ラブライブ!~化け物と呼ばれた少年と9人の女神の物語~   作:そらなり

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どうも、そらなりです。

今回は前回の続きで4回目の合宿回です!

それでは、今回も限りある時を楽しむ彼女たちをご覧下さい!


学校合宿

空也side

 

 みんなが集合場所として指定した正門に着くよりも早く空也はやってきた。制服姿のまま正門の柱に寄り掛かっていた。

 

 待つこと数分。信号の向こうに穂乃果たち9人が集まっているのが見えた。みんな一晩過ごすには十分な荷物を持ってきている。メールで書いたことに関してはしっかりと守ってきたみたいだ。

 

 青になった信号を渡って来る穂乃果たちの表情は空也がここで別れた時と全くの別物になっていた。そんな穂乃果たちの表情を見て空也はやった甲斐があったとそう思う。

絵里「なんなのいきなり集合って」

 が、なぜ集められたのかよくわからないのは事実。きっとみんなで一緒にいられるということはあのメールを見ればわかるだろうが肝心の場所が分からない。だから絵里の言葉は最もなもので、空也もそれが聞かれると想定はしていた。

 

 だから、少しの間も明けずにみんなをここに呼んだ理由を話す。

空也「あぁ、今日はみんなここに泊まっていくことになったから」

 もったいぶらずに、そしてそれが当たり前であるように。さっき理事長に通してもらったことを口にする。

 

 だけど、今日ここに泊まるということは予定にあったことではない。確かに、この学校でみんなが集まっていれば誰かが遅刻するとかそういうことは防げる。だけど学校は個人のものではない。だから勝手に泊っていいというわけにはならなかった。

海未「許可は取ったんですか?」

 その考えがあるから現生徒会の初期である海未が空也にそう尋ねた。いくら学校が好きでもやっていいこととやってはいけないことの線引きはしっかりとあるようだ。

 

 けどもちろん海未の心配は意味のないもの。勝手に空也が企画したものではない。

空也「あぁ。あっただろ? 許可取りに行ける時が」

 みんなは知らないであろうあの後の出来事を思い出してもらおうといたずら小僧のような表情でそう言った。この場所で穂乃果たちと別れた時と同じような楽しそうな笑顔で。

 

 空也の言葉を聞けば、どのタイミングでその許可をとってきたのかがすぐに分かった。

穂乃果「だから戻って行ったの!?」

 忘れ物をしたといって戻った時にこんなことをしていたんだと驚く穂乃果。けど、驚いている表情には若干嬉しさが見えるのはきっと空也が望んだ反応なんだろう。

 

 ドンピシャの答えに空也は大きく首を縦に振った。

空也「そうだ。俺サプライズするのが好きなんだよ」

 何故空也がわざわざ学校に戻ってまで合宿の約束を取り付けたのか。それは簡単だ。μ'sが驚いて、それでいて喜んでほしいから。明日には大事なステージに立つ立派なアイドルが少女としてはしゃいでいられる場所を確保したかった。それに、空也はみんなの落ち込む姿を見たくなかったのだ。最後の練習だと気が付いて未練を残したように地縛霊のように動かないμ'sの姿を。

 

 空也のサプライズをネタばらしした後のμ's表情は隠し切れないほどの笑顔だった。

にこ「はぁ……。じゃあ行きましょ。許可があるんだし」

 本人は気が付いているのかはわからないが表情と言葉があっていない。仕方ないといった感じの言葉なのに、なぜここまで明るい笑顔で言えるのか。そこには矛盾が生じていた。けどこれはいい矛盾。幸せな時間を過ごしている何よりの証拠だった。

 

