ラブライブ!~化け物と呼ばれた少年と9人の女神の物語~   作:そらなり

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どうも、そらなりです。

今回は特別な回になりました。そして私にとって大事な話になります。その内容は読んでからのお楽しみ! 

それでは、想いの募る場所で彼女たちが何を想うのかご覧ください!


みんなで叶える……

 穂乃果のある一言によって空也たちアイドル研究部は休日に穂乃果の実家である穂むらにやってきていた。何かをやりたいと思ったから読んだというのだが一体何をするのだろうか?

 

空也side

 

 やってきてみるとなんとなくだけど穂乃果のやりたいことをみんなが察する。穂乃果の家の前には大きな臼と穂乃果の持つ杵がある。これが示すこととはもう1つしかないだろう。餅つき。年が明けたばかりの今ではきっとタイムリーな行事で穂乃果の家だからこそできるイベント。

高坂ママ「はい。お待たせ」

 臼を準備し終えた穂乃果の母親は一仕事を終えたことで額に出てきている汗をぬぐう。

 

 あまり見ない臼と杵に少しだけ圧倒されたのか、見ていた人からは何かに期待しているようなそんな声を漏らしていた。

にこまきりんこと『おぉ~!』

 確かに臼と杵なんてそうそう見るものではないし、穂乃果でさえもあまり見たことはないだろう。それが今まで縁のなかったものが見ればそれ相応の感嘆の声が漏れるのも仕方のないことだ。

 

 が、あまり見ないということはあまり使っていないということでもある。それはこのイベントを企画した穂乃果でさえも例外ではなく、道具の状態はいいとしても上手く道具を使いこなすのは難しくなってくる。

高坂ママ「ちゃんとできるの? 穂乃果?」

 母親だから穂乃果たちに危険がないか不安になったため心配そうに穂乃果に尋ねる。穂乃果たちはこれからラブライブ!の本戦に出場する大事な体なのだから大きなけがはしないことに越したことはないだろう。それも相まって穂乃果の母親の心配が強くなる。

 

 けど、その心配は穂乃果には意味のないことであることも当然母親であるから知っていた。今の穂乃果の母親の言葉はただ穂乃果たちのことを心配しての言葉ではなく、穂乃果に危機感を持たせるためのものだ。これで、調子に乗って大きな事故につながる可能性をつぶしていく。

穂乃果「お父さんに教わったもん」

 そう言って穂乃果は臼にたまっているもち米を杵で器用に練っていく。本当に道具の扱い方法は父親に聞いていたようでその動きに迷いはない。母親の言葉もあって特に危ない使い方はしていないようだ。

 

 もち米の形がどんどん崩れてきたころを見計らって穂乃果は次の作業に入る。それは餅つきのつきの部分。叩いてみんなが知っているもちの状態にするのだ。当然誰もが知る餅つきはただただ叩くだけで終わるものではなく2人でやることを知っているだろう。

穂乃果「行くよ~!」

 穂乃果が大きく杵を振り上げると臼の近くにしゃがんで待機している海未に向かって声をかける。今回の穂乃果の相方は海未のようだ。

 

 その海未は穂乃果の目を見ながらしっかりと聞こえるように返事をする。

海未「はい!」

 そこからいつかの体育祭のように息の合ったコンビネーションを見せる穂乃果と海未。叩くタイミングと杵と餅がくっつかないように水を塗りながらひっくり返す海未は次々に自分の作業をこなしていく。

 そのスムーズな息の合った動作を見て空也を含めたμ's全体が息をのむ。長い間一緒に入れだ必ずできるようなものでもない。お互いの相性がよく、お互いの域を読みあうことができる間柄でないとできないことを平然とやってのける。

 

 が、そんな中一人だけ違うところを見ていた人がいた。それが花陽だ。

花陽「うわ~! ご飯キラキラしてたね~! お餅だねー!」

 餅の原料はもち米。そう、米なのだ。お米が大好物である花陽にとってお餅とは目を輝かせるものと同じ。海未と穂乃果の手によって完成させられた餅を見て花陽はよだれが垂れるほどじっくりと臼の中にある餅を見ていた。

 

