ラブライブ!~化け物と呼ばれた少年と9人の女神の物語~   作:そらなり

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どうも、そらなりです。

ぶっちゃけ終わりが見えてきて感慨深くなってます。映画編もやる予定ですが、もうじきTVアニメ分が終わるんですよね……。

って暗くなってても仕方ない!

それでは、今回も成長している彼女たちをご覧ください!


成長

空也side

 

 空也は遅れている穂乃果を生徒会室で海未とことりと一緒に待っていた。この場所からは正門の様子が覗き見ることができる。もうすでに穂乃果が学校に来ていることはわかっている空也でも、なかなか来ない穂乃果にちょっとだけ不安に感じていた。

 

 学校内で何かがあったのではないだろうか? そんな不安が空也の中に生まれてくる。しかし、その不安をかき消すかのように携帯に1通のメールが受信された。差出人は真姫。内容は『にこの母親に優勝旗を見せるために部室に寄ってから生徒会室に向かった』とのこと。そのメールを読んでいるときに勢いよく生徒会室のドアが開かれる。

穂乃果「ごめん!」

 音に反応して扉のほうを見ると部室から慌ててきたであろう穂乃果の姿があった。

 

 ようやく待っていた穂乃果が来ると海未の目が変わる。穂乃果が来る前はイライラしているのが分かる程度の雰囲気だったが、穂乃果が来た途端、明らかな殺気が海未の目に宿っていた。

海未「卒業式に遅刻ですか?」

 今日は自分たちにとっても大事な日。そのことは生徒会全員の共通認識である。それと同時にμ'sとしてもメンバーの3人が主役の式は大事なものであった。だから穂乃果もきっと遅刻はしないだろうと海未は思っていたようだ。ラブライブの時、誰よりも早く起きてみんなを起こしていた。だから今回も大丈夫だろうと……。

 

 しかし、蓋を開けてみれば穂乃果の遅刻。海未の殺気だった視線に充てられながらも穂乃果は自身の遅刻を否定する。

穂乃果「ちっ違うよ! 学校には来てたの。ちょっといろいろあって……」

 今までの穂乃果の行動を見ていればこれが本当だということは分かるだろう。それににこや真姫たち1年生組たちに話を聞けばそれが本当だということはわかる。

 

 ただ、内容があやふやだったことが海未の不信感をより引き出してしまった。

海未「いろいろ?」

 どんなことをしていたのかわからない以上、穂乃果の言っていることが言い訳であると判断するしかない状況だ。

 

 それでも、この生徒会室にいた3人の中で空也だけが知っている情報があった。

空也「本当みたいだぞ。にこの母親に優勝旗見せに行くのに同行してたらしい」

 真姫から受けたメールに書かれていたこと。そこには穂乃果がしっかり遅れずに学校に来たことが書かれていた。

 

 空也からのアシストにより、穂乃果の言っていることが嘘ではないことが証明された。

ことり「それに、卒業式の日にあまり怒っちゃだめだよ」

 であれば、少し注意する程度でいいと判断したことりは今にも起こりそうな海未をなだめる。実際、学校に時間通り来ていたとしても集合場所に遅れたのは事実。一度でも顔を出せば来ていることが分かったはずなのに、穂乃果はそのことを忘れていた。だから、そのことは穂乃果も十分に反省しなければならない。

 

 ただ、それでは穂乃果のためにならないと思っているのかなかなか引こうとしない海未。

海未「ですが……」

 穂乃果は何度も遅刻を続けているから、もう少し反省させた方がいいと思ってるみたいだ。

 

 しかし、完全に相手を反省させるには時間が足りない。今日は卒業式。いろいろと準備しないといけないことがあるのだから。

空也「もう時間もギリギリだし、早く行くぞ」

 そろそろ余裕を持っていた分の時間が無くなることに気がついた空也は穂乃果のいる生徒会室のドアに向かった。空也に続いて海未とことりも生徒会室を後にして早速体育館へと向かった。

 

