東方忘鏡録   作:雨の日の河童

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初めての二次創作です。お手柔らかにお願いします。


生まれるは付喪神

昔々、今からちょうど百年前の出来事です。

とある貴族が自分の姿を一番綺麗に写す雅な和鏡を町の職人達に作らせました。

貴族は見事、自分を満足させる一品が出来たら金一封を与えると宣言して。

その日から、職人達は寝る間を惜しんで和鏡を作り続けたそうです。そして、様々な和鏡の中からこの時代の職人達の誰もが認めるそれは、それは素晴らしい和鏡が貴族に献上されました。

「なんと!!これほど綺麗で雅な物はない!」

貴族はその鏡のあまりの出来の良さに驚き、作った職人達だけではなく皆に褒美を取らせましたとさ。めでたしめでたし。

 

 

・・・しかし、この話には続きがあるのです。

 

実はその貴族、飽きっぽい性格の持ち主で結局その和鏡を使うのがもったいないといって生活には別の和鏡を使い蔵にいれたまま生涯一度も使わなかったのです。

やがて、時がたち、都では疫病が流行り、都を移すことになりました。人が完全にいなくなった事で煌びやかな都は今では見る影もありません。

貴族が住んでいた場所も立派な家は跡形も無くなくなり、今では朽ちかけた蔵だけが残っているだけ。その蔵の中では、あの素晴らしい和鏡が上等そうな布を上からかけられ傷も埃も付かず取り残されていました。何でも、そのときの蔵の持ち主はすでに死んでおり、当主が息子に代わって息子はそのような鏡が蔵にあるとも知らず置い行ってしまったようです。

・・・・・・さて、この国ではすべての物に命が宿ると考えられ物は百年経つと神に生るとも妖怪に生るともいわれています。

 

 

はてさて、一度も使われなかったあの鏡はどうなっていることやら・・・・・・。

 

 

 

 

 

 

昔は栄えていた都も今では廃れ、残されているものは古びた家と野ざらしになった骨ばかり。貴族達が暮らしていた場所も今では見る影もなくなりつつある。

そんな、一つの古びた蔵の中。あまりにも長い間使われなかった物が妖力を付け付喪神に生ろうとしていた。

 

 

 

 

 

         ・・・・・・・蔵の中・・・・・・・

 

 

 

 

それは、徐々に人の形になりつつあった。

もう、今夜中には付喪神となるであろう。

そして、草木も眠る丑三つ時。

黒い髪に細身でありながらもしっかりとした身体を手に入れたそれは前の持ち主に恨み言を吐きながら生まれた。

「あ・の・ク・ソ・持ち主があぁぁァァァア!!」

長かった!本当に長かった!付喪神となったことで、声も出せるようになり身体も手に入り漸く、いえるこの叫び!!

 

「使えよ!?何のための鏡だよ!分けわからんことすんじゃねぇー!!」

そう、俺は鏡の付喪神。ただし、一度も使われたことがない。

もう一度いうが鏡の付喪神だ。貴族の生活には欠かせない持ち物の一つなのに全く使われなかったな!!

大事なことなので二回言いました!だいたい、わざわざ作らせたのなら使うだろ!?

それなのに、あの貴族はッ!

 

それから、思いつく限りの悪態をもうこの世にいない持ち主に吐き続ける付喪神。

その時間、約半刻。

        

 

 

         ・・・・・・・付喪神乱心中・・・・・・・

 

 

 

         ・・・・・・・付喪神鎮静化・・・・・・・

 

 

 

「はあ、はあ、はあ・・・。ああ、すっきりした!いやー、百年分の怒りをやっと吐けたぜ。・・・さて、新しい身体も手に入ったしこれからどうするべきか・・・」

今までの鬱憤を晴らしたので、これからのことを考えることにした。

まあ、今の俺は妖怪だ。人に仇なし生きる者。なら、行動原理は単純明快で人に恐怖や驚きを与え、生きること。

 

まあ、都まで行って見るか?または、海とやらに行くのも良いだろうな。

なんせ、俺にとってどこもかしこも初めてでどこに、行っても楽しめること間違いなしだ。それに、人間なんてどこにでもいるだろう。

 

 

         ・・・・・・・付喪神思考中・・・・・・・

 

 

 

あれこれ、色々考えたがやはり都に進むことに決めた。

人間も多くそちらの方が楽しそうだ。

俺は気合十分で、さあ、出発!というときに問題が起きた。

 

都ってどっちだっけ?

 

かなり大事なことを知らないのに気付いた。

それもそうだ。俺は、蔵にいたので分かるはずもない。

いやぁ・・・困った。まあ、生まれたばかりなのだから仕方ない。仕方ないよな?

ま、まあ、最悪?出会った人間に適当に聞けばいいだろう?

どうして人間に聞くのか?

なに、簡単なことだ。今の俺の身体は人間そのものなのだから使わなければもったいないだろ?髪も服もそこら辺の旅人の様な恰好だしな。これで、妖怪と気づく奴はいない……はず……。

 

逆に、同じ妖怪に襲われないか少し不安だ。

俺たちの中には積極的に人を喰う人食いもいる。そういう、奴はだいたい奇襲をかけてくると俺はにらんでいる。

今の俺は人間か妖怪か見分けがつかずこの身体は標的になりかねないのだ。だから、極力戦闘はしない。

ようやく、生まれたのにまたの鏡に戻るのは死んでもごめんだ。気をつけねば。

けどまあ、そこら辺の奴には負けないだろう。自分でいうのもなんだがかなり妖力は多いと思う。なぜならここは、生と死が混じり合った場所。

こんな負の念が集った場所で生まれれば必然的に強い力を持つ。

ああもう!うじうじ考えても仕方ない。いざ、出発!!

とにかく、ここを出て山に向って進む。

高い場所から見れば大体わかるだろう。そんな、安直な考えのもと今、鏡の付喪神の旅が始まった。

既に、不安しかない旅路だがはてさて、どうなることやら。

 


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