いつの日か…   作:かなで☆

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第百四章 【繋がり…】

「今から130年と数年前。世界に大きな災いが訪れた」

 

 タゴリは静かな声でそう話し始めた。

 その災いとなる存在は月より到来し、世界を次々と破壊していったのだという。

 見た目は人と大きく変わらぬ姿であったがその力は絶大で、数も多く、人々は抵抗する手段を持てず、恐れ慄き隠れ…ただ滅びを待つのみであったと。

 

 「その者達の目的は分からん。破壊が目的だったのか、侵略でもするつもりだったのか。ただひたすらに奪った。多くの者が、いや、すべてと言ってもよいかもしれない…。皆絶望し、このまま滅びるしかないのだとあきらめた」

 

 世界には闇が深く根付き、まるでその闇を力にするかのようにその者たちは力を増していったと、サヨリが苦しげな表情を浮かべた。

 「それに加え、原因のわからぬ病も発生し広がった。悲惨な状況であった」

 その時の事が脳裏に浮かんだのか、タギツも眉間にしわを寄せて顔を少し伏せた。

 「ボクたちも、その時家族を失ったんだ…」

 「もともとわらわ達の家系は巫女として神からの啓示を受け取る役割を担っていた。時にはその力を借り受け強い封印術を使うこともあった。だがあの時、わらわ達の力はほとんど役に立たなかった。しかしそれは相手が強すぎたからというだけではない」

 「じゃぁ、どうして…」

 水蓮の言葉にサヨリが答える。

 「ワシらの力は神からの恩恵によるものがほとんどだ。しかしあの時、神々の力はほとんど効力を発揮しなかった」

 「というか、発揮できなかったんだ」

 タギツがそう続けてため息をついた。

 「なぜ発揮できなかったんだ?」

 目を細めて問うイタチにタゴリもため息をこぼした。

 「神の力は、いつでもどんな時でも与えられるものではない。それが有効に作用するために必要な条件がある。それは神の力を乞うために人が行う事…。わかるか?水蓮」

 タゴリの問いに、水蓮はしばし考える。

 

 神…巫女…力を乞う…

 

 今聞いた事をつなげた先にあるのは…

 

 「祈り?」

 

 タゴリ達が大きくうなづいた。

 

 「そうだ」

 

 タゴリが話を続ける。

 

 「遠い遠い過去には人と神が共に暮らしていた時代があった。だが、少しずつ…少しずつ神々は姿を消していった。それは、人々の中から祈りの心が薄れていったからだ。神と呼ばれる存在の力の源は人の祈りであり、それがなくなるにつれて神々はいなくなっていった。いや、正しくは見えなくなったのだ。姿はなくともその力は常に人のそばにあり、それをわらわ達は祈りの力で引き出す役割を持っていたのだ」

 

 そしてその祈りとは、救われたいという類の物ではなく、自分ではない誰かの幸せを強く願う、そのための祈りでなければならないとサヨリが言葉をつなげた。

 「そしてもう一つ。神の力に影響を与える物があるんだ」

 タギツがそう言ってイタチと水蓮を見つめた。

 「それは、決して希望を捨てない、諦めない強い想い」

 

 「希望を捨てない」

 「諦めない強い想い」

 

 水蓮とイタチのつぶやきにタゴリが「うむ」と大きくうなづいた。

 「他人を想いやる祈り。そしてどんなに苦しくとも希望を捨てず諦めない想い。それこそが神々の力を引き出すために必要な物。それが強く人の中にあった時代こそが、神と人が共存していた時代だ。まぁいわゆる古き良き時代と言うものぞ。それが失われるにつれて神の力は弱まり、その関係性が薄くなって、人の目に神の姿は見えなくなった」

 

 神という存在がどういったものなのか、そのすべては分からないとタゴリは難しい顔をした。

 それでも、世界に存在している自然エネルギーのような力が他にもあり、それが人の祈りや想いを受けて人のような姿で具現していたのではないかと話した。

 「小さなものを言えば、もしかしたら風とてそうかもしれない」

 サヨリがそう言うと、柔らかい風がその場に流れた。

 「悲しいときの風はなぜか物悲しく、嬉しいときの風は逆に心地よく感じる。そして大きなもので言えば地震などの天災は、何か大きな邪な思いがそれに影響を与えているのかもしれないという事だ」