 卒業式の準備というのは何も会場を装飾することだけではない。式に使うものを準備するのも準備のうち。卒業証書や、卒業生が胸に着ける花などなど。運ばなくてはいけないものが多い。穂乃果たちは卒業証書を体育館に持って行きながら話をしていた。

海未「それで、送辞のほうはちゃんと完成したのですか?」

 内容は穂乃果が今朝までずっと考えこんでいた送辞の話。予定であれば卒業式の練習のときには完成させておくはずだったのだが、完成が遅れ込んで当日までかかってしまった。

 

 完成していないのであれば、大問題になってしまうが、穂乃果は送辞を完成させた。

穂乃果「うん! それはばっちり!」

 もし完成していなかったら、もしかしたら新生生徒会になってから初めて挨拶をしたときと同じになってしまうかもしれない。けど、完成させたことによっておそらく空也のカンペも必要なくなっただろう。

 

 でも、もし今の穂乃果の言葉が自分たちを安心させるための嘘かもしれないと思ったことりは穂乃果が本当に完成させているのかを聞く。

ことり「本当?」

 よく話に聞くこともある実は白紙を持ちながらスピーチする。言葉を心のまま話すためにしているようなものだけど、それは長く時間を共にした人に対してだったり、ずっと大切な人の時だけ。卒業式の送辞のような多くの人に向けてやるものではない。

 

 ことりが心配しているのが分かった穂乃果は証拠を見せようと送辞のメモが書かれた紙がある場所をことりたちに教える。

穂乃果「ポケットに入ってるから3人とも見てよ」

 今穂乃果は大きな荷物を両手で持っているから自分から渡すことは出来ない。だから自分たちで取ってくれと入っているポケット側の腰ことりたちに突き出す。

 

 海未、ことり、空也の3人は穂乃果の描いた文字の少ない文章に一通り目を通した。

ことり「穂乃果ちゃんらしいね!」

 活字が苦手なこともあるだろうが、この場合のことりの言葉はちょっとだけ意味が違う。

 

 この送辞は穂乃果一人で完成するものではなく、またただの一般的な送辞でもなかった。

穂乃果「えへへ。みんなも協力してね!」

 そのためにみんなの協力が不可欠。そんな送辞を穂乃果は考えたのだ。

 

 ただ、穂乃果の送辞を見て空也はどこか思い当たることがあったようだ。納得していることりと海未とは違い難しい表情で穂乃果の描いた送辞の最後の部分を見ていた。

空也「それはいいが、俺のを使わないとはな」

 俺の……。それが何を意味するのか穂乃果は瞬間的に分かる。

 

 だってそれは自分が選んだものに対してのものだから。最後にやろうとしていることをあえて空也が持っているものではないアレにしようとしたのはきっと最初から考えていたことなのだろう。

穂乃果「あ、えっとそれは……」

 しかし、いざ正面で言われるとなかなかどう答えていいのかわからなくなる。

 

 そんな言葉に困っている穂乃果を見た空也は手に持った2段に積まれた大きなダンボールからひょっこり顔を出して口を開いた。

空也「冗談だ。内容的にこっちのほうがあってるもんな」

 どうやら空也も穂乃果の描いた送辞は納得していたらしい。明らかにふざけているのが分かるように空也の無邪気な笑顔が穂乃果に向けられる。

 

 自分が必死になって考えていたのに冗談と言われ、拍子抜けしてしまった穂乃果は一瞬だけフリーズする。

穂乃果「もう! 本気にしちゃったじゃん!」

 そんな自分が恥ずかしかったのか頬を赤くして空也に抗議をする穂乃果。けど、これで協力者は増えた。最高の卒業式にするために穂乃果が考えたことを何としても成功させようと生徒会全員が思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 運び込むものも運び終わりあとは会場の飾りつけを手伝えば大体が終わりになる。

穂乃果「お~ぉ。いい感じ!」

 自分の仕事が終わった穂乃果は他に仕事をしているみんなの現状がどうなっているのか見ていた。すると体育館の中は卒業らしい装飾でいっぱい。いつもここで運動をしているのが信じられなくなってきてしまう。

 

