ラブライブ!~化け物と呼ばれた少年と9人の女神の物語~   作:そらなり

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どうも、そらなりです。

今回、μ'sが答えを出す回です。一体どんな答えを出すのか、それは本編で。

それでは、始めたころは予想もしなかったことに悩み苦しむ彼女たちをどうか見届けてあげてください!


μ's

穂乃果side

 

 μ'sの今後を話すことになった日の夜、穂乃果たちはそれぞれ1人で考えてみようということになっていた。そして穂乃果も自分たちのことを、これからをどうするのかを決めようと思った。家に帰ってからずっと考えている。お風呂に入っていても布団の中に入っていても、考えていることは同じ。

 

 スクールアイドル"μ's"はどうするべきなのだろうかという、1つの悩み。亜里沙のようにμ'sに入りたいと思って入学してくる人だっている。けど、1人でも欠けたスクールアイドルユニットをμ'sと呼ぶのは違う。それは人数が一緒ならいいとかそんな簡単な理由ではない。今の10人だからμ'sとして成立している、そういう気がしているのだ。

 

 だから、これから入学してくる後輩たちのこと、そして自分たちのことに板挟みの状況に考えれば考えるほど頭の中がこんがらがってしまう。

穂乃果「わからないよ……」

 自分たちのことだけを考えればどんなに簡単に答えが出るだろうか? 入学してくる後輩たちだけのことを考えていればすぐに答えが出てくるのだろうか? 今も穂乃果の頭には続けるべきなのか、それともいったん区切るべきなのかという2択が廻っている。天秤にかけたようにそしてそれが釣り合っているかのように。けどその状態が穂乃果の心を不安定にしているのもまた事実だった。

 

side out

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

雪穂side

 

 雪穂はいつも穂乃果たちが練習をしている神田明神に来ていた。夕飯も食べ終わり、そろそろ中学生が外出していていい時間を過ぎてしまうのではないかという時間にこの場所で親友の亜里沙を呼び出し、あることを話そうとしてる。

 内容は穂乃果たちとほぼ同じ。μ'sのことについて。雪穂が見てきたμ's、憧れていたμ'sはいったいどんな姿なのかを亜里沙を待つ間、ずっと考えていた。

 

 そして亜里沙が神田明神に着いたのと同時に1つの答えが雪穂の中に根強く咲いた。

雪穂「亜里沙……。私はそうしたらいいんじゃないかって思うんだけど、どうかな?」

 自分が考えて出した結論。μ'sとはどういう存在なのか、自分たちはどうしたいのかを全部ひっくるめて考え抜いたもの。それを亜里沙に向けて話してみる。

 きっとこの話を聞いた亜里沙は傷ついてしまうのだろう。合格発表の時、あれだけはしゃいで、あんなに好きだったμ'sになれると思っていた亜里沙には辛いと感じてしまうのも分かる。けど雪穂は答えを変えない。だって、自分たちの見てきて、応援したいと思っていたのはあの10人だったからなのだから。

 

 雪穂の考えを聞いた亜里沙は一度目を閉じてから亜里沙がここに来るまでに雪穂がやっていたことと同じことを行使してみる。自分が何に惹かれμ'sを見てきたのか、μ'sとはどういうものなのだろうかと、自問自答を繰り返す。

 

 結論が出た亜里沙は目を開き雪穂のほうをしっかりと見つめる。そのめじりにはうっすら雫が月明かりの下光り輝いているのが雪穂にも見えた。もしかしたら反対されるかもしれない、むしろ反対される可能性のほうが高いと思っていた雪穂は唾を飲み込み亜里沙の結論を待った。

亜里沙「……うん。私もそれで」

 泣きながらも笑顔で亜里沙はそう言った。自分がなりたかったものを諦めたのだ。この願いを備える神社という場所で。けど、雪穂も亜里沙も自分の選んだ選択に後悔はしていない。……いや、後悔はしているはずだ。でも、その選択をしてよかったと思うことができる未来が雪穂たちの目には見えている。笑顔のまま、穂乃果たちがラブライブのステージに立っている最高の未来の姿が。

