いつの日か…   作:かなで☆

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第百二三章【信じて】

 翌朝。日が少し上った頃合を見て水蓮は行動を起こした。

 影分身を3体作り、それぞれを別の方角へと散らす。

 同時に心の中で数を数え、打ち合わせただけの数を読み、静かに立ち上がった。

 

 スッ…と、口元で指先を合わせて集中を高め、散らばった影分身と同じタイミングで感知の力を張り巡らせる。

 

 より広範囲で感知できるようにと考えた手法であった。

 

 一連の流れをイタチはただ静かに見守り、時を待った…

 

 

 それからほどなくして、水蓮の体がピクリと揺れた。

 「来た!」

 八雲がうまく導いたのか、木の葉の隊であろう気配とナルトのチャクラを感じ取る。

 まだ距離は離れている。だが…

 「すごい数…」

 すさまじい数の同質のチャクラ。

 「それに早い」

 それぞれが驚異的なスピードであちらこちらへと駆けている。

 ナルトのサスケへの執心が感じられ、水蓮は小さく身震いした。

 「見つけられるか?」

 イタチの問いかけに、水蓮は再び意識を集中する。

 数十秒感知し首を横に振る。

 「今のところここから感知できる中に本体はいない。もうしばらく様子を…」

 言葉半ばに水蓮の体が再び揺れる。

 「いた!東!」

 その方角で感知をめぐらせていた影分身が姿を消し、ナルトの本体を捉えた情報を伝え来た。

 「行ってくる」

 見つけたとは言えすさまじいスピード。

 急がなければ見失う。

 水蓮はさっと踵を返した。

 「待て」

 身をひるがえした水蓮の腕をイタチが掴んで止めた。

 「え?」と小さく声をこぼした時には、すでに水蓮はイタチに抱きすくめられていた。

 「イタチ…」

 「………」

 イタチは無言のままグッと腕に力を入れた。

 「大丈夫」

 静かな声でそう言って水蓮がイタチの背を撫でる。

 「心配しないで。大丈夫だから」

 「ああ」

 うなづきと共に力の抜けたイタチの体を水蓮がそっと押し離す。

 「行ってくる」

 もう一度そう伝えて笑みを見せ、水蓮は背を向けた。

 他の方角にいた影分身を一気に解き、新たに一体作り出す。

 それをイタチのそばに置き、地を蹴り駆けだした。

 

 ナルトの本体を見つけた影分身からの情報によれば、八雲がうまく接近でき後を追っているようであった。

 水蓮は必死のスピードでそちらに向かう。

 ナルトもどうにかこちらに向かって走ってくれば良いが、今森の中には香燐と重吾が放った鳥が、サスケの服の切れ端を身にまとってあちらこちらを飛んでいるはずだ。

 八雲はその中の一羽にすぎない。

 原作ではナルトは手あたりしだいサスケを探して森の中を駆けていたようではあったが、勘の鋭いナルトの事だ…。

 おそらく本能でサスケの気配を捉えているはず。

 その気配があちらこちらに散らばっている今、ナルトの向かう先は読めない。

 その上ナルトの影分身の数はすさまじい。そのすべてが変わらぬ速さでいたるところを駆けている。

 せわしなく動くそのチャクラに、水蓮の感知が乱される。

 まるでいくつもの音が、求める一つの音を隠すように…。

 早く本体と接触しなければその混乱に飲み込まれてしまいそうであった。

 

 しばらく駆けて、水蓮は先に八雲の気配を感じ取った。

 その少し前方にナルトの本体の気配。

 このまま行けば走るナルトの左手から接触できる位置。

 

 …よし…

 

 口元に小さく安堵の笑みが浮かぶと同時に緊張が走る。

 

 失敗はできない…。

 

 原作通りに事が運ぶなか、少しでもイタチの負担を減らしたいと今まで動いてきた。

 サスケとの戦いを、イタチにとっての【万全】の状態で向かえられるように。

 その為には、ここでの成功は必須。

 しくじってイタチに余計な手間を取らせるわけにはいかない。

 何がなんでもと、グッと手を握りしめたその時。

 ナルトがふいに進む方向を変えた。

 スピードをそのままに右へと大きく進路をとる。

 その進行方向は水蓮と同じ。

 「え?うそ…。ちょっと待って…」

 今度はナルトの後を追う位置。

 水蓮の中に焦りが広がる。

 

 ナルトのスピードは速い。

 

 「追いつけない!」

 

