ラブライブ!~化け物と呼ばれた少年と9人の女神の物語~   作:そらなり

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どうも、そらなりです。

今回で、『私の望み』回は終了となります。希は藍斗の助言を受け、諦めることを選択した前回。

さて、今回はいったいどんなことが起きるのでしょうか?

それでは、今回も自分の気持ちに素直になる彼女たちの物語をご覧ください!


希の望み

真姫side

 

 少し駆け足で真姫が走るとずっと歩いていた希と絵里に追いつくことができた。距離が近くなったおかげで2人が話している内容が真姫に聞こえてくる。

絵里「本当にいいの?」

 その話は先ほど諦めるように決定したラブソングの話だった。絵里は希を心配するようにして語りかける。

 

 そんな絵里の言葉に、希はどこか何かを諦めようとしている顔で返事をする。

希「いいっていったやろ」

 その言葉は希がしっかりと話しているはずなのに、どこかいつもの望みではないように感じてしまう。μ'sが仲良くなる前、まだ部活動の先輩後輩だけの関係だった時の望みに戻ったような、そんな感じがした。

 

 それでも、絵里は希に言葉をかけ続ける。少しでも希の力になれるように。

絵里「ちゃんというべきよ。希が言えばみんな絶対協力してくれる」

 歩きながらも会話を続ける。

 

 しかし希は考えを変えない。

希「うちにはこれがあれば十分なんよ」

 希はポケットからタロットカードを取り出しそう呟いた。でもそれは自分のことは後回しでもいいとそう言っているようにも聞こえてくる。

 

 いつまでも、希は考えを変えない。考えを変える気がないということはその言葉で証明された。

絵里「意地っ張り……」

 でもそれはただただ無理しているようにしか聞こえてこない。

 

 意地はって自分に無理して、考えを押しとどめる。それはいつかの誰かを見ているようだった。

希「えりちに言われたくないな~」

 そうだ。μ'sに加入する前の絵里と同じような感じだった。ということは無理をしていると自分で言っているも同然。

 

 

 

 

 

 ただいつまで聞いていても話の流れが見えない。それを聞いた真姫の思ったことは……

真姫「どういうこと?」

 よくわかっていない。何が何だかわかっていない様子でそのやり取りを見ていた。

 

 ずっと干渉せずに話の行く末を見ていると2人が信号の前で歩みを止めた。

希「じゃあ、また明日」

 でも、それは信号だから止まったわけではなさそうだ。そこで絵里と希は別れるのだろうということを話す。でもそれは、少し逃げているようにも感じられた。

 

 それに気が付いているのか絵里は希と別れるのを受け入れようとしない。

絵里「希……」

 ここで引いてしまってはきっと希はこのまま絶対にあきらめ続けるだろう。そんなことが分かりきっていた。だからこそ何とかしようと時間を長引かせようとしていた。

 

 そのおかげか、このまま帰ってしまうことが分かった真姫は違和感を違和感のままにせず思い切って飛び出すことに決めた。

真姫「待って!」

 隠れていた場所から真姫が出てくる。真姫の瞳には少しだけ怒りの色が混じっている。希に対してか、自分に対してか。それとも未だわからない違和感に対してか……。

 

 後ろから急に出てきた真姫の声に驚き振り返る。

希「真姫ちゃん?」

 そう呟いている希はどうしてここにとでも言いたげな顔をしていた。

 

 でもそんなことを気にせずに、今自分が思っていることを希に言い放つ。

真姫「前に私に言ったわよね。めんどくさい人間だって」

 それは初めての合宿の時に言われたことを思い出して今言いたい言葉に重要だと思って前置きとして話す。

 

 まだ半年しかたっていない。しかも思い出となるべき場所で言った自分の言葉。そしてそれは真姫を想って出した言葉だ。

希「そうやったけ?」

 それなのに覚えていないわけがないだろう。でも希はとぼける。

 

 でも、希の言葉は当てにしない。一番今言いたいことは……。

真姫「自分のほうがよっぽどめんどくさいじゃない」

 そう。やりたいことを提案して、みんなが困っているからやめるように言って。結局自分がやりたかったことは出来ずに、押し殺してみんなが動きやすいように選択する。これをめんどくさいと言わずに何というのか。