 「いい影響を与える物をボクたちは神と呼び、悪い影響を与えるものを悪と呼ぶ。だけど、それを引き起こす力は本当は一つなのかもしれない。人の心の善と悪がただその力を違う物として具現しているだけなのかもしれない」

 

 話の大きさに水蓮とイタチは黙した。

 だが、その意味は分かったような気がした。

 

 黙り込んだ二人にタゴリが「少し話がそれたかのぉ」と笑って場を和ませた。

 「とにもかくにも、あの時世界は絶望に覆われ、わらわたちの祈りだけでは神の力…神力を引き出すことができなかった。その事にわらわ達の心も危うく希望を失うところであった。諦める所であった」

 その当時、いかに3人が人々に呼びかけてもそれに応える者はおらず、タゴリ達も家族を失い絶望に心が堕ちそうになったのだと苦しげに複雑な笑みを浮かべた。

 「だが、その時わらわ達の前に現れたのだ」

 「ワシらの闇堕ちしそうな心をすくい上げる者が…」

 「ボク達に再び力を与える…希望をあきらめない心を持つ者が…」

 タゴリがどこか嬉しそうな顔で水蓮とイタチを見つめて言った。

 

 「それが、お前たちだ」

 

 

 「え?」

 「…?」

 言われた意味が分からず、二人は言葉を詰まらせた。

 

 「本当に少しも覚えておらんのだな…」

 サヨリが目を細めて少し呆れたように息を吐く。

 「しょうがないよ。そういう物なんだから」

 タギツが「ハハ」と軽く笑い、タゴリが「少しさみしいがのぉ」と腕を組んで首をもたげて言葉を続けた。

 「まぁわかりやすく言うならば、お前たちの前世と言うやつぞ」

 

 『前世…』

 

 水蓮とイタチのつぶやきが重なり、二人は顔を見合わせた。

 「そうぞ。お前たちは遠い過去に一度出会っているのだ」

 「………」

 

 こうして今生まれて出会う前に、自分たちは過去世で出会っていた…?

 

 前世という言葉は聞いたことがあった。

 だがそれが自分たちに当てはまるという事が不思議であり、すぐには受け入れられない。

 それでも、もしそうなのだとしたら…

 

 

 二人の胸の奥が熱を帯びて締まった。

 

 

 自分たちはずっと昔から繋がっていた…

 

 

 見合わせたままの二人の顔が切なく揺れ、水蓮の目から涙がこぼれた。

 無意識だった。

 その涙には、様々な感情が複雑に絡み入り、理解しきれないそれが水蓮の脳を混乱させた。

 それに気づきイタチが髪をそっと撫で、涙を拭い頬を包んだ

 「大丈夫か?」

 「…あ…」

 イタチの体温にハッとし、水蓮は呼吸が乱れそうになっていた事に気付く。

 少し深く呼吸をして気持ちを落ち着かせ、もう一度「大丈夫か?」と聞くイタチにコクリと小さくうなづいた。

 イタチは水蓮に笑みを見せていたが、さすがに少し動揺の色が見えた。

 「信じがたいかもしれんが…」

 タゴリは「だが事実ぞ」と話を続けた。

 「過去の時間においてお前たちはそれぞれ別の場所で生まれ育った。【うちは一族】と【うずまき一族】として。だが互いにあきらめない心を持ち、災いに立ち向かい進み、出会い共に戦った。そしてわらわ達のもとに現れた」

 「ワシらが月より現れた悪しき存在達と戦い、追い詰められ、もはやこれまでかとそう思った時だった」

 「ボクたちの前に立ってまっすぐに奴らを見据えて言ったんだ。『あきらめるな!』ってね」

 

 二人の脳裏にほんの一瞬その光景が浮かんだ気がしたがそれをはっきりととらえることはできなかった。

 それでも、なぜか心におさまるものがあった。

 