 そんな様子を見ているともうすでに食べようとしていることなんて誰もが分かることだろう。

にこ「食べる気満々じゃない」

 そういうにこも少しだけ食べたそうにしているようだけど、花陽に注意をする。今ここで作っている餅はμ'sで食べるために作っているわけではないのだ。

 

 食べたそうにしている花陽達をよそにできた餅を臼の中から取り出した穂乃果はもう一度炊いたもち米を臼の中へと入れる。最初にやった動作と同じ作業を繰り返し、再び餅つきを開始しようとするタイミングでやりたそうにしてみている凛に話しかける。

穂乃果「凛ちゃん、やってみる?」

 あと残っている仕事といえば餅をたたいて完成させるだけ。それなら初心者でもできないわけではない。ただ、相方との息を合わせないといけない分注意して行えば何の問題もないはずだ。

 

 穂乃果の言葉を聞いた凛は元気そうにして穂乃果の持っていた杵を受け取る。

凛「やるにゃー!」

 やる気は満々、すごく楽しそうに杵を持つ凛の姿は慣れないことをこれからするからなのかうきうきしているようにも見える。

 

 その後に穂乃果は凛の近くにいた真姫にも話しかける。

穂乃果「真姫ちゃんも!」

 少しだけ興味があるかのように臼の中を覗いていた真姫もきっと本当に興味はあるのだろう。だからそれを察して穂乃果は真姫に話しかけたようだ。

 

 しかし、穂乃果の言葉に真姫はいい反応を示さなかった。

真姫「いいわよ。それよりなんで急に餅つきなの?」

 それは照れ隠しというよりも先ほどの海未と穂乃果のコンビネーションを見て圧倒されてしまったが故の答え。自信がなくなったというわけではないがそれでも、今すぐにチャレンジをしてみようという気にはなれなかったようだ。

 

 そしてもう一つ。真姫を含めたこの場にいる穂乃果以外の全員が思っていること。それはどうして今ここで餅つきを始めたのかということ。タイミング自体はお正月であるし不思議ではないのだが、これは最初から予定していたものではなく突発的に穂乃果が思いついてやることになったこと。みんなはその突発的何かがよくわかっていない。

 

 が、このタイミングで餅の量を考えると10人だけで済む量ではないことが分かる。ということは大人数が参加する可能性があるということだ。大人数が参加し、μ'sが関係していることといえば考えられることはおのずと絞られてくる。

空也「もしかして学校のみんなにお礼すんのか?」

 これか空也の至った結論。μ'sが最終予選を突破できたのは音ノ木坂学院の生徒が、そして風見学園公式新聞部となぜかやってきていた竜也のおかげ。雪かきがなかったらμ'sは出場できなかったかもしれない。だからお礼するには十分すぎる理由だ。

 

 そして空也の考えは穂乃果の言葉によって肯定される。

穂乃果「そうだよ。なんか考えてみたら何のお礼もしてないなって思って」

 あの時歌を届けた……。なんてことはきっとお礼にはならない。ありがとうと言葉にもしていないし、何より穂乃果が納得をしていない。だから今回のような予定が出てきたわけで穂乃果がやりたいと思ったことにつながったのだ。

 

 しかし、みんなは穂乃果ではない。だからどうしてお礼をしたいと思ったのかはわからない。

絵里「お礼?」

 

 そんな絵里の疑問に穂乃果は少しだけ理由を答える。

穂乃果「うん! 最終予選突破できたのってみんなのおかげでしょ。でもあのまま冬休み入っちゃってお正月になって」

 穂乃果にとって最終予選を突破できたのはμ'sだけの力ではない。きっとそれはみんなが思っていることで、μ'sだけでは成しえなかった未来に今いるのかもしれない。今があるのはあの日に力を貸してくれたすべての人のおかげ。早めに学校を出てもいいといってくれた理事長だって、雪かきをしてくれた音ノ木坂学院の生徒だって、そして他の学校である風見学園からわざわざ来てくれた立夏たち公式新聞部の面々のおかげでもある。

 

 まぁ、だからといって今ここでやっていることをしないというわけではないのだが。

にこ「だからって、お餅にする必要ないじゃない」

 それをにこが穂乃果にツッコみを入れた。でも、穂乃果の実家であるこの穂むらで大勢の人数に何かを振舞おうとしたら穂乃果の選択も間違っているわけではないのかもしれない。

