ラブライブ!~化け物と呼ばれた少年と9人の女神の物語~   作:そらなり

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どうも、そらなりです。

今回から『私たちが決めたこと』回。無事に書き遂げられるのか正直不安ですが頑張ります! TVアニメ版はいよいよ終わりが見えてきてこれから先どうなるのでしょうか?

それでは、今回も見えない未来に不安になる彼女たちをご覧ください!


未来について

雪穂side

 

 年が明けて、2月の半ばともなれば1つの大きな、大切な日を迎える人も少なくはないだろう。それは中学3年生が緊張に包まれる高校受験の合格発表の日。雪穂と亜里沙は国立音ノ木坂学院にて緊張した面持ちで受験番号が張り出された掲示板を見ていた。

 

 今日を迎えるまで2人はいつも通りだったのかもしれない。入試が終われば後は時を待つだけなのだから。けど、それはいつも通りを装っていただけ。心の奥底では本当に大丈夫だったのか、あの答えは正しかったのか、そんな自問自答が繰り返し繰り返し消えることなくめぐっていた。

 

 けど雪穂は空也に、亜里沙は絵里に勉強を教えてもらい、普通であるならもっと上の学校を目指せるほどの学力はついていた。そして今までの音ノ木坂学院のことを考えると合格するのはほぼ確実といっていいほどのもの。μ'sの活躍のおかげで入学希望者が増えたことは事実だが、それは昨年よりも格段に多いというだけでギリギリ定員割れをしないくらいの出願者たち。そんな出願者たちの数字が並ぶ掲示板を1つずつ上から下へと見ていく雪穂達。

 

 すべてを見終える前に、雪穂たちの頬にわずかな雫が零れた跡が見えた。握り締めていた受験番号が書かれた紙に書かれた数字が目の前にある。これが意味することというのはきっと言わなくても分かること。『合格』した。この事実が雪穂と亜里沙の涙腺を刺激し、2人に喜びを与えた。今雪穂たちの前には喜んでガッツポーズをする人、肩を落とし、力のない足で正門のほうに向かう人と結果は人それぞれ。

 

 雪穂と亜里沙の2人は前者。この結果を胸に亜里沙は一緒に来ていた絵里のもとに駆け出していく。『私もμ'sに入る』と元気に宣言しながら。

 それを聞いた雪穂は合格したというのに、どこか難しい顔をしていた。

 

side out

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

空也side

 

 穂乃果の実家である穂むらには空也の姿があった。今日は雪穂の音ノ木坂の合格発表の日で半ば家庭教師のような立ち位置にいた空也は結果を本人の口から聞くべく足を運んだようだ。

 

 ただ、空也が来たときには雪穂が結果を見に行っていたため少しだけ中で待つことにした。本当は一緒に結果を見に行きたかった穂乃果と一緒に居間で他愛もない会話をして待つ。すると待ち人の声が扉を開けた音の後に聞こえてくる。

雪穂「ただいま~」

 喜んだ様子も落ち込んだ様子もないいつもの雪穂が帰ってきた。

 

 途端に仕事をしていたはずの穂乃果たちの母親が駆け足気味に雪穂に向かっていく。

高坂ママ「どうだった!?」

 合格か不合格か。今この場でその結果を知るのは雪穂だけで、もちろん結果は家族全員が気になっている。

 

 そんな興奮気味な母親とは打って変わって冷静な穂乃果は帰ってきた雪穂に対して不満げに呟く。

穂乃果「もぉ~、メールしてよ~。一緒に行くって言ったのに!」

 本当は一緒に行くはずだったのに寝坊してしまったため置いて行かれた。つまるところ自業自得なのにその不満を雪穂にぶつける穂乃果。けどその本心は早く結果が知りたいとそう言っているように感じる。

 

 不満げな穂乃果を落ち着けるようにこたつでぬくぬくとしていた空也が声をかける。

空也「まぁまぁ。それより、どうだった?」

 でも、やっぱり一番気になるのは雪穂の結果。半ば家庭教師をしていた空也にとって雪穂の結果は家族と同レベルで気になる。幼いころから一緒にいたから妹のようにも思っているのだから。

