DARK SOULS The Encounter World【旧題:呼び出された世界にて】   作:キサラギ職員

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Death

 疾走。

 大地に二条の摩擦痕を描き出しつつ古びた甲冑が疾駆するや、二の腕に番えた槍という名の稲光を振るう。

 防御すれば相手の思う壺である。アッシュが取ったのは盾を背負い、両手で武器を握るという選択肢であった。大盾であれば凌げるかもしれないが、生憎持っていない。貪欲者の底無し木箱から取り出すには時間が不足していた。ならば防御は捨てるのみ。薪の王に至る血路を切り開いてきてくれた相棒に全てを託すのみである。

 

 「だから」

 

 がちりと剣と槍が交錯する。剣がしなやかに方向を捻じ曲げると、槍を打ち払っていた。

 

 「貴公の槍は見たと言った」

 

 返す刃は凡庸に見せかけた重い一撃である。奪い取ったソウルを唯自らの腕力と武器を扱う繊細さのために注ぎ込んできた男の攻撃は、いずれもが神をも屠る衝撃を伴うのだ。

 ロングソードの切り上げが古い竜狩りの騎士の脳天を掠める。

 アッシュが朗笑をこぼした。

 

 「まがい物といったな。傀儡の類か? ならば糸を焼き尽くそう!」

 

 刹那ロングソードの刃が伸張した。燃え上がる剣身は神々しいフレアを纏っていた。薙ぎ払いから繋がる突きが竜狩りの胴を抉り取った。

 アッシュは高い理力を得た魔術師ではなく、奇跡に生涯を捧げた敬虔な信徒でもない。闇に全てを投げ打った従者でもなければ、神に仇なすものに罰を与える戦士でもなかった。ただ基礎に忠実な剣術を収め怪物共を殺し続けてきただけに過ぎない。天の与えた才能なども無い。あったのは折れぬ心だけ。死のたびに相手の欠点を見抜き、最善の一撃を選び取る能力だけなのだ。

 オーンスタインを模したであろう甲冑の正面突きはたしかに神域に迫る一撃ではあった。

 しかし、アッシュとて神に等しい者たちを屠ってきた身。一度見た攻撃を二度喰らう道理などない。

 刃圏に侵入する角度と軌道を先読みして剣を置き、方角をそらし反撃しただけのことだった。あらかじめ襲い来る攻撃への対処はお手の物だ。

 が、敵は一体だけではない。腰を落とした姿勢を一切崩さず竜狩りオーンスタインの赤い瞳が肉薄していた。

 地を足のみで蹴り飛ばし滑走してきたのであると脳が理解する早く手が動いている。必殺の下段から頭部を狙う突き上げをのけぞることでかわす。槍先がぶれた。目では追跡さえ不可能な領域で突きが繰り出されていた。右目が抉り取られ、頭蓋が弾け跳ぶ。常人であれば即死していたであろう一発はしかし火の無い灰の騎士の生命を完全に摘み取ることはできなかった。

 アッシュが血しぶきを兜のスリットに散らしつつ吼えた。

 

 「まだだ……!」

 

 不死たちは生半可なことでは死なない。宿主を失ったソウルで体を変異させているからだ。たとえ巨人に踏み潰されようが死なぬ不死もいるのだ。もっとも頭部を丸ごと吹き飛ばされたならば話は別だが。

 アッシュが足で踏みとどまった。反撃に備え柄を強く握る。古い竜狩りの甲冑が槍を引こうとする様を見、即座にバックステップを踏む。

 

 「オーンスタイン! 貴公ほどのものが堕ちるか! 答えろぉぉッ!」

 

 横合いから狼が駆け抜けた。大剣を力任せに薙ぎ払うや、空中ででんぐり返りつつ大地へのたたき付けを実行していた。

 オーンスタインは確かに応えた。初撃を半歩身を引きかわすと、続く大威力の縦回転斬りを槍で弾くことで。アルトリウスの重厚な一撃に槍があらぬ方角へと飛び上がらんとした。こらえ、踏みとどまる。続くアルトリウスの速力を重視した横合いから角度を付けた刺突を槍先で絡め取った。

 

 「私は無視か?」

 

 茶化すような声が飛び込んでくる。対複数戦闘において、注意するべきは、正面の敵が自分に攻撃を仕掛けるつもりではないかもしれないということだ。もしかすると、隣の味方を狙っているのかもしれない。