 

 他にお礼をする方法が思いつかなかった穂乃果は直感的に思いついた餅つきを選択したようだ。

穂乃果「だって、ほかに思い浮かばなかったんだもん。それに学校のみんなに会えばキャッチフレーズが思いつきそうだなって」

 もちろん穂乃果も、キャッチフレーズや原動力のことを忘れているわけではない。今回のことがきっかけになればいいとそういう風にも思っていた。げ、今回の大本の目的はあの日に手伝ってくれたみんなに対してのお礼をすること。それだけは忘れてはいけない。

 

 花陽達も自分たちにぴったりのキャッチフレーズを考えてはいたがどれもピンとくるものは出てこなかった。そんな状況の中こういうイベントをやれば思いつくといった穂乃果の考えに少しだけ疑問が出てくる。

花陽「思いつく?」

 だっていろいろ悩んで、一番自分たちのことを知っているであろう人たちが思いつかなかったのに他の人を頼って答えが出てくるのだろうかという単純な疑問。

 

 しかし、そんな疑問を一発で吹き飛ばす言葉がにこの口から放たれる。

にこ「お餅つきだけに!」

 

 にこが言葉を発した刹那、冬の寒空の下とはいえ、普通では考えられない冷気が穂乃果たちの中を走っていくような感覚を覚える。その感覚は体に拒否反応を起こし、鳥肌となり再度穂乃果たちの体を走り続けていく。そう、この感覚の原因は目の前にいる黒髪ツインテールの小さな高校3年生。

 

 このままの空気では自分たちが凍死してしまう。そんな風に思えたにこの近くにいた凛たちは一瞬で穂乃果の下へと移動する。それはおしくらまんじゅうをするように小さくまとまるかのように、そしてにこのほうに体が向けられないように。

凛「にこちゃん寒いにゃ」

 この現象を起こしたにこに向かって凛が言い放つ。そう、ギャグとはいえ寒すぎるものが披露されたため穂乃果たちには悪寒が走り、身震いするまでに体温を下げていた。……つまり今回はにこが悪い。

 

 その自覚はあるようでにこも状況を瞬時に理解した。

にこ「悪かったわよ! ついよつい!」

 自分の言った逆が面白くないということは当然ながら寒いことを言ってしまったのは理解している。やってしまったと思ってすぐに謝るにこ。

 

 気を取り直して再び餅つきを始めようとする凛。穂乃果から受け取った杵を大きく振りかぶってこれから叩こうとしている臼に集中をする。もちろんその先には水を塗ったりひっくり返したりするために海未がいて、いつでも餅つきを始めることはできる状態になる。

 

 しかし、凛が始めようと振り下ろしかけたその瞬間に凛の後方から大きな声が聞こえてくる。その声にはμ'sのみんな、特に絵里が一番聞いたことのある声。その声の持ち主が臼の近くで待機している海未に向かってダイブした。

亜里沙「あ! 危なーい!」

 薄い金髪をしたその髪は雪のように白くも見え、少しだけ息を切らしているようにも感じられる。離れた場所からここに走ってきたようだ。その人物は、絵里の妹の亜里沙。

 

 亜里沙は海未に覆いかぶさるようにして凛が叩こうとしていた臼から遠ざけるように移動していた。そして杵を振りかざしている凛に向かって口を開く。

亜里沙「μ'sが怪我したら大変!」

 確かに、亜里沙の言うようにμ'sはこれから本選を迎える大切な時期だ。そんな期間に大けがなんてしたらせっかく勝ち上がった意味はなくなる。

 

 でも急な行動にμ'sのみんなはどういうことか理解することができずに、むしろ今やっている内容からどうして怪我の心配をしているのかが少しだけ分からないでいた。

絵里「亜里沙?」

 それは姉である絵里も変わらない。急にやってきた亜里沙にどうしてそういう行動をしたのかが分かっていない。

 

 が、亜里沙が何を心配しているのかは言っていたことから推測するのは可能だ。

凛「叩こうとしてたわけじゃないにゃ」

 μ'sが怪我をしないように事前に防ごうとしてくれた。それに関しては大切に想われているんだとみんなは嬉しく思うが、今回はそういう怪我が起きないことはよくわかっている。