 

 みんながみんな雪穂のことを見つめて息をのむ。頑張ってきた雪穂を見たから大丈夫であってほしいと沿う願いを込めて。

雪穂「え? あ~、うん。合格したよ」

 けど真剣な周りに対して雪穂はいつまでも冷静だった。いつものように素っ気なく、特に喜んでいるような素振りは見せない。

 

 だが、雪穂の言葉がここにいた全員の緊張をほぐしたのは事実。『合格』という言葉に穂乃果たちはまるで自分のことのように喜ぶ。

高坂ママ「おめでとう!」

 高校受験というものはおそらく大半の人が初めて経験する、将来を決める大事なターニングポイント。それを突破できたのは家族として、人生の先輩としてとても誇らしくうれしいことだ。穂乃果たちの母親に関しては、初めてこの合格の結果を見た雪穂のように涙を流していた。

 

 ただ、気になるのは雪穂の反応。自分が合格したというのに笑顔というわけではなく、真顔……いや、どこか思い悩んでいるような表情をしていた。

穂乃果「なんでそんなに冷静なわけ。合格だよ、万歳だよ。ばんざ~い!」

 そんな雪穂に穂乃果は喜んでほしかったのか小さく万歳のポーズをとって見せる。

 

 でも、雪穂の表情は変わらない。むしろ穂乃果の顔を見た瞬間に余計難しい顔をしているのが空也には分った。

空也「……。どうかしたか?」

 様子がおかしいという違和感、そして穂乃果を見た時の雪穂の反応を見ていた空也は直感的に何かがあったのだということを悟る。きっとそれは穂乃果が関係することだということもたどり着きながら。

 

 空也に尋ねられた雪穂は難しい顔のまま気になっていることを空也たちに聞く。穂乃果たちの母親も流れに身を任せるように雪穂の言葉を待っていた。

雪穂「ねぇ、お姉ちゃん、空也お兄ちゃん。μ'sって3年生が卒業したらどうするつもりなの?」

 雪穂が気になっていること。それは自分の未来ではなく穂乃果たちμ'sの未来。それと同時に卒業という言葉が穂乃果たちの心の中に浸透していくのを感じていた。

思えば穂乃果に次のラブライブに出ないということがどういうことなのかを理解させたのは雪穂で、冷静だから自分ではなく穂乃果の心配をμ'sの心配をしていたのだろう。3年生が卒業した後のμ'sのことを考えて。

 

 雪穂に予想外のことを聞かれた穂乃果はどうしても反応ができなかった。

穂乃果「え……」

 自分だけでは決められない、まだ決めていない未来の話。ラブライブが終わった後、自分たちはどういう風になるのだろうかという未だ来ない将来の話。

 

 この話題が出た瞬間、少しだけ空也の空気が変わった。あの時に電話で聞いた話を思い出して。

空也「…………」

 だけど空也はこの後一言もしゃべらない。まだ、どうするのかが空也の中で決まっていないのが原因で……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 次の日の部活では近づいてきたラブライブ本選に向けて活動内容の説明を穂乃果たちにしていた。

海未「ラブライブの本大会まであと半月。ここからは負荷の大きいトレーニングは避け、体調を維持することに努めます」

 残り半月。4月から始めてきたこの活動の最大の舞台まで残りが半月にまでなっていた。ここからは身体に異常をきたしてはならない。だからこそ練習の内容、休みの日を多く設定した本戦当日までの日程表を海未はみんなに提示した。

 

 その練習表を見て、今までの練習内容と比べた凛は驚きの声をあげる。

凛「練習随分少ないんだね」

 はじめて合宿したときのことを覚えているだろうか? あの時の海未の練習メニューは故障なんてしてもかまわない、熱いハートさえあれば何とでもなるという考えだったが、今回のは違う。

 

