ラブライブ!~化け物と呼ばれた少年と9人の女神の物語~ 作:そらなり
今回はμ'sの出した答えの話。
それでは、今回も導き出した答えを目に焼き付けてください!
穂乃果「うん……。ごめん、言うよ。せーの!」
穂乃果の掛け声とともに、みんなで出した答えをみんなで声に出す。
穂乃果たちが導き出した解は正しいことだったのか、それとも間違っているものなのか……。
7人『大会が終わったら……、スクールアイドルμ'sはおしまいにします!』
そんなのは分からない。けど、スクールアイドルとしてずっとμ'sは続けられないというのが穂乃果たちの答え。声を揃えて声に出すことに怯えて震えているのに、瞳には大きな雫が溜まっているのに、それでも大きな声でここで、宣言する。スクールアイドルという一瞬の光がもうすぐ終わるということを。
みんながずっと考えていた。μ'sとは何なのか。ずっと続けて、それがμ'sと呼べるのか。
穂乃果「やっぱりこの10人なんだよ。この10人がμ'sなんだよ」
考え抜いた結果がこの結論。ここにいるみんながμ's。これは散々言われていたことだし、わずかな時間であってもずっと一緒にいたからこそ、この認識がみんなの中に確かに芽生えた。
だからこそ、異質な答えであったとしても自分たちの答えを変えようとは思わなかった。
海未「誰かが抜けて誰かが入って……。それが普通なのはわかっています」
メンバーの更新。そんなのは認められない。認めたくないのだ。このスクールアイドルμ'sというグループにとってそれは。
みんながそう思っている。
真姫「でも私たちはそうじゃない」
花陽「μ'sはこの10人」
凛「誰かがかけるなんて考えられない」
ことり「一人でもかけたらμ'sじゃないの!」
この1年にも見たいない僅かな時間で『μ's』というものはとても大切なものになった。"みんなで叶える物語"というキャッチフレーズのように周りの人や応援してくれる人たちとで進んでいるということも理解している。けど、だからこそ表にいるのは今のみんなでないといけないとそう想った。
そして、μ'sであってμ'sでない者だからこそ導き出せた答えがある。張本人ではなく、ずっと見てきたからこその客観的視点。それでいて中身をよく知っている主観的視点。
空也「俺はそんな9人を見てきた……。表には出ないけどメンバーって言ってくれてうれしかった……。けどやっぱり9人いてこそのμ's。もちろん俺も欠けないよ。最後まで一緒にいる。そんな9人だったからこそ好きになれたんだよ8人でも11人でも駄目。この9人と、その……俺がいて完成してるものなんだと思う。だから……な」
空也がずっと見ていたいと思えるのはこの9人だから。廃校を阻止できたときに希が言っていた。『μ'sは9人+1人。それより大きくても小さくても駄目』。この考え方がみんなに染み付いたのだ。それが空也にも。数字が大事なんじゃない。穂乃果が、ことりが、海未が、花陽が、凛が、真姫が、にこが、絵里が、希が。……そして空也が大事なのだ。
みんなの答えを聞いた絵里は一度目を閉じ、海を見つめる。
絵里「そう……」
絵里の見ている景色は夕陽が落ちようとしている海。どこか自分たちのこれからを暗示しているようなそんな風に感じてくる。穂乃果たちは一度、幕を引くことを選んだ。そのことを受け入れて、絵里は飲み込む。
しかし、納得している様子に絵里の反応に驚く者もいた。
にこ「絵里!?」
最後までμ'sが続くことを願っていたにこ。それはどうやら穂乃果たちが出した答えを聞いても変わることはなかったらしい。
が、同じく3年生である希は絵里と同じような気持ちになっていた。
希「うちも賛成だよ」
あの時、みんなでこの後のμ'sをどうするかという話をしていた時に答えを出さなかった希なら自分の味方になってくれる。μ'sという場所を守ろうと賛同してくれると思っていたにこはかなりの衝撃を受けたことだろう。
にこ「希……」
けど、もうそんなに大きな反応をする気力もにこには残っていなかった。
あの時何も言わなかった希。だけど、やりたかったこと、やってほしかったことは決まっていた。それはμ'sの名付け親だから、特にこのμ'sに思い入れがあった。どうしてこの名前を付けたのか。その理由を考えれば希の答えは簡単に予想ができたもの。
希「当たり前やんそんなの。うちがどんな想いで見てきたか名前を付けたか、このメンバーしかいないんようちにとってμ'sはこの10人だけ……」