 にこの言葉を皮切りにみんなはもう一度音ノ木坂学院に足を踏み入れた。陽が落ちていく中で入る校舎は、昼間とは全く違う雰囲気を醸し出していた。そんな雰囲気に充てられたのか、みんなの足は軽く笑顔のままアイドル研究部部室へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 全員が部室にたどり着くと2つの班に分かれた。寝床を用意する班と晩ご飯を用意する班。10人分の布団を運ぶのは骨が折れると思った空也は寝床班に入ろうとしたのだが、空也の料理が食べたいというμ's一致の意見で料理班になってしまった。

 

 男手のいない寝床班の準備は少しだけ遅れてしまったが料理が完成するまでの間に何とか10人分の布団を部室の隣の部屋に運び込むことができた。

穂乃果「できた~!」

 その後も運び込むだけではなく10人分の布団を敷き、終身場所の確保は出来た。

 

 10人分となればそれなりにスペースをとってしまうが隙間なく布団を敷き詰めることでぴったり部屋に収まりきった。

真姫「ちょうどぴったり……」

 まるで10人分の布団を敷くことを前提に作られたのではないかと思うほど隙間なく、ぴったり収まったこの部屋を見た真姫はそう呟いた。今までこの部屋を使っていても狭くないと思うくらいだった為か、今さらになってこの部屋の広さを実感することができたようだ。

 

 布団を敷き終わったからか、料理ができるまでの間、軽い雑談が始まる。

凛「学校でお泊まり。テンション上がるにゃー!」

 その話題はきっとこれしかないだろう。最初は予定になかった嬉しい誤算。空也が取り付けた学校合宿の話。今まさに凛たちはその合宿中。それも体験したことのない夜の学校ということで子供のように興奮していた。

 

 だけど、興奮しているのは凛だけではなかったようだ。

希「ドキドキするね」

 普段は冷静でミステリアスな雰囲気を醸している希でさえも、夜の学校に心を躍らせている様子だ。

 けど、これは夜の学校にいるからというだけではない。このμ'sでいるから普通よりも楽しいと思える。心置きなく楽しむことができるのだ。

 

 そんな話をしていると部室側とつながる扉が大きな音をたてて開いた。その先にいるのは料理班として家庭科室で夕食の支度をしていた、花陽と空也、そしてにこの3人だった。

にこ「はい! お待たせ! 家庭科室のコンロ火力弱いんじゃないの?」

 中華鍋を片手に生徒会長である穂乃果に若干の文句を言う。しかし鍋の中身の麻婆豆腐を見てみるとしっかりと火が通っているように感じる。

 

 にこはこれで火力が足りないと思っているのだろうか? そんな疑問が寝床班のみんなに芽生える。が、それは次の空也の言葉で解消することだろう。

空也「人に火力あげさせておいて何言ってんだよ……」

 ここにいる誰よりも万能な人間。空也に家庭科室のコンロの火力を上げさせた。学校のコンロはガスコンロ。ガスコンロなら周りの空気を操れば疑似的に火力を上げることは可能だ。それが魔法使いである空也がした、火力を上げる方法だった。

 だけど、空也は3回目の合宿である山合宿の時よりも疲れている様子はない。というよりピンピンしていた。

 

 しっかりと火が通っているということが分かり、完成している料理を見た穂乃果は自然と食欲がそそられるような気がした。

穂乃果「わぁ~。いい匂い!」

 麻婆豆腐の香辛料が効いた香ばしい匂い、後ろでわずかに香るいつも嗅いでいる日本の匂いが穂乃果の鼻腔を刺激したようだ。

 

 今の穂乃果は完全に色気より食い気だった。そんなことにため息を吐く空也だが、いつものことだということもあり、後ろに待機している花陽を呼んだ。

空也「はぁ、花陽ご飯はどうだ?」

 花陽が家庭科室でやっていたことは1つ。それは好物であるお米を炊くこと。

 

 満足のいく仕上がりになったようで上機嫌の花陽は炊飯器をもって空也の後ろに立っていた。

花陽「炊けたよ~!」

 穂乃果が気が付いた匂いはご飯の匂いだった。そしてその匂いの元を持っている花陽は喜び100%の笑顔をしていた。炊飯器を開いてご飯の状態を見せるとそこにはふっくらとツヤッツヤのお米がまるで宝石箱のように輝いていた。