 練習をする時間が短くなったり、そもそも練習がない日だって存在するのだ。

花陽「うん。完全にお休みの日もある」

 流石に平日は学校で活動が認められている時間はすべて活動する予定なのだが、一番目が行くのは休日の練習。残りの休日は4日間あって、その最終日には本戦がある。そのことを考えると残された休日は3日間。普通なら土日は午前、午後だけだったり1日中やっていることがあったμ'sにとって2日間も何も練習のない休日が存在するのが意外だった。

 

 けどこれは、海未だけで決めたものではない。もちろん、空也も一緒になって考えはしたのだが、もっと大きな存在からアドバイスをもらった結果このような練習日程になることになったのだ。

海未「はい。A-RISEのの方にもアドバイスをしてもらってそういう日も設定してみました」

 それが、A-RISE。最終予選で一緒に戦ったμ'sの最大のライバルで乗り越えた壁。けどA-RISEがトップスクールアイドルということは変わることのない事実でスクールアイドルとして先輩であることもまた事実。だからこそアドバイスがもらえるのであって、その機会があることにμ'sは恵まれている。

 

 A-RISEがアドバイスをくれたということにどこか安心感を覚えたμ'sの面々なのだが、1人だけ俯いたまま肩を落としている人物がいた。

空也「…………。あれ? 穂乃果?」

 それが穂乃果だ。なぜ穂乃果がこのような状態になっているのか空也以外のみんなが知らない。知っている空也でないと見落としてしまうほどの変化。その変化に気が付いた空也は穂乃果に向けて声をかける。

 

 空也に名前を呼ばれた穂乃果は顔をあげて空也のいる方向を向く。

穂乃果「ん……?」

 けどその返事はどこか気が抜けていて、話を聞いているようで聞いていないのではないかと感じる。

 

 きっとその感覚は空也だけではなく、ここにいる全員が思ったことなのだろう。

海未「聞いてましたか?」

 大事な話をしていた海未は穂乃果に今までの話を聞いていたのかどうかを尋ねる。けど、海未の言葉には怒りの感情は感じなかった。穂乃果のことを心配している、そんな風に穂乃果に声をかけた。

 

 その海未の問いかけに穂乃果は力なく笑う。

穂乃果「うっうん。ごめん。アハハハハ……」

 この瞬間にみんなはある既視感を覚えた。2回目のラブライブが開催されるときに出場しなくてもいいといった穂乃果の顔。あの時は笑顔のまま話していたけれど、今全員が思っている感覚はあの時と同じ。穂乃果が何か大事なことを抱えているようなそんな感じがしたのだ。

 

 けど、その話を今するのではあの時と一緒にはぐらかされてしまう。

真姫「そういえば。亜里沙ちゃんと雪穂ちゃん、合格したんでしょ」

 だから全く関係のない話を振ってとにかく現状の空気を変えようとした。ここにいる穂乃果と絵里が何より関係している話題でとてもめでたいこと。入試の合格は2人に親しかったμ's全員にとっての朗報だった。

 

 その話題になった瞬間、穂乃果の笑顔に力が入るのが見ている人からも理解できる。余程雪穂の合格が嬉しかったようで、元気ないつもの穂乃果がようやく見ることができた。

穂乃果「うん! 2人とも春から音ノ木坂の新入生」

 そして穂乃果の言葉にも活気が蘇り、弾むように嬉しそうに話す。

 

 その話題から話は2人が入学した後の話にだんだんと進んでいく。そのきっかけを作ったのはことりだった。

ことり「亜里沙ちゃん、ずっと前からμ'sに入りたいって言ってたもんね」

 亜里沙がμ'sのことが好きなのはメンバー全員が知っている。そして入学したらやりたいといっていたことも。

 

 だからμ'sは亜里沙の思いに答えてあげたいとも思っている。

花陽「じゃあもしかして新メンバー!」

 そのせいだろうか、もうすでに加入したという仮定の下新年度のビジョンが花陽の中に芽生えていた。

 