 

 だから、後悔なんてしていられない。例えμ'sになれなかったとしてもスクールアイドルになることはできる。この場所で終わった亜里沙の夢は、ここからまた始まるのだ。雪穂とともに、μ's(みんなで叶える物語)とは違う亜里沙たちだけの物語が。

 

side out

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

穂乃果side

 

 次の日の朝。悩んで悩んで悩みぬいた結果、結局答えは出なかった。どんなに考えても穂乃果には答えが出せない。暗い表情のまま無理に明るく振舞って穂乃果は家を出た。今日はμ'sの今後をどうするかという答えを出す日。穂乃果の学校に向かう足取りはとても重々しかった。

穂乃果「行ってきまーす」

 家を出ていつも通っている道を歩いていく穂乃果。だけど、少し歩いた後いつもとは違う光景が目の前にはあった。

 雪穂と亜里沙が穂乃果の目の前にいる。それもかなり真剣な表情をして。一体何があったというのだろうか。穂乃果はなぜ雪穂と亜里沙がここにいるのかよくわからなかった。

 

 けど雪穂たちがここにいるのは確かな理由があってのもの。昨日亜里沙と2人で決めた高校に入学した後にやること。それを、雪穂は穂乃果に話そうとしていたのだ。

雪穂「おねーちゃん!」

 いつも穂乃果を呼ぶ時とは違う、声を張った呼びかけが穂乃果の足を止める。

 

 そして雪穂たちのことをそのまま見つめる穂乃果。

穂乃果「雪穂?」

 けど穂乃果には何が起こっているのかよくわかっていない。なぜ雪穂がここにいるのか、亜里沙が雪穂がいるのにもかかわらずここで待っていたのか。穂乃果にはわからない。

 

 例え今穂乃果が分かっていなかったとしても雪穂たちのやることは変わらない。

雪穂「ちょっと話があるんだけど、いいかな?」

 自分たちが憧れたμ'sを見ているために、追いかけるために出した答えを穂乃果に告げる。

 

 が、穂乃果には何が何だかわからないまま。

穂乃果「え?」

 困惑したまま、雪穂たちの言葉を待つ。

 

 少しの沈黙の後、雪穂は亜里沙の背中をそっと押し出した。この先の言葉は亜里沙が言うべきだから。μ'sに入りたいと強く願っていた亜里沙だからもっとも意味を持つ言葉。

亜里沙「あの! 私、私……μ'sに入らないことにしました!」

 憧れていたμ'sへの決別。決して敵対するわけではない。けど、憧れているからこそ模倣のままではいられない。好きだからこそ、自分がその立ち位置になることを自分が許さない。自分が好きなμ'sは今ある10人なんだと、分かった亜里沙の出した答えだ。

 

 ただ、ついこの間までμ'sに入ると何度も口にしていた少女がなぜその答えを出したのか穂乃果が疑問に思う。

穂乃果「え?」

 

 そのまま亜里沙は言葉を続けた。μ'sを諦めた理由を自分の見てきた光景を感じてきたことを思い出しながら話す。

亜里沙「昨日、雪穂に言われてわかったの。私、μ'sが好き。9人が大好きで、空也さんの歌詞が好きで。みんなと一緒に一歩ずつ進むその姿が大好きなんだって」

 ステージに立つ9人が好きだ。みんなが信頼している空也の歌詞を歌うμ'sが好きだ。今のμ'sだからこそ、亜里沙は胸を張って好きだと言える。

 

 亜里沙の言葉には本当にいっぱいの好きで溢れていた。

穂乃果「亜里沙ちゃん……」

 そのことを嬉しく思いながらも、続く言葉がどんな言葉なのかもう穂乃果には予想がついていた。

 