 どうやらこれはμ'sのステージを作るにあたって今まで大きく手伝ってくれていたヒデコによるものらしい。壁には赤い布はしわひとつなく敷き詰められていた。

ヒデコ「任せてよ! あ! そうだ穂乃果、去年の卒業式の記録ってある?」

 そんなヒデコが困ったように尋ねる。

 

 なんでそんなことを聞いてくるのかよくわかっていない穂乃果。

穂乃果「多分……」

 しかし、記憶には見た覚えがあったため、あやふやではあるがヒデコの質問に答えた。

 

 それを横で聞いていた空也も一緒に思い出そうとする。

空也「あぁ、確か棚の2段目ぐらいにあったかな」

 すると見覚えがあったみたいでどこに入っていたのかも詳細に空也は覚えていた。

 

 あやふやな穂乃果の答えから空也の確証を得ると近くにいたミカがヒデコが質問した理由を話す。

ミカ「照明がどうもうまくいかないの」

 照明もμ'sのステージでいろいろやってくれたことから大丈夫かもと思っていたがどうやらライブと卒業式では勝手が違うようだ。照明を完璧にしたいという熱意が籠った視線にあてられた空也たちは適当でなんて言えるわけもなかった。

 

ことり「去年どうだったかわかればいいってことだよね」

 去年の卒業式の様子が分かれば、どのようにすれば上手くいくのかが分かる。だから去年の映像が見たいようだ。

 

 話が分かればやることは決まっている。

穂乃果「わかった。じゃあ取ってくるよ」

 素晴らしい卒業式にしたいのだから照明にも気を使わなければならない。だから穂乃果は生徒会室にある去年の卒業式の映像を取りに行った。

 

 そしてそんな穂乃果の背中を追うように空也も走り出す。

空也「じゃあ俺も行こうかな。場所は覚えてるし」

 場所を覚えている空也が行けばすぐに見つかる。ことりと海未、そしてヒデコとミカは空也たちの背中を見送った。本当に息の合ったコンビだとみんながみんなそう思うほど穂乃果と空也の後ろ姿は立派に成長をしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 穂乃果と空也が体育館をから生徒会室に向かおうとすると体育館の近くに見覚えのない髪形の見覚えのある人がいた。

穂乃果「あ!」

 

空也「おぉ」

 今日の主役の1人である空也たちが見つけた人は近くに咲いた花壇をしゃがみこんで見ている。空から舞う無数の桜の花びらと地面に咲き誇る濃いピンクの花。桜とアザレアが作り出した景色にいる彼女はまさに今日の主役のように感じる。

 

 けど、その人は主役であると同時に穂乃果たちの仲間でもある。

穂乃果「希ちゃん!」

 座り込んでアザレアの花を見ている希に声をかける穂乃果。

 

 穂乃果に呼びかけられた希は声のした方を向いて穂乃果と空也がいることを認識した。

希「あ、穂乃果ちゃんに空也君。どう?」

 普段はおさげのように2か所で髪を結んでいる希だが、今日はいつもの髪形とは違った。いうなれば『Snow halation』の時のような髪形。だけど全く同じというわけではない。あの時の髪形で前にたらしている後ろ髪を三つ編みにした希の髪形は今までに見たことがないためとても新鮮に思えた。

 

 そして、穏やかにほほ笑む希とその新しい髪形を見て思った感想を穂乃果が口にする。

穂乃果「すっごい似合う! 希ちゃん髪きれいだよね」

 今までに見たことのない希の髪を見たからなのか穂乃果のテンションは体育館を出た時よりも高くなっていた。

 

 そんなハイテンションの穂乃果に褒められた希はどうやらまんざらでもない様子。

希「そんなに言われたら照れるやん」

 今までに見せたことのない髪形だったからか、褒められて嬉しいようだ。

 

 実際に穂乃果の言ったことは正しい。希のおっとりとした雰囲気をより引き立たせるかのような髪形は本当に希らしいと感じさせるほど似合っていた。

空也「でも、本当に似合ってるよ」

 穂乃果に倣って空也も希の髪形に関しての感想を呟く。

 