 花陽の言葉を聞いた凛はきっと花陽と同じような映像を見ているのだろう。テンションが高まってはしゃいでいることが分かる。

凛「ついに10人目誕生!?」

 テンションが高いから、今の凛には見えていないものがあった。10人目という言葉が見えていないということを物語っている。μ'sとして活動を続けるのであれば避けては通れない時の流れという名の別れ。絵里、希、にこの3人の逃れることのできない運命。

 

 その運命を真姫はしっかりと認識している。今の新年度の話になってからもずっと。

真姫「ちょっと!? そういう話は……」

 この話は、ラブライブが終わるまでしないつもりだった。しないように気を付けていた。元旦に絵里たちが仕事に戻った後、残ったみんなで話した内容。

 

 真姫の言葉を聞いた凛は上がっていたテンションが下がりしょんぼりしてしまう。

凛「あ……」

 現実を認識した。新年度を迎えるということがどういうことなのかという本当に単純で簡単な理由。

 

花陽「卒業……、しちゃうんだね……」

 

 "卒業"というワードが1,2年生の心に突き刺さる。そして穂乃果が何を悩んでいたのかということを直感的に確信した。絵里たちがいなくなるという寂しさ。現実を認識したからこそその寂しさがこみあげてくる。

 

 その寂しさをみんなから取り除こうとしているのは、覚悟が決まっている卒業生の心からだろう。いつものみんなと一緒にラブライブに出たいという確かな想いとともに。

希「どうやろ」

 

空也「にこは卒業できんのかよ」

 けど希だけではない、卒業生でもない空也だけは寂しさに飲まれることなくただただいつものように話をつづけた。その中で一番いつもの状態に戻せると思った手段を希と何も話さずに取る。一番学力に心配してしまう高校3年生の小さい少女に対して希はにやにやした顔で、空也は馬鹿にしたような笑みを浮かべにこのことを見る。

 

 2人にそのような顔で見られたにこは途端にその場で立ち会がり、文句を言う。

にこ「するわよ!」

 できるかどうかではなく絶対にするとにこは宣言する。

 

 いつもであればここで笑いが起きるはず。弄られるにこを見て吹き出してしまう笑いがあるはずなのだ。でも、生まれたのは笑いではなく沈黙の時間。笑う気配なんて微塵も感じない。

 

 そんな状況で何か打開しないといけないと思った絵里はゆっくりと立ち上がり、2回手をたたく。

絵里「ラブライブが終わるまではその先の話はしない約束よ。さぁ、練習しましょう」

 みんなの注意が絵里に向けられたことを確認して、μ'sの中で決めていた話を持ち出す。ラブライブが終わるまで卒業に関係する話はしない。これがμ'sが決めていたルール。

 

 みんなは落ち込んでいる表情のまま力なく頷く。初めの穂乃果のように。だけど、1人だけ。たった1人だけみんなとは違う空気のままでいる人物がいる。

空也「いや……。もういいや」

 その言葉はある種の諦めに見えるもので、今何を言おうとしているのかわからない話を聞いているみんなはわからない。

 

 それと突然話し始めたということも相まって、みんなの頭の中にはクエスチョンマークがずっと生まれ続けていた。

穂乃果「空也君?」

 突然の行動に穂乃果は空也の名前を呼んだ。

 

 空也は一度目を閉じ立ち上がる。そして深呼吸を1つしてからμ'sの9人を見渡した。

空也「みんなに話したいことが、……いや、話さないといけないことがある」

 これから空也が話そうとしているのはラブライブに優勝してから伝えるはずの言葉。けど、今そのことを告げることによって空気が変わるのであれば空也は話す。まだ確定していないことだとしても。

 

 あの日、空也が白川ななかの所属している事務所にスカウトされた日に聞かされたもう1つの話。きっとここまで分かっていたらどんな内容かなんてことはわかるのだろう。μ'sに関わるとても大事な話。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

空也「もしプロになれるならなるか? ただし、μ'sとしてだけどな」

 μ'sとして、スクールアイドルとは違う本当のアイドルになるチャンスを穂乃果たちは手にしている。ただ、空也の時の条件と同じくラブライブの優勝が懸かっている。

 

