白狼天狗の少女に担がれて飛ぶこと一分。
目的の場所に着いたようだ。
・・・しかし、担がれるとは思わなかった。
俺は、少女にそのままゆっくりと下ろされた。
「では、これから大天狗様にお前を殺すか否かを決めて貰う。覚悟はいいな?」
「・・・・・・」
俺は無言で肯定する。
実際、ここで嫌だと言っても合わなければならないのだろう。それに、今の俺ではここから逃げきれる自信はない。
白狼天狗の少女は、うむっと満足そうにしている。
っと聞き忘れていたことが。
「なぁ、お前の名前を教えてくれないか?」
「む?」
「いや、助けてくれた恩人の名前を聞いておきたいだけだ。もしかしたら、殺されるかもしれないしな。心残りは作りたくないから」
そう、天狗のほとんどは自尊心が高く融通が利かない。
大天狗とやらが殺せというなら天狗達は殺しに来るだろう。勿論、死ぬつもりなんかは米粒ほどもないが弱っている状態では何が起こるかわからない。なら、心残りはなくしておきたいので名を聞いた。
少女は少し考え、
「わかった。私の名は・・・・」
「あやや!!こんなところに人間ですか!?」
答えようとして空から邪魔が入った。
「射命丸様・・・」
呆れた様な声でその烏天狗の少女に声をかける。
「こんにちは、椛。お仕事お疲れさま」
烏天狗の少女は舞い降りてこちらを観察するように眺める。
「ふ~む。外の人ですかね?こんにちは、天狗の里ようこそ!馬鹿な人間さん!!」
「・・・・・・・」
コイツ、滅茶苦茶失礼だな。
「はぁ、射命丸様。今から大天狗様に・・・」
「会いに行くんでしょ?なら、私も用事があるからついて行くわ」
そして、あれよあれよという間に烏天狗の少女が加わり大天狗の部屋に通された。
広い和室に高そうな壺や茶器、刀などが大切飾られている。
武家屋敷の様だな。
あまり、きょろきょろするのも何だか子供みたいなので自重する。
「もうそろそろお着きになる。顔を下げていろ」
そう言われて大人しく顔下げる。すると、誰かが部屋に入ってくる。
そして、
「顔をあげよ」
聞いたことの有る声が聞こえた。
大天狗 幹部視点
まったく、こんな忙しい時にまた面倒ごとが・・・。
昨晩、八雲紫から幻想郷の新たなルール『弾幕ごっこ』なるものを天魔様に提案されその後、儂がそのルールの説明を引き受け先ほど漸く一部の里の頑固者達を説得し終えたばかりなのに今度は人間がこの里の深くまで侵入したらしい。
「はあ・・・」
天魔様は自室で自身の『スペルカード』やらを作るのに忙しいしのぅ・・・。報告の義務はあるが邪魔するのも悪い。それに、射命丸の奴に異変を起こす吸血鬼共の偵察を任せておったし、結局、儂が裁いても問題ないじゃろうって。
ふむ。それにしても、人里の人間がこの妖怪の山に入るとは・・・。たぶん、八雲が迷わせた外の人間じゃな。いたらんことをしよって・・・。
さて、下手人の顔を拝見するかの。
部屋に入ると射命丸と哨戒を任せてある白狼天狗、そして和服の男。
「顔をあげよ」
「「はっ」
威厳ある声と少しばかり妖力で威圧する。
男の肩がびくっと跳ね上がるのがわかった。
が、顔をあげようとしない。
「?何をしているのだ。早く顔をあげろ・・・!」
異変に気付いた白狼天狗は小声で罪人の男を促す。
すると、漸く顔をあげる罪人。
「あ」
なんとも自身の口から間抜けな声が漏れた。
「よ、よう。ひ、久し振りだな」
その男に覚えがある。
昔、それもとんでもなく昔。
天魔となった鞍馬を助けてくれたのにも関わらず間違えて殺そうとして逃げられた。
「あー!!!!?」
天狗の里に大きな声が響き渡ったのだった。
さて、運が良いのか悪いのか。鏡はトラウマと相対するのであった。