東方忘鏡録   作:雨の日の河童

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逃げるは鏡、追うは天狗

天狗の少女視点

 

「なにが・あ・・・。・い・鞍馬・・・しっかり・・。鞍・!聞こえておるか、鞍馬!」

「うるさい!耳元で叫ばないで!」

あまりにも大きな声で私は目を覚ました。

そして、自身の変化に気づく。身体は重く感じるが毒の気持ち悪さなくなっておりむしろ、すっきりとしていた。

 

「良かった!妖力も弱く、いくら呼んでもゆすっても返事がなくてこのまま死ぬのではないかと冷や冷やしたぞ・・・。鞍馬、一体何があったのだ?ゆっくりで良いから教えてくれ」

「太郎坊・・・。ここは何処ですか?あと、顔が近すぎる」

 

大柄の大天狗は嬉しそうにしながらも少し心配した顔で私を見ていた。この男の名は太郎坊。私と同じ天魔候補の中でもライバルであり初めての友でもある。

 

「おお!すまん。まず場所だが、ここはわれらの里のなかだ。そして、この家はお主が住む家だ。・・・新しき天魔様」

「うん?」

 

いま、太郎坊は何と言った?天魔様?私が?

 

「・・・ちゃんと説明して」

「ん?だから、お主が誰よりも早く天魔となる試練を乗り越え、この山を治める新しき天魔となったのだ。いやー、儂も鼻が高い!天狗だけにな!あっはっはっは!」

「うるさい!それに、あんまりおもしろくないです!・・・そうじゃなくて、私は毒で死にかけていたのに、なぜ何事も無く生きているのか教えてください」

 

そう、あの毒は確実に私の命を蝕み死の淵まで追い込んだ。それなのに、私の身体は、妖力不足で重いだけで毒の後遺症など残っていない。

 

「うむ!それはな?儂の能力でお主の危機を感じ取り急いで共を連れ向かったからのう。だが・・・、毒とな?儂が来た時には面妖な人間がおっただけで何もなかったぞ?」

「面妖な人間?」

私を助けたのだろうか?よく分からないが一度話がしたい。

 

「その人をここに連れてきて」

そういうと、困ったように頬をかく太郎坊。

・・・まさか。

「い、いやな?儂は止めたぞ?だが、ともに連れてきた奴らが・・な・・・」

「こら、目をそらさない。報告してください、太郎坊。天魔として命じます」

「・・・うむ。お主に手をかけた下手人だと思い盛大に攻撃したのだが逃げられてしまい。分からん」

 

はぁ・・・。まあ、死んでないようですし機会があれば礼をいいましょう。

里の同胞より会ったこともない名も知らぬ人間に助けられるとは・・・。

「それで、鞍馬よ。誰にやられた?」

真剣な太郎坊に私の身に起こったことを話すことにした。

・・・心の中で私を助けてくれた恩人に感謝の言葉を送りながら。

 

 

 

 

付喪神視点

 

 

         ・・・・・・・付喪神休憩中・・・・・・・

 

 

ゼエ、はあ、ゼエ、はあ・・・。

倒れていた天狗(先ほど使った能力でどんな妖怪か知った)の少女助けたらその仲間に風の弾幕を撃たれた。しかも、殺す気で。

運よく避けたその後も、しつこく追撃してきてずぅっと、走り続け壮大な逃走劇の果て何とか巻くことができた。

おかげで夕暮れから夜を越え、朝日が見えかけている。

山じゃなければ詰んでいたな・・・。

逃げきれたのは森が深い場所だったため逃げる事ができた。間違っても天狗より優れているわけではない。

 

 

 

・・・さて、危機を脱した今の俺が言いたいことは何でしょうか?そ・れ・は、

「ふーざーけーてーんじゃ、ねえええぇぇぇえええ!!!」

まさに、怒髪冠を衝く。今の俺ならきっと神様にだって文句を吐けるだろ。なぜなら、

「有り得ないだろ!?普通、確認するだろ!?もしくは、手加減した攻撃をしてくるだろ!?なんで、最初から殺す気満々で攻撃してくるんだよ。あの常識知らず共が・・・!!」

本当、怖い。天狗、怖い。次からは見た瞬間逃げる事にする。

そうして、天狗から追われて疲れた身体を近くにある木に背を預けて眠るのだった。

 

 

縁とは案外切れないもので、またいつの日か彼らに会うでしょ。

始まって早々に大変な旅路になりましたが・・・。

はてさて、この付喪神は無事に都へ着くことが出来るのでしょうか。

 

 


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