 その空也の言葉に恥ずかしがっているわけではないはずなのに少し希は間を開けた。

希「……ありがとう」

 別に嬉しくなかったわけではない。けど、空也が想っている人を知っているからこそ何故その人がいる前でそんなことを言うのかと想っているようだ。訴えかけるような希の瞳が空也のことをとらえていた。

 

 その視線に気がついている様子のない穂乃果は、自分がやるべきことを思い出した。

穂乃果「じゃあまた後で」

 ここに来たのは生徒会室に向かうため。過去の卒業式の映像を持ってくるためにここに立ち寄っただけだ。それに卒業式の時間は近づいてくる。もたもたしている余裕はあまりなかった。

 

 希にここを離れる旨を告げた穂乃果は生徒会室に少し駆け足気味に向かおうとする。急いで希のいる場所を追い越して、少し歩くと後ろから希に呼び止められる。

希「あ、えりち知らない?」

 何時も希と一緒にいるように思える絵里とまだ希は会っていないようだ。絵里がどこにいるのか知りたい様子の希は穂乃果に知らないかどうかを尋ねる。

 

 しかし、穂乃果自身も今日絵里に会ったわけではない。

穂乃果「ん? 知らないよ?」

 それにどこに行っているのか連絡を取り合っているわけでもないから希に話せることはあまりなかった。

 

 もしかしたら穂乃果なら知っているかもしれないと思って聞いた希の当ては外れてしまった。

希「てっきり穂乃果ちゃんたちと一緒やと思ってたんやけど……」

 どうやら希は元生徒会長として卒業式を経験していることを穂乃果に教えようとしていたのではないかと思っていたようだ。けど、事実として絵里は穂乃果のもとにやっていたわけではない。

 

 そして穂乃果に聞いた後に希がどうするのかなんてことは容易に想像がつく。一緒にいる空也にも同じことを聞くに違いない。

 けど、空也も絵里を興味付けたわけではない。希の願いに応えられるような答えは持ち合わせていなかった。

空也「心当たりはあるけど。一緒に行くか?」

 それでも、卒業式の日に絵里が1人で向かう場所は何通りかに絞ることは出来た。1つは中井幹のいる場所。けど、そこはまず幹の場所が分からないと行けない場所だ。

では、ほかにどこがあるか。

 

 そう考えると1つの場所が希たちの脳裏をよぎった。

希「そこって……」

 おそらくクラスの教室以外で絵里と希が最も学校内で使っていた教室。

 

 そして、今穂乃果と空也が向かっている場所。そこは……。

空也「生徒会室」

 元生徒会長である絵里が向かう場所としては十分すぎる根拠のある場所。希も納得したようで過去の映像を取りに行く穂乃果たちに同行して生徒会室に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして穂乃果、空也、希の3人は生徒会室前までやってきた。

 

 もしかしたらこの場所に絵里がいるのかもしれない。けど、いくら根拠があるからと言って証拠があるわけではない。だからここに絵里がいない可能性だって十分にあるのだ。

空也「確証はないからここで待っててくれ」

 もしこの場所に絵里がいなかった場合、すでに希の足は無駄足と言わざるを得ない。先に確認させていなかったら別の場所に行ってもらうことも考え着いてはいたようだが、またその場所に見当を付けるには人数がいたほうがいいだろう。そう考えた空也は先に生徒会室で用事を済ませてから中に絵里がいたかどうかを希に告げた方がいいと考えた。

 

 細かい空也の思考は読めなくても希は空也の言ったことを素直に受け入れた。

希「わかった。じゃあ先に空也君たちの用事済ませてき」

 そもそも空也たちは明確にこの場所にやることがあったから来たのだ。当然、元生徒会役員である希はそのことを優先させるようにする。

 

 希にそう言われた穂乃果たちは生徒会室のドアを開けて中に入る。そこには空也が予想した通り希が会いたがってた絵里の姿があった。

穂乃果「絵里ちゃん、どうしたの?」

 ここにいるかもと空也は見当をつけていたのだが、どうしてここにいるのかは絵里にしかわからない。穂乃果はどうやらそのどうしてが気になったみたいでここに来た理由を絵里に聞く。

