DARK SOULS The Encounter World【旧題:呼び出された世界にて】   作:キサラギ職員

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Dark Raven

 戦闘においてイニシアチブを握るにはどうすればいいか。戦いの形が変わっても普遍的な答えが返ってくるだろう。

 

 すなわち先手必勝と。

 

 アルトリウスが駆けた。身長からすれば細身であるというのに、もはや怪物染みた怪力を発揮。地面を滑走するが如き疾駆を見せ付ける。

 腰を落とし、斜め下方から薙ぎ払う一撃を放つと見せかけた上から下への叩き込みを放つ。

 

 「………」

 

 煙の騎士――ドラングレイグと呼ばれた土地において名を馳せた騎士レイムが取ったのは特大剣による防御だった。特大剣と細身の直剣による二刀流には意味があるのだ。あるものは手数を増やすために二つの剣を握り、あるものは違う役割を担わすために二つの剣を握る。レイムは後者であった。

 レイムの巨躯をしても担ぐように分厚い重厚な溶けた剣は、防御障壁としての役割を担わすに十分な強度を有している。仮にアルトリウスが豪腕であっても、その剣を両断するには馬力が足りない。

 火花を散らし二つの武器がはじけた。アルトリウスの腕力をもってしても、群青の巨剣は弾かれてしまった。

 

 「――オオオッ!」

 

 アルトリウスは既に反動を殺すべく手を打っていた。左腕から飛び跳ねようとする巨剣が離れていくに任せる。体を宙で一回転させると――あろうことか、回転をそのままに真下から上への一閃へと変換した。

 アルトリウスの剣術は変化自在な獣の狩りそのものである。故に常識的な剣術を収めるものであればあるほど翻弄されるという。

 

 

 「………ォォォッ!」

 

 レイムの唸り声が響く。

 レイムの直剣が寸前で割り込んだ。巨剣の切っ先があらぬ方向へと跳ね上がった。

 しかしそれは次の攻撃への布石に過ぎなかった。巨剣の直撃を避けるべく、直剣で軌道をはじいたばかりか、姿勢を崩させる意味合いもあったのだ。

 黒甲冑が、甲冑の重量など感じさせぬ軽快な動作でバックステップ。身軽な体とは相反する重厚な剣が一拍遅れて体に追従せんとする。

 迫る特大剣と巨剣が擦れ合った。

 アルトリウスは踊るように身を翻し中段の回転斬りを合わせたのだ。逆方向から衝突する力はお互いを殺しあうが、同じ向きに回転しようとする力はすんなりと抵抗感なくすり抜けるものだ。結果、彼の青い装束はこまのように回転する体に付き合わされる。

 得た力を殺さずに、下方から頭部を狙った正面突きを繰り出す。

 騎士レイムが前傾した。頭部を狙う一撃に対しあえて接近する。

 ――ざり。

 アルトリウスの腕にかすかな手ごたえが伝わってくる。

 レイムが火花を散らしながらも顔面への直撃をかわしていた。兜の左半分を突き抜けんとしていた切っ先を自ら頭を振ることで、直進してくる切っ先の半径に潜り込んだのだ。

 顔面に直撃を食らえば、死を呼ぶ黒い鳥の騎士とも称されたレイムとて無事ではすまない。甲冑の頑強さを完全に把握していること。恐怖心を完全に押さえ込むこと。相手との間合いを見計らうこと。無数の要素を瞬時に判断しなくてはなせない行動だった。

 王の盾と呼ばれた騎士に敗北した反逆者レイムは、しかし、決して王の盾に劣るものではなかったのだと言う。

 破壊された兜の奥で血のように赤く深淵のように暗い瞳がアルトリウスを直視していた。

 アルトリウスが右に担う盾がかすかに燐光を帯びた。

 

 「ちいっ……」

 