 

 流石好物というべきか、特に米に気を使っていない者でもそれが素晴らしい出来になっていることはよくわかる。

希「いいやん!」

 ふっくらと炊けた米を見ると食欲をそそられ始める。希がそう言っていると、誰かの丘なの虫がなり始める。その音が聞こえると顔を真っ赤にして希がお腹を抱えているのを見ると、どうやら花陽のご飯にかなり食欲に直接攻撃をされたようだ。

 

 でも、お米の匂いだけでは満足できないという強者もまた存在する。

凛「そして凛はラーメンも!」

 好物ならいくらでも入る花陽と同じようにラーメンが大好物の凛もその条件に当てはまった。急な合宿のため食材を確保するのも難しかった状況で凛はラーメンを入れる器を隠していた背中から取り出す。

 

 あらかじめ凛から作ってほしいとお願いされていた空也はもうその用意をしてからこの場所に来ていた。

空也「はいはい。えっと、もう麺は茹で上がってるから湯切り、やってみるか?」

 本来であればできないことを経験してみるかと問いかける空也。

 

 湯切りというものはなかなか体験することができない。それこそ、バイトでラーメン屋の厨房に入るとかしないと経験は出来ないだろう。

凛「やってみたいにゃ!」

 だけど、ラーメンに興味があって、ラーメン屋に興味のある凛には空也の申し出は好奇心をそそるものだった。

 空也の思った通りの反応を見せる凛は家庭科室に向かう空也の後ろをうきうきしながらついていく。

 

 家庭科室についてから麺をゆで始める空也。その後ろに目をキラキラさせて鍋の様子を見ている凛。

 

 ラーメンの入った器をもって部室に戻っていた凛の表情を見たら本当に嬉しく思っているのだろうというのが分かるくらい輝いていた。

 

 そんな凛の様子を見た絵里は空也たちが戻ってくる前に用意し終わったテーブルに案内する絵里。

絵里「フフッ。じゃあ夕食にしましょう」

 全員が席に着くとこの10人の学校で食べる最初で最後の夕食が始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 たくさん作った料理が見る影もなくなってくる。すると満足したみんなはお話しムードに移行した。

希「なんか合宿みたいやね」

 今の時間がまるで真姫の別荘でしたような、初音島でしたような合宿のように思えてきた。夜にみんなで一緒にいるということがいつもの日常とは少し違って楽しくなっているようだ。

 

 けど、希の感覚とは少し違く感じている人もいる。

穂乃果「合宿よりも楽しいよ。だって学校だよ!? 学校」

 それが穂乃果。今までの合宿は全く知らない地で知っているみんなと合宿をしていたけど、今は知っている場所で知っているみんなと経験したことのない時間にこの場所にいるということが何よりもうれしいことだった。それは今までの合宿とは違うベクトルで楽しいと思っている。

 

 それはなにも穂乃果だけの感覚ではなかった。

凛「最高にゃー!」

 ラーメンの件を除いたとしてもこの場所でこの時間にみんなでいるということは他のみんなにとっても特別なことで嬉しいことだ。

 

 そんなはしゃぎまくっている凛を見て、穂乃果を見て若干呆れたようににこが口を開いた。

にこ「全く子供ね……」

 けど、そういうにこもうきうきしているのは表情から伝わってくる。

 

 すると、はしゃいでいた穂乃果がとあることを思い出す。

穂乃果「あ、ねぇねぇ。今って夜だよね」

 そう。今はもう完全に陽が落ちた夜。窓の外には黒い夜空の中、無数の星々が輝いていた。

 

 ただ、それは今確認するようなことでもないはずだと思っていた空也は穂乃果の言葉の意味が分からなかった。

空也「そうだけど……」

 だから少し疑問を持った空也は穂乃果にそう答えるが未だに内容の意図が読めない。

 