希にとってもμ'sというのはここにいるみんなだけ。一番最初にこのことを言い出したのは希だ。だから希もみんなの出した答えに納得をしている。
もちろん、希がどんな想いで名前を付けたのかを聞いて知っている。そしてこの場所が希にとって大切な場所であるということも。
にこ「そんなの……。そんなのわかってるわよ! 私だってそう思ってるわよ。でも、 でもだって」
でも、音ノ木坂学院アイドル研究部所属のμ'sが終わるということはどんなことなのか、仲間がいない中でずっとアイドルを続けていたにこにはわかる。だから認めることができない。もしかしたら自分が守ってきた大切な場所がなくなってしまうのではないかと怖くなってしまうから。
なんとなく。なんとなくだけど、真姫はにこが思っていることが分かってきた。
真姫「にこちゃん……」
アイドルに人一倍厳しく、μ'sに入る前も頑張ってきた小さな背中にはどこか哀愁が漂っているのが分かってしまう。こんな反応をされるということはわかっていなかったわけではないにしても目の当たりにしてみると少しだけ心が切なくなる。
にこの中にみんなの出した答えが延々と巡っていく。
にこ「私がどんな想いでスクールアイドルやってきたかわかるでしょ!? 3年生になって諦めかけてた。それがこんな奇跡に巡り合えたのよ!? こんな素晴らしいアイドルに、仲間に巡り合えたのよ!? 終わっちゃったら……」
2年間、誰もいないアイドル研究部に所属していた。多少の意地はあったのかもしれないが、その大半がアイドルをあきらめたくなかったから。その結果がどうだろうか。μ'sというスクールアイドルになることができて、かけがえのない大切な仲間と笑ったり、泣いたり……。いろんな時間を共有した。それが終わりにしたら……あの大切な時間が無くなってしまうのではないか? あの部室が1人で閉じこもっていた場所からみんなで楽しく過ごせるようになった大切な部室がなくなってしまうのではないか? そんなことが頭に浮かんで離れない。
けど、にこのその考えは真姫たちにとっては愚問そのもの。μ'sが終わるというといっても音ノ木坂学院アイドル研究部は終わることはない。
真姫「だから、アイドルは続けるわよ! プロにだってなる! それにスクールアイドルも!! でも、μ'sは私たちだけのものにしたい。……にこちゃんたちのいないμ'sなんて嫌なの! 私が嫌なの!」
普段声を荒げることのない真姫がにこの肩をつかみ涙ながらに訴えかける。そう。μ'sはこれからプロになる。だから、そのためにスクールアイドルのμ'sは終わりにしないといけない。けど、それがスクールアイドルの終わりというわけではない。むしろμ'sをやめたからと言ってスクールアイドルをやめるわけではなかった。大切な場所であるアイドル研究部は絶対に守るし、スクールアイドルも続けていく。その覚悟が真姫たちにはあった。けど、μ'sだけは自分たちだけのものにしたいとみんなが強く願っていた。
みんなが出した答え、にこもようやく納得し自分が気にかけていたことが大丈夫だと理解したためか安心してしまう。だからだろうか? みんなが終わりにするということを決めて涙していたのが伝染ってしまった。大粒の涙が瞳から溢れてくる。
そんなとき、穂乃果が突然大きな声を上げた。
穂乃果「あ~!」
そんな穂乃果の声が本当に唐突だったためかみんなに涙が止まっていく。
意外そうに空也以外のみんなが穂乃果に注目をする。
穂乃果と空也以外『え!?』
穂乃果の瞳はかぶっていたニット帽でよくわからなかったけど、空を見上げていた。その刹那、空也は穂乃果の頬に何かが流れた跡があることに気が付いた。
みんなが驚いている中で穂乃果が言葉をつづけた。
穂乃果「時間! 早くしないと帰りの電車なくなっちゃう!」
時計も見ずに後ろに向かって走り出す。砂浜とアスファルトの道路の境界にある階段を駆け上がりながら穂乃果はここにくるのに使った駅まで駆け出していく。その穂乃果の後ろにきらりと光るものが落ちていたのはきっと見ないふりをした方がいいのだろう。
そんな穂乃果に連れられみんなも追いかけるように走っていく。その間に、本当に先ほどまで泣いていたのかわからなくなるくらいに普段と変わらないみんなに戻っていた。
急に走り始めた穂乃果を追いかけてみんなが駅前に戻ってきた。
海未「電車は?」