 空也の突然の言葉を一番早く理解したのは先ほど弄られていた少女。

にこ「プロ!?」

 アイドルになることを夢に見てこの部活動を始めたにこだからこそ、夢に繋がる一筋の光に反応できたようだ。

 

 けど、まだにこたちはプロになるための条件があることを知らない。まだ確定ではないという知っておかないといけない条件を。

空也「あぁ。ラブライブを優勝することができたらだけどな。どうもななかの事務所の社長が見てたらしくて、メンバーの増減も大目に見てくれるらしい」

 ここで初めて優勝しないといけないということを告げられ、一緒にステージに立ったななかの事務所に所属できるかもしれないということが明らかになった。その中でメンバーの増減に関してもある程度は許してくれるらしい。

 

 ここまで大事な情報を今まで隠していた空也に当然9人から不満が出てくるのは仕方のないことだろう。理由はあったとしても隠していたのは事実。それもμ'sの将来にかかわることだったのだからそれはなおさら。

海未「なぜそんなことを今まで黙ってたんですか!?」

 もう3年生の進路は確定しているも同然。だからこのタイミングでのカミングアウトがいいタイミングであったとは海未は思えなかった。

 

 けど、この事を黙っていたのだって理由があるのだ。今はただラブライブの優勝を目指して活動をしているのだが、自分たちの将来までかかわってきてしまうと気持ち自体が変わってきてしまう。プロになることを目指して今まで以上に頑張るかもしれないし、将来という人生における大事なことが決まってしまうというプレッシャーから何もできなくなってしまうかもしれない。

空也「ラブライブに集中してもらうため。それに俺もまだ決めかねてるしな」

 そのリスクを考えた空也はやる気が上がるよりも、今のやる気をどんどんとアップグレードしていった方が確実だということにたどり着いた。結果として空也はラブライブに集中してもらうために話すのを待っていたというわけだ。

 

 それに空也自身、このまま流れに身を任せていいのかということも考えている。ななかの話によると社長がスカウトをしたいと思って、ななかが知り合いだということを知ったからスカウトが回ってきたと言う形なのだが、それがどうもコネを利用しているように感じて自分の力でプロになれたのではないのではないかという考えが小さいながらも空也の中から消えない。

 

 ただし、なぜ空也が決めかねているのかということもμ'sは何一つ知らない。今凛たちが知っているのはμ'sがプロになれるかもしれないということだけ。

凛「何を迷ってるの?」

 だからわからないことだらけの凛は空也の言葉がどういう意味なのかということを尋ねる。

 

 またここで空也はみんなに言ってなかったことを1つ口にした。これは空也自身に関係している大事な話。

空也「ななかの事務所でプロを目指すことだよ。お前たちと同じタイミングで俺にもスカウトが来たってわけ」

 スカウトが空也にも来ていた。それもずっと夢を叶えるために頑張ってきた空也の夢がだ。

 

 そのことに思いっきり喜ぶでもなく、穂乃果はあたかも普通であるかのように口を開いた。

穂乃果「そうだったんだ」

 今穂乃果の中にあるのはμ'sがプロになれるのかもしれないということ。メンバーが減ってもμ'sとして活動できると知って穂乃果は複雑な心境になっているのだろう。

 

 それに、どうしても受け入れることのできない人だっている。将来の夢ややらなくてはいけないことがある人なんかは簡単に受け入れることのできない内容。プロになれるかどうかよりも先に決めていた道がどうしても忘れられない。

真姫「でも……。私は大学が決まってるし……」

 今までの話を聞いていた真姫は医学部の学校に通わないといけないと決めている。だからそうやすやすとプロになれるなんて言うことはできない。

 

 けど今聞きたいことはできるできないの話ではなく、やってみたいのかどうか。

空也「嫌ならいいけど、やりたいのかやりたくないのかどうなんだ?」

 やってみたいのであれば空也はすべてを尽くしてやろうとしている人を支えていくだろう。無理強いをするつもりはない。今まで活動してきて、プロになってみたいのかどうかを空也はみんなに対して尋ねる。