 

 生徒会長だった絵里は当時自分が座っていた場所に立ち、感慨深そうに生徒会室を見渡していた。

絵里「別に用があったわけじゃないんだけど、なんとなく足が向いて。式の準備は万全?」

 廃校を阻止しようと生徒会で頑張ろうとしていた絵里にとってこの場所は普通じゃない特別なものになっていたようだ。自然に足が向いてしまうほどに。

 基本、卒業式の準備で生徒会室に戻ってくることはそうそうない。だから絵里はここにやってきたのだが、そうしたら穂乃果たちが来た。もしかしたら何かがあったのかもしれないと思った絵里は士気の準備がどうかを聞いていた。

 

 でも絵里が心配しているトラブルは一切起こっていない。会場の装飾は完璧に近いものになっているし、椅子が足りなかったなんてこともない。

空也「あぁ、あとは照明が去年のを参考に最終調整をすれば終わり」

 空也は絵里にこの場所に来た理由を簡単に説明して、少しだけ不安そうにしている絵里を安心させた。

穂乃果「大丈夫! 素敵な式にするから!」

 そして空也の言葉に乗っかるように穂乃果も絵里にそう言った。送辞が今朝ようやくできたというのに素晴らしい式にする気は満々の様子。

 

 自信たっぷりな穂乃果のことを見ていた空也は、送辞の事をツッコむ事をしなかった。

空也「ってなわけで、楽しみにしててな」

 実際に式の演出に関してはあらかじめどうするを決めていたということもある。そして素晴らしい式になると空也は確信していた。

 

 自信満々の穂乃果と空也。この2人が言うと絶対にそうなるような気がする。

絵里「ありがとう」

 きっと今までにやってきたことがフラッシュバックしているのだろう。ラブライブで優勝できたこと、廃校を阻止できたこと。そんな色々なことを思い出すとふと感謝の言葉が口から漏れる。

 

 でも、絵里がそう言った後物懐かしそうに生徒会室を再び見渡しているのを見た穂乃果。今度は穂乃果が絵里のことを心配してしまう。

穂乃果「……? 心配事?」

 もしかしたら絵里は卒業式に対して何かまだ納得していないことがあるのではないだろうか? そんな考えが穂乃果の脳裏をよぎった。絵里は元生徒会長。もちろん、卒業生の言葉を担当するのも絵里だ。その内容に納得していないのであれば不安になるのも無理はない。

 

 けど、穂乃果の考えは幸いにも見当違いだったようだ。

絵里「ううん。ただ、ちょっとだけ……昨日アルバムを整理してたら生徒会長だったころの事を思い出してね。私あのころ何かに追われてるような感じで全然余裕がなくて、意地ばかりはって」

 今、絵里の中に蘇るμ'sに入る前の自分。特に廃校が知らされた頃の焦っていた時の記憶。自分で何とか出来る、自分で何とかしなくてはいけない。そんな使命感にかられ周りが見えてなかった。あの時間がもっと有効に使えたら生徒会に後悔はなかったのかもしれない。今の絵里は生徒会長だった時のことを思い出して後悔していたようだ。

 

 確かに絵里は余裕がなかった。それはあの時絵里に辛い言葉を浴びせられた穂乃果と空也がよくわかっていることだろう。

穂乃果 空也「「絵里(ちゃん)……」

 けど、卒業式に嘆いてしまうほど後悔しているとは思っていなかった。だから今の穂乃果はどんな言葉を掛ければいいのかわからない。

 

 まだ、絵里の振り返りは続いていた。

絵里「振り返ってると私……みんなに助けられてばっかりだったなって」

 生徒会長としてこの学校を見てきた絵里。お手本になろうとして頑張っていた彼女はいつもみんなに支えられて今まで過ごしていた。それはいつも一緒にいる希だったり、恋人である幹だったり……。もちろん生徒会以外ではμ'sのみんなにも助けられていた。

 

