが組織からの伝令として持ってきた任務。その目的地は、火の国から少し離れたところにある【()の国】の南方に位置する【夢隠れの里】

 内容は里長の孫娘が持っている【夢叶(ゆめかな)いの鏡】を手に入れるという物だった。

 「夢隠れの里はどの国にも属していない独立した里だ。今のところな…」

 里へと向かう道すがら説明するイタチの目は、珍しく写輪眼ではない。

 行き先が忍び里という事もあり、自身の存在が任務の邪魔にならぬようにとそうしているようだ。

 「その里にしか咲かないと言われている、【(べに)くちなし】という珍しい品種の花を使った香料が有名なところだ」

 「その花を使ったお香や、香り袋、香りを付けた扇子や小物を流通して、里の経済を保っているようです」

 「裕福と言うわけではないが、里の中には貧困の差もなく、数ある隠れ里の中でも比較的安定している」

 「まぁ、里の規模もさほど大きくないですからね。里長も治めやすい環境でしょう」

 水蓮を真ん中にはさみ、淡々と話すイタチと鬼鮫。普段から様々な情報を集めているだけあって、二人は博識だ。

 「それで、その夢叶いの鏡ってどういった物なの?」

 右隣を歩くイタチに問う。

 「サソリが持ってきた情報によると、小さな手鏡で、2枚一組となっているらしい」

 「なんでも、その名の通り夢をかなえる鏡だそうですよ」

 「夢を叶える…」

 そんな都合のいいものがあるんだろうか…

 水蓮はそう考えて顔をしかめる。

 「まぁおそらく何か珍しい術か、何かの隠し場所が仕込まれているという感じなんでしょうがね」

 「宝の地図的な…?」

 見上げた先で鬼鮫が「ま、そのような物でしょう」と小さく笑った。

 「有名な物なの?」

 「いや」と今度はイタチが答える。

 「初めて聞く。だが、最近表に出た話だとすれば、新しく開発された術が施されている可能性もある…」

 「まして、どの国にも属していない里の物…」

 二人の話を聞きながら水蓮は組織の意図を読み考える。

 「不確かだからこそ、他に渡る前に入手して確認する必要があるって事?」

 イタチと鬼鮫は同時に水蓮に視線を落とした。

 「え?違う?」

 思わず立ち止まる。

 合わせて立ち止まったイタチが「いや」と短く言い、鬼鮫が「あなたは相変わらず勘がいい」と笑い交じりに言葉をこぼし、再び歩き出す。

 水蓮もそれに続き、二人の間に戻る。

 「どの国にも属していないからこそ、情報が少ない。表だって戦には出てこないからな。その分、変わった情報や、動きには警戒が必要になってくる」

 「それに、独自の物を扱っているのに、外からの干渉を受けず安定した生活環境を保っているという事は、夢隠れの里の忍はなかなかに実力者ぞろい。すなわち、それなりの防衛能力があるということです」

 水蓮はこの間の渦の国で戦った榴輝の町の事を思い出す。

 希少価値のあるものを扱うには、他から狙われるリスクが高く、それを守るのは容易ではないのだ。

 「だから余計に組織としては無視できないという事です」

 「なるほど…」

 水蓮が呟くと同時に、鬼鮫が前方を指さした。

 「見えてきましたよ」

 目を向けた先から、風が吹き流れ、上品な甘さを含んだ香りが3人を包んだ。 

 

 

 里長の屋敷がある主要部の入口までは、小さな商店街のようになっており、3人はその中ほどにある茶屋で打ち合わせを兼ねて休憩を取ることにした。

 店の一番奥。近くに人がいない席を選び、注文したものが来てから話し出す。

 「まず問題は、どうやって主要部に入るかです」

 どうやら強力な結界が張られているらしく、うかつに足を踏み入れれば感知され、動きにくくなると鬼鮫が説明する。

 「ま、所有者がはっきりしていますから、強行突破しても構いませんがね」

 「いや…。それは今回は無理だな」

 イタチが水蓮に視線を向ける。

 「そうですね。退路の確保が難しいかもしれませんね」

 どれほどの実力の忍がいるか不確かな状況で、忍び走りのできない水蓮を連れて強行突破し、撤退するのは危険が大きい。

 かといって、今回は水蓮を置いていくわけにはいかない。【水蓮を必ず連れて行け】それが組織からの命令だ。

 ここしばらくは、監視のために、組織のメンバーを治療目的で水蓮のもとへとよこしていたが、その段階が終わり、今回は任務に就かせることで【使えるのか】を見ようとしているのだ。