 あまりの速さに水蓮は唖然とする。

 こちらのスピードを必死にあげているのに距離が離れてゆく。

 木の葉の隊ともすでに大きく離れているが、それをいとわぬ様子。

 「待って!」

 思わず声を上げるがとても届く距離ではない。

 

 このままじゃ見失う…

 

 水蓮は思考をめぐらせて急ぎ印を組んだ。

 ボンッと音を立てて影分身が現れ、水蓮の背後から風を起こす。

 それを追い風にスピードを上げ、影分身を消す。

 そして風が絶える寸前に再び影分身を作り出し同じように追い風を作り出す。

 幾度繰り返しただろうか。ほんの少しずつではあったが水蓮となるとの距離が詰まり始めた。

 その近づきに、水蓮は体の奥深くから声を張り上げた。

 

 「ナルト!」

 

 森の中に必死の声が飛んだ。

 

 突き刺さるようなその声。

 

 それはひた走るナルトに…

 

 「届いた!」

 

 いくらか先でナルトが立ち止まった気配をとらえ、急ぎそこへと駆ける。

 

 たどり着いたのはほんの少し開けた場所。

 空からの光を浴び、ナルトは不思議そうな顔であたりを見回していた。

 それでも何かを見つけることができず、再び地を蹴ろうと動きを見せる。

 

 「待って!」

 

 上がりきった息を必死に整え、水蓮はナルトを呼び止めた。

 

 驚いた様子で振り向いたナルトは、木の陰から顔を出した水蓮を見てさらに動揺を見せた。

 「あれ…?どっかで…」

 記憶を手繰りハッとする。

 「あ!祭りの時の…。水蓮のねぇちゃん!なんでここに…」

 そこまで言って水蓮の纏う赤雲揺れる衣を目に捉えて再びハッと息を飲む。

 「その服…」

 イタチと同じ服だと、目が見開く。

 「なんでねぇちゃんがその服着てるんだってばよ」

 「ナルト…」

 ゆっくりと一歩近づく。

 ナルトは同じ速度で一歩後ろに下がった。

 

 互いに動きを止め無言で見つめ合う。

 

 沈黙を破ったのはナルトであった。

 「ねぇちゃん…。オレ今ちょっと大事な用で忙しいんだ」

 表情が不器用な作り笑いを見せる。

 「もし…。もしねぇちゃんがオレの敵じゃないなら…」

 紡ぎだす言葉はナルトらしからず、異常なまでにゆっくりとした慎重な口ぶり。

 「オレと戦う気がないなら、ここから今すぐ立ち去ってくれ」

 青くきれいな瞳が探るように揺れる。

 

 イタチと同じ衣をまとっている限り無関係ではない。

 それでも、以前会って話した水蓮の人間性を思い出し、ナルトは敵対したくないと感じていた。

 それに、サスケを追う今。ここで戦闘になって時間を取られることは避けたい。

 「頼む…」

 「ナルト…」

 それでもなお水蓮は無言のままにもう一歩足を進めた。

 「少しだけ時間を頂戴」

 「ダメだってばよ」

 一歩下がるナルト。

 このままここにいてはカカシ達が合流してくる可能性もある。

 「ダメだ」

 水蓮が何者なのかわからない。それでも戦いたくはない…。

 その感情がナルトの中に湧き上がる。

 「ねぇちゃんが行かないならオレが行く」

 さっと背を向けるナルト。

 水蓮は慌ててその動きを止めた。

 「待って!お願い!」

 懇願の様子にナルトは戸惑いながらも振り返る。

 その視線の先にいた水蓮は手に巻物を持っていた。

 「…っ!」

 反射的に構えるナルト。

 水蓮は静かに巻物を解きながらナルトを見つめた。

 「ナルト。お願い」

 

 脳裏に思い浮かぶ…

 

 

 『里のためにナルトに託す』

 

 

 イタチの穏やかな笑みが…

 

 「信じて」

 

 

 『オレが里のためにできる最後の事だ』

 

 

 流れ落ちたイタチの涙が…

 

 

 「私たちを信じて」

 

 

 今は何も語れない。

 だけれども、もしもいつかこの世界の歴史がイタチの真実にたどり着いたら…。

 その時はどうか信じてほしい。

 イタチの想いを…

 平和のために生きたイタチの生き様を…

 

 

 「お願い…」

 

 ふわり…と開かれた巻物。

 

 

 淡い光をまといイタチが現れ、驚きに見開かれたナルトの瞳が一瞬曇り…静かな風がその場を包み込んだ。

 

 まるでイタチの心の様な穏やかな風の中、二人のうちはの者が守ってきた大切な物が、この世界の中心に立つ者に託された…


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