 

 これまでの思い出、そして想い出。それが真姫の脳内に蘇っては心に浸み込んでいく。そしていつも以上に真剣な視線を空也に向けて1つの言葉を話す。

真姫「そんなの決まってる。やりたいわよ!」

 だってこのメンバーだから、真姫はここまで一緒にいようとした。頑張ってこられた。その事実は変わることはなく、可能なことなら離れたくないと心がそう訴えかけているのだ。

 

 その答えを聞いた空也は1つやることが確定した。医師を目指している真姫のために空也ができる最大の手段。

空也「ならいい方法がある」

 その手段を真姫に伝えるべく、安心させるように空也はその旨を伝える。

 

 方法があると聞かされた真姫はみんなと一緒にいれるということに反応してすさまじい勢いで空也に内容を尋ねる。

真姫「何!?」

 どこに行っても逃がさないという視線が空也に向けられた。

 

 そんな状態の真姫に空也は考えている方法は1つ。

空也「さくらに教えてもらう」

 初音島にいる芳乃さくらから、医学を学ぶ。さくらは以前に大学を飛び級で卒業をしてとある研究のために植物学の博士号を取得している。その過程で医学のほうも必要だと判断し、医学の博士号も取得したのだ。だからさくらに勉強を教われば普通に医学部に通うよりも知識を得ることが可能だ。ただ、実習自体は受けることができないためそっちは真姫のほうで何とかしてもらうことになるが……。けど、もしかしたら真姫は医師の夢を諦められるのかもしれない。

 

 空也の話を聞いた真姫は一つ考えるようなそぶりを見せてもう一度空也のほうを見る。

真姫「…………。ななかさんもやってることだものね。考えておくわ」

 そう。ななかが看護師であることを忘れている人が多いかもしれないが、2つの職業をしっかりとななかは両立している。学生時代は勉強ができなかったななかが、である。

 

 真姫はニコニコと笑顔のままに答えた。言葉だけはいつものクールな様子だったが、本当にうれしそうな様子だった。

空也「そうか……」

 その答えが、態度がOKそのもので答えを聞いた空也もいつもの様子で応える。

 

 これで1人の問題が解決した。……いや、解決しようとしていた。解決ができるかどうかはこれからの真姫の頑張り次第だ。

ことり「空也君。私もやりたいけど……それと同じでファッションの仕事もしたいの。どうしたらいいと思う?」

 が、まだまだ問題がある者がいる。それがことりだ。一度はスクールアイドルを諦めてまで留学して服飾の勉強をしようとしていたことり。ことりにとって服飾の仕事は本当に心からやりたいと思っていること。故に簡単に諦められない。

 

 けど、それも何とかする方法を空也は知っている。コネを使うようで少し気が引けるが最高の結果を導き出すのには手段を選んでいる暇はない。

空也「ことりさ、俺の母さんの仕事って知ってる?」

 だから、今までは誰にも教えたことのない空也の母親がやっている仕事について話し始める。

 

 もちろん空也の母親、守がやっている仕事は誰も知らない。

ことり「守さんの……? 知らない……」

 

 ことりの答えを聞いた空也は一度大きく深呼吸をして覚悟を決めた。

空也「ファッションブランド『time world』の社長」

 簡単に、それはもう簡単に。やりたいことをどちらか選択しないといけない、どちらかしかできないのではなく、強欲に貪欲に両方を選べるようになればいいというとても子供らしい理由。

 

 ただ空也の覚悟とは違い、守の仕事を知ったことりは座っていた椅子から立ち上がり空也に前のめりになって驚いた。

ことり「え!?」

 それと同時にファッションブランドとして名高い会社を経営している親の息子だということを知ったμ'sのメンバーはことりと同じくして驚きをあらわにする。

 