 

 その真姫の言葉に希の隣にいる絵里も頷いた。

絵里「気が合うわね。同意見よ」

 絵里も確実に感じていたのだ。希がめんどくさい人間であるということに。自分と同じような状況にあるということに。だから音ノ木坂で初めてできた友達として、親友として放っておくことができない……いいや。したくなかったのだ。

 

 そんな2人の言葉を受けた希はなかなか折れてくれない2人が相手ではもう言い逃れができないことを悟ったのか諦めて自分の家に来るように提案した。

 

 その提案を受け入れ希、絵里、真姫の3人は希の住んでいる家へと向かって行くのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 真姫と絵里は希の案内で希宅にやってきた。少し古めのように感じるアパートの一室。その証拠に玄関のドアを開ける音が希たちを中心にキーンと広がっていく。

真姫「お邪魔します」

 そんな状態の希の家だが、部屋の中はきれいに整頓されており、清潔な空間のもとで生活できていることが分かった。

 

 この家の家主である希が玄関でずっと家の中を見ている真姫とそれに付き合っている絵里に向かって声をかける。

希「遠慮せずに入って」

 ここに来たのは話をするためだ。落ち着いて話をするために希は2人をリビングのほうに案内する。

 

 玄関から少し歩いていくとすぐにリビングになる。リビングにある椅子に真姫と絵里は腰かけ、希はそのままキッチンへと向かう。

希「お茶でえぇ?」

 客人である真姫と絵里をもてなすためお茶の用意をしようとする。

 

 そして希にそう聞かれると真姫が少し緊張気味に答える。

真姫「あ、うん。一人暮らし、なの?」

 希がここで済んでいるということは当然知らなかったが家の中の家具や部屋の様子を見ていると誰かと一緒に住んでいるとは思えなかった。だからたどり着いた考えに真姫が尋ねてみる。

 

 そんな真姫の問いに希はお湯を沸かしながら答える。

希「うん。子供のころから両親の仕事の都合で転校が多くてね」

 そう語る希の瞳はどこか弱そうで、少しでも衝撃を与えてしまえば簡単に壊れてしまうようなそんな感じだった。

 

 転校が多かった。そう聞けば希がどういう状況にいたのか、ある程度の想像はつく。

真姫「そう……」

 そして明るい声でなかったことからあまりいいことを思い出して話しているのではないということは想像にたやすい。

 

 でも、その話を前から知っていた人物が真姫の前に座っていた。そう、一緒にここにやってきた絵里だ。

絵里「だから音ノ木坂にきて。やっと居場所ができたって」

 その絵里は希とした会話を思い出しながら真姫に音ノ木坂に対して希がどう思っているのかということを話した。

 希は音ノ木坂を大事に想っている。それは廃坑阻止を目指して活動してきたのだからわかる。でも、希は他の人が感じている以上に音ノ木坂を大事な場所と思っていたのだ。それは絵里の言ったことを聞けばわかることだった。

 

 自分の過去のことを離されて恥ずかしくなったのか、話を止めようと会話に割って入る。

希「その話はやめてよ。こんな時に話すことじゃないよ」

 でも、そう言っている希は力のない笑みを浮かべていた。どこまでも儚くすぐに壊れてしまうようで我慢をしているのが分かるような笑顔だった。

 そうしているとちょうどお湯が沸き希は慌てて火を止める。

 

 出来上がったお湯を茶葉の入ったポットに入れて蓋をする。本格的にお茶を入れようとしているみたいで、横においてあった砂時計を倒してお茶を蒸すようにしていた。

真姫「ちゃんと話してよ。もうここまで来たんだから」

 いつまでもなかなか話そうとしない希の行動に対して痺れを切らした真姫が直接希に尋ねる。

 

 真姫の言っていることに全面的に絵里も賛成する。

絵里「そうよ。隠しておいてもしょうがないでしょ」

 だたその口ぶりからして絵里は希が言うべきことがどういうことなのかは知っているみたいだ。でもそれは希の口から語られないと意味がない。知っているだけの情報とじかに体験している本人の言葉では後者のほうが圧倒的に重要だから。

