いつの日か…   作:かなで☆

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エピローグ【紫陽花の色に染まる風】

 あれから、本当に長い長い時間が流れた…

 

 木の葉の里は新しい世代と共に大きく発展し、さらに忍世界を導く存在となった。

 

 その時の中で多くの命が生まれ、多くの命が旅立った。

 

 名を馳せたかつての英雄たちも新たな若葉へと火の意思を託し、幕を下ろしていった…

 

 「命は生まれ…命は死ぬ…」

 

 ポツリと、水蓮の口からこぼれた言葉。

 それは、イタチが寂しげな表情と共に水蓮の記憶に残したもの。

 

 水蓮は大きな椅子にすっぽりと体を預け、窓の外に咲き乱れる紫陽花を眺めていた。

 

 キィッ…

 

 と、静かな音をならして椅子が揺れる。

 肘掛けに置かれた手には、長い年月を生きたその想いの数ほどのシワが刻まれ、それを視線の端にとらえて水蓮は小さく笑んだ。

 

 「随分年を重ねたわね…」

 

 浮かべた笑みの様に優しい風が、ふわりと凪いだ。

 

 その風の中に懐かしい香りを見つけ、水蓮はゆっくりと窓の向こうに目を向ける。

 

 色とりどりに景色を染める紫陽花の中…

 

 一日たりとも忘れる事のなかった姿が浮かんでいた。

 

 

 柔らかいほほえみ

 

 懐かしい声がした

 

 

 「水蓮」

 

 水蓮も、その名を呼んで答える。

 

 「イタチ」

 いつの間にか、水蓮も紫陽花の色の中にいた。

 

 手に刻まれたシワは消え、その姿はこの世界に来たときの容姿へと戻っていた。

 

 「迎えに来てくれたの?」

 

 少しずつ距離が縮まる…

 

 「ああ」

 

 風が流れる…

 

 「随分早いわね」

 

 クスリと水蓮が笑う。

 

 「ああ」

 

 照れたようにイタチが笑う。

 

 「生まれ変わるまで待てなかった」

 

 そっと、大きな手が水蓮にさしのべられた。

 

 水蓮はもう一度小さく笑い手を重ねた。

 

 ずっと触れることができなかった。

 

 それでも、ずっと忘れる事はなかった。

 

 柔らかく優しいぬくもりが二人をつなぐ。

 

 「でも、それでも長く待たせちゃったね」

 

 「ずっとそばにいた」

 

 「うん。いつでも感じてた」

 

 「そうか…」

 

 ゆっくり。そっと、互いを抱き締める。

 

 懐かしいぬくもりが、離れていた時間を一気に埋めていく。

 

 「水蓮…」

 

 いとおしげな声と共に、優しい口づけが降り落ちる…

 

 「イタチ…」

 

 涙が一粒落ちた…

 

 「行こう」

 

 「うん」

 

 繋がれた手をもう一度強く握り直す。

 イタチがその手を持ち上げ、そっと口を寄せた。

 「今度こそ同じ時を生きよう。一緒に、長く」

 

 「うん。ずっと一緒に」

 

 ゆっくりと二人は歩き出す。

 

 辺り一面に咲き乱れる紫陽花が、その道を導く。

 

 歩みを進めながら、二人は笑みを交わす。

 

 まるで二人のその微笑みのような穏やかな風が、さぁっ…と吹き流れた。

 

 その風は、紫陽花の色に染まりながら二人を包み込み、共に空へと舞い上がった…

 

 優しい風の中に二人の声が揺れる…

 

 

 「水蓮」

 

 「何?」

 

 「愛してる。お前を愛しているんだ…水蓮」

 

 「私も。あなたを愛しているわ…イタチ」

 

 

 

 

 この日、木の葉の里には今までにない穏やかな風が吹いた

 

 その風は、守るように、いとおしむように。里を包み込み未来へと向かって流れていった…

 

 

 

 

 命は生まれ…

 

 命は死ぬ…

 

 そしてまた生まれる

 

 

 

 いつの日か…

 

 

 

 

 

                         完




長く続いたこの作品。
ようやくの完結となりました。

これまで読んで下さった皆様には感謝が尽きません。

水蓮とイタチの長い旅路を見守って下さり、そして応援して下さり
本当に、本当にありがとうございました。
皆様からのコメント、ものすごく支えとなりました。

二人の物語は終わりましたが、製作に関してのちょっとした話や、ボツになったstory、
その後の水蓮と子供たちの事をピクシブで時々描こうかな…と思っておりますので、もしよかったらのぞいてやってください☆

それでは…

これまで本当にありがとうございました!


【いつの日か…】これにて完結です☆

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