いつの日か…   作:かなで☆

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事故に合い、異世界に迷い込んだ一人の女性…
その先で出会ったのは、大切なものを守るために、すべての闇を背負う覚悟を決め、孤独に身を置き生きる者…

耐えがたきを耐え、忍びがたきを忍んで生きるその人物…【うちはイタチ】の生きざまに、たった一つの光として彼女は生きる…

彼が求める【終焉】の日まで…
そして、彼に託された想いを未来へとつなげていくために…

(現在文章の見直し中です。文面少し変わりますが、ストーリーに変更はないです2019.5.13)


第一章  【出逢い】

 暗い闇の中

 一人の女性が佇む

 息が苦しく、体がひどく冷たい。

 

 

 「大丈夫か!」

 

 

 遠くから見知らぬ声。

 

 

 「生きてるか!」

 

 「こっちはだめだ」

 

 「二人とも死んでる」

 

 聞こえた幾つもの声にドキリとする。

 

 

 -- 死んでる --

 

 -- 二人 --

 

 自分以外の存在。

 

 「お父さん…お母さん…」

 

 声を出した途端、体中に激しい痛みが走った。

 

 「生きてるぞ!」

 

 また誰かの声。

 

 何が起こったのかと必死に力を入れると、ほんの少しだけ目が開いた。

 その狭い視野に映ったのは、横倒しになった大きなトラックと白い乗用車。

 女性はうつろな意識をなんとか繋ぎ止めながら、脳の活動を呼び起こす。

 そして気付いた。

 

 あれはうちの車だ…

 

 両親が乗っていた運転席と助手席はその大半がつぶれている。

 そうか自分は事故にあったのだとようやく事態を理解した。

 少し離れたところには血まみれの両親の姿。

 

 二人はもう…

 

 そう悟った時、意識が薄れ始めた。

 

 私も死ぬの?

 

 様々な想いが駆け巡った。

 

 やっと製菓の専門学校卒業したのに…

 夢あったのになぁ…

 一度でいいから、誰かを心から愛する。そんな経験したかったな…

 

 

 描いた未来は来ないのかと、切なさと共に意識が深く…深く落ちていった…

 

 次に感じたのは、浮遊感。

 

 ああ…やっぱり死んだのか…

 

 そう思った瞬間。

 ガクッと、急に体が落ち始めた。

 「え?ちょ、ちょっとぉぉぉっ!」

 ドンッと音を立てて、地面にたたきつけられる。

 「いった…」

 ぶつけたお尻をさすりながらうっすらと開いたその目が、映り込んだ光景に見開かれた。

 所どころに岩が立っている広い土地。岩以外何もない。いわゆる【荒野】

 「え?な、なに?どこ?」

 ふらりと立ち上がりふと気付く。

 「あれ?私怪我してない」

 先ほどまで体中を激しい痛みが包んでいたというのに、今痛いのは先ほどぶつけたお尻だけだ。

 「天国…じゃなさそう。じゃぁ、地獄?」

 そこまで何か悪いことをした覚えはない。

 「と、とりあえず一回落ち着いて」

 とても落ち着けそうにはないが、自分に言い聞かせる。

 と、その時。隣を何かがすさまじいスピードで通り過ぎた。

 

 鳥?

 

 ほんの一瞬だった。その勢いで長い黒髪がなびき、次の瞬間

 

 

 …ドッ…

 

 

 鈍い音が体に響き、鈍痛が腹部に走った。

 「え?」

 目を向けると何かが深く刺さっており、さらに痛みが襲いくる。

 「なにっ?!」

 ドロリと血が流れ、激痛に腹を押さえて座り込む。

 その横をまた何かが通り過ぎ、少し後ろで

 

 キンッ!キキン!

 

 何か固い物同士がぶつかり合う音。

 

 次いで、ドサリと何かが倒れる音。

 そちらを見ていなかったが、本能で悟った。

 

 今人が殺された…

 

 「…う…っ」

 

 痛みに耐えきれず、自分も音を立てて地面に倒れ込む。

 「大丈夫か!」

 誰かが自分の体を抱き起こした。

 「しっかりしろ」

 声に応えようと目を開け、一瞬思考が固まった。

 

 

 あれ?

 この男の人見たことある…

 

 

 その目に映った人物は、額に金属のついたバンダナのようなものを巻いており、赤い雲のような模様が入った黒いマントに身を包んでいた。

 少し長めの黒い髪を一つにまとめ、その顔立ちは美しく整っている。

 瞳は赤く、黒い手裏剣のような形が浮かんでいた。

 

 この瞳。それにこのマントは…

 

 「うちは…イタチ」

 そう呼ばれて、その人物の表情が厳しく変わる。

 「暁…」

 その言葉に瞳が動揺に揺れ、低く厳しい声が発せられた。

 「何者だ」

 だが、それに答える前に彼女の意識はまた深く沈んだ。

 

 

 夢を見ているのだろうか…

 

 イタチに会う夢を

 

 最近【NARUTO】にはまりだし、毎日寝る前にDVDを観ていたからだろうかと、日常を思い出す。

 死ぬ間際に、人気の高いキャラクターであるイタチに会う夢を見られるなんて、ちょっとラッキーかもしれない。だが、これから死ぬというのにラッキーというのは可笑しいかとそんなことを考えて、少し笑った。

 「笑ってますよイタチさん。こんな状況で夢でも見てるんですかね…」

 聞こえてきたその声にも覚えがあった。

 「どうします?やっぱり殺しますか?」

 

 こ…殺す?