 

 追い詰められた希はとうとうあきらめたように肩を落として真姫と絵里のいるほうに向いた。

希「別に、隠してたわけやないんよ。えりちが大事にしただけやん」

 それでも、あくまで落ち着いているような雰囲気を醸し出している。でも力ない笑顔に変わりはない。

 

 それが偽りであることなんて絵里にとってみればすぐにわかってしまう。弱い。本当に弱い笑みを浮かべているのが何よりの証拠だった。

絵里「嘘。μ's結成したときから、ずっと楽しみにしてたでしょ」

 どうやら希は絵里にやりたいことを話していたらしい。知っていたからこそ、今回の希の違和感に気が付けたのだろう。そのあとはどんどんと違和感を醸し出していてみんなが気が付いてしまったようだが。

 

 絵里にそう言われ、

希「そんなことない」

 と言い放つもその言葉は

 

 絵里の強い声によってさえぎられる。

絵里「希!」

 もう後には引かせない。そんな思いが希の名前を呼ぶ絵里の声には宿っていた。

 

 その声を聴いた希はとうとう完全にあきらめたように真姫が求めていたことについて話し始める。

希「うちが、ちょっとした希望を持っていただけよ」

 でもその言葉は自分のやりたいことに対しての諦めの言葉だった。

 

 ただただ、自分の中で解決しただけ。真姫にはどうしてそういう経緯に至ったのかなんて一切わからない言葉だった。

真姫「いい加減にして! いつまでたっても話が見えない。どういうこと?」

 話が見えない。本当にその通りで、希はそうなると思って言葉を考えて話していたのだろう。真姫が諦めてくれるかもしれないというわずかな、真姫の性格上実現する余地がないような可能性にかけて。

 

 でもその思惑は外れた。外れたのだが、希は真姫の問いに答えない。話すのをためらっている。そんな感じだった。

真姫「希……!」

 話してほしい。力になりたい。そう思っているからこそ真姫は引かない。希が強く言うことを拒絶すれば諦めるかもしれないのに回りくどい手で逃げようとしているのはどこか助けを求めているからだ。だから、真姫は引かない。

 

 希は話そうとしない。真姫は話すまで引かない。そんな2人がいるこの状況を打開するにはもう1人がどうにかしないといけない。そう悟った絵里は今まで閉じていた口を開く。

絵里「簡単に言うとね。夢だったのよ希の……」

 希の過去を少しだけ知っていて、真姫のように希を助けてあげたいとそう考える絵里が行動に移した。

 

 絵里が話そうとしている。そう感じ取った希は、

希「えりち」

 やめるように言おうと絵里の名前を呼ぶ……。

 

 が、それでも絵里は止まらない。希には幸せになってもらいたい。今までできなかったことをしてほしい。そう願っている絵里からすれば、今の希の言葉を受け入れるわけにはいかなかった。

絵里「ここまで来て、何も教えないわけにはいかないわ」

 だから自分はここでさわりの部分だけでも話そうと、そう思っていた。話せば希がそのあとを話してくれると思ったから。

 

 さっきの絵里の言葉では何がどういうことなのか把握することはしい。

真姫「夢? ラブソングが?」

 だから真姫は現在希のことでいろいろなハテナが浮かび上がってくる。

 

 でも、真姫の言ったことが希の夢というわけではなかった。その夢について絵里はちゃんと知っている。

絵里「ううん。大事なのはラブソングかどうかじゃない。10人みんなで曲を作りたいって、一人一人の言葉を紡いで……想いを紡いで……。本当に全員で作り上げた曲、そんな曲を作りたい。そんな曲でラブライブに出たい。それが希の夢だったの。だからラブソングを提案したのよ。……うまくいかなかったけどね。みんなでアイディアを出し合って一つの曲を作り上げられたらって」

 みんなの想いが詰まったμ'sにとってとても大事な曲。そんな曲をいつか作りたいとそう思っていたからこそ新曲作りのたびにみんなで言葉を……と呟いていたのだ。

 

 希の夢は絵里の口から告げられた。でもそれが全部ではない。夢に見ているのは希だから。希にしかわからないことがいくつもある。 

希「…………。言ったやろ。うちが言ってたのは夢なんて大それたのもじゃないって」

 でも、希にとってそのことは夢ではないという。

 

 じゃあ……

真姫「じゃあ何なの?」

 夢でないというならなんなのだろうか……。やってみたいと想って、形にしたいと想って、ずっとずっと胸の中で育ててきた想い。それはいったい何なのだろうか?