 自分が好きなのは今のμ'sで、メンバーの入れ替わったμ'sではない。

亜里沙「私が好きなスクールアイドルμ'sに私はいない。だから! 私は私のいるハラショーなスクールアイドルを目指します! 雪穂と一緒に」

 そのμ'sにいるべきなのは穂乃果と海未、ことり、花陽、凛、真姫、にこ、絵里、希。そして空也。それだけ。だから、亜里沙はμ'sになるのではなく、μ'sを憧れて違うスクールアイドルを目指すことにしたのだ。ここにいる雪穂と一緒に。

 

 まだこれからどんなことが起こるのかはわからない。けど2人で決めた将来は実現させようと思っている。

雪穂「だから、いろいろ教えてね。先輩。……なんてね。……ダメ、かな?」

 笑顔でそうつぶやく雪穂。その目はやる気に満ち溢れていて、今からでもスクールアイドルを始めることができると思ってしまうほど。

 

 μ'sを諦める選択。それをμ'sに入りたいと思っていた亜里沙たちがしたことで、穂乃果は1つの答えを出すことができた。

穂乃果「ううん」

 今までの亜里沙たちの話を聞いて穂乃果の瞳には涙があふれていた。自分たちのことをここまで考えてくれたという事実が胸に響く。

 穂乃果がそうつぶやいた後そのまま2人に抱き付く。どうしても抱きしめたいと穂乃果は思ってしまったのだ。そして優しく2人の頭をなでる。そっと、優しく。

 

 そんな穂乃果の行動を予測することができたかと言えばできるはずもない。どんな気持ちで穂乃果がこんなことをしているのかはなんとなく察しが付くとはいえ、どんなことをするのかということは予想ができない。

雪穂「お姉ちゃん!?」

 抱きつかれてしまった雪穂はその気恥ずかしさから頬は少し赤くなっていた。

 

 けど穂乃果は抱きしめることをやめない。この答えを導き出すのに一番力を貸してくれた雪穂と亜里沙。たった一つの答えを導き出した穂乃果にとって手を貸してくれたのは本当にうれしいことだった。

穂乃果「そうだよね。当たり前の事なのにわかってたはずなのに……。がんばってね!」

 だから答えをくれた雪穂と亜里沙の顔を見て感謝する。

 

 そしてエールを送られた雪穂と亜里沙は笑顔で穂乃果に向かって宣言をする。

雪穂 亜里沙「「うん(はい)!」」

 これから頑張っていくと。スクールアイドルとして活動していくということを。

 

 これで穂乃果の答えは決まった。明確に1つの明確な答え。穂乃果のその答えを胸に学校に向かった。

 

side out

 

 

 

 

 

 穂乃果たちは学校で3年生を抜いて話し合いをする。μ'sの今後を、7人で。そしたら言葉は違くても導き出した答えは一つだった。

 この答えを出したことに後悔も涙もない。答えを出した穂乃果たちの未来はこうして1つに決まったのだ。

 

 

 

 

 

空也side

 

 今日日曜日。穂乃果の提案でみんなで遊ぶことにした。10人で思いっきり。ただ、このことは絵里たち3年生組には告げることなく、集まってもらっただけ。

穂乃果「よ~し!! 遊ぶぞー!」

 ここにきて穂乃果の口でから今日集まった目的が告げられる。本当は今日は練習も何も何もない日。そんな日にいきなり呼び出されれば何事かと思うのだってないわけじゃない。

 

 だから穂乃果が言った言葉に疑問が出てきてしまう。

にこ「遊ぶ?」

 なぜ急にこんなことを言うのか。にこにはよくわかっていないみたいだ。けど、休む時はしっかりと休むと決めたはずなのになぜ? それがにこにとっては疑問だった。

 