 「では、面倒ですが、町の様子を観察して、住人がどういう経路で主要部に入っているのかを調べますか…」

 「ああ」

 「経路って?」

 水蓮が顔をしかめる。

 「紅くちなしの花は、主要部の塀の中にしか咲いていません。それを使って商いをしているのなら、里に定期的に出入りしている人物が必ずいるはず…」

 「その行動パターンを観察し、変化して入る」

 「なるほど…。案外地味にやるんだね…」

 つぶやくように言ってお茶をすする水蓮に、鬼鮫が小さく笑う。

 「あなたお得意の荒っぽいやり方でも構いませんよ。何かあった時に置き去りにしてもいいのなら…」

 水蓮はジトリとにらみつけながら大福をかじる。

 と、その時、ふいにななめ向こうに座っている青年に目が留まる

 二十歳前後だろうか。

 短く切った黒髪を揺らしながら、少し下がり気味の目を細めてほほ笑むその表情は、どこか上品で清潔感がある。

 水蓮は、その青年が手に持っている物を目に捉え、ハッと息を飲み、ひそめた声で言う。

 「ねぇ。あ、あれって…」

 青年には見えぬ角度で立てられた水蓮の指の先へ、二人が視線を少し動かす。

 そしてかすかに表情を揺らす。

 青年が持っていたのは、白い花の刺繍が施された赤い布の貼られた四角い手鏡。

 大きさや形状、そしてその刺繍。

 道中に水蓮がイタチから聞いた【夢叶いの鏡】の特徴そのものだった。

 よく似た物なのか、それとも実物なのか。

 しかし、持っているのは里長の【孫娘】のはずだ。

 青年の姿を、視線の端にかすかに映す程度にとどめ、水蓮たちは怪しまれぬよう何気ない会話をする。

 ややあって、その青年が茶屋を出た。

 「鬼鮫…」

 名を呼ばれるよりも少し早く、鬼鮫はすでに立ち上がっていた。

 「水蓮…。イタチさんに迷惑をかけないでくださいね」

 背を向け際にそう言い残して、鬼鮫は店を出る。

 「もう。子供じゃないんだから…」

 つぶやき、お茶をすする。

 その後二人はしばらく待っていたが、鬼鮫はなかなか戻らぬままだった。

 「こちらも別で動くか…」

 すっかり空になった湯呑を持て余していた水蓮に、イタチが立ち上がりながら言う。

 「行くぞ」

 「あ、うん」

 店を出て水蓮が何気なく目的地の方に目を向けると、そちらの方角から風が吹き抜けた。

 先ほどと同様甘い香りが鼻をくすぐる。

 「本当にいい匂いだね。これが紅くちなしの花の香り?」

 「そうだ。ちょうど今が満開の季節だ」

 「へぇ…」

 良い香りに包まれ、水蓮は心地いい気分で辺りを見回す。

 先ほどのような甘味処もあれば、食事処もあり、服屋、雑貨屋。様々な店が並んでいる。

 間には住居が立ち並び、それぞれさほど大きい家ではないが、水蓮が想像していたよりは栄えていた。

 「思ったより大きいね」

 「ああ。前に来た時より人も店も増えたようだ…」

 「いつごろ来たの?」

 その質問に、イタチはしばらく沈黙してから静かに答えた。

 「下忍の頃、護衛任務でな…」

 水蓮は聞いたことに後悔した。

 一見変化のないように見えるイタチの目が、ほんの少し色を変えたからだ。

 しばらく無言で町を進む。

 歩みを進めると、さらに花の香りが強くなる。

 水蓮は閉じられた主要部の門の向こうに咲き乱れる、赤いくちなしの花を想像し、自宅の庭に白いくちなしの花が植えられていたことを不意に思い出した。

 しかし、想いを呟いたのはイタチだった。

 「懐かしいな…」

 「…え?」

 本当に小さな呟きだったが、それをはっきりととらえた水蓮がイタチを見上げる。

 イタチはほんの一瞬ハッとしたような表情を浮かべ「なんでもない」と顔をそむけた。

 そのしぐさに水蓮の胸が少し締まる。

 イタチが「なんでもない」と言うときは、里やサスケ…家族を思い出している時だという事が水蓮にはもう分かっている。

 そして同時に浮かべるその無表情の中に、様々な感情が隠されていることも…。

 だが、水蓮は何もなかったように笑顔を浮かべる。

 「白いくちなしとはちょっと香りが違うね」

 「ああ…」

 そう答えて、イタチは一点を見つめて立ち止まった。

 その視線の先には、町の子供と楽しげに話をしている少女がいた。

 その少女は、子供に「弓月様」と呼ばれている。

 「あれが里長の孫娘【天羽 弓月(あまは ゆづき)】だ…」

 緩く一つにまとめられた長い栗色の髪。同じく長めの前髪から覗く瞳はきりっとしているが、きつさはなく精悍な印象を受ける。 

 イタチの話では18歳との事だったが、少し大人びて見える。

 二人はゆっくりと進み、少女…

弓月の前を通る。

 「ねぇねぇ」

 弓月の半分ほどの背丈の女の子が、弓月の服の裾を引っ張りながら明るい声で言う。

 「弓月様、あの鏡見せて~!」

 イタチと水蓮がほんの少しだけ歩みの速度を落とす。

 「またか?しょうがないのぉ」

 ふわりとほほ笑みを返し、服の腰帯にくくりつけられた袋の中から弓月が取り出したのは、小さな四角い手鏡。

 鏡の背には白い布が貼り付けられていて、赤い花の刺繍が施されている。

 先ほど茶屋で見た物とは色が逆。

 しかしそれが対なす鏡の特徴だった。

 水蓮が視線だけでイタチを見上げる。

 しかし、イタチの頷きを見るより早く、水蓮は何か嫌なものを感じ、自然と体が動いていた。

 「危ない!」

 弓月と女の子に向かって両手を広げ、身を(くう)に投じる。

 すでに異変に気付いていた弓月が子供を抱きかかえる姿をとらえながら、水蓮は二人を抱きしめてかばう。

 

 

 キィンッ!

