ナルトにシスイの眼を託し終え、イタチと水蓮はひとまず大蛇丸のアジトであった地下へと戻った。
完全に身を中へと入れて、無事に済んだことに水蓮は安堵の息をこぼす。
だがそのため息の途中に、背後でガタリと物音がした。
ドキリとして振り向けば、そこには床にうずくまるイタチの姿があった。
「イタチ!」
駆け寄り肩に手を添える。
厚みのある暁の外套の上からでもかなりの熱を感じた。
ナルトへの受け渡しは幻術を通じて行われた。それがどういった仕組みかは分からないが、強い力を帯びた瞳を託す流れには、やはりそれ相応のチャクラ消費と負担があったのだろう。
ましてもともと熱のあった状態。
心配はしていたが、水蓮の想定していた物よりもイタチを襲う物は大きく、また今までとは違う様に見えた。
イタチはギュッと自身の両手で押さえ込むようにして身を縮めていた。
痛みに体が小刻みに震え、時折びくりと大きく揺れる。
「痛み止めを」
気休めだとしてもとにかく薬をと、水蓮はカバンに手をかける。
「無駄だ…」
絞り出したような声でイタチがそう言った。
「で、でも…」
「ちがう…これは…」
何かを言いかけたイタチの体が大きく跳ねるようにビクつき、その口から今までにない大きな叫びが放たれた。
「イタチ!」
ドサリと床に倒れ込んだ体に水蓮が手を伸ばす。
しかし、体に触れようとしたその手が寸前で止まった。
「なに?」
イタチの体の周りに光が見えた。
それは細い糸のように形を変え、次第にバチバチッと音をたたせ始める。
「これ…チャクラ?」
感知の力が良く知るそれだと伝え来る。
そのチャクラはどんどん音を大きくしながら量を増やし、次第に地下の空間を照らしはじめる。
同時に痛みも強くなっているのかイタチがくぐもった呻きを漏らす。
どうすれば…
触れることもできず水蓮はただ戸惑った。
見たことも聞いたこともない症状。
何をどうすればいいのかわからない。
「チャクラが…」
痛みに耐えながらイタチが言葉を絞り出した。
「暴走している。抑えられない…」
かすれた声でそう伝えると、再び大きく体を揺らして声を上げた。
「うあぁっ!」
叫びと共にイタチの体にまとわりついていたチャクラが赤く発行して膨れ上がった。
ドウンッ!
破裂音が響き、風が吹き荒れ狭い空間の中を暴れまわる。
その勢いに水蓮の体がはじかれ、壁に叩きつけられた。
「…っ!」
突然の事に防御が取れず、まともに背を打ち付けて一瞬息が止まる。
だがそれは衝撃によるものだけではなかった。
イタチの発するチャクラが、熱い…
もとより火の属性だからなのか、空間の中で暴れまわるチャクラはまさしく灼熱。
肌が…器官が…焼ける…
水蓮はとっさに外套で身をくるんで守った。
同じようにイタチを守ろうとするが、吹き荒れるチャクラの圧で近寄れない。
身を包む外套の隙間から見えるイタチは、必死にチャクラを抑えようとしているようだった。
それでもやはりコントロールが効かないのか、暴れはおさまらない。
苦しみ喘ぐイタチの姿に水蓮の体が震えた。
だが、しっかりしろ!と、グッと手を握りしめて自信を叱咤する。
チャクラは生命力と繋がっている。
このまま暴走をつづけたら命に関わる。
何とかしてイタチの体の中にとどめなければ…
必死に冷静を引き寄せて水蓮は思考をめぐらせる。
ふと、荒れ狂っていたチャクラが少しおさまりを見せた。
それを機ととらえ、水蓮は意を決して外套から身をだす。
「つぅ…」
やや収まったとはいえやはりかなりの熱。
その中を、水蓮は半ば這いずるようにイタチに近寄った。
「離れろ…」
イタチが苦しげに言う。
水蓮は「大丈夫」と乾ききった喉でそう答えた。
カバンから札を一枚取出してチャクラを流し、イタチの体に向かってゆっくりと手を伸ばす。
「よせ…」
イタチが制止をかける。
だが水蓮はグッと体に力を入れて動きを続けた。
九尾のチャクラで手を覆い守る。
だが…
バヂッ…
ジュッ…
イタチのチャクラの熱がその守りをすり抜けて水蓮の肌に嫌な音を立てた。
「う…っ」
激しい痛みが襲い水蓮の顔が歪む。
それでもその手を引かず、水蓮はイタチの腹部に札を張り付けた。
術者でなければ外せない特殊なその札は、暴れ狂うチャクラに押されてもびくともしない。
それを確認して水蓮は手を離し、すぐさま印を組んだ。
シュゥッ…
鋭い風が吹いたような音が鳴り、空間の中を暴れまわっていたチャクラが札の中に吸い込まれてゆく。
その刺激にイタチの顔がさらに苦痛に揺れた。
苦しそうなイタチの姿に一瞬戸惑う。
だがとにかく暴れるイタチのチャクラを抑え込まなければならない。
未だ部屋の中で荒れ狂うそれを、水蓮は術でイタチの体へと導く。
本来は札を張り付けた容器や石などに、対象の物を封印する術。
だがそれを応用して、イタチの体を器とし、あふれ出たチャクラをその中にとどめ抑えるように加減した物。