 でもそれはにこだけの疑問ではなく、何も説明されることなく集められた3年生全員の疑問ということだった。

絵里「いきなり日曜に呼び出してきたから、なにかと思えば」

 穂乃果の提案らしい提案に絵里は少しだけ呆れてみたりしていた。けど、ふざけているように見えても今の穂乃果たちは真剣そのもの。

 

 休むと決めた時はしっかりと休む。そう決めたはずなのにそして今日は休みが多くなったスケジュールになってからの初めての休日。

希「休養するんじゃなかったん?」

 休むはずだった、体を休めるはずだったのに呼び出されるとは思っていなかった希がその疑問を持つのは当然の事。

 

 でも穂乃果には、今日が大切な日になることが分かっている。

穂乃果「それはそうだけど気分転換も必要でしょ。楽しいって気持ちをたくさん持ってステージに立ったほうがいいし」

 ただし、本当の理由を今は言うことができない。まだ絵里たちに告げる覚悟ができていないから。それに今穂乃果が言ったことだってないわけではない。楽しいという気持ちは大事でもある。

 

 穂乃果はいつも通りの様子なのに対し、他のみんなが尋常じゃないほど違和感しか感じなかった。

海未「そっそうですよ!」

 肩はこわばり緊張しているのが丸わかり。

 

 それは海未だけでなく、ことりも同じ

ことり「今日あったかいし!」

 語尾が裏返り海未同様に緊張しているのが見て取れる。

 

花陽「遊ぶことは気分的に休養だって本で読んだこともあるし!」

 

真姫「そうそう。家にこもっててもしょうがないでしょ!」

 

凛「にゃー!」

 凛に至ってはもう語尾しか話さない。無理やりにでも今日は一緒に遊びたいように感じてしまう。

 

 が、そう思うのは穂乃果たちがやろうとしていることが分かるからで、今だ何をしようとしているのかが分からないにこたちにとっては何故ここまで無理やりに誘ってくるのかは疑問でしかない。

にこ「何よ。今日はやけに強引ね」

 明らかにおかしい。違和感を感じるけど、その根本になる部分が分からない。

 

 ここまで不審がられてしまうと最悪の場合はパスされてしまう可能性が出てくる。

空也「それに本格的な遊びだけっての今日が初めてだし、そんなにヒートアップしなければ休めるだろ」

 空也がそう言う。今までは合宿のついでに遊ぶというだけ。μ'sでみんなが集まって遊ぶというのは初めて。本戦に勝つためによりみんなと仲良くなるのだって大切なことではある。

 

 ただ、みんなで遊ぶことに関してはにこたち3人も反対ではない。だから、遊びに行くことはほぼ確定なのだが、これからの問題が1つ。

にこ「でも、遊ぶってどうするつもり?」

 そう。遊ぶと抽象的に決められても何もしようがない。だから、にこが言う疑問は最もなものだ。

 

 にこが言い出したことによりみんながやりたいことを一つ一つをそれぞれが言う。

凛「遊園地行くにゃ!」

 

真姫「子供ね~。私は美術館」

 

花陽「えっと私はまずアイドルショップに!」

 …………バラバラだ。楽しみたい場所、自分が好みの場所をみんなが話す。

 

 そんな好き勝手自分の生きたい場所をリクエストする1年生たちににこは思ったことを素直に口にした。

にこ「バラバラじゃない!」

 本当に好き勝手。各々が本当に行きたいと思っていることを遠慮なく言えることというのは少しだけ珍しいことなのかもしれない。

 

 けど、決まらない限りこの集合場所から動くことはできない。

希「どうするつもりなん?」

 しかも、バラバラで妥協点すら見つからない状況。この状況にどうするのかをまず相談する必要があった。

 

 でも、その希の言葉はあまり意味をなさなかった。何故なら……。

穂乃果「う~ん。じゃあ全部!」

 この穂乃果の言葉が原因だ。無茶なのは何も言わなくても分かるはずなのにそれでも笑顔で本当にこれからやろうとしていることが分かる。

 

