「それで、俺に何を手伝えって?悪いがはっきり言うと役に立たないぞ、俺」
「あらあら、そんなに自分を低く見積もらない方がいいわよ。貴方の能力はとても優秀なのですから」
さて、八雲の願いとやらは何だろうか。少なくともこいつは、俺を納得させるだけの理由を持っているはずだ。じゃなきゃ、いきなり自身の力を見せつけず気づく間もなく俺を半殺しにして無理矢理いうことを聞かせている。そっちの方が簡単だからな。
「・・・貴方達は何時までこの世に妖怪や神がいられると思う?・・・私の予想では後千年もせずに私たちは人に忘れ去られ消える道を歩むことでしょう。そこで私は、忘れ去られる者たちの楽園を作っているのです。貴方にはそこに住む者達の選別と勧誘をして貰いたいのです」
「なるほど…」
嘘はついていないがまだ隠しているな?さて、どうやって聞くか・・・。
「すみません、八雲さん。聞きたいことがあるのですがよろしいですか?」
っと俺が言う前に真が尋ねたか。
「ええ、どうぞ。わからないことがあるのなら遠慮なく聞いてくださって構いませんわ」
八雲は微笑みながら傘をくるくると回している。
「貴方は自分が矛盾したことを言っているのに気づいていますか?神も妖も人がいなくては成立しません。妖は人に害をなし存在を保ち、神は人を守ることで信仰を集める。神と妖は対極の存在。共生できるわけがありません」
その通りなのだ。俺達が常にいる場所に来るわけがない。
「できますわ。現に今、しているではありませんか?」
「む」
真が唸る。確かにできているな。
「人里を作りそこに居る限り安全を提供します。飢えもなく税もない。破格の待遇でしょ?」
飢え。俺が生まれた都も病気のせいで廃れたんじゃない。最初は、食べる物が無くなりそこから餓死した者達が出てきて病気が流行した。その飢えがないのなら人は必ず集まる。
「なら選別する必要もないだろ?」
「私がつくる楽園『幻想郷』はすべてを受け入れますわ。それは優しくも、残酷なこと。何をしてもいいですが、幻想郷に害があるなら直ぐに除去する。その手間を省きたいの」
扇子を開き口元を隠す八雲。
はあ・・・、つまり俺がやることは雑用ということか。
「あのな・・・、俺じゃなくてもいいじゃねぇか、それ」
「いいえ。貴方にしかできないことですわ。貴方の能力でしか・・・ね」
「断りましょう、八咫。こちらに何も益がありません。それに・・・」
そうだな。はっきりいって真を危険にさらす願いは受けられない。この妖怪を買いかぶり過ぎたか?てっきり、頭が切れる奴だと思ったが・・・。
俺は、断ろうとして、
「あら、貴方はいいのかしら?」
八雲が言葉を遮る。
「何が?」
いいとは?何のことを話しているのか分からない。
今までその場を一歩も動かずにいた八雲がこちらに近づく。そして、こちらの眼を見て囁いた。その声はまるで耳元で話されたかのように鮮明に聞こえた。
「人間は儚い生き物よ。はたして、貴方はその子が死んだときどうするのかしら?」
「え?」
真が死ぬ?それは、駄目だ。あれだけ苦しみを味わったのだ。その数十倍以上は幸せにならないと納得できない。
「私なら彼女の寿命を延ばすことが出来るわ。それこそ、私達と同じくらい。もちろん、彼女の一番、最盛期の姿でね。ねぇ、これでも受けないの?また、貴方は・・・なるの?」
目の前がぐるぐる回る。俺は・・・
真視点
「八咫?どうしました」
断ろうとしていきなり八咫が固まった。
その顔は焦りと恐怖を隠しているような無表情。
しまった!こいつ八咫に何か吹き込んだな!
私は、キッっと八雲を睨んだ。
「お前、八咫に何をした!」
殺気を滲ませ霊符を構える。
だが、八雲は微笑むだけ。
「答えろ。返答次第では、私はお前を・・・!!」
「・・・待ってくれ、真。八雲、答えは今すぐか?」
「八咫!?」
顔色はまだ悪いがいつもの八咫に戻った。でも・・・
「いいえ。明日の朝で構わない。ゆっくり考えなさい。それじゃあ、また明日会いましょう、八咫鏡」
そういって、空間に裂け目を作り、姿を消した。
「八咫、大丈夫ですか?私はどうしたらいいですか?」
とにかく今は、八咫を優先することにした。だが、八咫が私の肩を優しく掴み目線を合わせてきた。
「八咫?」
「真、もし、俺達妖怪みたいに長く生きれるとしたら?お前はどうしたい?」
「八咫、もしかして・・・」
八雲が持ちかけたものが分かったような気がする。
「俺は、妖怪だがお前の式でもある。お前が決めてくれ」
「八咫はどうしたいのですか?」
苦しそうな顔してその顔を俯かせ私に聞く。もし、八咫にとって私が邪魔ならその時は・・・。
「俺は、お前と一緒に旅をしたい。お前が心から幸せと思うまでずっと。色々な場所を見たいし見せたい。だから、俺の最低なわがままをいうなら長く生きてほしい・・・」
「そうですか。なら、答えは決まっていますね」
「え?」
驚いた顔でこちらを見る八咫。
「八咫が言ったでしょうに。私が離れるまで側にいるのでしょ?私も離れるつもりはありませんから。だから、長く八咫と居れるなら問題ないですよ」
私の幸せを願う心と自身の欲と天秤にかけ結局私に傾いた。だから、私に決めて貰ったのでしょう。自身の願いは最低と罵りながらそれでも、諦められなかったようですが。
案外、寂しがりな一面もあるのですね。
「そうか。わかった。けど本当にいいのか、今ならまだ・・・」
「くどいですよ、八咫。それとも、やはり私がいない方が・・・」
「そんなことないぞ!俺は凄く嬉しいからな」
あらあら、全部言い切る前に言葉を遮るとは。
まったく、
「それでは、八咫。これからもよろしくお願いしますよ」
八咫鏡視点
「それでは、八咫。これからもよろしくお願いしますよ」
笑顔でこちらに笑いかけてくる真を見て心底安堵する自分がいて驚いた。
なんだ、これじゃ脆いなど呼べないな、俺も。
「ああ、これからも頼む」
俺達は明日に備える為また昨日の茶屋に戻った。
八雲紫視点
ようやく、私の夢を実現するための駒はそろった。
後は、あの二人が人妖問わず楽園に招き入れれば基礎は完成する。
「そのときには、八咫鏡には消えてもらいましょう」
代わりにあの子だけは助けてあげるとしましょう。
スキマの妖怪はこれから起こることを楽しみにしながら眠りについた。