ラブライブ!~化け物と呼ばれた少年と9人の女神の物語~ 作:そらなり
前回はシチュエーションを9通り試してみたのですが何か手ごたえはあったのでしょうか? それが分かるのは今回の話……。
それでは、今回も新しいことに挑戦しようとする11人の様子をお楽しみに!
いろいろなシチュエーションを試しているとやがて下校の時間となった。今日1日ダンスや歌の練習はできなかったが、これが新しい曲のためとなれば別に気にするほどのことでもなかった。それに、朝練で基礎トレーニングはしっかりとやっているから問題はさほどないだろう。
学校から帰宅するときに改めて今日の放課後にやったことを思い出す。
穂乃果「結局何も決まらなかったね~」
そう。いろいろなことを試してみたけど結局のところ、特に何かが決まったということではない。新曲で行くのか、既存曲で行くのかすら。
新曲、特にラブソングを作ろうということにはなっているがその制作に関してはユメノトビラを作った時よりも難解になっていた。
海未「難しいものですね……」
なんせここにいるほとんどが恋愛をまともにしていない。告白を受け入れて彼氏彼女のような関係になっている人は何人かいるがそれでも今までの生活が劇的に変わったということはなかった。
つまり、恋愛に関して自身が体験したことがないために説得力のある詩が書けないのだ。だからこそいろいろなシチュエーションを試したのだけれど、今はまだその成果が見られなかった。
今日の放課後全部をかけても進まなかったラブソングづくりを客観的に見て真姫が1つの可能性を見出す。
真姫「やっぱり、無理しないほうがいいんじゃない? 次は最終予選よ」
なかなかでない突破口。別にラブソングだけじゃないといけないわけではないという現状。そんないくつもの考えを統合した結果真姫は別にラブソングじゃなくてもいいだろうと言う考えになっていた。
その真姫の考えはμ'sのほとんどのメンバーが考えたこと。何かしら1日かけていればその日に成果が出てくるのが普通だ。どんなに小さなものだったとしても。でも今日は、今回だけはまったくもって成果が見られなかった。
海未「そうですね……。最終予選はこれまでの集大成、今までの事を精一杯やりきる。それが一番大事な気がします」
それにいろいろと変えようとして今まで何回も失敗してきた。それを考え、自分たちのままでいるという選択を取ったμ'sにとって集大成となるものは既存のほうがいいのではないか、そんな安全なことを誰しもが考える。
基本的にはそうしたほうがいいのだろう。
ことり「私もそれがいいと思う」
花陽「うん」
ことりと花陽も海未と真姫の言葉に頷く。今から1つの曲を集中して練習していけば確実に完成度は高くなる。μ'sだって成長しているのだからそれは確実に。
ただ、基本的に安全策のほうにしたほうがいいと考えている人が多いということは例外的にラブソングのほうをまだあきらめていない人が何人かいるということだ。
絵里「でも、もう少しだけ頑張ってみたい気もするわね」
そしてその人物というのが、今もう少し粘りたい旨を伝えた絵里と、作詞を担当して、プロを目指している空也の2人だった。
空也「賛成。ここで投げ出したくはない」
この下校の間に既存曲で行くことになるだろうという流れになっておきながらの今の絵里と空也の発言。
だからだろうか。他の8人が驚きをあらわにする。
絵里と空也以外『えぇ?』
なぜ頑張ってみたいと思うのか、なぜ投げ出したくないと言えるのか空也たちの口から言われないと伝わってくることのない疑問が穂乃果たちの中に芽生えた。
既存曲をやったほうが完成度は高くなるし、確実性もある。それに時間が取れるということはそれだけ練習時間に使えるということだ。
真姫「エリー、空也?」
でも、その練習時間を削ってまで新曲を作る理由があるのか? そんな考えを持っている真姫は絵里と空也がなぜそういうのかよくわかっていなかった。
勿論それは他のメンバーだって同じ。
凛「絵里ちゃんは反対なの?」
既存曲をやろうという流れを断ち切った絵里の発言。なぜそう言ったのかその理由を凛は絵里に直接聞いてみる。
新曲をまだあきらめないという選択を取った絵里はその凛の言葉に腕を組む仕草で考えるようにして言葉を返す。
絵里「反対ってわけじゃないけど、でもラブソングはやっぱり強いと思うしそのくらいないと勝てない気がするの」
ラブソング。恋のうた。アイドルに欠かせない曲であることが花陽から伝えられ、恋する想いを歌った曲。好きという気持ちを大切に歌った歌。
想いを歌に込められるのであればその曲は確かに最強を誇る歌にふさわしい。
ただ、そうなるにはメンバーが納得して感情移入がしやすい詩があって、その詩に会った音楽があってようやく成り立つ。つまりはどれでも欠けたら意味がない。
穂乃果「そうかなぁ~? 空也君は?」
だからこそ、最強になるかもしれないけど、最強になる確証はない。つまりは賭けの域を出ないのだ。だからこそ、周りの人からの疑問が出てくる。
穂乃果に理由を聞かれた空也は少しだけ目で前を歩く今日一番違和感に包まれていた少女を見ながらも自分が持っている理由を言葉にする。
空也「俺の場合は、…………。いや、えっと。ラブソングぐらいかけないとプロになれないんじゃないかなって思って」