 が、それでも穂乃果以外、特に絵里たち3年生の驚きは計り知れない。

にこのぞえり『はぁ~!?』

 だけど穂乃果の言うことはいつも無茶苦茶でできるかどうかなんてまず考えていないようなことでもやろうと思えばなんだってできた。だから、みんながみんなもしかしたらできるのではないだろうかと心の隅ではそんなことを思ってしまう。

 

 みんなが驚いていることをよそに穂乃果は言葉を続ける。

穂乃果「行きたいところ全部行こう?」

 今真姫たちが行きたいといった場所も全部が全部まったくジャンルの違うもの。"美術館"、"遊園地"、"アイドルショップ"。その他に7つも増えればもっと回るのが困難になってしまうかもしれない。

 

 金銭面、時間的なこともある。だから、まだ完全に乗り切れない人も出てくる。

にこ「本気!?」

 

 けど穂乃果は言ったことを変えようとしない。本当に全部回ろうとしている。

穂乃果「うん! みんな行きたいところ一つずつ挙げて全部遊びに行こう! いいでしょ?」

 完全にペースは穂乃果のもの。しかも、話を聞いていたほとんどの人が穂乃果の意見に賛成の意を示している。

 

 ある種、穂乃果もいつも通りというわけではないのかもしれない。話し方が普通なだけで、少し強引に話を通そうとしている。

にこ「何よそれ」

 そのことに少しだけ気が付いたにこは穂乃果に対して違和感を覚えるも、楽しみなのは変わらないようで少しだけ微笑んで話が通るのを待っていた。

 

 そして楽しそうに思っているのはにこだけではなく、希だって絵里だってそうだった。

希「でもちょっと面白そうやね」

 半ばやれやれと思いながらも、それでいても楽しみにしているのは変わらないようでにこを含めた3人は笑顔のままだった。

絵里「しょうがないわね」

 これでこれからやることが決まった。時間は有限で急いで回らないと全部を周ることはできないだろう。

 

 だから、一刻も早く、この場所から移動するしかない。順番は移動中にじゃんけんをして決めればいいし、とにかく今は移動することを先に考えなくては。

空也「よし。じゃあ」

 空也の一言でみんながこれから何をするのかすぐに察した。

 

 後に続いて穂乃果がその場で飛び上がる。

穂乃果「しゅっはーつ!!」

 楽しそうに、そしてこれから移動することが始まる。これから忙しくなる。みんなは足早に駅に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それから穂乃果たちはいろいろな場所を巡っていく。最初は近場のアイドルショップ空回り、ゲームセンター、動物園、ボウリング場、美術館、池でボートレースだったり、雷門、遊園地とまわって行った。最初は本当に全部回ることができるのかわからなかったけど、遊んでいるときはそんなことを気にする余裕がないほど楽しんでいた。

絵里「それであとは穂乃果と空也が遊びたいところだけど……」

 そして残るは2か所だけ。時刻も夕暮れ近くになってきたから急いで回らないと全部回りきることはできないだろう。

 

 けど、空也は焦ることもせずに口を開いた。

空也「俺はそんなに時間がかからないから穂乃果のほうが先でいいぞ」

 順番を穂乃果に譲った。どっちが先かどうかを決める手間を省くのにはいい手段だといえる。

 

 本当に空也が時間がかからない場所を選ぼうとしていることは雰囲気で伝わってくる。遊ぶとか、見て回るとかいう場所ではないのだろうがどこに行きたいのかは空也にしかわからない。

穂乃果「そう? じゃあ私は……海に行きたい」

 空也に順番を渡された穂乃果は自分が行きたいと思う場所を口にした。しかし今の季節、海に行こうと思う人はまず少ないだろう。

 

 だから、穂乃果の行きたい場所を聞いた絵里たちは少しだけ疑問に思う。

絵里「海!?」

 だって今は冬。海未に行ってもやること自体そんなにないだろう。遊ぶことを目的として集まった今日ではかなり異質な選択に見えた。

 

