東方忘鏡録   作:雨の日の河童

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中二病再び!!


名は響き、鏡は少女を神とする

 

目を覚ますと夜だった。

 

「八咫?起きましたか。気分はどうです?」

「ああ、大丈夫だ。悪いな、迷惑をかけて・・・」

 

いえいえ、と真は少しだけ笑って許してくれた。

 

ついでに、俺が寝た後の事を聞き少し驚いた。

真に話を聞くとどうやら、鬼との戦いで深手を負った俺は二日ほど眠っていたらしい。

何でも、大分消耗していた様で何をしても起きなかったらしい。

 

「何をしたんだ?」

「何だと思います?」

 

興味本位で聞くとにやにやしながらこちらの顔を見て尋ねる真。

何だか聞くと後悔しそうなのでやめておいた。知らぬが仏と言葉もあるくらいだ。

無理に知らなくても良いだろう。

 

真は鬼に荒らされた村を復興させるためいろいろ手伝い、あとは村人たちで何とかなる域まで回復しているようだ。

 

「もうこの村にあのような悲劇は起こさせません」

 

陰陽術を組み込んだ村に仕上げているようで低級どころか鬼ですら入るのにてこずる天然の結界を張ったらしくその顔は満足げである。

 

・・・なぜだか、無性にほっぺをつねりたくなった。

 

村の人々からは神様のように崇められている様だ。

 

これなら・・・。あの術が出来る可能性があるな。

 

「なぁ、真」

「はい?なんですか、八咫」

「長門行きながら困っている人の手助けをしないか?」

「?別に、いいですけど・・・」

 

良し!!これで最初の関門は突破した。

残る問題は真がどこまで噂になるか。ここだけだな・・・。

 

「あの、八咫?その病み上がりなのはわかっているのですが・・・」

「ん?俺に出来ることなら何でも言ってくれ。真が一番頑張っているからな」

「・・・それじゃあ」

 

もぞもぞと布団の中に入ってくる真。そして、俺の腕を枕にして嬉しそうに目をつむった。

 

ふむ?何がそんなにいいのか分からんが、まぁいいか。

 

そして、真と一緒に眠りについたのだった。

 

 

朝。村の人々は忙しそうにしながらも真と俺が旅立つ日に村総出で見送ってくれた。

 

そして、あの村での出来事が過去になるほど色々な場所を真と共に旅をした。

 

もう、真と旅をしてどれくらいたっただろうか。

ある時は、妖怪を幻想郷に勧誘し、またある時は、人々を助けた。

 

旅の途中、何度か八雲が現れ幻想郷に入った妖怪や人間の数を教えてくれた。

俺の計画には気づいていないだろうがあの何もかも知っているような笑いと眼だけはなれない。

 

それに、八雲が出てくるたびに真が殺気立つため大変なのだ。

 

話がそれたが今では、真の名がかなりの範囲に知られるようになった。

最初の頃は、ただの退魔士としか認識されていなかったが今では『救いの巫女』など呼ばれている。

 

真はその呼び名があまり好きではないようだが。

 

これだけ溜まったのだ。術式を完成させるには十分すぎる。

 

「真、今日の夜に術を施すからな」

「わかった」

 

子どもだった真は今では凛とした女性になっていた。

綺麗な黒髪は後ろにまとめて結ばれ、顔色は昔と比べ健康的になった。

背丈も昔は丁度お腹の当たりだったのに今では、俺とあまり変わらない。

 

「・・・怖くないか」

「私は、八咫を信じているから平気です」

「・・・そうか。なら、絶対成功させる」

 

俺の心の中では未だに不安があったのだがそれも今吹き飛んだ。

真の信頼を裏切らないためにも、今夜の術だけは全霊を捧げる。

 

 

 

そして、遂に夜になった。

 

空には雲一つなく満月が俺達を照らす。

 

「真。これを口に含んでくれ」

 

綺麗に澄んだ液体を真に渡す。

俺は、何の術を施すか真には伝えていない。正確には、伝えてはいけないのだ。

普通の人間ならまず嫌がって失敗するだろう。

だが、

 

「ん」

 

何のためらいもなく口に含んでくれた。

 

「・・・ふぅ。それじゃあ、いくぞ」

 

緊張で暴れる鼓動を落ち着かせる。

真は目だけで返事を返してくれた。

 

「『天と地 有と無 万物は対極の調和・・・』」

 

祝詞に今まで真と俺が集めた『信仰』を混ぜ、更に複雑な術を組み込む。

 

「『天道に抗うべからず、理に則り流れよ 人と神 同じものなり・・・』」

 

地面は陰陽一体の陣が姿を現す。

その瞬間、頭に激痛が走る。

 

それもそのはず、この術は転生の儀。形式は正しく理に逆らっていない。

だがこれは神に生るためのもの。ある特定の条件でしかできないこと。

神に祝福された者しかできないことを禁術で無理矢理当てはめやっているのだ。

術師だけではなくその対象者までもこの痛みは起きるが、真にそんな痛みを与えさせるほど俺は馬鹿ではない。

予め、軽減する術と身代わりの術でほとんど痛みはないだろう。

「『反転 表裏 陰陽 我が名を使い門と為す 開け』」

 

一気に負担が脳にかかり目の前が白くなったり黒くなったりする。

雑音が耳に鳴り響く。

その音はまるで、この世の道理を力技で無理矢理こじ開ける愚か者に死を与える呪詛。

心臓を直接捕まれたような感覚が襲い掛かる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だが、俺の勝ちだ。

 

今の一節で術は完成した。

その証拠に真を中心に清らかな空気が溢れだす。

 

「八咫、これはいったい・・・」

 

戸惑った声に苦笑いで答える。

 

「成功した・・・みたいだな。今日から真は神様だよ」

 

まあ、格は低いだろう。何だか少し格好がつかないがいいか。

 

「神様・・・ですか。なら、私はこれからも八咫の隣に入れるんですよね?」

「もちろん、お前がいない旅は考えられないからな。これからも末永く頼む、真」

「はい!!」

 

嬉しそうに、泣きそうに、笑いそうな顔で返事が返ってきた。

さあ、帰るとしよう。今日は疲れたがいい夢が見れそうだ。

 

 

そう思って真に声をかけようとして

 

ニガサナイヨ?ヨ・リ・シ・ロ?

 

先程の雑音が聞こえ意識が途絶えた。

 




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