 

 それを希はしっかりと自覚していたみたいだ。自分にとってこの感情が何なのかということを。

希「なんやろうね。ただ曲じゃなくていい10人が集まって力を合わせて何かを生み出せればそれでよかったんよ。うちにとってこの10人は奇跡だったんだから」

 こうして集まったのは希の言うように確かに奇跡だった。人数が違ったかもしれなし、メンバーが全く違う人物だったかもしれない。いろんな偶然が重なって、こうしてここにμ'sという1つのグループが存在している。

 

真姫「奇跡?」

 希の言う奇跡に、いったいどういった意味があるのか真姫はまだわからない。

 

 真姫の復唱に望みは反応を示す。

希「そ。うちにとってμ'sは奇跡」

 そのまま希は言葉を続ける。

希「小学生の時から転校ばかりで友達はいなかった……。当然わかりあえる相手も……」

 転勤が多ければ希の転校が多くなるのも仕方のないことだ。でも幼い時からずっと特別に親しい人物がいなかったということは子供にとっては悲しい。

 仲良くなった人でも、すぐに離れ離れになってしまうのだから。それを続けてたら仲良くなることも諦めてしまう。

 

 そして音ノ木坂というところで落ち着いた生活ができるようになると希はある人物に会うことになった。

希「でもそんなとき初めて出会った。自分を大切にするあまり周りと距離を置いてみんなとうまく溶け込めない ズルができないまるで自分と同じような人に。想いは人一倍強く不器用な分、人とぶつかって。あまりにも似てるから話しかけてみたの。それがうちとえりちの出会いやった」

 仲良くなることを諦めていた分、この地にゆっくりと腰を下ろしてからどうしようかと希は考えていたのだ。でも、長年続けてきたことを変えるのは勇気が必要で、覚悟が必要で。そうして自分と似た、自分に親しい人物が近くにいると気になったようだ。絵里と今仲良くなっているのはそういった経緯があったからだ。

 

 そのあとも希は戸の木坂学院の中でいろんな人を見てきた。

希「その後も、同じ想いを持つ人がいるのにどうしても手を取り合えないで。真姫ちゃん見たときも熱い思いはあるけどどうやって繋がったらいいかわからない。そんな子が音ノ木坂の中にいっぱいいた。そんな時それを大きな力で支えてくれる存在が現れた。想いを同じくする人がいてつないでくれる存在がいる。必ず形にしたかったこの10人で何かを残したかった。確かに歌という形にできればよかったのかもしれない。けどそうじゃなくてもμ'sはもうすでに何か大きなものを持っているとっくに作り出してる。うちはそれで十分。夢はとっくに……」

 穂乃果の存在があって繋がれたこの絆。この絆があればそれでいい。そう希は考えていた。

 でも心がそれを認めようとしない。だから希は力なく笑顔を作っていたのだ。そしてそれは声にも表れている。最後のほうは声が震えていた。何かを我慢するように、押さえつけるようにしているのが伝わってくる。

 

 今の話を聞けば希は本当に満足しているのかもしれない。でも、絵里の話も聞いて希の話し方を考慮して考えると、満足しているようには聞こえなかった。

空也『本当にそうなのかよ』

 希の夢が本当に全部叶っているのであればこんな話し方はしない。もっと胸を張って叶えたんだよといえるはずだ。なのに震えているとなればそれは満足してない証拠。

 

 急にこの部屋にはいない男性の声が室内から聞こえてくる。その声はさっきまで聞いていた、μ'sを支える者の声。

希「え!?」

 空也の声が希の家の中から、もっと言えば真姫のポケットの中から聞こえてくる。

 

 こんな状況の中冷静に真姫はポケットからスマホを取り出して、希のほうへと向けた。

空也『悪い。何かあると思って真姫に通話状態のままにして会話を聞かせてもらってたんだ。でもな希、夢は最高の状態で叶えるのが最高だろ。それにおそらく真姫も絵里もきっと今同じ事考えてると思うぞ』