 レイムが横合いからオーンスタインに斬りかかる。特大剣を振り回したかと思えば、遠心力を利用して接近する。重心を意図的に崩すことで軸足が急激にぶれた。まるで瞬間移動したかのような足運びにて肉薄すると、直剣でカチ上げる。

 槍先と剣が交錯した。ぱっと赤い血流が咲く。

 してやったり。オーンスタインに一太刀浴びせたレイムが会心の笑みを浮かべた。すぐに表情が引き締まった。地を舐めるようにして疾駆する古い竜狩りの衝撃波を伴う突撃に対処するべく特大剣を斜にかざした。

 衝突。特大剣の表面を槍が滑っていく。火花の道筋が空中を彩った。

 姿勢を崩した古い竜狩りの精細を欠いた動きをアッシュがここぞとばかりに畳み掛けた。突き。上方に抜ける斬り上げ。相手の側面を抜ける斬りかかり。全ては回転する槍捌きが受け流していた。

 冴え渡る槍術はしかし、どこか歪であった。原型を模倣したとでも言うべき動きのぎこちなさがあったのだ。

 アッシュが反撃に繰り出される一射を頭を傾けることで躱す。槍が引き戻されるよりも早く肉薄。剣を縦に柄を握り相手の胸元に密着した。剣は触れず、槍は繰り出せず、膠着状態に自ら持ち込んだのだ。取り回しの利かない距離であるならば、取りまわしの可能な武器を取り出しておけばよい。

 アッシュが左手に握っていたダガーで古い竜狩りの腹部を突き刺した。

 古い竜狩りのくぐもった悲鳴が漏れた。

 

 「………!?」

 「たかが短剣と侮ってもらっては困る!」

 

 ダガーも同じく戦場の量産品に過ぎなかった。名工の手によるものでもなく、歴史も無く、誉れもない。けれど薪の王の手に握られ多くの化け物を屠ってきた一振りである。無数のソウルと血を吸い、楔石の原盤まで使われたそれは古い竜狩りの鎧を貫通する威力を秘めていた。

 が、短剣の宿命として刃渡りが短い。よって内臓にまで達することができなかったか、跳び下がることで対処される。

 連続攻撃で仕留めるべく剣を握りなおしたアッシュは、背後に迫りつつあった食虫植物もとい人食植物に振り向きざまに一太刀浴びせ殺さざるを得なかった。

 包囲されていた。殺意もとい食欲をたぎらせた目を持たぬ植物の群れが騎士三人を取り囲んでいる。騎士だけが標的ではないのであろう。霧に覆われ始めた村の各所で人々の悲鳴が乱反射していた。さながら戦場そのものであった。

 先頭をアッシュが守る。対峙するは稀代の大英雄とその模倣品。

 左右背中合わせの位置を二人の騎士が守る。一人は狼騎士。一人は放逐された死を呼ぶ黒い鳥の騎士。

 

 「こいつらの唾液は恐らく鎧を溶かすのだろうな」

 

 アッシュは食いつかれて無残な死体を晒す衛兵達を見て言った。鎧どころか剣の金属部分までが溶けている。壁にかかった箇所は、壁もろとも溶解して内部構造を晒していた。アッシュの鎧はごく普通の騎士甲冑である。特殊な防護は施されていない。液を貰えば溶けて死ぬであろう。

 アルトリウスがうかつにも接近してきていた一体を剣の一突きで殺していた。血が鎧に付着するも溶解する様子が見られない。

 

 「なるほど……吐き出す液に注意すれば問題ないようだ」

 「数を減らすべきだな。アルトリウス、アッシュ。私がやろう。幸い化け物の相手は慣れている」

 

 レイムが人食植物の相手をかってでた。許可を得るよりも早く動いていた。特大剣で数体纏めて膾斬りに弾き飛ばすや、黒炎の球体を前方に扇状に放ち道を切り開いていく。更に何かを投擲した。弱いソウルを宿した頭蓋骨であった。目を持たない植物たちはソウルに引き寄せられレイムに誘導する方角へと群れを成して消えて行く。

 アルトリウスがアッシュの横に並ぶと剣の切っ先をオーンスタインへと突きつけた。

 