 「でもさ、あの時は別の意味で驚いたというか…」

 「うむ。別の意味で言葉が出なかったな」

 「今思い出しても大爆笑ぞ」

 神妙な面持ちになった二人とは対照的に3姉妹は声を上げて笑った。

 「大爆笑?」

 「どういうことだ」

 状況を想像する限り、過去の自分たちが現れたタイミングはかなり緊迫した状況。

 とても爆笑するシーンではないように思える。

 それでもタゴリ達はそれぞれ思い思いの事を言いながら笑っていた。

 「なんというか、わらわ達の前に現れたお前たちは」

 タゴリが笑いをこらえながら言う。

 「わらわ達よりぼろぼろだった」

 「ぼろぼろ?」

 顔をしかめた水蓮にタゴリがうなづきを返す。

 「そうだ。お前たちはすでに別の場所で必死の戦いを終えたところで、そのすぐ後にわらわ達のところに来た」

 「イタチなんぞ…あぁ名はもちろん違うがな、とにかくお前は写輪眼の使い過ぎで顔色真っ青であったし」

 「水蓮なんて、もうチャクラほとんどないのにボクの傷直そうとするしさ」

 3人はそう言ってまた笑った。

 「ぼろぼろでわらわ達に『あきらめるな』と何度も言った」

 「だが、どう見ても戦える状態ではない」

 「いやいや無理でしょ、お前達…って、口には出さなかったけど、心の中で突っ込んだよ」

 タゴリ達はそう言って少し笑い続け、しばらくしてからようやく息を整えたタゴリが水蓮たちを見つめて笑んだ。

 「だが、お前達はそれでもあきらめなかった。そのぼろぼろの体でわらわ達を守り続けた。初めて会ったわらわ達を、そしてわらわ達が守ろうとしていた同郷の民をも守ろうと戦ってくれた。そんなお前たちを見て思った。決して希望を捨てまいと」

 「ワシらも諦めないと」

 「ボクたちも、お前たち二人を守りたいと思ったんだ」

 「そのわらわ達の祈りに民も続き、強い祈りの力が働いた。その祈りと想いにより現れたのが、女神ナキサワメだ」

 

 元来タゴリ達の家系で祈りの対象とされてきたのがナキサワメであったことをタゴリは語った。

 そうして長きにわたってタゴリ達が送り続けた祈りと、その時の強い祈りによってナキサワメが具現化したのだろうと…。

 「それでも長くとどまることはできず、ナキサワメはわらわにその力の一端を分け与えて姿を消した」

 「再生と封印」

 イタチのつぶやきにタゴリが「そうだ」と返した。

 「ただし、そのどちらも使えるのは一度きりであったがな。それでもその再生の力のおかげでお前たちの力を回復することができた」

 「そうして傷を癒し、チャクラを取り戻したお前たちの戦いはすさまじかった」

 サヨリが感心した笑みを浮かべた。

 「ボクたちも負けるものかと戦った」

 「そんなわらわ達とお前たちの姿を見て、民は希望を取り戻した。勝てるかもしれない、いや…勝てると。そこに希望をあきらめない思いが生まれ、わらわ達の勝利を信じ、無事を祈る力が生まれた」

 

 それによってタゴリ達は本来の力を取り戻し、その場を勝利でおさめたのだと聞き、水蓮の肌があわ立った。

 イタチも同じように感動に少し身を震わせた。

 

 「そうして各地でわらわ達とお前たちは共に戦いを展開した。月より現れた者たちは、空海陸とさまざまな戦闘能力を持っていたが、わらわ達が大地で、イタチはすでに口寄せ獣であった八雲と共に空で、そして水蓮。お前は同じく口寄せ獣であった出雲と共に海で戦った」

 「そうか、だから」

 「八雲と出雲が」

 

 懐かしいと感じたのだと、二人は顔を見合わせた。

 

 「そうだ。もとよりあいつらはお前たちの口寄せ獣ぞ。ずっとお前たちの戻りを待っていたのだ」

 

 思わず二人は胸元を握りしめた。

 

 「その後戦いは数年続いた。それでもその間にワシら以外にも立ち上がる者が現れ、少しずつ勝利をおさめだした」

 「そして、ボクたちは最期の戦いへと挑んだ」

 サヨリとタギツが厳しく目を光らせ、タゴリが言葉を継いだ。

 

 「災いの中で最も強い力を持つ存在…【オロチ】との戦いに」

 

 

 少し硬い風が森を彩る緑を音たたせながら吹き流れた…


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