ここに来るまでにもかなり急な乗り換えがあったことから本当にこれを逃したら帰れなくなるのかもしれないということを考えてしまう。
しかし時刻表を見てみれば、現在時刻の後にもまだまだ電車は来る。いくら秋葉原から離れた地に来たとしても夕方に終電になるような場所ではなかった。
絵里「まだまだあるわよ」
電車がまだあるということを知って安心するみんな。だけどこの後には電車がなくなるという嘘をついてあの場所から移動した穂乃果に視線が注目する。
みんなの後ろから穂乃果がなぜあの場所から移動したのかを知っている空也が一番最後に駅にやってきて声をかけた。
空也「騙されたなみんな」
そう。ここにきて電車があると分かったようにみんなは穂乃果に騙された。
何故嘘をついたのか。それはある程度空也にもわかっていたとしてもそれは全部ではない。理由を知っているのはこんな行動をした穂乃果だけ。
穂乃果「ごめん。だってみんな泣いちゃいそうだったから、あのままあそこにいたら涙止まらなくなりそうだったから」
そう。実際にみんなは涙を流していた。それもずっと涙を流してしまうような大粒の涙。穂乃果はそれを止めるために嘘をついたのだ。みんなのために。
海未たちは穂乃果がなぜそんな行動をしたのかを知って、やれやれと言う様子で穂乃果を見つめた。
海未「穂乃果に一杯食わされましたね」
もしかしたら穂乃果は周囲を見る能力にたけているのかもしれない。だから穂乃果はみんながこれからどうなるのかが分かって、こんな行動をしたのだ。結果、穂乃果の思惑通り泣いていた涙は引っ込み、今こうして呆れたり笑ったり話をすることができる。
ようやく穂乃果の行動の理由が分かって、猛ダッシュでこの駅までやってきたため少しだけ上がった息を落ち着けながら話し始める。
真姫「もう……本気で走っちゃったじゃない」
そう。本来今日は練習をせずに体を休める日だった。ボーリングなどで体を動かしたとしても大した運動にはならない。それに比べて本格的に走ればいくら運動をしていたとしても息が上がり疲れてしまう。
しかも、こういう休日を作ったのもちゃんとした理由があってのもの。
にこ「そうよ~。体力温存って言ってたのに使っちゃったじゃないの」
だから本来であれば使うことのなかった体力を使ってしまったと少し嫌味を言うにこ。そこには先ほどまで涙していた哀愁漂っていたにこはいなかった。
そして先ほどまでいた海の景色を思い出していた凛は覚えたことを口にした。
凛「もうちょっと海見てたかったな~」
最初は冬の海に行くのはどうかと思っていた。けど10人であの景色を見ていたらもっと見てみたかったと少しだけ貪欲になってしまった。
ただ、駅まで来てしまえばみんなはすでに帰宅ムード。それに長い時間を見ていればいいというものでもない。
海未「でもよかったです。10人しかいない場所に来られました」
絵里「そうね。今日あの場所で海を見たのは私たち10人だけ、この駅でこうしているのも私たち10人だけ」
そう。穂乃果の見たかった10人だけの景色はしっかりと見れた。もう少し時間が長かったら他の人が同じ時間を共有してしまうかもしれない。それだけ10人だけの景色を見たかったのだ。
そして短い時間であったとしても花陽達が見た光景は脳裏にしっかりと焼き付いた。
花陽「なんか素敵だったね」
水平線に沈む太陽。オレンジ色の空、オレンジ色の海。白い砂浜は少しだけ暗くなっていて海面をより引き立たせているようで本当に10人だけできれいなあの景色を見れたことが本当に嬉しかった。
けどそれはみんなの記憶の中だけにしか残らないものだった。それだけではちょっと悲しい。物として、確かにみんなだけの景色を見た証拠が欲しかった。
穂乃果「ねぇ、記念に写真撮らない?」
一度駅周辺を見まわしてある物を見つけ、みんなに向かってそう提案した。記憶に残っているきれいな景色もいいけど、いつまでも見直すことができる色あせない思い出にするために。
穂乃果の提案を聞いた花陽はそういうことならと携帯を取り出した。
花陽「じゃあ携帯あるよ」
駅をバックに写真を撮るのもいいのかもしれない。そう思って写真を撮ろうとカメラを起動するが、穂乃果が写真を撮ろうと言ったのはそういう何度もくればできるような写真撮影ではなかった。
みんなに向かって証明写真のボックスを指さして見せる。
穂乃果「そうじゃなくてここでみんなで撮ろうよ」