 

 物騒なその言葉に意識がはっきりと戻り始める。

 「いや…待て」

 二人の声の響き加減から、どうやら洞窟のようなところにいるようだ。

 そのまま地面に転がされているようで、体に固い岩肌の感触がある。

 「オレの名と暁の事を知っていた。情報を聞いてからだ」

 

 そのあと殺される…?

 

 ドクリと波打つ心臓の音があまりにもリアルな感触。

 そこに生まれた考え。

 

 もしかして夢じゃない?!

 

 自分の身に起こっていることが理解できなかったが、理解しなければいけないと必死に答えを導き出す。

 

 まさか。

 

 【NARUTO】の世界に()()()…?

 

 つぅっと汗が一筋流れた。

 死んだ人間が別の世界に行く。そんな物語はいくつか読んだことがあった。

 だかまさかそんなことが本当にあるとは。しかも自分に起こるなど考えもしなかった。

 思考はパニックに陥っていた。

 

 どうしよう…

 

 身を固くして唇を噛んだ。

 「とりあえず」

 心の声にまるで答えるように、イタチの声が響いた。

 「寝たふりをするのはやめたほうが身のためだ」

 気づかれていたのかとさらに唇を噛み、あのうちはイタチを相手に狸寝入りは通用しないだろうと諦めてゆっくりと起き上がる。が、

 「…っ」

 鈍い痛みを感じ、すぐに腹を押さえてうずくまる。

 

 そうか、さっき刺さっていたのはクナイだ…とその形を思い出し、正体がわかった途端またズキッと痛んだ。

 

 自分はイタチと誰かの争いに巻き込まれたのだと先ほどの事を思い返す。

 だが深く刺さっていた割には痛みは強くない。それどころか痛みが少しずつ治まってきているように感じられた。

 

 「普通の女性に見えますがね」

 飛び来たその言葉に視線を向ける。やはり知った人物。

 イタチの暁での相方。

 「干柿鬼鮫」

 つい口に出してしまったその言葉に、鬼鮫の表情が固く変わる。

 「そうでもなさそうですね」

 

 しまった。余計なことを…

 

 後悔するがすでに遅し。イタチの警戒は極まっていた。

 「何者だ」

 しかし、何と答えたらいいのかわからず黙り込む。

 別の世界から来ましたとは言えない。怪しすぎる。

 

 今でも十分怪しまれてるけど…

 どうしよう。ほんと…

 

 だんまりを決め込む彼女に、イタチは息を吐き出し、腰をかがめて顔を近づける。

 思わずドキリと胸が鳴ったが、すぐに気付いた。

 「月読!」

 慌てて顔をそらす。

 

 遅かっただろうか…

 

 目をぎゅっと固く閉じる。

 「かわされましたか?」

 「いや。大丈夫だ」

 しかし、イタチのその言葉に彼女は顔をしかめた。

 成功したような言い方だ。だが意識ははっきりしている。

 「しかし、月読のことまで知っているとなると」

 「かなり怪しいですね」

 

 …もうどうしよう…

 

 何度同じ言葉を繰り返しただろう。

 幻術にかかったふりをして適当なこと言おうかとも考えた。

 しかしごまかしがきくような相手ではない。

 

 しかたない…

 

 意を決して口を開く。

 「あの…」

 ビクリと二人が体を揺らすのが分かった。

 「かかってないみたいなんですけど。…すみません」

 何故か謝った。

 

  

 

 その後、イタチとの問答が繰り返された。

 「どこから来た」

 「言えない」

 「なぜオレ達のことを知っている」

 「言えない」

 「どこかの忍びか」

 首を横に振るその姿に、イタチと鬼鮫が顔を見合わせてため息をつく。

 何も情報が出てこない事に、どうしたものか…という感じだ。

 「何をどこまで知っている」

 

 何をどこまで…

 

 自分が今知ってるいのは…と、最後に見たDVDを思い出す。

 イタチとサスケの決着がついて、サスケがマダラからイタチの真実を聞いたところまで。

 サスケが海を見ながら涙を流すシーンが思い出される。

 

 だめだ。口が裂けても言えない…

 ややこしすぎる…

 

 口をきゅっと結んで地面を見つめる。

 

 また黙り込まれてイタチは大きく息を吐き出した。

 「名前は?」

 「え?」

 「名前くらいは言えるだろう」

 だが、言葉が出てこなかった。

 

 名前……あれ…?

 私何て名前だったっけ…

 

 口元に手を当てて固まる。

 その様子を見てイタチは悟った。

 「覚えてないのか?」

 

 覚えて…ない?