 アルトリウスが相手の直進を見据えた斬り下がりを振りぬいた。長身が風に飛ばされる花びらのように舞う。

 一撃は虚しく宙を抉り取っただけであった。

 刹那、騎士レイムの全身が炸裂した。暗い闇の力を秘めた黒煙が立ち上がったかと思えば、同心円状に衝撃波を撒き散らす。地面が抉り取られ森の木々の根っこが木っ端微塵に吹き飛ばされる。

 レイムは確かに認めたのだ。アルトリウスは自分が全身全霊を使わなければ打ち勝つことのできない強敵であると。

 直剣を捨てると、天高く掲げる。太陽のように膨大な熱量が剣の奥底から這い出してくると、竜巻のように巻きついていく。どろりと温かい闇の力が剣を轟々と燃え上がらせた。

 かつて闇の仔の破片たる一人に出会ったレイムはしかし共に過ごすことを選んだのだという。黒霧を晴らす力があるにもかかわらず。

 騎士アルトリウスは、微かに神聖な燐光を帯びる盾を前に、剣を槍の様に短く手元に構え腰を落としていた。

 騎士レイムが正眼に特大剣を構え腰を落とす。

 衝突。

 レイムが踏み込んだのだ。距離を一瞬にして零にする足運びをもって間合いを詰めていた。

 袈裟懸けの斬撃が盾受けという壁を毀れさせた。切っ先がアルトリウスの肩を掠める。恐ろしいまでの振りの速さに驚嘆したのもわずかな間のみ。

 燃え盛る熱の塊が優美な装飾をなされた鎧を侵食し肉を食らう。

 闇の力がアルトリウスの痩身に血しぶきを咲かせた。

 アルトリウスが狼のように息を吐き出した。

 苦痛など意に介さず腕に力を込めた。

 

 「シィィィッ!!」

 

 刹那、アルトリウスの担ぐ盾がレイムの特大剣の半ばを強引にはじき返していた。パリィというにはおこがましい腕力任せの攻撃的な防御。

 燃え盛る闇の火炎を受けてもなお盾は健在であった。

 アルトリウスは祝福を受けた盾を友のために結界の核とした。故に闇に飲まれ、闇の従者と化してしまったという。最初の深淵の監視者たる狼騎士があろうことか闇に飲まれたという事実は後の世にかすかな伝承として残るのみである。

 盾と剣。どちらを捨てるかを迫られたアルトリウスは盾を捨てた。闇を滅ぼすために。

 しかし、盾こそが最大の武器であるなどと彼は知りもしなかったのだ。

 アルトリウスはごく優しく、そして愚かな男だったのである。

 

 

 「グ、が……」

 

 レイムが苦しい吐息を吐いた。

 アルトリウスの腰を落とした必殺の斬撃が炸裂する。

 暗い刃がきらりと輝くこと二回。

 特大剣で辛うじて防いだレイムの視界に飛び込んできたのは剣を深く構え地に擦る程の低空から上方にかけて一撃を繰り出さんとしている青い甲冑姿であった。獣の模った兜の奥でにやりという笑い声を聞いた。

 ――それは混沌のデーモンと対峙したという黒騎士の剣術に酷似していた。

 レイムが飛び下がる。髪一重の空間を重い殺意を込めたかち上げが大気を攪拌しつつ振りぬかれた。

 次の瞬間、アルトリウスが視界から消失した。

 否、跳躍したのだ。砂煙を伴い空中でくるり一回転すると脳天めがけて一閃を迸らせた。

 たまらず特大剣で受け止めんとするレイムの表情が歪む。分厚い鉄の壁をもってしても耐え切れない衝撃によって体躯が後方へと弾き飛ばされて地面を擦っていく。

 姿勢を起こしたレイムの兜に口付けせんばかりに獣の兜が迫っていた。

 渾身の力を込めた左腕を棒切れかなにかのように振り回し、敵を大地へと縫い付けんとする一撃だった。

 そうしてレイムはこの瞬間を自分のものとした。

 特大剣の熱を瞬時に爆発させると板のような武器の構造を最大限に活かす。アルトリウスが放った兇刃を受け流す。

 騎士レイムは王の盾ヴェルスタッドのような怪力を持たなかった。王は力頼みの戦士を特に好んだという。いつしか巨大な剣を担ぐようになったレイムの脳裏にヴェルスタッドが扱う鉄塊があったことは想像するに難しくない。