 

 凛の言葉を聞いた亜里沙は"じゃあなんでそんなものを振り上げてたの?"と言いたげな目で周りを見渡していた。海外育ちで今までロシアで生活していた亜里沙にとって餅つきとは真姫や花陽達以上になじみのないものだったようだ。

空也「ただ餅つきしてただけだよ。もうそろそろできるからちょっと待ってて」

 論より証拠。これからやることを見せていればきっと亜里沙は凛たちが何をしようとしていたのかが分かってくるだろうと空也が助け舟を出した。

 

 亜里沙が見守る中、海未と凛、そして穂乃果の手によって出来立ての餅が完成する。凛は途中で穂乃果に交代して仕上げを含め穂乃果にやってもらっていた。どうやら凛は慣れないことをしたから普通以上に疲れてしまったようだ。

亜里沙「お餅? スライム?」

 出来上がった餅を切り取って花陽が亜里沙に渡す。お皿に乗っている餅を見た亜里沙は、今までに見たことのない物体がよくわかっていない様子だ。

 

 そんな亜里沙に花陽は少しばかり話して、食べるように促す。

花陽「食べてみて? ほっぺた落ちるから」

 急いで食べてつまらせてしまえば餅は急に凶器になりえるが、ゆっくりと噛んで味わえばそれは至極の一品となる。

 

 そんな花陽の思いが通じたのか一口餅を食べた亜里沙は目を輝かせまだ皿に乗っている餅のことを見つめていた。

亜里沙「美味しい!」

 そんなことをしていると穂むらへ音ノ木坂学院の生徒が続々と集まってきた。少し事情があってこれない生徒がいたにもかかわらずあの日参加してくれたほとんどの生徒が穂むらの前に集まった。

 ここに来たみんなの顔は仕方なくしたんだということは一切感じない、心から楽しそうな笑顔を見せている。

 

 参加者が全員集まったことで穂乃果が発案した餅パーティーが始まる。あんこやきな粉、しょうゆに海苔。定番の味付けが並ぶ中それぞれが好きな味を楽しんでいく。そしてみんなが手伝ってくれたおおかげでとることのできた最終予選の突破枠を記念して運営から渡された最終予選の盾をみんなにも見てもらった。記念にと集合写真を撮ることになり、にこの"にっこにっこにー"をしながらこの場にいる全員で写真を撮った。

 

 そうして穂むらの周りがワイワイガヤガヤと少し騒がしいくらいには盛り上がっているところを見た穂乃果たちは少しだけ思うところがあった。

海未「みんなが来てくれてよかったですね」

 

 それは冬休みという短い休みで年明け間もない時期にここまでの人数が集まったという事実について。

 

絵里「冬休み中なのにずいぶん集まったわね」

 それに関して言えばこの場にいるほぼ全員が思っていることだ。どうしてこの場にみんなは集まってくれたのか。言ってしまえば今回の穂乃果の企画したことだってμ'sの自己満足のようなもの。別に参加しなくてもいいのに多くの人がこの場所に来ていた。

 

 やがて作った餅がなくなり、解散になり始めたころにどうしてみんながここに集まってくれたのかを考えてみる。

凛「みんなそんなにお餅好きだったのかな?」

 最初に浮かぶのはやはり今回の催し物のメインの餅について。

 

 その凛の言葉に花陽は大きくうなずいた。

花陽「好きだよ。おいしいもん!」

 確かにおいしいことには変わりないし、和菓子屋で使っているもち米からできているのだから普通にやるよりも別格の味になったはずだ。

 

 けど、物につられてくるほど人間は簡単ではないし、そういう人たちではないことは穂乃果たちがよく知っている。

穂乃果「きっと、みんな一緒だからだよ」

 それにどこか穂乃果は気が付いているのだ。みんななら来てくれると。それは無責任な機体なのかもしれない。本当に相手のことを全部知っているわけではないからただの傲慢なのかもしれない。けど、今その傲慢が許されるのであればきっと穂乃果はみんなだから集まれたと信じていたいのだ。

 