 返ってきた答えを聞いた穂乃果は突然、部室の窓を全開にした。

穂乃果「わぁ~!」

 嬉しそうな穂乃果だが、まだ完全な春とは言えない季節でそれに加え夜であることをふまえると冷たい空気が窓から入ってくるなんてことは簡単に予想が付いた。

 

 だからなぜそのような行動をしたのか気になってしまう。

凛「穂乃果ちゃん!?」

 

にこ「何してんのよ。寒いじゃない!」

 それに冷たい空気が入り込んできて、身をさすっている人もいた。

 

 けど、穂乃果がこんな行動に出たのには明確な理由があったらしい。

穂乃果「夜の学校ってさ、なんかワクワクしない? いつもと違う雰囲気で新鮮!」

 穂乃果にとって新鮮だと感じるのはこの部室だけではなかった。学校全体が今まで経験したことのないまるで別のようなものに見えてくるほど新鮮に感じている。

 

 ただ、夜という単語を得意とするものがいるとすれば、逆に苦手と感じる人もいるだろう。

絵里「そっそう……?」

 穂乃果が窓際からみんなのいる方に振り返って言った言葉に震えた声で応える絵里。

 

 そんな絵里をよそに穂乃果の言葉からあることを連想した凛は、再び興奮し始める。

凛「あとで肝試しするにゃ~!」

 夜の学校と聞けば真っ先に想像するのが肝試しだろう。学校の七不思議とか、怖い話がある夜の学校。肝試しをしてみるのも確かに一興なのかもしれない。

 

 凛の言葉を聞いた絵里はさっき以上に動揺し始める。

絵里「えぇ!?」

 明らかにやりたくないのが伝わってくる驚き。確実に絵里は肝試しとかお化け関係のことが苦手だということが見ればわかる。

 

 けど、それはみんなに伝わる前に希の言動で上書きされてしまう。

希「あ、いいねぇ~。特にえりちは大好きだもんね」

 絵里と一番時間を過ごしてきた希が言うのだからそうなんだろうとこの言葉を聞いた穂乃果たちは思うのだろう。ただ、苦手だと知っているのは希だけではない。同じ3年生のにこも、そして真姫も知っている。

 

 だが、逆を言えばそれ以外の人は知らないということで、希の悪ふざけは知らない人にとっては効果抜群だった。

絵里「希!」

 全く正反対の嘘を言われた絵里は言った本人に反論する。

 

 明らかに嫌そうに反論している様子から本当に苦手だとこれで伝わればいいのだが、事はそう簡単には進まないようだ。

穂乃果「絵里ちゃん! そうなの!?」

 希の言ったことを聞いた穂乃果は絵里のまだ見ぬ一面を見たと思って嬉しくなったようだ。興奮気味に絵里に真偽を確かめる。

 

 期待を込めた目で見られていると絵里は強く否定することができなくなってしまった。

絵里「え!? いや……それは……」

 だから言いよどんでしまうのもあるいは仕方のないことなのだろうか。

 

 だが、そんなことをしていると突然部屋の電気が真姫によって消される。外は真っ暗。それに加え部屋も暗くなってしまえば月明かりくらいしかあてになる光はない。しかしそれも部屋の中ではそこまであてにすることは出来ない。

絵里「……! ヤっ!」

 よって頼りになる光がついえた絵里は隣にいることりに抱き着いて恐怖を紛らわすことしかできなかった。

 

 急に暗闇の中絵里に抱き着かれたことりは何事かと思っただろう。

ことり「いっ痛い。絵里ちゃん痛いよ~」

 けど強く抱きしめられるということは怖がっているということが伝わってくる。だから言葉ではそう訴えかけるが引きはがそうとはしなかった。

 

 だけどことりのそう言われてもことりのことを話さない。

絵里「離さないで離さないで。お願い」

 ことりの耳元でそう呟く絵里。

 