 

 自分は何を覚えているのか

 そう考えたその瞬間、記憶がよみがえる。

 

 血にまみれた両親の姿

 

 「……っ!」

 体がこわばり震えだす。

 「いや…」

 「どうした?」

 

 そうだ、お父さんとお母さんは…

 

 「死んだ…」

 一気に喉が渇いた。

 「誰が?」

 イタチが顔を覗き込む。

 「お父さんと…お母さんが…」

 声が震える。

 「見たのか?」

 小さくうなずいた瞬間、再びあの光景が浮かぶ。

 「事故にあって…二人とも血まみれで…」

 息が苦しい。体があの時のように冷たくなってゆく。

 「う…っ…」

 ひどい吐き気が襲い、呼吸が止まりそうになる。

 「落ち着け」

 背中に当てられたイタチの手の感触に体がビクリと揺れ、一気に悲しみと恐怖が涙と共に溢れた。

 「どうして私だけ。どうして!いや!いやぁっ!」

 イタチの手を振り払う。

 また呼吸が乱れる。

 「…っ……」

 「落ち着くんだ」

 イタチが再び背中に手を当て、そっとさする。

 「ゆっくり息をしろ」

 混乱しながらも、ゆっくりと息を吸いイタチを見る。

 そこには驚くほど柔らかい眼差しがあった。

 

 この目…

 子供のころのサスケを見るイタチの目だ…

 

 その優しい空気に、少しずつ落ち着きが戻ってきた。

 「これを」

 鬼鮫が水の入ったコップを差し出す。

 無言で受け取り口に含むと、また涙があふれてきた。

 両親を失った現実と、この非現実的な状況。すべてが受け入れがたい。

 声を押し殺して泣くその姿に、イタチと鬼鮫は判断に悩んでいた。

 「どうしますか?イタチさん」

 イタチはしばらく黙っていたが、諦めたように息を吐き出した。

 「この状態では何も聞けない。何かをたくらんでいる様子ではなさそうだがな。しかし、我々のことを知っている限りこのまま放すわけにもいかない」

 「殺しますか」

 

 …もうそれでもいい…

 

 そう思った。しかしイタチは「いや」と返した。

 「傷はどうだ?」

 「…………」

 涙を拭きながら先ほどクナイが刺さった個所を見る。

 そして、驚いてイタチを見る。

 「やはりな」

 「なにがです?」

 鬼鮫が首をかしげる。

 「治っているんだな?」

 イタチにその言葉に頷く。

 すっかりきれいに治っていたのだ。

 「そんなバカな」

 驚きを隠せない様子の鬼鮫。

 そんな鬼鮫とは対照的に、イタチは静かな声で言った。

 「さっき傷を確認したとき、すでに少しふさがりだしていた」

 イタチは地面に落ちていたクナイを拾いあげて揺らめかせる。

 「これは木の葉の暗部のクナイだ。死に至る強い毒が仕込まれている。

 が、お前のその傷に関して我々は何も施していない。にもかかわらず、傷口はふさがり、毒にも侵されていない」

 

 …まさか…

 

 見開いた瞳に、イタチは頷いた。

 「お前は死なない」

 一番驚いたのは本人だ。言葉が出なかった。

 「大蛇丸の実験体か?」

 不死=大蛇丸

 【NARUTO】の世界ではそうなるのかと思ったが、嘘はつくまいと首を横に振る。

 「違うが大蛇丸のことは知っているんだな」

 

 あ…しまった…

 

 思いながらも頷く。

 「我々の知りえない力を持つ一族でしょうか」

 鬼鮫のその言葉には反応できなかった。

 【力】はともかくとして【彼らの知りえない一族】というのはあながち間違いでもない。

 「最後に一つだけ聞く」

 イタチの低い声に、この返答ですべてが決まると、ゴクリと息を飲み込んだ。

 「我々の敵か?」

 辺りに静かな、そして鋭く固い空気が流れた。

 その空気を吸い込んで、強い光をたたえはっきりと答える。

 「違う」

 しばしの静寂。微動だにせずイタチを見つめるその瞳に、彼はひとまず自分たちに敵意がないと判断したのか、警戒を解いた。

 「その言葉、とりあえずは信じよう。だが先ほども言ったが我々のことを知っている限り解放することはできない。かといって幻術も効かず、命を奪うことも不可能」

 「では…」

 イタチは鬼鮫の言葉に頷く。

 「我々と行動を共にしてもらう。その間名がないのは不便だ」

 イタチはしばし考え、言った。

 「名は水蓮(スイレン)としろ」

 「水蓮」

 その名を呟き、彼女は…水蓮は小さく頷いた。

 

 認めがたきを認め。

 受け止めがたきを受け止め、水蓮は心を決めた。

 

 

 なぜこんな事になったのかわからないけれど、ここで生きていくしかないのだ。

 

 私はここで生きていく!

 

 

 強い風が吹き込んで、水蓮の長い黒髪が大きくなびいた。

 その風は何か大きな運命を彼女の中に運んできたようにその体にぶつかり、そして過去の様々なものをさらっていくように引き返していった。

 

 

 

 これは、うちはイタチの悲しくも強い生き様に寄り添った、一人の女性の物語。

 

 

 今その幕が上がった


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