 そしてその答えを聞いた空也は少しだけ反応を示す。

空也「ほう」

 穂乃果の言ったそれはある種、今一番重要なことに近いことで空也が一番気が付いてほしかったことにままならない。相手のことなんて全部知っているなんてことはあり得ない。だから自分の解釈でどうにか補っていくことしかできないのだ。その解釈がプラスの方向へと向かった。それは自分勝手な妄想なのかもしれない、自分たちのことを過大評価しているのかもしれないけど、あの日、雪かきをしてくれた人たちのことを考えると、大まかな答えは次第に見えてくる。面倒くさいと高校生なら思ってしまう仕事をわざわざ自分たちから率先してやり始めた。そのことがもうすでに答えに行きついている。

 

 だから空也は気が付いたのだ。自分だけがμ'sを支えているわけではないということに。思い返してみればそんなのは当たり前だった。ファーストライブの時は自分たちで1から100までやったのか? 路上ライブをするにあたって全部自分たちだけで開催までやったのか。風見学園でライブをしたときに場所を提供してくれたのは誰か、アンコールに答えられなくなった時に手を貸してくれたのは誰か。

 そう、μ'sはμ'sだけで完結しているグループではないのだ。これが空也の答え。

 

 ただ、その答えには本人たちは気が付いていない。まだ、当たり前のことだと心のどこかで思っているのだろう。

絵里「え?」

 だから穂乃果の言葉に首をかしげる絵里のような反応をみんなが見せるのだ。

 

 それでも、穂乃果は自分の中にある答えを想うがままに口にする。

穂乃果「みんながいて、私たちがいて……だからだと思う」

 けどそれはまだまだ他人が理解するには抽象的で具体的なことはなに一つもない言葉。言っている本人も自分がどういう意味でその言葉を口にしたのかはわかっていない。

 

 でも、その言葉はここにいるμ's全員に少なからず影響を与えた。

花陽「なんかわかるような……」

 

凛「わからないような……」

 言いたいことの大体はわかっているけど内容を完全に把握しているわけではない。

 

 けど、それを聞いてことりはあることを思いついた。

ことり「それがキャッチフレーズ?」

 穂乃果の言ったことがキャッチフレーズであるのかということ。実際今まで悩んでいたのだからそれが答えのように聞こえてもおかしくはない。

 

 ただし、穂乃果はその答えに納得をしていない。

穂乃果「う~ん……ここまで出てる」

 そう、今穂乃果の言った言葉は結論ではなく、通過点。結論を知るために一番重要なことなのだ。だからまだ答えにはたどり着いているというわけではないのだ。

 

 もうそろそろ出そうな結論を後押しするために空也は今まで閉じていた重い口を開く。

空也「確かにそれを一言にできればキャッチフレーズになる」

 今まではキャッチフレーズのことなんて答えに近づく言葉を一切話さなかった空也がようやくみんなのためになるような言葉を言う。

 

 しかし、空也がキャッチフレーズにどんなものがいいのかが見当がついているということに関してわかっているのは空也自身を除いてこの場にいる穂乃果だけだ。

希「なんかわかってるような言いぐさやん?」

 だから初めて知っているような口ぶりをした空也に反応をする希。

 

 が、大本の答えについては見当がついている空也でも完全な答えにはたどり着いていない。今空也の頭の中にあるのはキャッチフレーズではないのだ。

空也「どんなキャッチフレーズになるかは俺にだってわからないよ。でもμ'sの原動力のほうならわかる。それも後にわかるさ」

 そう。原動力。穂乃果がツバサに話をしたいと言った日に出てきた話題で、空也の考えるキャッチフレーズに一番近い言葉。そしてこの場にいる全員が理解していないこと。

 

 希以外にも今空也が何かを知っていることを知った全員はどこかいつもの空也らしいという感覚に陥る。でも、それが自分たちのことを考えてのことなんだということに直感的にみんなが気が付く。

海未「全く、空也は……。じゃあ練習に行きましょうか」

 だから答えを教えてほしいなんて野暮なことを聞くような真似をする人はいない。

 

 そしていつまでもこの場所にいることはできない。海未の発言でみんなの雰囲気が練習モードになっていくのが分かる。

絵里「そうね。じゃあ一度みんな家に戻って神田明神に集合ね」

 ただいまの服装は全員が私服。そのため一度家に戻る必要があった。が、練習モードに入っているみんなから文句が漏れることはなく、むしろ早く練習がしたいと全員の顔に書いてあるようなそんな気さえ思えてくる。