 ことりに伝えないといけないことがあった。もう空也の家にはいないけど、守が言っていた言葉。それは今この瞬間にとても都合のいいものだった。

空也「それに母さんも言ってた。ことりにうちの会社に入らないかって、どうする?」

 こればかりはことりの選択次第。空也はただ選択できるようにしただけであって、選ぶのはことり自身なのだから。

 

 空也から自分の目指している夢が2つとも叶うかもしれないということを聞かされたことりはその場で涙を流し始める。でもそれは悲しい感情からのものではなく、全くの逆ベクトルからのもの。

ことり「……ずるいよ空也君、こんなにうれしいことないよ……」

 喜びの涙。どちらかは捨てないといけないはずの夢はこうして2つともを選べるようになった。本来ならあり得ないこと。2つをとればどちらかは疎かになってしまうそんな選択をことりは選んだのだ。

 

空也「両立はできるのか?」

 だから空也はことりの選択を嬉しいと思いながらも心配の言葉をかける。

 

 けど、ことりにとってできるできないの話ではなかった。空也の提案が出てきた瞬間から、ことりの中で1つの将来への道が見えてきた。

ことり「やる! みんなで一緒に絶対にやり遂げる!」

 自信があるわけじゃない。ことりの中では前提条件が違うのだ。やる。やらないと自分が思い描く最高の結果にはたどり着けないから。こうしてまた1人の進路も1つ決まっていく。

 

 ことりの言葉に大きくうなずいた空也は一つ隣にいる凛のことを見つめる。

空也「凛は?」

 

 空也に聞かれた凛は一度自分がどうしたいのか考えるように腕を組んで悩む仕草を見せる。

凛「凛? う~ん。このメンバーならやっていきたい! かよちんは?」

 けどそれも数秒のことで、すぐに答えを出した凛は花陽がどうしたいのかを尋ねた。

 

花陽「やりたい! ずっと前からの夢だったんだもん」

 その花陽は考えるまでもなく1つの答えを口にする。だってそれが花陽の夢だから。幼いころからのあこがれだったから。

 

 凛と花陽の答えを聞いた空也は受け入れてくれたことに安堵する。

空也「そうか……。希は?」

 そしてまた次々に歩みを進めていくのだった。

 

 次に尋ねたのは希。今までは花陽のようにアイドルに夢見ていたわけでもなく、真姫のように将来が決まっているわけでもない。

希「μ'sでなら、プロになってもいいと思ってる。……ううん、やっぱりやりたい。えりちは?」

 けど、やっぱり希はμ'sのことが好きで、ずっと一緒にいたいと心の底から思っているのが分かった。だってこのμ'sこそが希が欲していた居場所だったのだから。

 

 希にどうしたいかを聞かれた絵里は俯いたまま握る手をより一層力強く握りしめた。1つの大きな覚悟を持って言葉を発するために。

絵里「……私も、踊ることが好きになって歌うことが好きになって……。だからやるわ。っというかやりたい!」

 絵里も希と想いは同じ。これまでμ'sとして活動を続けてきて、みんなと一緒にいて思ったこと。みんなと一緒にいたいというのはきっとみんなが思っていることなのだろう。

 

 この流れで空也は間髪を入れずに次なる人物に話を聞く。

空也「海未は?」

 

 話を振られた海未は少しだけビクッとしたのだがそれも一瞬のことで真剣な表情になった。

海未「……正直に言うと恥ずかしいです。でも……私も絵里と同じです。踊ることが、歌うことが好きなんです! だからやります」

 きっとこのμ'sの中でアイドル関係になると一番恥ずかしがってしまう海未。けど、こうして活動してきて海未はもっとこうした活動をしてみたいと思うようになっていた。

 

 その後も空也は次々と話を聞くためにみんなの名前を読んでいく。

空也「にこは?」

 

 にこに至っては聞くまでもないだろう。

にこ「決まってるでしょ。花陽と同じで昔からの夢よ。やりたいと思ってるし、やれるのなら絶対にやりたい」

 花陽と一緒でずっと前からアイドルを目指していた。だからこの『アイドル研究部』という場所ができて、今こうして活動をすることができている。だから幼い時からの夢を勝ち取るためににこは空也の話を受け入れるのだった。