写真ではなく証明写真の中に入って写真を撮ろうと言っている。プリクラのように。しかし、証明写真の機械の中は大人数が入れるように作られているわけではない。だからぎゅうぎゅうに詰められてみんなが入る。
9人がぎっしりと入り込んだ証明写真のボックス内はおしくらまんじゅう状態。その機械の外で手だけを入れていた空也は少しだけこの後どんなことになるのか予想がついていた。
出てきた証明写真。そこには本当に狭かったであろう中の様子が映し出されていた。にこの髪が希のひげのように映っていたり、手だけしか凛が写っていなかったりいろいろと滅茶苦茶だった。そんな写真を見ていたみんなは自然と笑いがこみあげて笑顔になっていた。
けど……、砂浜で終わりを告げたこと。みんなの映った思い出を見てどうしても抑えきれない感情が溢れてきてしまう。
最初にあふれたのは花陽だった。先ほどまで笑っていたのに砂浜にいた時と同じような涙が瞳から次から次へと流れてくる。
花陽の止まらない嗚咽で震える肩を凛がつかむ。
凛「かよちん泣いてるにゃ」
急に泣き出してしまった花陽を見た凛はいつもの様子で花陽に話しかける。
けど、溢れてしまったものは簡単に落ち着かない。
花陽「だっておかしすぎて涙が……」
何故泣いているのかが分かっていない花陽はそれでも涙を止めることができなかった。
そしてこの涙は伝染する。涙を流している原点がみんな一緒だから。
凛「泣かないでよ。泣いちゃやだよ……。せっかく笑ってたのに」
今まで笑っていたのに泣き出してしまう。笑っていたから泣くことを我慢できていたというのにそれもすぐに涙に塗り替えられてしまった。
凛と同じように花陽の涙は真姫にも伝染して、大きな涙が溢れてくる。
真姫「もう、やめてよ……。やめてって言ってるのに……」
花陽達だけではない。ここにいる誰もが、笑っていたのに急に泣き出してしまう。
穂乃果「なんで泣いてるの? もぅ、変だよそんなの……」
そう。変なのだ。だって後悔のない選択をしたはずで、涙を流すことはないはずだったのに、穂乃果も瞳から涙を流していた。ずっと続けていたことをやめるというのはとても辛いことだったのだ。
泣いている穂乃果に抱き着くように泣いていることり。
ことり「穂乃果ちゃん……」
海未も絵里も互いに抱き着きながら泣いていた。終わりにする。それが一時のこととはいえ、今まであったものだから、自分たちにとって大切なものがなくなってしまうのはやっぱり悲しい。
その中でうるんだ瞳を必死になって我慢している人がいた。
にこ「もう、めそめそしないでよ! なんで泣いてるのよ!」
にこは涙を流さないと決めていたのか腕を組んで泣くもんかと頑張っていた。
けど、うっすら涙を流している希が心配をしていた。
希「にこっち……」
感情を抑えている。確かに泣かないことは立派なことなのかもしれない。けど、感情を抑えて、自分を偽るのは良いこととは言えない。
にこ「泣かない! 私は泣かないわよ!」
けど、泣かないということを決めたにこにはそれでも歯を食いしばって涙をこらえていた。
そんなにこに希は優しく、強く抱きしめた。希も大粒の涙を頬に流している。想いはみんな同じだった。
にこ「泣かないんだから!」
それでも強情なにこは泣こうとしない。自分に嘘をついてまで涙をこらえようとしていた。
自分を偽ることがどれだけ辛いことか、にこはよく知っているはずだ。それに……。
空也「別に泣いてもいいんだよ。こんな時は、感情を隠すな。表に出せ!」
そう。泣くことは恥ずかしいことじゃない。むしろ感情を隠して自分に嘘をついて……。そんなことを続けていたらもうそれは自分ではない他人になってしまう。だから泣きたいときは泣けばいい。
空也の言葉を受けたにこはハッとする。今まで妹たちの理想を守るために自分に嘘をついていたことを。
にこ「…………。そういうのやめてよ……」
だから言葉ではそう言いつつも、抑えていた感情が爆発しにこの瞳には大量の大きな雫がこぼれ落ちてくる。その横で空也もみんなには背を向けつつも静かに涙を流していた。
丁度みんな泣き止んだ頃に電車がやってきた。長い間泣いていたからか穂乃果たちみんなの目が赤くなっている。けど、目を腫らしているのにみんなは笑顔だった。
空也「もう、気が済んだか?」
みんなより先に泣き止んだ空也は穂乃果たちが大丈夫になったかどうかを尋ねる。
ここに来るまではお通夜ムードで誰一人話さなかったのに今は本当にみんなが笑顔で楽しんでいるのが見て取れた。