 

 ということで、本来は予定になかった自主的な練習が穂乃果たちの中に成立した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 穂むらで一度解散した後、絵里の言うように一度家に帰った後いつも練習をしている場所、神田明神に集まった。みんなが練習着に着替え、いつも走っている男坂をタイムを計りつつ走っている。

 

 餅つきをした後、言ってしまえば運動をした後によりハードな運動をしているため体力面でも少し心配な要素はあったものの、今までの練習の成果がこのただただ普通の練習にも見える。疲れているはずなのに穂乃果は自己ベストを更新し、他のみんなも普段よりも体が動いていた。

 

 全力で階段を駆け上った穂乃果は少し休憩するために近くの水道で水を飲んでいた。そして男坂に戻るために神田明神の境内を歩いていくのだが、そこには空也が何かを見ているような姿があった。

穂乃果「空也君? どうしたの?」

 空也のことを発見した穂乃果は何をしているのかが気になったため話しかける。穂乃果の目線の先にある空也が見ていたもの。

 

 それは新年を迎えて一年の抱負が書かれた多数の絵馬があった。

空也「あぁ。この絵馬を見てた」

 指さす先にあるのは山のように高く、海のように広く飾られていた絵馬たち。そんな話をしていると空也と穂乃果の会話に気が付いた他のメンバーが集まってみんなで絵馬を見る。けど空也が見ていた絵馬にはいくつかの共通点があった。

 

 が、そのことに気が付くことはなく今はただただ目の前に広がっていく絵馬に圧倒されていた。

絵里「すごい数ね」

 

海未「お正月明けですからね」

 時期的には確かに増える時期だと思う。受験も本格的に始まり、それぞれの人が願いを込めて掛けるもの。それが集まっているということはこの場所は想いが詰まったすべての人にとって大切な場所。

 

 そんな、圧倒されている穂乃果たちに空也は一つの絵馬を指さしてみんなに注目をさせる。これがキャッチフレーズに関係するヒントになると確信を持ちながら。

空也「これ見てみな。音ノ木坂の学生のメッセージ」

 その先にあったもの。それは空也の言うように音ノ木坂学院の生徒がも書いていた絵馬。けどここに書かれている内容は書いた本人たちのことではなく、μ'sのこと。"優勝できますように"や"メンバーに異常が起きませんように"など、応援や心配してのメッセージがその周りの絵馬にも少し離れたところにもあった。

 

 空也の言葉でそれ気にが付いた穂乃果はそのことを意識してもう一度絵馬を見渡してみる。

穂乃果「ほんとだ!」

 

海未「こっちもです」

 そしてそれは海未も、他のメンバーも自分たちの言葉書かれている絵馬が多くあることに気が付いた。

 

 中にはまだそんなに交流したことがない生徒や、中には教員の名前まで見ることができた。

ことり「あ! 見て、雪穂ちゃんと亜里沙ちゃんの!」

 そして、当然というべきかことりが見つけた絵馬には穂乃果と絵里の妹たちの書いた絵馬があった。

 

『μ'sが本大会で遅刻しませんように!! 雪穂

 大会の日、晴れますように!! 亜里沙。』

 

 それは簡単に言えばμ'sのためを思ってのメッセージ。これが読まれるなんてきっと誰も思わなかったことで、読まれようと思って書いたわけじゃない。けど、そんな邪な考えがない純粋で想いが詰まった絵馬には穂乃果たちの何かを刺激するものがあった。

 

 そんな絵馬の中でも特に想いの力が強いものが点々としていることに空也は気が付いた。それは空也の目からすれば他の絵馬よりも思いの強さのレベルが違う、近くにいたらからこそ出せるとても強い想い。

 

『奇跡は必然が生み出すモノ。俺たちが必然となり、支えていくことで最高の奇跡を生み出していくぞ! 宗方 蒼一』

 それはμ'sのことをずっと見てきた者の想い。

 

『信じるんだ、自分達の成すべきと思ったことを。それがきっと、君達の向かう道筋を示してくれるはずだ。恐れず、振り向かず、ただ前へ進め! 笹倉 大地』

 それはμ'sに勝ってほしいという純粋な願い。

 