 本来、彼は技量によって相手を翻弄する戦士であったのだ。

 無双を誇ったという戦士とて無敵ではない。太陽がいつか翳るように。

 アルトリウスの刃が大地深く埋没する。レイムが背中を向けるように特大剣を構え、一歩を踏み込む。

 意趣返しとばかりに黒騎士の剣術を模倣したかち上げがアルトリウスの前面に爆発した。

 

 「……背後から刺すのは好みじゃないが」

 

 静かな声がレイムの背後から響く。鮮血の痕跡が点々とレイムの足元に散らばっていた。

 そこには這い蹲るようにして背後をとったアルトリウスがいた。

 あろうことか自らの腕を大地に突き刺し楔とし、地を蹴り滑走することで攻撃をいなして、更に体の勢いを利用して巨剣を抜いたのだ。

 ゆらりと腕を引き抜く。関節といわず骨が粉砕されているのか左腕はだらりと垂れ下がったままだった。

 そうして、がら空きになった背後へと巨剣がねじ込まれた。レイムの手から特大剣が落ちて地面へと転がった。背負うようにしてアルトリウスがレイムの体躯を持ち上げ口を開いた。

 

 「…………騎士よ。名は」

 「……騎士の位は捨てた。俺は……レイム。俺の名はレイムだ……高名なる騎士アルトリウスよ」

 

 御伽噺に登場する伝説的な無双の騎士を前に、ようやくレイムが口を開いた。

 喋り方を忘れてしまったかのように酷く乱れた声が途切れ途切れに言葉をつむぐ。

 

 「知らない名だが覚えておこう。我が名はアルトリウス。太陽の光の王グウィンに仕える四騎士の一人だ」

 

 レイムの背から刃を引き抜いたアルトリウスは、片腕を庇うことさえなく剣を肩に担いだ。息こそ乱れてはいても苦痛に震えることはなかった。

 倒れこむレイムは驚くべきことに立ち上がろうとしていた。闇の力がそうさせるのか、妄執が彼を突き動かしているのか。

 戦いの終結を見届けたルイーズが歩み寄ってきた。武器を抜くと、止めを刺さんと腕に力を込める。

 

 「よせ。十二分に戦ったのだから休ませてやろう」

 「しかしアルトリウス様。この男は貴方に剣を向けたのですよ」

 

 信じられないとルイーズが首を振る。突然攻撃を仕掛けてきた男をむざむざ生かしておけるほど聖人君子ではなかったのだ。

 アルトリウスはレイムに歩み寄ると剣の切っ先を背中に触れさせた。

 

 「レイム。お前からはソウルの匂いを感じる。グウィンの名に聞き覚えは無いか」

 「………グウィンか。大昔……太陽の光の王を名乗った神がいたことだけは知っている」

 

 やはりかとアルトリウスは頷くと剣を引いた。

 この男は元の世界の住民に違いない。並外れた強いソウルを感じるのだ。

 剣を大地に突き刺すと、レイムの腕を取り持ち上げる。傷口に手を宛がい容態をはかりつつ。

 

 「質問がある。私に剣を向けた理由は」

 「まやかしかと思っただけだ。騎士アルトリウスを名乗る偽者は数多い。あなたは……本物のようだ。信じられない」

 

 面白いやつだとアルトリウスが笑うとルイーズが呆れ顔で武器を収めた。

 

 「ルイーズ。私の武器を頼むぞ。この男の武器もだ」

 「……えぇぇ……」

 

 レイムを担いで村へと向かったアルトリウスの背後で、大剣やら盾やらをどう運べばいいのか分からず眉に皺を寄せるルイーズが残された。




これがやりたかっただけだろ戦闘シリーズ
ストーリーも糞もないね。仕方ないね
アルトリさんにファランの剣術もどきを使っていただきました

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