 「もはや問わない。オーンスタイン。操られているとしても貴公程の勇士を前に手加減はできない。私の全力を持って打ち倒そう」

 「フム……了解した。私はまがい物とやらを始末する」

 

 言うなり獅子が駆けた。四人の戦士が衝突する。

 アッシュは自らに向かってくる正面突きをダガーとロングソードを交差し上方に逸らし受け止めていた。二刀流による交差受けは栄えるのか絵画に頻繁に登場する場面ではあるが、つまるところ両手の武器を一本の武器に制圧されている光景に他ならない。あえてアッシュがこの交差受けを選択したのは次の行動の為であった。長剣で槍を弾き飛ばす。竜狩りの模倣たる人形の両手が跳ね上がった。たかが腕一本で相手の両手を跳ね除けてみせる膂力たるや尋常ではなかった。

 接近と同時に腹部を狙いダガーを突き出す。古い竜狩りが左手で逸らしていた。互いに跳び下がると円を描くように対峙した。

 

 「オーンスタイン!」

 「……ウゥゥゥッ!」

 

 狼と獅子が吼えた。

 二人の合間を金色の閃光と青い風が衝突しつつ突き抜けていく。

 繰り出される槍衾を剣をしならせて逸らし盾で殴りつける。足元を薙ぐ槍を跳び越してかわすと、空中で縦斬りを仕掛けた。着地と同時に盾で槍を逸らし、中段回転斬りからの跳び下がり斬りを放つ。

 剣の応酬を後ずさりではなく前に槍を突き出すことで応じた。回転斬りに合わせて槍の分岐を巧に操りいなす。薙ぎ払いには穂先にて応じる。隙を見つけたならば即座に突きの弾幕を叩きつけていく。

 二色が交差するたびに衝撃によって大地にひび割れが描き出されていた。

 アルトリウスが刃圏を侵す穂先をかわす――が、侵入と同時に加速したためにかわしきれず肩を抉られた。去りいく槍の分岐を盾の淵で捕まえると外側に弾き、剣を迅速に走らせた。柄と刃が鬩ぎ合ったのも僅かな瞬間だけ。

 オーンスタインが奇跡を行使したのだ。フォース。矢弾きの奇跡は敵対者を遠ざけるだけの威力を秘めていた。

 

 「ちぃっ」

 

 アルトリウスの肢体が弾かれた。途端にオーンスタインが槍を媒体に奇跡を行使する。

 白い力場が槍に収束していく。もやのような作動を見てアルトリウスは理解する。投擲する奇跡を貯めているのであると。

 奇跡とは神々の物語を短縮化した物語であるという。物語は端折られ、時に歪められ、アノールロンドでさえ知るものの無い術が数多くあったのだと言われている。

 フォースの亜流。放つフォースと名づけられた術――の亜流がオーンスタインの槍を媒体に作動した。噴出される奇跡の波動が一切合財を浚っていく。石畳が捲れ上がり、射線上の家々が根元から吹き飛ばされる。神の怒りを省略したフォースの更に別の側面を描いたそれは竜のブレスにも匹敵する被害を瞬間的にもたらしたのだ。

 

 「おおおおおぉぉ!」

 

 アルトリウスは果敢に挑みかかっていた。剣を刺し、盾で奇跡を受け止める。体面など投げ捨てて声を張り上げこらえる。青い外套の裾が抉り取られていく。大地さえ流水に晒される柔土が如くひしゃげ、秒を追うごとにアルトリウスという障害物の背面以外の物体が嵐が如き奔流に粉砕されていった。

 神威を顕す大威力をしても盾は動じなかった。かすかに輝く燐光が破滅的な害意を祓っていたのだ。所有者に加護をもたらす盾は、闇の眷属を屠ってきた誉れ高い大剣に劣るものではなかったのだ。

 奇跡の勢いが弱まり始めた。力の潮流が渦巻き瓦礫を乱雑に跳ね飛ばしていく。

 オーンスタインが構えを取った。両手で柄を握り腰を落とす。矛先は地面に触れんばかりの位置で微動だにしていなかった。

 轟く雷光があった。それは十字の形状をしていた。槍という武器の名を取った雷が地に深い痕跡を刻みつつ風さえ置いてきぼりにした滑走を取った。槍先が地を舐める。石畳数十枚が跳ね上げられると散弾となってアルトリウスを襲う。