 けど、集まった時と同じくして穂乃果は本気だった。本気で海に行こうとしている。

穂乃果「うん! 誰もいない海に行って10人しかいない場所で10人だけの景色が見たい だめかな?」

 その理由がどこか寂しく言っているように感じるのは気のせいなのだろうか。……いや、きっと気のせいではないのかもしれない。これから穂乃果たちがやろうとしていること。それを考えると寂しい気持ちになってしまうのはおそらく仕方のないことなのだ。

 

 これからやろうとしていることが伝わってくるから、事情を知っている海未が心配そうに穂乃果のことを見ていた。

海未「穂乃果……」

 そんな海未に空也は肩をつかみ、制止する。今の穂乃果が言ったことは本当に穂乃果の行きたい場所で何かを打ち明けるためだけに選んだわけじゃない。同情なんて要らない。同じ気持ちなら一緒に前に進めばいい。

 

 それが分かっているから、穂乃果の言葉を素直に受け入れる。

凛「賛成にゃー!」

 みんなの行きたい場所に行ったのだ。穂乃果の言った場所だって絶対に行ける。

 

 それに、冬の海というものもどこか興味をひかれるものがあった。本来は夏に行くはずの海に今行くことはちょっとだけ特別なことなのかもしれない。

花陽「なんか冒険みたいでわくわくするね」

 だから普段は落ち着いている花陽ですらこれから向かう海に心を躍らせていた。

 

 けど、海というものは近場にあるわけではない。だから本当に行けるのか少しだけ不安になる。

絵里「今から行くの?」

 きっと海に向かったとして着くのは日も落ちる寸前くらいの時間でゆっくりしていられるとは思えない。だから日を改めてでもいいのではないかと絵里は少しだけ思う。

 

 それでも、穂乃果の言葉は変わらず、行動も変わらなかった。もうすでに駅に向かって足が向いて、歩き出している。……いや、走り出していた。

穂乃果「行くだけ行ってみようよ!」

 少しでも早く目的の海にたどり着けるように穂乃果は走った。それにつれられてみんなが走り出す。それぞれの思いを胸に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 色々な電車を乗り返して、ようやく最後の電車に乗ることができる。乗換案内を見て電車に乗ってみたのは良いけど、最後はかなりギリギリの乗り換えだったらしく海に行くと決めてから走り出した時と同じくらい全力疾走で向かった。

 

 閉まるドアを背に花陽が肩で息をしていた。

花陽「はぁ~……。間に合った……」

 最後に入ってきて花陽は電車に間に合ったことに安堵した。目的地が目的地なだけにこの電車には穂乃果たち以外乗っていない。完全に貸し切り状態だった。

 

 そんな電車の中、目的地が近づくにつれて穂乃果の緊張感が高まっていた。……いや、穂乃果だけではない。3年生を除いた誰もがこれからやろうとしていることに緊張をしているだろう。ただし、穂乃果はこの中にいる誰よりも緊張をしている。

真姫「穂乃果、心の準備できてる?」

 そんな穂乃果を案じてか、穂乃果に声をかける真姫。穂乃果が座っている隣の席に座り、普段は聴くことができない優しい声で真姫は穂乃果を励ました。

 

 真姫の心配が少しだけ穂乃果の緊張を和らげる。しかし、やろうとしていることは変わらない。

穂乃果「……うん」

 だから穂乃果は覚悟を決めてそのまま電車に揺られて行った。この車内にはそれ以降誰かの声が聞こえることはなく、絵里たちもどこかおかしいとつい感じ取ってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 電車に揺られること数十分、穂乃果が来たいと言った海に到着した。電車の中ではどこかお通夜ムードのような感じた穂乃果たちは海を見た瞬間、いつもの明るい様子に戻り、誰もいない砂浜に心を躍らせていた。