 

 

 甲高い音が響く。

 水蓮が二人を抱いたまま振り向くと、そこにはイタチの背があった。

 その足元にはクナイと手裏剣…

 明らかに弓月を狙って投げられた物だった。

 バッとイタチが見上げたその先。木の上に気配を感じるが、大きく茂った葉に隠れ姿は見えない。

 一瞬だけ、風に揺れた葉の間に、黒い仮面がちらりと見えた。

 シュッ…と空を切る音。

 幾本もの細い針のようなものが飛びくるのが見える。

 「千本か!」

 後ろにいた弓月が印を組み立ち上がろうとするが、抱きついた子供に体を取られ動けない。

 風遁で…と水蓮が印を組むが、すでに印を組み終えていたイタチが先に術を放つ。

 「水遁!水飴拿原(みずあめなばら)!」

 チャクラが練り込まれた水の塊が虚空に生まれ、広がる。

 その水は名の通り飴のような粘着性を帯びており、飛びくる千本をことごとくからめ取った。

 すっかり勢いを殺されたそれは、ボタボタ…と音を立ててすべて地面に落ちてゆく。

 「チィッ…」

 茂る葉の向こうから忌々しげに吐き捨てられる悪意。

 状況が不利と悟ったのか、その気配は葉の揺れと共に薄れてゆく。

 水蓮は警戒を続けながら二人を背にかばい、地面に落ちている手裏剣とクナイに目をやる。

 そして、顔をしかめた。

 「イタチ…。これ…」

 イタチがちらりと水蓮に視線を投げ、小さく頷いた。

 とその時、弓月が抱きかかえていた子供が声をあげて泣き出した。

 「大丈夫じゃ。泣くな。わらわがおる」

 弓月が優しく髪を撫でる。

 「何があっても守ってやるからな」

 「弓月さまぁ!」

 ギュッと弓月の服を握りしめて抱きつく。

 その様子に、弓月への信頼を深く感じ、水蓮は弓月の人柄のよさを垣間見た思いがする。

 「気配は完全に消えたようだな」

 スッとイタチが手にしていたクナイを直す。

 幸い辺りに人はいなく、騒ぎにはならずに済んだが、子供の母親が慌てて走り寄ってきた。

 「ミツ!」

 「おかぁさぁん!」

 母親は子供を抱き上げ、弓月や水蓮たちに頭を下げた。

 「ありがとうございました」

 「いや」

 返したのは弓月だ。

 「里の中で危険な目にあわせてしもうて、すまなかったな」 

 その言葉に、里長の孫として里を守ろうという気持ちがしっかりと含まれているように感じ、水蓮は感心した。

 親子は何度も礼を述べ、頭を下げながら場を去った。

 その姿を見送り、弓月が水蓮とイタチに向き直る。

 「礼を言う。助かった」

 礼儀正しく頭を下げる。

 「いえ…。無事でよかった」

 水蓮の言葉を聞き終わってから顔をあげ、弓月は地面に落ちたままの手裏剣とクナイに目を向ける。

 そして、わなわなと体を震わせた。

 「なんと腹ただしい事だ…っ。自身の力ではかなわぬと見て忍を雇ったのか…」

 何やら思い当たる節があるようで、弓月はさらに体を震わせて両手を握りしめた。

 「わらわが叩きのめしてやる!」

 そして、バッと勢いよくイタチと水蓮に向き直る。

 「そなたら!」 

 「えっ!」

 水蓮がビクリと体を揺らす。

 「これも何かの縁じゃ。力を貸せ!」

 「力って…」

 「3日間だけでよい。わらわに雇われてくれ」

 思わず水蓮とイタチが顔を見合わせる。

 弓月は二人の返事を聞かずすでに歩き出していた。

 「詳しく話す。ついてこい」

 「え?あ、ちょっと!」

 あたふたとする水蓮の隣でイタチがつぶやく。

 「少し手間がかかりそうだな…」

 二人はもう一度地面に落ちたままの物に目を落とし、一度顔を見合わせてから弓月の後に続いた。




いつもありがとうございます。
 
本作品も二十二章となり、書き始めたころに考えていた話数を超えました(^_^;)
書き始めるとやっぱり膨らんでしまいますね(*^_^*)

ストーリーは、やや、新章…的な感じに入りました☆
うまくまとまっていくかどうか…若干の不安はありますが、しっかりと取り組んでいきますので、これからも何卒よろしくお願いいたします!(^O^)

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