 もうこれでみんなにも伝わっただろう。絵里が暗闇が苦手であるということが。

海未「もしかして、絵里」

 

花陽「暗いのが怖いとか?」

 ことりに抱き着いている絵里の手が震えている。

 

 そんな様子を見ることができたみんなに新しい絵里の一面が見られたと喜んでいる希。

希「新たな発見やろ?」

 若干の悪ふざけはあったものの、見えなかった面が見れるようになったのは喜ぶことだろう。

 

 ただ、怖がっている絵里にとってはたまったものではない。

絵里「希~……。真姫!」

 だから電気を消した本人である真姫に電気をつけるように絵里は訴えかけた。

 

 この反応を予想できた真姫は不敵に笑いながら電気を付けようとする。

真姫「はいはい……」

 

 が、それは穂乃果の一言で先送りにされた。

穂乃果「待って!」

 穂乃果は暗くなった部屋から外に広がる星空を見上げる。するとそこには都会では早々見ることのできない無数の星々が輝いていた。

 

 見れるとは思っていなかった想定外の景色に穂乃果の心が動かされた。

穂乃果「わぁ~。星がきれい」

 

 何故、家では見えない光景がこの場所で見れるのか。それは簡単なことだった。

花陽「そっか。学校の周りは明かりが少ないから」

 そう。花陽の言うようにこの音ノ木坂学院の周りには住居がなくこの時間になると周りを照らす光はない。だから住宅の並ぶ場所よりも光害の影響が少なくなっているのだろう。

 

 そんな光景を部室の窓から見た穂乃果は少し欲望が強くなってしまったようだ。

穂乃果「ねぇ。屋上、行ってみない?」

 この景色をもっと見たい。もっと広く見てみたいと。

 

 こんな景色を見たら他のみんなもそう思わないわけがない。東京という自分に一番近い場所で、よく知っている場所から見たことのない光景が見れるのであれば、それだけで嬉しくなってしまう。それがもっともっととさらに上を望んで何が悪いのだろうか? いや、悪いことなんてない。人間というのはもともとそういうものなのだから。

 

 穂乃果の提案をみんなが受け入れ、夜の学校をみんなで巡ると、目的地の屋上にたどり着いた。みんなで練習をしていた屋上。夜の屋上。頭上に広がる黒に輝く無数の小さな光。柵越しに見える日常生活を送ってる光の集合体。

穂乃果「すごいねぇ」

 見たことのない光景に、感動する。

 

 そう。暗闇の中で光が広がる光景が……まるで。

ことり「光の海みたい……」

 海のように広がっていた。星々の儚い光と、街の……人が作り出した激しい光。白、赤、黄色、青。色も多種類とそして無造作になっているこの光景は人と自然とが一緒になって初めて完成する芸術作品のようだった。

 

 その中、目の前に光るこの光景は誰かがいないと完成しないものだと気が付く。

海未「この一つ一つがみんな誰かの光なんですよね」

 そう。今も、夜真っただ中の今でも働いている人や普通に家で生活している人。

 

 そんな人たちが日常を送るために使ってる光で、人を感動させるためのものではない。が、結果として穂乃果たちは心を動かされた。

絵里「その光の中でみんな生活してて、喜んだり悲しんだり」

 だからだろう。少しだけ、ほんの少しだけ感慨深くなってしまう。この光の中、自分たちは生活していたんだと、普段は自分は目の前に広がる光景の中にいるんだと気づかされた。

 

 この街にはいろんなことを気付かされてばかりいるような気がする。アキバでバイトをしていたことりだって、この街で自分というものがどういうものなのか気づき、にこは一人ではないことを再確認した。そして今、あの光を見て、応援してくれている人たちのことを思い出した。

空也「この街にはきっと今まで出会うことのなかった人たちがいたんだ」

 スクールアイドルをしていたからできた繋がりも間違いなくあるだろう。もししていなかったら話しかけること、知ることができなかったかもしれない。

 