 自分の無力さに嘆いているのか、悲しんでいるのかそこまではよくわからなくても1つだけ空也は言えることがある。

空也「……誰もがみんな助けられて生きてるんだ。助けられてばかりだって思ってるのはみんなだってそうだ。俺だって穂乃果だって、μ'sのみんなだって、それにこの学院のみんなだって。どこかできっと助けられてたんだ。でなきゃ生徒会長にはなれないだろ?」

 そう。助けられてばかりの人間なんてこの世には存在しない。いろんなところで自分がそう思っていなかったとしても自分のやったことが人の助けになっている。生徒会長になるにはみんなの信頼が必要だ。些細なところでしっかりと支えることができたから絵里は生徒会長になれた。みんながみんな、絵里の助けを得て学校生活をしていたのだ。

 

 そんな空也の言葉を聞いた絵里は瞳から小さな雫が流れ落ちた。

絵里「もう……。式の前に泣かさないでよ……」

 まだ式は始まってすらいない。それなのに次々に流れてくる涙を拭いながら絵里は空也に訴えかける。

 

 だけどそんなこと知るかと言わんばかりにいたずらっ子のような笑顔を向けた空也は生徒会室のドアノブに手を掛ける。

穂乃果「じゃあ行くね?」

 そしてその空也の後ろに立った穂乃果は絵里のほうを向いて生徒会室を後にしようとする。

 

 穂乃果がそう言うと同時に空也はドアを開ける。

空也「あぁ。あ、希。もう入ってきていいぞ」

 そして生徒会室の外にいた希に絵里が中にいたことを告げて退室する。

 

 ドアのほうからひょっこりと顔をのぞかせた希の姿を見た絵里はいると思っていなかった存在に驚く。

絵里「希!」

 急いで流していた涙を拭いきっていつもの様子に戻るが希は泣いていたことをなぜかわかっているみたい。

 

 それでも指摘することなく普通に会話を続けようと希は空也のほうを見て口を開いた。

希「空也君のいった通りやったね」

 この場所に来たのは空也がいるかもしれないと言ったおかげだ。そう絵里に教えるかのように呟いた。

 

 希と絵里を会わせることができ、目的は全部果たすことができた。時間もそろそろ余裕がなくなり始め、体育館に戻らなくてはいけない穂乃果と空也はこの場所を後にする。

穂乃果「まったねー!」

 走りながら後ろにいる絵里と希に手を振った穂乃果は言葉とともに駆け足で体育館に向かった。

空也「じゃあまた式で」

 そして穂乃果に倣って空也も少し声を張ってこの場所を後にした。

 

 生徒会室から走っていく穂乃果と空也の背中は生徒会に就任したときよりも堂々としているように見えた。

絵里「大きくなったわね……」

 

希「そうやね。もう、立派な生徒会長と副会長やね」

 確実に成長している。そう分かる背中を見た絵里たちはこれからの音ノ木坂学院に確かな安心を持った。きっとあの2人ならこの学校をいいものにできると感じ、若干瞳が潤んできていた。。

 

 今3年生にできるのは式が始まるのを待つだけ。自分たちの教室に戻ろうと踵を返そうとした瞬間、絵里と希の背後から忍び寄る影が1つあった。

幹「わぁ!!」

 希たちが振り返ったのと同時に寄ってきた影……幹が大声を上げて絵里と希を驚かそうとする。

 

 幹の策略通り絵里と希は肩がビクつくくらい驚き、絵里に至っては出ていた涙が引っ込んでいた。

絵里「ちょっと幹! 急になんなの」

 何のために驚かせてきたのかよくわかっていない絵里は幹に向かって驚かせてきたことについて不満を漏らした。

 

 けど、幹が急に驚かそうとして来たのには理由がある。

幹「もう泣きそうだったじゃないか。まだ泣くのは早いと思うぞ」

 それは今にも泣きそうだった絵里の涙を止めるため。卒業式前に大泣きしてしまうのは確かに何か違うとは思うが、それだけでは涙を止めるような行動を移す理由としては弱い。

 