『初めてμ'sを見た時に

 勇気を貰いました

 ありがとう! 頑張って!! W.N』

 それは自分たちのことに気が付かなくても届けたいと想うメッセージ。

 

『妹たちがいつまでも一緒に走り続けられますように 高坂 光穂』

 それはずっと近くで見てきたμ'sを応援したいという心からの想い。

 

『お前らの詩は俺を救ってくれた。だから……今度は俺の番だ。その詩で頂点、取れよ ××○○』

 それは救ってもらったμ'sに対して恩返しをしたいという1つの願い。

 

『皆が夢の先、最高で最幸な舞台で輝けますように 藤崎 遥

 皆が最高の景色を楽しめるように!! 宇都宮 怜』

 それはずっと一緒に頑張ってきた戦友に送る最大のエール。

 

『自分を信じて頑張りや! 応援してるで! 香川 ナオキ』

 それは時に主観的に、時に客観的にμ'sのことを見てきたからこそ出てくるメッセージ。

 

『自分の成し遂げたい事のためにしっかりやれば大丈夫 岡崎 拓哉』

 それはμ'sならできるという確かな確信がないと出てこない言葉。

 

『君たちなら出来る! みんなでなら優勝できる! 桐山 樹』

 それは大切な人たちに向けて、輪の中から安心させるような言葉。

 

『μ'sのみんながいつまでも笑顔でいられますように 神崎 零』

 それはラブライブのことだけではなくμ'sのこれからに対してのメッセージ。

 

 この絵馬を見た空也は直感的にこれがどんな存在なのかを理解した。

 

 もしかしたらこれはラブライブの出場を決めた日に穂乃果が雨を止ませることができたことにも関係しているのかもしれない。この神田明神という場所は本来は人の想いが集まる場所。人の想いというのはとても強く、時間や空間を超えてしまうことだってないわけじゃない。

 

 なぜ枯れない桜が関係しているのに少年はこの場所に来たのだろうか? なぜ穂乃果は雨を止ませることができたのだろうか? なぜ、空也の見つけた絵馬のように特に強い想いが描かれた絵馬があるのだろうか?

 

 絵馬の中にはあの日、あの日だけ出会った少年の名前もあった。つまりこのことが意味する答えはただ一つ。別世界のμ'sを応援するメッセージがこの神田明神という場所に集まっているということだ。特にμ'sに近かった者のメッセージが強く存在感を示している。

 

空也(あぁ、そういうことか。この人たちは俺と同じような状況に立って、μ'sのことを見て応援しているんだ。……この想いにはちゃんと答えられるようにしないとな!)

 

 たった一言。されど一言。人の言葉というものの強さはある時は弱く、しかしある時には何物にも負けない強さになる。今、空也の目の前に広がっている強い想いの結晶にはその何物にも負けない強く、そしてまっすぐな想いを感じることができた。

 いつかの再会を約束した人の名前、まだ見ぬ世界のμ'sを支える者(主人公)たちの名前。忘れないために空也は今その名前を心に焼き付けた。

 

 その間に、穂乃果は自分たちが常にどういう状態で活動をしてきたのかを思い出した。自分たちだけで今までやってきたわけじゃない。いろんな人の助けがあってようやくここまで来たのだ。それは心の支えでもあり、実際に助けられたことだって一度や二度ではない。

穂乃果「そっか……。わかった! そうだ! これだよ!」

 ようやく理解できた穂乃果は後ろにいるみんなに振り返り、手を大きく広げてみんなに絵馬を見せる。

 

にこ「なんなのよいきなり」

 急な穂乃果の反応に鬼子をはじめとするみんなが驚く。

 

 しかしそれを気にせずに穂乃果は言葉をつづけた。

穂乃果「μ'sの原動力! なんで私たちが頑張れるか、頑張ってこられたか! μ'sってこれなんだよ!」

 そして再び絵馬を指す。

 

 が、いまだにみんなピンと来ていない様子で花陽達は首をかしげる。

花陽「これが?」

 