 

 そして最後。一番μ'sのことを考えているリーダーに話を聞く。

空也「……穂乃果は?」

 

 ずっと考えていた。今までの話の中で、穂乃果だけはこの話を受けたらどうなるのかということを。だから思いついてしまった1つの可能性。

穂乃果「プロになったら……。空也君も私たちと一緒にいてくれる?」

 作詞家といっても、ずっとμ'sと一緒にいられるわけではない。つまりプロになればこの空間にいる人物が自分たちの輪からいなくなってしまうのではないかという1つの可能性を思いついた穂乃果は空也に尋ねる。

 

 正直このことは空也が断言するにはまだ早い内容だ。けど、空也がどうしたいのかだけはここでも言える。

空也「…………今までは俺は作詞家と一緒にトレーナーもやってきた……。でもプロになれば多分作詞で手いっぱいだろうな。でも作るさ、時間ぐらい。必要ならマネージャーだってやってやる。トレーナーだってやってやるよ。俺はそこまでの覚悟はあるからな」

 一緒にいることをみんなが望むのであれば時間は作る。どんだけ無理をしたって。だからこそ、空也にも覚悟が必要だった。

 

 空也の言葉を聞いた穂乃果は、空也が真剣だということをすぐに悟る。

穂乃果「本当? 私もできるならやりたいけど、もしもメンバーが欠けるならやりたくない……」

 たまに見える穂乃果の暗い表情。けどそれは真剣にμ'sのことを考えているからこそ出てしまう一面。

 

 けど、今その心配は不要だった。

空也「みんなの言葉聞いただろ。みんなやりたいんだってさ、真姫もことりも両立できるよ」

 今までのみんなの答え。真姫こそは言葉にして出さなかったけど想いは同じ。みんなで一緒にいたいという、たった1つのシンプルな想い。

 

 このことが穂乃果を縛っていた鎖を解き放つことになる。

穂乃果「……だったらやりたい! ……限られた時間しか輝くことのできないスクールアイドルは本当に素晴らしいものだけど、私たちは、μ'sはずっと枯れることのない綺麗な花になりたいよ!! だから、その時はお願いね? 空也君」

 だから出た穂乃果の答え。みんながやりたいと想って、自分たちを支えてくれる人がいるなら瞬間を輝くスクールアイドルではなくいつまでも咲き続ける大きな花になると心に誓う。

 

 穂乃果の答えを聞いた空也は今までの真剣な表情が変わった。

空也「…………。任されました」

 微笑んだ空也はそのまま穂乃果の問いに答える。

 

 その空也の言葉を皮切りに重苦しかった空気が一変する。憑き物がとれたように自然な笑顔をするみんなが立ち上がりこれからの練習に精を出そうとする。

絵里「決まりね。じゃあ練習に行きましょうか」

 そのために、とにかく練習を開始しないといけない。絵里の言葉でみんなは部室を飛び出し、グラウンドへと向かうだろう。

 

 けど、今この話を持ち出した空也にはやらなくてはいけないことが1つだけあった。

空也「先に行っててくれちょっと用事ができた」

 だからそれをやるためにみんなと別行動をする。

 

 そして穂乃果たちと別れた空也は1人生徒会室に向かうのだった。

 

 




な、長い……。けど、とても大事な話でしたね。私はここまで基本的にアニメの流れに沿って進めてきました。しかし、アニメ本編とは違うことが彼女たちの選択を変えたのです。それはきっと本編を読んでいただいた皆さんならわかりますよね?

アニメでは限られた時間で輝く光になったμ's。しかしこの作品では、枯れることのない、立派に咲き続ける花になろうとμ'sは頑張りますので、これからの展開をお楽しみに!

新しくお気に入り登録をしてくださった紅蓮1111さん、ハイネ1021さん、galm0429さん、ハクアхорошоさんありがとうございます!

次回『みんなの考え』

それでは、次回もお楽しみに!



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