東方忘鏡録   作:雨の日の河童

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天狗の里へ

白狼天狗視点

それを見つけたのは偶然だった。

午前の見回りを終え、たまには歩いて戻ろうかなぁと思い空から地上に降りた。

そして、天狗の里に向かう道の途中にそれはいた。

苦しそうな表情でゆっくりと歩きながら進む人間。

こんな場所まで人間が侵入していた事に驚きながらも私はその者を捕縛。

意外なことに無抵抗だった。

不思議だなと思いつつ大天狗様の所に連れていく。

本来なら、警告して人里に帰しているのだが・・・今回は別だ。

 

「おい、貴様どうやってこの場所まで入ってきた。答えろ」

「・・・」

 

む、反応なし。

 

人間は私の言葉に返答しないうえに、その歩みは酷く遅い。

 

イライラする。

まるで、私のことを歯牙にもかけない様な態度。人間の癖に生意気だ。

 

私は自分を、自分たち『白狼天狗』を馬鹿にされているような気がしたので少し脅すことにした。

 

歩みを止め、後ろに振り返り腰の刀に手を掛けようとして、異変に気付く。

 

「・・・おい、お前、大丈夫か?」

 

人間の顔は、青く目の焦点も定まっていない。そう思った瞬間、いきなりぶっ倒れた。

 

「な!?おい、大丈夫かしっかりしろ!!」

 

身体を揺するも反応もなく、顔を叩いても意識は戻らない。

 

「ああ、もう!!」

 

仕方なしに、人間を担ぎ上げ急いで里に向かう。

 

本当に困ったやつだ。苦しいなら声をかければいいのに。

 

八咫鏡視点

・・・・・・・あれ?

 

目を覚ますと天井が見えた。

どうやら、捕まったあと倒れてしまったらしい。

根拠としては白狼天狗に捕まった後、歩いて数分後の記憶が曖昧だ。

ゆっくりと息を吸い、吐く。また、吸い込み、吐く。これを繰り返し身体の感覚を確認。

 

最初の状態に比べると楽になった。

錆びついた歯車のように感じた身体は今では正常に稼働する。

ただ、やはり能力だけは改善しない。相手の心を読めなくなってしまった様だ。

かなりの痛手だ。

 

「目が覚めたか?」

 

考えを求めている最中に隣から声が聞こえた。

其処には、先程の白狼天狗が綺麗に正座していた。その横には水桶がある。

 

「・・・ありがとう、看病してくれて」

 

白狼天狗に礼を言う。

白狼天狗は一瞬ぽかんとしながらも頷いた。

 

先程は、疲労のあまり観察できなかったが少女であることに気づいた。

気づかぬうちに目も霞んでいたのだろう。

 

「で、人間気分はどうだ?」

 

上から偉そうに言うくせにその内容が他人を気遣う言葉。

この少女は根っからの善人なのだと感じた。

 

「ああ、だいぶ楽になった。重ねて感謝する」

「・・・貴様、私が怖くないのか?それとも下っ端天狗だと馬鹿にしているのか?」

 

もう一度、礼を言うと呆れた顔をされた。

 

「む。怖いさ。今でも心臓が痛いほどにな。けど、助けられて礼をしないのは間違っているだろ」

 

実際、天狗は怖い。

心臓はいつものリズムより速く脈打ち、頭の隅では攻撃されないかビクビクしている。

 

白狼天狗の少女はこちらの眼をジッと見る。まるで、嘘かどうか確かめている様に。

 

「・・・まぁ、いい。それじゃあ、私についてこい」

「待ってくれ。質問なんだが・・・」

「駄目だ。後にしろ」

 

白狼天狗の少女はそのまま出口に向かい外に出ていった。

 

はあ・・・。それにしても天狗か。あの少女は元気にしているだろうか。

 

外に出ると、お前は飛べないだろうからと白狼天狗の少女に言われ、そのまま担がれそのまま飛んだ。

 

「お、おい」

「しゃべるな、舌をかむぞ」

 

そういって結局その大天狗様の場所まで担がれるのであった。

 

 




もしかすると書き直すかもしれません。

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