 穂乃果にとってはこれが、この絵馬こそが答え。

穂乃果「うん! 一生懸命頑張って、それをみんなが応援してくれて一緒に成長していける。それがすべてなんだよ!」

 おそらくμ'sとA-RISEの一番の相違点はこういうことなのだろう。誰よりも強く、己たちを磨いていたA-RISEと自分たちだけではなく応援してくれている人も大きく巻き込んで成長していく存在、それがμ'sなのだ。だからμ'sは9人でも10人でもない。応援してくれる人がいて初めて成り立つ大きな存在。

 

 自分たちだけでは成し遂げることのできなかったこと、それをみんなで共有して進んでいく。

穂乃果「みんなが同じ気持ちで頑張って前に進んで少しずつ夢をかなえていく。それがスクールアイドル! それがμ'sなんだよ!」

 これが穂乃果の最終的な答え。人のために頑張っているんじゃない。自分のために頑張って、でもそれは見てくれる人と一緒になって作り上げていくもの。

 

 穂乃果の言葉を聞いた絵里たちはその言葉が自然と体の中に入ってくるように感じた。

絵里「みんなの力……」

 

海未「それがμ's……」

 言葉にしていくとそれが体の広く広くに浸透していく。そしてみんなが納得してくると顔を見合わせ全員が笑顔になった。

 

 ようやく答えにたどり着いたμ'sの原動力。あとはそれを言葉にするだけ。

空也「じゃあ今の言葉でもうキャッチフレーズが決まったんじゃないか。メンバーそして支えてくれる人たちの夢をかなえていくストーリー」

 ここは作詞家で言葉を専門に扱う空也の仕事。穂乃果の導き出した答えからそれらしい言葉を紡いでいく。

 

 後はそれをみんなが納得する形にすればいい。けど、穂乃果にはもう考えがあるかのように今もずっと笑顔だった。

穂乃果「うん! 私たちのキャッチフレーズは……」

 

 穂乃果が言ったキャッチフレーズは全員が納得をしてすんなりと決まった。これ以上にμ'sを説明する言葉が見つからないと分かったから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして数日が過ぎ、UTX高校前のモニターには本大会に進むグループのキャッチフレーズが次々と表示されてくる。

 もちろんμ'sのも。

 

 

 

 

 

μ's『みんなで叶える物語』

 

 

 

 

 

 これからもμ'sはこのキャッチフレーズを胸に本戦に突き進むのだ。自分たちを応援してくれているみんなのためにも、そして自分たちのためにも。

 

 




ここまで読んでいただきありがとうございます。

とここで今回の話を書くにあたって協力してくださった作者様たちの紹介をしたいと思います。

・雷電p様 
 作品『蒼明記 ~廻り巡る運命の輪~』

・名前はまだ無い♪様
 作品『アニライブ!』
   『巻き込まれた図書委員』

・kielly様
 作品『兄と妹~ときどき妹~』

・白犬のトト様
 作品『[ラブライブ!]少年と女神達の物語創世記』

・シベリア@妄想作家様
 作品『ラブライブ!〜1人の男の歩む道〜』

・たーぼ様
 作品『ラブライブ!~奇跡と軌跡の物語~』

・キャプテンタディー様
 作品『オリ主と9人の女神の奇跡の物語』

・薮椿様
 作品『ラブライブ!~μ'sとの日常~【完結】』
   『ラブライブ!~μ'sとの"非"日常~【完結】』
   『ラブライブ!~μ's&Aqoursとの新たなる日常~』

そして別サイト『暁』にて
・ウォール様
 作品『μ's+αの叶える物語〜どんなときもずっと〜』

以上10名の作家様の主人公とメッセージをいただきました。この場を借りてもう一度感謝いたします。

読者の皆様もいくつか知っている作品があるのではないでしょうか? どの作品もとても面白いので今回で興味を持っていただけたら私も嬉しく思っています。

さて、今回の話で『μ's』回が終わり、いよいよアニメにおけるあのシーンがある回になります。が、その前に少しオリジナルの話が入りますので次回は完全オリジナル回ということで。

次回『はじめて出会うクラスメイト』

それでは、次回もお楽しみに!




Twitterやってます。
https://twitter.com/kuuya_soranari
どうかフォローよろしくお願いします!

作品消滅によりキャラ1名の名前を隠しました。2018/11/01

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