 空也のやっていることは当然褒められたことじゃない。だから謝りながら空也は話を続ける。夢を叶えるのに妥協をしてしまえばその夢を笑顔で受け入れることができない。絶対に後悔する。夢は最高の形で叶えたいもの。もちろんできないかもしれない。妥協が必要かもしれない。でも、まだ時間はある。穂乃果も言っていたではないか、人間その気になればなんだってできると。

 ならば時間の許す限り頑張っていけばいいじゃないか。それでだめなら諦めればいい。絶対に今はあきらめる場面じゃない。

 

 その考えは空也の言うように真姫も絵里も同じように考えていた。

真姫「そうね」

 だから真姫はスマホから出てくる空也の声に頷く。悩んでいる仲間がいるのだから手を差し伸べたいとそう思うから。

 

 そしてこれから何をするのかはもう通じ合っていた。

絵里「えぇ。じゃあ空也は一回電話切らないとね」

 それをするためには今の空也の状況では出来ない。つまり、電話を使ってあることをやるということ。

 

 だから空也はこの場を簡単に引き下がる。

空也『あぁ。また後でな』

 その言葉の後通話がキレた音が真姫のスマホから流れもうこの場に空也はいなくなった。

 

 その電話を切った瞬間に希は何をするのかを直感的に察した。

希「まさか、みんなをここに集める気!?」

 そう。この場所に、希の家にμ'sを集める。そしてもう一度みんなで考える。それが希が一番だと思っている望みだから。

 

 それに……、

真姫「いいでしょ。一度くらいみんなを招待しても。友達、なんだから」

 友達なのだ。μ'sのみんなはかけがえのない大切な。友達ならもっとその人のことを詳しく知りたいと思ってもいい。むしろそうやってより中をよくしていくのだ。希のことも教えてほしい。それもみんなに。

 

 まぁ、例え今絵里と真姫を説得して止めたとしてももう行動してしまっている者もいる。

絵里「それに、もう空也は穂乃果達3人に電話しちゃってるだろうし」

 だから結局みんながここに集まる未来しかないのだ。こんな状況になって希は猛烈に反対してくるとかそういうことはせずに、どこか恥ずかしそうに、でも嬉しそうな表情が見え隠れしているそんな表情をしていた。どうやらまんざらでもないみたいだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 空也、真姫、絵里の3人の呼びかけでみんなが希の家に集まり、これからやることについて話す。

穂乃果「えぇ~!? やっぱり作るの?」

 数時間前はやめるということになっていたのだが、いざここに来てみるとやっぱりやるということになっていて穂乃果を含めみんなが困惑していた。

 

 でも、事情を深く知っている真姫は自信満々に答える。

真姫「そ。みんなで作るのよ」

 そう。これから曲をみんなで作る。μ'sにとって、希にとってとても大事な曲を。

 

 これは決定事項であるということが真姫の自信満々な笑顔と絵里と空也との3人の表情からすぐに伝わってくる。

ことり「希ちゃんって、一人暮らしだったんだね」

 切り替えが早いのかもう作るということで、ことりはただの雑談を始める。でもそれは今まで仲良くしていた希の知らなかったことをしってついつい出てしまった言葉。

 

 そしてそれは海未も同じ。

海未「初めて知りました」

 特に希が一人暮らしであるということは話していなかったため絵里以外のみんなは今日知ったようなものだ。

 

 さっきと言っていることが変わっている真姫の言葉に花陽は単純な疑問を口にする。

花陽「何かあったの? 真姫ちゃん」

 明らかに空也の家から別れた後に何かがあったのは明白。でもそれは何なのかは告げられていないようだ。

 

 でもそれを真姫は言おうとはしない。

真姫「何にもないわよ~」

 珍しく語尾を伸ばして誤魔化そうとする真姫。

 