 でも、それはもしもの話。今はスクールアイドルをしている。

にこ「でも繋がった……スクールアイドルを通じて」

 だから繋がることができた。アイドルとファンとして支え支えられる関係になって。

 

 この関係に慣れたのは全部が全部必然だったわけではない。

穂乃果「うん……。偶然流れてきた私たちの歌を聞いて何かを考えたり、ちょっぴり楽しくなったりちょっぴり元気になったり、ちょっぴり笑顔になってるかもしれない。素敵だね」

 そう。偶然。知るきっかけなんてものは単なる偶然。そこから何かを感じ取ることができたら応援してくれる。だからアイドルは何かを感じさせないといけない。

 

 それができたからこそ、μ'sの今がある。

にこ「だからアイドルは最高なのよ」

 

穂乃果「うん」

 そして今があるからこうしてμ'sは笑顔でいられる。スクールアイドルが、アイドルが最高だと胸を張って誇ることができる。

 

 それを再認識できたからだろうか、今まで雲で隠れていた月が顔を出し、穂乃果たちのことを優しく照らし出す。まるで、そっと背中を押し出すように。

穂乃果「私、スクールアイドルやって、よかった~!!!」

 そんな感覚を覚えた穂乃果は街に向かって、届けるように大声でそう言った。本当にそう思っているのだと、穂乃果の顔が、言葉が、そして雰囲気がそれを訴える。

 

 急な穂乃果の行動にみんなが本日2度目の驚きをする。

真姫「どうしたの!?」

 だって本当に唐突だったから。それに、今言うようなことであるのかと思ったから。……これじゃまるで終わりが見えているような、そんな感じがする。

 

 けど、穂乃果には深い理由はなかったみたいだ。言った後もすがすがしい気分になっている。本当に言いたいから言ったという単純な理由。

穂乃果「だったそんな気分なんだもん。みんなに伝えたい気分。今のこの気持ちを」

 優しく微笑んだ穂乃果はもう一度街に向かって声を出す。

穂乃果「みんな~! 明日は精一杯歌うから聞いてね~!」

 次は明日のラブライブの事。スクールアイドルをきっかけに知ってくれたから、最後のステージを見てほしい。だから、抑えきれなくなった穂乃果が街にそのことを届けたかったんだ。

 

 その穂乃果の言葉に続けて、後ろにいた絵里たちも同じように街に向かって想いを届ける。

μ's『みんな~聴いてね~!』

 多くの人に聴いてほしい。だってこれがスクールアイドルとして最後と決めたステージなのだから。知ってくれた多くの人に、ひとりでも多くの人に歌を届けたい。それはμ'sの共通認識だった。

 

 みんなが街に向かって言葉を届けている間、空也は先ほどの会話を思い出していた。μ'sの歌を聴いてどうなって欲しいのか。アイドルというものがどういった存在なのか。その答えがさっきの会話にあった。

空也「笑顔……。…………! そろそろ気が済んだか? 明日本番なんだしもう寝るぞ」

 最後の足りないピースが揃った。これで空也の最高のサプライズは完成しそうだ。アイドルをやっていない間でも想いを込めてみんなが一人ひとり歌える歌。その詩の完成が見えた。

 空也の一言で満足したみんなは部室に戻り10人全員が寝静まった。明日は大事な日。備えて早く寝るのもμ'sのがやるべきことだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 夢を見た。

 

 それはいつか見たようにも思える輝かしい夢。穂乃果たちμ'sが広いステージで楽しそうに歌って踊っている夢。

 衣装は明日着るはずでまだ穂乃果たちが来ているところを見たことがないのにまるでそれが完成かのように確かな光景が夢の中に広がっていた。

 