 守れば負ける。槍をまともに受ければ崩されるのは確定している。石畳の投擲が伏線に過ぎないことは明らかだ。

 だが、守らねば負ける。鏃のような速度で飛翔してくる石畳をまともに喰らえば行動が著しく制限されるであろう。

 大剣が空間に瞬いた。初弾を打ち払い、流れる動作にて十発もの障害を逸らす。数枚纏めて大盾が逆の方角へと弾き返した。

 飛来する脅威はしかし獅子が放った正確無比な薙ぎ払いの連続が粉々に打ち砕いていた。破片が全て地面へ回帰する中、獅子の騎士は狼を狩らんと疾駆していた。

 交錯。槍の頭部心臓脾臓膝を狙った突きはしかし大剣で受け流される。

 

 「……!」

 

 獅子の吐息に驚愕が混じった。

 あろうことか槍は、狼が左手に握った剣をシミターか何かのように指先で操ることによって生み出される可憐な刃運びで防がれていた。見切られている。新たな攻撃を仕掛けんと獅子が地を脚部でほじった。

 アルトリウスは、オーンスタインの手元が霞んだのを見た。横っ腹へ殺到する刺突をかわしきれずに受けてしまう。動作さえ読み取れなかった。苦痛に呻くことは無い。騎士アルトリウスは太刀を受けようが、矢を受けようが、怯むことはありえない。

 狼の鎧を貫通し血肉を啜る槍先が俄かに炸裂した。

 雷が轟いた。狼の鎧が弾け飛ぶ。

 アルトリウスが斬り下がる。剣の軌道上に騎士はなく。着地すると、視線をかすかに落とす。伝う血液が水溜りを作ろうとしていた。

 アルトリウスがため息を吐くとかすかに肩を緩めた。

 

 「流石だオーンスタイン。これが試合ならばよかった」

 「………」

 

 手負いの騎士アルトリウスといまだ健在な竜狩りオーンスタイン。

 腹部への一撃はかろうじて内臓を避けていたが、流血は避けられない。

 アルトリウスは傷口を押さえようともせず二の足で背を伸ばし対峙した。だからどうしたのだと言わんばかりに盾を構え、剣を担ぐ。たとえ片腕を欠損しようとも後退はありえない。背中を向けては死ねない。オーンスタインも理解していたであろう。理解する理性が残っていれば。

 両者が交差した。空中に咲く火花の数は指数関数的に増大していく。がちりと刃と刃が炸裂し、跳ね上がった。

 獅子の肩が引き裂かれた。兜に斬撃の痕跡が残る。切断面は高速で物体が通過したことを示すように白熱していた。そして、狼と同じく腹部に刺突が残されていた。鎧から血液が滴っている。

 対するアルトリウスは肩どころか脚部や首筋にまで傷跡を受けていた。鎧に纏うマントが赤く染まっている。鎧の各所が溶けていた。槍の突きと同時に繰り出される雷が発する高温が鎧を浸食していたのだ。盾を前に、剣を側面にぴたりと付けて構えを取る。槍によってねじ切られた青い兜の奥で精悍な顔立ちが睨みを利かせていた。

 

 「次で仕舞いにしようか」

 

 静かな声でアルトリウスが言った。剣戟の凄まじさを物語るかのように、周囲の建物はことごとく倒壊していた。地面には無数の切断面を晒す建材が転がっており、アルトリウスとオーンスタインの戦いに横槍を入れようとしたはぐれ人食植物だったミンチが転がっている。

 オーンスタインは答えない。破壊された兜から覗く赤い瞳が爛々とした戦意を放出している。

 両者の距離は互いの間合いにあった。常人であれば弓や魔術に頼ろうかという距離。家数件分を挟んでいたが、名だたる両者にとって既に有効射程に等しかった。

 両者の間に一羽の虫が迷い込んだ。虫はきらきらとした美しい瞳にて風景を観察している。のんきに地面に着地した。

 それが引き金となった。

 オーンスタインは槍で敵を殺そうとし、赤い風景へと迷い込んでいた。

 胸元に高温の激痛が走った。たまらず吐血する。

 

 「………グ」

 