 そのあとに事情を知っている絵里が続ける。

絵里「ちょっとしたクリスマスプレゼント。μ'sからμ'sを作ってくれた女神様に」

 希のためにやる。でも希はμ'sのためにやっている。自分のためでもありμ'sのため。そんな希の夢をかなえるためにこの名前をくれた希に感謝の気持ちを込めてプレゼントをする。一人一人のプレゼントではなく、希以外の9人が一緒になって送るものを。

 

 この提案は今までしてこなかった希の珍しいもの。

空也「それに希の初めての願いだ。みんなで叶えてあげようぜ」

 だから初めてだからかなえてあげたい。それは空也も思ってるし、次第にみんなが思うようになった。みんなは希のお願いが今回が初めてだということに気が付いたみたいだ。

 

 気が付いたからこそ、よりみんなはやる気になる。

にこ「もぅ。しょうがないわね」

 にこは胸を張りながら自信満々に答える。

 

 凛もやる気になっているからこそ、これからどうするのかが気になる。

凛「でも、どうやってみんなでどうやって作るの?」

 今まで考えても出なかったんだ。どうするのかわからなくて当然だろう。

 

 でも、もう考えはある。希の求めていたものは1人1人の言葉が、想いがこもった曲を作ること。だから……。

空也「一人一人さまざまな言葉を俺がつなげる」

 みんなの想いを言葉を空也が繋げればいい。特に何でもない言葉でも、思いがこもっていればそれは希の夢実現に必要なものだから。

 

 ただ、言葉を出すだけでも意外に難しい。

花陽「う~ん。みんなで言葉を出し合ってか……」

 それは先ほどまでのやり方とそんなに変わるものでもなかった。何かを考えるようにして希の部屋を見渡すと花陽が初めて9人でやった講堂でのライブをした時の写真を見つけた。曲の最後のポーズを空也が撮ったものがそこにはあった。

 

 見つけた途端に勿論花陽はそれが何なのか理解する。

花陽「これって……」

 その花陽の言葉でにことことりそして凛が花陽の見ている写真を見ようとする。

 

 が、それは実現しなかった。

希「あ! …………」

 慌ててその写真立てを胸に抱きしめるようにしてみんなに見られないようにする。希は目をつむって恥ずかしいのかほほがわずかに上気していた。

 

 そんな普段見ない希の姿を見て、にこはどこか嬉しそうに呟く。

にこ「そういうの飾ってるなんて意外ね」

 意外な表情が見れたのは友達として嬉しいことだから。自然とにこは笑顔になった。

 

 その笑顔が余計希を恥ずかしめているようで、余計恥ずかしそうに希は体をくねらせながらも弁明を試みる。

希「別にいいやろ。うちだってそのくらいするよ。……友達、なんやから」

 希もμ'sのことを大事な友達として考えているからこそ、こういった思い出を大事にしているのだ。それは普段はミステリアスな希も同じ。

 

 普段見ない希の表情は見る人全員が新鮮に想えて、

ことり「希ちゃん……!」

 

凛「可愛いにゃー!」

 ことりと凛のように可愛らしいしぐさをする希を愛らしく思っていた。

 

 凛がそのまま我慢ができなくなったようで希に飛びつこうとするがそれはベットの上にあるクッションを利用してガードする。

希「もう、笑わないでよー!」

 そうして後ずさるようにして抗議をするが、その行動さえも凛たちにとってはかわいいものに見えた。

 

 普段は関西弁のようなものを使っている希が標準語で頬を赤らめて行ってくる仕草が新鮮で、希の変化に凛が真っ先に気が付いた。

凛「話し方変わってるにゃ~」

 今まで見れなかった一面が何度も訪れる今日。それはとても些細なことなのかもしれない。でも、μ'sにとってそれはとても大切なことで、嬉しいことで。希と凛のやり取りを見ていると見ているほうも微笑ましい気分になっていた。

 

 ただ、その中で1人みんなとは少し違った感情を持っている人がいた。それは暴れる希を抱きかかえて押さえている絵里だ。

絵里「暴れないの。たまにはこういうこともないとね」

 希に耳元で囁くようにして話している絵里からは母性のようなそんな印象を覚える。いつまでも甘える子供をあやすようなそんなしゃべり方だ。

 