 何か卒業式で起こるとわかっているような幹の呟きに希は反応していた。

希「お、それは幹君は何か知ってるってことなんかな?」

 

 希の言葉を聞いた幹は何となく絵里と希が卒業式で何かが起こるだろうと思っているように感じた。

幹「……お前らも分かってるんだろ。時坂がいるんだからスゲーものになるに決まってるって」

 きっとそう感じたのは空也と過ごした時間がこの2人のほうが長いから。きっとサプライズ好きの空也は何かをやろうとするはずと、無意識に絵里と希も思っていたのかもしれない。

 

 それが幹の言葉を聞いて意識的に何かが起こるかもしれないと思うようになる。

絵里「あ~……。そうね。空也ならなんかやるかもしれないわね」

 空也ならやりかねない。そんな考えが絵里と希の中に芽生える。

 

 そう思ってしまえば思考は次のステップに移動する。空也がやるかもしれないのであれば、次は何をやろうとしているのかという考え。

希「そうやな~。意外に魔法で何かしてくれるのかもしれへんな」

 可能性としては希の言ったことが一番高いだろう。

 

 けど、問題は希がそれをここでしゃべってしまったということだ。空也が魔法を使えるということは秘密にしている。それが本人のいないところで明かされるのは防がないといけないことだった。

絵里「ちょっと希!?」

 それでも希は喋った。秘密を話さない口の堅い性格だと思っていた希が。そのことに絵里は戸惑いながら驚いていた。

 

 絵里が心配する中、空也の秘密を喋った希は1つの確信があった。幹になら話しても大丈夫だという大きな確信が。

希「心配いらんよ。きっと幹君知ってるで」

 そう。幹が知っているということを希はわかっていた。

 

 考えてみれば付き合いがほとんどない空也が何かするかもしれないと言い切れるためにはそれ相応の何かがないといけない。そして空也は成績は優秀で作詞家としてこの学校の有名人ではあるものの、生徒たちの間でサプライズ好きであることはなかなか知られていない。そこから導き出される答えは2通り。希たちが知らない間に空也との交流があったか、幹が空也の秘密を知っているかだ。

 

 事実として幹は空也の秘密を知っていた。穂乃果たちを守るために空也にお願いされたあの場所で現物を目にしたのだから。

幹「まぁな。オープンキャンパスの時に聞いたよ」

 空也の秘密を知ったのは幹が言う通りオープンキャンパスの時。

 

 つまり絵里たちが知る前に幹はすでに知っていたということになる。

絵里「私たちよりも前なんだけど!?」

 全くそんなそぶりを今まで見せなかった幹が知っていたこと、そして自分たちより前に秘密を知っていたということが相まって絵里は普段以上に驚いていた。

 実際空也の秘密を知っている人物はそれなりにいるものの、この学校ではμ's意外知らないと思っていたのだから無理はないだろう。

 

 驚いている絵里をよそに幹は2人の背中を押して教室に戻ろうとする。

幹「まぁ、そんなことより卒業式、期待していようぜ!」

 魔法のことはよくわかっていない。だからどんなことが起こるのか予想するのも難しい。だから何かが起こるのかもしれないという期待を胸に式の始まりを幹は楽しみにしていた。

 

希「そうやな」

 幹の考えに希も賛成のようだ。押されている手から離れるようにして希は自分の足で待機場所である自分のクラスに向かい始める。

 

 そんな中、未だ納得しきれていない絵里だけは幹に背中を押されたまま自分のクラスに向かわされていた。

絵里「……なんか腑に落ちないわね」

 どうやら自分たちよりも早く空也の秘密を知っていたことが引っ掛かっている様子。けど結果絵里の涙は止まり赤く腫れた目で全校生徒の前に立ってしまうことだけは防げたようだ。

 

 卒業式開始まであとわずか……

 

 




次回、卒業式本番! 幹たちの考え通り空也は何かをしてくれるのでしょうか? してくれた場合何をするのでしょうか!?

新しくお気に入り登録をしてくださったもくもく777さんありがとうございます!

次回『卒業式』

それでは、次回もお楽しみに!



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