 そして踊りが終わった後、空也の視界は白に覆われ、意識が現実へと戻ってくる。夢を見た後の見知った天井はここが日常なんだと伝えているように感じた。

 太陽が完全に出る前のまだ少し黒味が残ってる空を見た空也は自分の布団を整理して、大きく1回伸びをした。

空也「とうとう来たな……今日が」

 そう。今日が終わればまず3年生は一時引退、そして一週間後には卒業式。

 最高の結果を残して卒業式で最高のサプライズをしてあげたい。だから今日まで手は抜かずに最後までやってきた。穂乃果と約束したのだ。"最後までやり遂げる"と。

 でもまず始めはこれから始まるラブライブに向けて力を蓄えることからやろう。空也はその足で家庭科室に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 誰よりも早く空也が起きた理由。それは朝食を作るため。今日は大事な日であることから、胃にダメージが来ないであろうメニューを作っていく。

 

 考えて献立を作っていくともう完成してしまった。お盆いっぱいに料理を乗っけて移動する準備を始める。

空也「さてもうみんな目が覚めてるだろう。さっさと届けてやらないとな」

 誰が最初に起きてるのだろうか? そんなことを考えながら部室に戻ってみる。最初に浮かぶ顔はいつも自分の隣をニコニコと歩いている大切な幼馴染の顔。そんな予想をしているとやけに興奮している声が中から聞こえてくる。

 

 もう答えが出ているようなものだ。そしてその人は空也が想像した人そのものだった。カーテンを思いっきり開けた穂乃果は元気いっぱい。風邪だと判断するのは不可能だろうと思えるほどやる気に満ち溢れていた。

 

 外の天気を見た穂乃果は、雲一つない青い青い空を見て余計に目をキラキラと輝かせていた。

穂乃果「いい天気!」

 だけど、まだ残りの8人は眠っていた。穂乃果の声で夢と現実の間を行き来していたようだが、それが完全に現実へと呼び戻される。

 

 まぁ、だからと言ってすっきりと起きられるというわけではないからまだ布団にもぐったりと抵抗をしている人もちらほらいる。

ことり「まぶしいよ~」

 

花陽「閉めて~」

 だけどその反応が、普通であれば穂乃果から聞くことのできない言葉を引き出すことになった。

 

 いつも寝坊をしている穂乃果が言うのは何というブーメランなのだろうか。その言葉が穂乃果の口から出てきた。

穂乃果「起きろー!」

 部室全体に響き渡る透き通った声。その声は寝ていても自然と耳に入ってくる。そしてみんなの意識を完全に覚醒させた。

 

 だけど穂乃果はそのままみんなに向けて言葉をつづけた。

穂乃果「朝だよ! ラブライブだよ!」

 今日は待ちに待った、ラブライブ当日。

 

 そんな穂乃果の言葉に合わせるように部室側のドアから空也が声をかける。

空也「そうだ。早く起きてちゃんとベストコンディションでやんなきゃな」

 もう当日を迎えればできることは少なくなってくる。今できることは体を整えるだけ。その一歩としてまず最初にやるのは朝の活力である朝ご飯を食べることだろう。

 

 その空也の言葉を聞いたみんなは部室のほうからおいしそうなにおいがしてくることに気が付いた。

凛「わぁ~。いい匂い」

 夕食の時同様にこの匂いが朝だというのにみんなの食欲をそそった。

 

 ただ、寝ていたということもあり、若干服が乱れていたことを除けば今すぐにでも朝食にすることができるのだが、空也がそれを許さなかった。

空也「朝ごはんは作っといたぞ。みんな準備しな」

 食べるのは服装を整えてから。空也の言葉通りはだけた服を整えて穂乃果たちは部室の席に着き、ライブ前最後の朝食を一斉に取った。

 

 今日は運命の日……。

 

 




ようやくラブライブが始まる……。

っということであらすじ回収しました。これからラストライブに向けて突っ走っていきますよ!!

次回『終わりの始まり』

それでは、次回もお楽しみに!



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