うまくいくかどうかは分からなかったが、どうやら成功したようであった。
徐々に吹き荒れていたチャクラがイタチの体へと戻り、ほどなくして部屋の中が静かになった。
札の効果か、今のところチャクラがあふれ出てくる様子はない。
それでも油断ならない様子を感じ、水蓮は部屋の中央に布を敷き、イタチの腕を取った。
その腕は火傷のようにところどころが赤くなっていた。
顔や首、目に見えるカ所のあちこちにそれが見て取れる。
「イタチ、動ける?」
かろうじて意識を保っていたイタチは、水蓮の肩に寄りかかりながら何とか立ち上がり、敷かれた布の上に身を横たえた。
「…う…」
床に体が触れるだけで痛むのか、イタチが顔をしかめる。
「どこが一番痛む?」
声をかけながら焼けた皮膚を治癒する。
イタチはうっすらと少しだけ目を開き消え入りそうな声で答えた。
「さぁな…。どこもかしこも痛くて、よくわからない…」
こんな状況だというのにイタチは小さく笑った。
呆れたような、自嘲するような、自棄になったような笑い。
だがその笑みが一瞬で消えた。
「う…っ」
くぐもった声で呻き胸元をつかむ。
その手の下に握りこまれた札からバチバチと音が鳴り始めた。
「また…」
抑えたチャクラが暴れだそうとしている。
水蓮は慌ててカバンからクナイを4つ取出し、それぞれに札をまきつけてイタチを囲むように床の4方に突き刺した。
印を組みタンっと地面に手をつく。
スッとクナイから藤色の光の柱が立ち、イタチを包み込むように壁を作り出した。
数秒で術が完成し、イタチは長方形の光の箱の中で横たわっている状態となった。
結界でチャクラの暴走範囲を抑えて自分自身を守れれば、集中してイタチに施せると思ってのことであった。
その結界が完成すると同時にチャクラがまたイタチの体から音を立てて暴れはじめた。
印を組み再びチャクラを抑え込む。
イタチのチャクラの強さに対抗するために九尾のチャクラをも練り込む。
それでも圧力が結界をすり抜けて水蓮の体を押す。
「…強い…」
攻撃の意思を持ったイタチのチャクラを身に受けるのは初めて…。
そのあまりの強さに額に汗が浮かんだ。
これほどまでに強大なチャクラをその身に収めていたのかと、今更ながらにイタチの、血継限界の力を思い知らされたような気持ちになった。
それに加えて今イタチの中には十拳剣と八咫の鏡という神力が二つも備わっている。
それも大きく関係しているのだろうと水蓮はそう考えた。
大きな力を得るには、やはりそれ相応のリスクがあるのだと…。
「………っ」
水蓮は気を抜けば飛ばされそうな圧力に、グッと体に力を入れて耐える。
イタチは固く目を閉じて体を縮め、必死に痛みに耐え声を堪えている。
目の端には涙がにじんでいた。
なぜ…
水蓮の目にも涙が浮かんだ。
もうすぐそこまでイタチの最期は迫っているのに、それを目前になぜこれほどまでに苦しまなければならないのか…。
やるせなさと悔しさに胸が苦しくなった。
ほどなくして、イタチのチャクラはまたおさまりを見せ、イタチはほんの一瞬だけ水蓮を瞳に映して意識を手放した。
まだ熱があるのか、それとも自身のチャクラの熱のせいか頬が赤い。
水蓮は一度結界を解き、その頬に手を当てた。
意識はないもののその感触にイタチの表情が少し和らいだ。
それでもやはり荒い呼吸に水蓮の呼吸も誘われていく。
「……っ…」
ポタ…
イタチの頬に水蓮の涙が落ちた。
その冷たさにイタチの瞼が小さく揺れ、うっすらと目を開いた。
「水蓮…」
力なさげにイタチの手が水蓮の頬に触れ涙を拭った。
「泣くな…」
言葉を返せずに水蓮はただ手を重ねて握りしめる。
「笑ってくれ…」
イタチはそう言ってまた眼を閉じた。
熱のこもる顔で眠るイタチを見つめていると、今までの事が脳裏を廻った。
イタチが耐えてきた全ての物…
誰よりもそれを近くで見てきた。
決して弱音を吐かぬイタチの姿…
誰よりもそばで支えてきた。
未来を信じて歩むその足取り…
共に歩んできた。
「もうやめて…」
静けさの中に言葉が落ちた。
「もう苦しめないで…」
祈るようにイタチの手を両手で包み込んだ。
いつも当小説を読んでいただきありがとうございます。
活動報告でもお伝えいたしますが、ワタクシちょっと体調を崩しまして…
強いめまいが起こるメニエールというものにかかってしまいました(-_-;)
すぐに治る人、長引く人、すぐに再発する人…色々のようです。
今は薬で目眩はおさまっていますが、体調を整えるため、申し訳ありませんがしばらく執筆を休ませていただきたいと思います。
次の投稿は十月半ばをめどにと思っています。
ご迷惑おかけしてスミマセンが、何卒よろしくお願いいたします(>_<)
回復早ければ、それまでに投稿したいと思います。
お待たせしてしまいますが、今後ともよろしくお願いいたします…。