穂乃果「うん! 最後は空也君の行きたい場所だね」
そして電車の中で最後に残っている空也の行きたい場所を穂乃果は聞いた。
みんなと一緒に行きたい場所。それはたった一つ。秋葉原のはずれにあるアクセサリーショップ。
空也「あぁ『奇跡の絆』ってとこ」
桐乃の夫であり兄である京介が経営をしている『time world』の子会社。ブランドがブランドなだけに有名かと思われた。
しかし場所が秋葉原であるということと、できてまだ間もないということからそこまで有名な店というわけではなかった。
海未「聞いたことありませんね」
だから、海未も知らない。きっとこの中で知っているのはことりだけなのだろう。歩がプレゼントを買ったのがその店なのだから。
空也「そりゃ、最近できたところだしな。とはいっても1年前くらいの事らしいが」
海未の疑問もその通りでオープンしてようやく1年が経とうとしているくらいでまだまだ店としては未熟そのもの。それに大々的に広告をしているわけでもないことから『time world』の中でもかなりマイナーな店になっていた。
やってきたように電車の乗り継ぎをする。空也の行きたい場所はわかった。だったら時間も時間であることから、急いでいかないといけないだろう。
穂乃果「じゃあもう遅いから早く行こう!」
もう、時間はそろそろ日が完全に落ちる寸前。冬だから陽が落ちるのは早いため少し急がないといけない。
穂乃果たちは行きと同じようにあわただしい乗り換えを何とか成功させて秋葉原駅に戻った。
空也の案内の下、μ'sは『奇跡の絆』に着いた。きっと穂乃果たちは『time world』の子会社だから大きい店なのだろうと思っていた。けど見た目は1階建ての小さめの店だった。
空也「京介ー。頼んでたもの取りに来たよ~」
ラブソングを作ろうとしていた時、空也が頼んでいた品物があった。本当ならもう少し後に渡す予定だったのだが、できているのであればと空也はここを選んだみたいだ。
店の奥からまるで友人に答えるかのように一人の男性がやってきた。
京介「おう! これでいいんだろ?」
年齢としては20歳前半のような男性。そしてその手には10個のアクセサリーが乗ったトレーを持っていた。
京介が持ってきたものは空也があの時に頼んでいたデザインそのもの。
空也「そうそう。ありがとな」
元々ある基盤にデザインを書いたものなだけだけど、完成品を見た空也は少しだけ達成感のようなものを感じた。
これが完成したのもここにいる京介のおかげ。そもそも、京介がいなければ空也はきっとやろうとも思わなかっただろう。
京介「別にいいって」
けど、それは京介だって同じだった。空也がいたから今がある。……いや、少しだけ違う。空也が来たから今が、こうして暮らせているのだ。
ただ、こうして空也と京介が話していても京介が持っているものは空也の背中で穂乃果たちには見えていなかった。
穂乃果「どうしたの空也君?」
だから、そこには何があるのか気になってしまう。覗き見るようにして空也の肩に両手を置いた穂乃果の顔が空也のすぐ近くにあった。
別に空也は隠しているわけではない。だから京介からトレイを受け取った空也はそれともってみんなのいる方に向いた。
空也「みんなにプレゼントを用意してたわけ、はいこれ」
まず最初に一番近くにいた穂乃果から空也はプレゼントを渡した。そのプレゼントというのはペンダント。形は同じではあるが表面にメンバーそれぞれのイメージカラーに『μ's』と書かれ、その裏には穂乃果なら『ほ』絵里なら『Я』といったように自分たちだからわかるアイコンが描かれていた。
渡されたものを見てみんなは驚いている。まず、このようなものがプレゼントされるとも思ってもみなかったことが原因なのと、もう一つ違う理由があった。
海未「これは……」
表面にあるイメージカラーに『μ's』と書かれてはいるが良く見るとそのロゴが直接彫ってあるわけではないことが分かる。金属部分にロゴが、それを覆うように、宝石のようなものが取り付けてあった。その宝石のようなものがそれぞれのイメージカラーになっていてその周りには小さな本物の宝石が散りばめられていた。
当然、物が物だけにことりたちのペンダントを持つ手が震えている。
ことり「いいの?」
高校生には不釣り合いにも見える高価そうなペンダントはそれだけことりたちを驚愕させた。