 アルトリウスはまるで王に謁見するかのような片膝をついた姿勢で固まっていた。突き出された槍をかがむことでかわし、胸元に向けて剣を突き出したままで。

 オーンスタインの顔はべっとりと血液で汚れていた。

 流血を盾に這わせ投擲することで視界を奪い――反撃の刺突をのけぞりつつ膝を突きかわし懐に潜り込み刃を突き刺す。アルトリウスが取った行動はくしくも深淵に飲まれた後に挑みかかってきた偉大なソウルを宿す男へ放った闇の汚泥の投擲によく似ていた。

 倒れ掛かるオーンスタインの体をアルトリウスが支えた。剣を抜く。穿たれた腹部から血流が噴出する。

 オーンスタインの瞳から赤い光が失われていた。震える手でアルトリウスの肩を掴む。

 

 「済まなかった……許してくれ友よ。私は……あやつに……あの竜に……」

 「………いいんだ。我が友オーンスタイン……竜とは? 黒竜のことか?」

 

 オーンスタインが血を吐く。度重なる激戦と腹部を貫く傷によって生命は既に失われようとしていたのだ。もはや幾許も無い命を使い友に言葉を託さんとしていた。声量は夏虫でさえうるさく感じられるほどであった。

 アルトリウスが身をかがめ耳を近寄せた。

 

 「あやつは強い戦士を求めて霧の中を徘徊している……あの怪物が呼び出したものどもを次々と……」

 「怪物とは……」

 「霧の怪物だ……あれは……こ、ころせない……殺すことなどできない………眠らせるしかないのだ………あぁ皆……」

 

 震える手が空に伸ばされていく。許しを求めるかのように。

 

 「オーンスタイン……」

 「許せ…………アルトリウス……騎士たち、よ……あとは貴公らの役割………だ……」

 

 オーンスタインの手が下りていく。

 アルトリウスはオーンスタインを横たえると、盾をその場に置いた。自らの剣をオーンスタインの腹部に添える。

 刻一刻と失われる生命。心臓を破壊されては蘇生は不可能だ。強いソウルによって生命はかろうじて繋ぎとめられているに過ぎなかった。奇跡によって蘇生させようにも、アルトリウスは死の一歩手前から救うだけの術を行使できない。都合よく女神の祝福が落ちているはずもなかった。

 オーンスタインの吐息が細く長くなっていく。瞳から光が失われつつあった。

 アルトリウスは腹部に、地面さえ貫くほどに深く剣を突き刺し介錯した。

 オーンスタインの体からソウルが抜けていくと、ことごとくがアルトリウスの体に染み込んでいった。剣を突き刺したままアルトリウスは動かない。死に祈りを捧げているのだろう。

 遠くでは雷の音が響いていた。剣戟の音。アッシュと古い竜狩りが争っているのだろう。

 加勢するべきだろうが、足が動かなかった。

 剣戟が遠ざかっていく。村を覆い尽くしていた霧が晴れて行く。太陽光が差し込み雲の暗影に沿ってカーテンを作り出していた。

 

 「すまない……逃がしたようだ」

 

 左腕を完全に炭と化したアッシュが歩いてくると面目なさそうに頭を下げていた。視線を上げるとアルトリウスがオーンスタインの亡骸に剣を突き立てていた。血まみれの二人は壮絶な戦いを経ているにも関わらず、絵画のように美しく感じられた。

 アルトリウスが面を上げると、首を振った。言葉は無かった。

 

 「そうか………実はな……」

 

 アッシュが瞑目した。騎士の最期に心の中で祈りを捧げて。

言うべきか言わざるべきか逡巡したのもかすかな時間であった。歩み寄ると口を開く。

 

 「霧の怪物に関する手掛かりを掴んだかもしれん」

 

 アッシュの言葉にアルトリウスが目を剥いた。

 物語はここで少し遡ることになる。




【霞んだ竜狩りのソウル】
力を帯びた、異形のソウルの一つ
非常に強い力を感じる

始まりの時代からあったという竜狩りの騎士のソウル
霧の力と呪縛に蝕まれ輝ける力は失われている

使用で莫大なソウルを得るか、
特別な武器に転じることができる。

【風の奔流】
「フォース」が転じた奇跡
広範囲に影響をもたらす風の奔流を放つ

騎士オーンスタインが仕えた太陽の長子は風の友を愛したというが、
故に名を禁じられ追放された




R.I.P オーンスタイン。
アルトリウスの行動は神代の弔い兼介錯です。

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