 絵里に抱きかかえられている望みはもう逃げ場がない状況。

希「もぅ……」

 暴れることを諦めてひとまず希のある種の暴走は収まった。安心していると見ていてわかる希と絵里の関係が今のこの場の雰囲気もゆるく優しく包み込んだ。

 

 そんな空気感のもと空也が空を外の様子を見上げていた。

空也「あ! 雪だ……」

 空也の言葉を聞いた瞬間、穂乃果を筆頭にみんなは外へ飛び出す。雪というこの季節にしか見れない、特別なものを見たから興奮してしまったみたいだ。

 

 希の家の近く二ある公園でみんなが10人で円を作るようにしてその景色に感動するように空を見上げていた。

 特別で珍しくて、神秘的で。ただの雪なのに今この瞬間に振っていることに運命を感じるようにして落ちてくる雪の結晶をみんなが手に取ろうとする。降ってきた雪は穂乃果たちの両手に吸い寄せられるように1つだけ降り落ちてくる。それと同時に穂乃果たちの頭の……心の中には言葉がストンと落ちてきた。

 

 無意識のうちかその言葉を雪の結晶が手に触れると同時に口にする。

穂乃果「想い……」

 自分の中にある言葉を出して、

 

花陽「メロディ……」

 今までで一番大切だったことを思い出して、

 

海未「予感……」

 それがいつのころから感じていたのかを再び感じ、

 

凛「不思議……」

 今でもそれがどうして今につながっているのかを考え始め、

 

真姫「未来……」

 これからの時間に胸を躍る感覚を覚えながら、

 

ことり「ときめき……」

 その感情は自分の心を中心に周りに伝わっていく。

 

にこ「空……」

 そう。それは限りなく広がっていき、

 

絵里「気持ち……」

 また同じ感情を持つ者同士で共鳴する。それは……

 

希「好き……」

 今が、ここにいるみんなが希の言うように好きだったからできたこと。

 

 そんな言葉を聞いて空也は1つの言葉が思いついた。

空也「……へぇ。じゃあ、初めて。かな」

 この曲ができるきっかけとなったもの。"初めて"の希のお願い。望み。それを自覚するためにこのワードを組み込もうと空也はそう思った。

 

 みんなの言葉が出そろうと希が空也に話しかける。

希「できそう?」

 不安そうに首をコトンとかしげているが、その不安はもう必要はなかった。

 

 空也の瞳には静かな闘志が見えた。戦うわけじゃない。でも自分自身のためにも、そして何より希のためにもやらなきゃいけない。

空也「は? 出来るできないじゃねぇよ。絶対作り上げる。それと曲のイメージはできてきたから問題ない」

 だからできないなんてことは考えない。絶対に完成させる。そう言葉にすることで空也は自分の胸に刻み込んだ。

 

 その空也の言葉の最後に気になることがあった穂乃果はそのことについて聞いてみる。

穂乃果「どんな感じの曲なの?」

 イメージができている。それならできると思うが先にどうしてもどんなイメージなのかを尋ねてみたいと思っていた。

 

 そしてそのイメージというのは……

空也「切ない片思いってところかな」

 今まで経験、好きということはどういうことなのかということを踏まえた上で出来るとそう感じたものを空也は告げる。

 

 そして何よりやる気になっているのは空也だけではない。

真姫「早く作ってよね。作曲に合うのか確認しなきゃ」

 作曲をする真姫だって同じ。そして空也の作詞ができないとその詩に合う曲にならないため今回は空也の作詞を待つことにした。

 

 真姫のその発言はさらに空也をやる気にさせる。

空也「あぁ、今日はもう遅いから帰ろうか。希、期待して待ってろよ」

 自信満々に、これからのことを考慮して答えるその姿を見れば絶対にできるという確証を得るには十分すぎる。

 

 だから希は今日一番の笑顔で、

希「うん!」

 そう答えた。もう壊れそうな笑顔ではない。最高の今を楽しんでるからできる笑顔を希はしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そこから3日後『snow halation』という曲が完成した。

 

 




ここまで読んでくれた皆さま、お疲れさまです。

いろいろあって何とか新曲が完成、次回から『心のメロディ』回が始まります。いよいよ最終予選の開始ですね。

次回『最終予選当日』

それでは、次回もお楽しみに!



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