が、これは渡すためにデザインをしてオーダーメイドで作ってもらったもの。みんなに受け取ってもらわないと意味のないものになってしまう。
空也「いいに決まってるだろ。そのために作ってもらったんだから」
それに、空也たちの関係の中では遠慮は無粋。
とはいっても宝石が使われているこのペンダントに、オーダーメイドという事実。流石にホイホイと受け取っていいものとも思えなかった。
花陽「でも、これって高いんじゃ……」
今までの話とプレゼントされたものを見て思ったことを花陽が言う。
ただ、空也にとって値段を考えずにプレゼントに決めていたことからそこまで気にしていなかったということもあって、空也はよく知らなかった。
空也「そんなにでもないよ。えっと……どれくらいだっけ京介」
だから販売元である京介にどれくらいの値段かどうかを尋ねる。
が、今まで空也とμ'sのやり取りを聴いていた京介は笑顔のまま空也の質問に答える。
京介「気にすんな。そんなに高くはねぇよ。9,000円ってところだ」
確かに、京介が言った値段であれば学生にも何とか手を出せるかもしれない値段だ。それにしても数が数だけにお金に余裕のある空也がやっとできることになるが、この値段なら穂乃果たちは少し安心して受け取れるかもしれない。
ただ、京介の言ったことと空也の認識では少しだけ異なる部分があった。
空也「……諭吉さんが何人か吹っ飛ぶレベルだと思ったんだけど?」
そう。じっくりと値段を計算しているわけではないから詳しくはわからないけどオーダーメイドの見積もりの段階ではそんなに安い値段にはなっていなかった。
だから京介は何かをしているということが空也には分っていた。
京介「まぁ、恩人だしな」
そしてその考えは当たっており、桐乃同様に自分たちが幸せになれたことに対する感謝の気持ちとして今回のプレゼントをまけてくれたらしい。
空也と京介の話を聞いて値段を想像した凛は学生らしい反応を見せた。
凛「そんなに高いの!?」
簡単に数万円単位の買い物がおいそれとできるわけではない。まけてもらったとしても10人分というだけで9万円分の買い物をしたという事実は消えなかった。
が、この中に常識が通用しない人物が一人。
真姫「そうかしら? でも、きれいね……」
様々な場面で別荘などを使わせてもらっている家の一人娘の真姫だけは冷静な様子だった。だから純粋にペンダントを見て綺麗だということができる。
そんな真姫の言葉があったからか遠慮なく受け取っていいということが分かったみんなはペンダントを付けてみたり、胸に抱いてみたりと様々な反応をしていた。
絵里「こんなにうれしいプレゼントなんて今までもらったことがないわ」
駅で散々泣いていたはずなのに、この『奇跡の絆』の中でもうっすらと涙を流して絵里は空也にお礼を言った。
これは年上だから余裕はあるのだろうか絵里だけではなく希も、
希「ありがとうな空也君」
にこ「……ありがとう。空也」
にこも同様に普通に感謝の言葉を自身の口から紡いだ。
そんな中、なかなかペンダントを付けることのできない穂乃果を手伝っていた空也は急に目と鼻の先にいる穂乃果が抱き着いてきてかなり動揺をしていた。
穂乃果「ありがとう! 空也君、ずっと大切にするね」
みんなが喜んでくれたという事実が何より空也は嬉しかった。みんなが同じものを付けるということがなかったμ'sにとって、このアクセサリーは大切なものになるだろう。みんなが同じ想いを持ち、これからの道を歩いていく。
きっと大変なことが多い道かもしれない。けど、きっとみんなの想いは変わらない。胸にあるペンダントと同じで変わることのないそんな想いが胸の内にあるのだから。
プロになるためには一度終わりを迎えないといけない。けど、やっぱり終わることって悲しいことなんですよね。それが一時であるとわかっていたとしても終わってしまえば、無くなってしまえば何とも言えない虚無感を覚えてしまう。
実際、何度も終わりというものを経験してきましたがやっぱり辛いものがあるんですよ。それが表現できていたら、同じような想いを覚えてくれたら嬉しいです。
さて、次回はようやく12話分! 『ラストライブ』回。
新しくお気に入り登録をしてくださった黒うさぎαさんありがとうございます!
次回『練習』
それでは、次回もお楽しみに!
6月9日は希の誕生日でしたね! おめでとう!
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