10人『わぁ~(おぉ~)!』

 だからだろうか、心躍らせたから、砂浜に、海に向かって駆け出していく。まるで、この世界にこの10人しかないようなそんな砂浜に。

 

 けど、走り出した8つの影とは別に2つ残っている影もあった。それが空也と穂乃果。

空也「……決めたことなんだ。最後まで頑張れよ穂乃果」

 覚悟を決めても進みにくい場面がある。それがいまだった。空也は難しい顔をしている穂乃果の背中をそっと優しく押した。この先は穂乃果が自分でやらないといけない。リーダーとして、始めた者としての責任のために。

 

 空也が押してくれた背中から暖かさを感じながらも穂乃果は前に進みだす。

穂乃果「うん」

 その背中を見送りながら空也も穂乃果と一緒に歩く。

 

 穂乃果たちがやってきたことに気が付いたみんなは海を見つめるように1列に並んだ。あの日、はじめて合宿した日の朝と同じように。

絵里「合宿の時もこうして朝日見たわね」

 当時のことを思い出して絵里がそう呟く。立ち位置は違えど、状況は同じ。あの時はラブライブの優勝を目指していたけど、今はちょっと違う。

 

 ただ、それは希たちの知ることではない。

希「そうやね」

 きっと絵里同様に希もあの日のことを思い出しているのだろう。朝日を見つめ、これからに精を出したあの日。

 

 海面に沈む夕日を見ながら、穂乃果がとうとう決めたことを話し始める。

穂乃果「あのね……。あのね、私たち話したのあれから7人で集まってこれからどうしていくか希ちゃんとにこちゃんと絵里ちゃんが卒業したらスクールアイドルのμ'sをどうするか……」

 穂乃果の声が震える。今日1日中ずっと普通に話せていたのに、強引だったかもしれないけど最後まで言葉を出せると思ったのに、それは叶わなかった。これから言う言葉はやっぱり言葉に出したくないもので、でもそうも言っていられない。

 

 穂乃果が話し出したとたんに今まで楽しそうだった空気がガラリと変わった。電車に乗っていた時と同じような、そんな雰囲気。

絵里「穂乃果……」

 だから、不意に絵里の口から心配そうな声が漏れる。

 

 それでも、穂乃果は言葉をつづけた。自分たちが出した答え。悩んで悩んで、いろんなことを考えて出した答え。例え、それが一時とはいえ無くなってしまうという選択肢だったとしても選んだ答え。

穂乃果「一人ひとり答えを出した。そしたらね、全員一緒だったみんな同じ答えだった……。だから、だから決めたの。そうしようって……。言うよ! せいっ……」

 ただ、それを言うのはとても辛くて、悲しくて……。出来ることならこの答えも出したくないとさえ思ったことだった。けど、時間が無情に過ぎていくのと同じで、光もずっと輝き続けているわけではない。だからかもしれない。穂乃果の瞳に涙が溜まり、嗚咽にも似た声のつまりがあったのは。

 

 けど、この先は進み続けないといけない。みんなで出した答えは、卒業していく絵里たちに伝えないといけない。

空也「大丈夫だ。みんなが付いてる」

 震えている穂乃果の手を空也はそっと握った。穂乃果が落ち着いてこれから話す言葉が出るように。

 

 そのおかげもあって、穂乃果が最後の決意をした。答えを言う。

穂乃果「うん……。ごめん、言うよ。せーの!」

 穂乃果の掛け声とともに、みんなで出した答えをみんなで声に出す。穂乃果たちが導き出した解は正しいことだったのか、それとも間違っているものなのか……。

 

 




μ'sとは一体どんな存在なのでしょうか? 前回、枯れることのない花を目指した穂乃果たちですが、今は一瞬のすぐに消えてしまう強い光。そんな穂乃果たちがスクールアイドルとして出した結論とは……?

次回、その答えが分かります。

新しくお気に入り登録をしてくださった長瀬楓さんありがとうございます!

次回『答え』

それでは、次回もお楽しみに!



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