プロを目指しているからこそ様々なジャンルの詩を書けないといけない。なら克服しないわけにはいかないだろう。そういう覚悟と自分自身が成長するためにやっていかないといけないということを考えてのものだった。
ずっと成長を続けるμ'sに置いておかれないためにも、そしてラブライブに優勝して夢をつかむためにも。
ただ、絵里の理由にはまだ続きがあったみたいだ。一番前を歩いている希のほうを見て次なる理由を告げる。
絵里「それに、希の言うことはいつもよく当たるから」
μ'sを集めたのだって、希が占って行動した結果。つまりは絵里の言うように希の占い、言うことは当たる確率のほうが高いのだ。ならラブソングを作ろうと言い出した希の言葉は正しいのではないか。そう考えるのは別に不自然ではない。
希の話を聞いて空也の想いを聞いてみんなは少しだけ頑張っていこうという気になった。
穂乃果「じゃあ、もうちょっとだけ考えてみようか」
自分たちのためにいろいろと動いてくれていた空也に少しでも恩返しができるように、詩が書けるようにするため。
新曲を作ること自体に対してはみんなは反対ではない。
海未「私は、別にかまいませんが」
みんなが既存曲で行こうとしていたのは最終予選まで時間がないということが理由だった。いつかは新曲を作らないといけないときが出てくるのであればそれが少し早くなったくらいで考えてみることに対して抵抗はない。
みんなの意見がそろった今、もう少しだけなら考える時間を取ることができる。
絵里「それじゃあ今度の日曜日、みんなで集まってアイディア出し合ってみない?」
であればまとまって時間が取れるときにやってしまおうということで次の休みの日を絵里は提案する。理由としてはこれからずっと新曲作りに時間を割くわけにはいかない。普通の練習もしておかないとだめだというのが理由だろう。
絵里の提案した時間を聞いたみんなはそれぞれ首を縦に振る。
これで時間は決まった。やることはブレることなく新曲作り。あと決まっていないのは場所だ。いつも通り穂乃果の家に集まってやるのもいいがあそこはお店であることからそう頻繁に押しかけていいものでもないだろう。
空也「それなら俺の家に来るか? 資料になりそうなもの集めとくし。希、どうだ?」
だから空也は自身の家を場所として提案した。一人暮らしでもあり、一軒家だから場所も広い。とある理由で資料も多かったりするから大勢で作業するのには最適な場所だ。
急に話を振られ前にいた希が慌てて振り返る。
希「え? あぁ、そうやね」
話自体はしっかりと聞いていたとしても急に話しかけられるとは思っていなかったみたい。
これで全員の賛成を獲得できたため次の日曜に空也の家で新曲作りをすることになった。
そのあと帰宅するために校門を出たんだけど空也は予定があるということで穂乃果たちとは別に、希と絵里の2人と同じ方向に歩いて行った。
空也と絵里、そして希が帰っている途中で先ほどの会話を思い出したのか希は2人のことを呼び留める。
希「えりち! 空也君!」
急に立ち止まったかと思えば2人の名前をそこそこ大きい声で言って、2人の足を止める。
希が立ち止まった後も少しだけ歩みを進めていたため、希のほうへと振り返る。
絵里「どうしたの?」
今まで大きな声を出すようなそぶりを見せなかったため少しだけ疑問を感じながら何があったのかを絵里が尋ねる。
空也「何かあるのか?」
そしてそれは空也も同じ。空也は首だけを希のほうに向けそのままの体勢で希の言葉を待った。
その希が話すのは先ほどの新曲に関してのこと。みんなが既存曲で行こうとしている時に反対意見を出した絵里と空也に対して何がしたかったのかを察した希が言う。
希「いくらなんでも、強引すぎやない? みんな戸惑ってたみたいやし」
確かに強引だった。空也が言ったことに関しては完全に自分勝手なわがままの範囲になることだったし、根拠としても薄い絵里の意見も通ったのはおかしいとはいかないまでも奇跡であったと言える。
でもそれは……、
絵里「いいの。私がそうしたいんだから」
自分のやりたいことを追求した結果であって、絵里も空也も何一つ後悔していなかった。
ただ、あの時に空也が言ったことが全部だったかと言われればそれは違った。
空也「それに、なんだかんだで初めてだ。お前がやりたいことを言ったのは」
初めてラブソングと言い出した時に少なくとも違和感を感じた。試してみようと言ったときにその違和感が強くなった。似たような提案を聞いてことがあったけどその時はすぐさま引き下がった希が続けて同じことを提案してきた。それだけやりたいことだったのだろう。その様子を観察して気が付いた空也がそれを叶えるために動いたわけだ。
その後、絵里は希にマトリョーシカの形のアメを渡し、
絵里「じゃあね」
駆け足で帰って行った。笑顔で嬉しそうにしながら。
さらにはここで空也までも別の道を向かう。絵里が駆け足で去っていった方向とは逆の信号のほうへと。
空也「俺も、ちょっと寄るところがあるから」
ここに来るまでの空也の口実は全くの嘘ではない。実際によるところがあったのだ。あることを報告するために。
2人に先に行かれ残された希はため息交じりにリラックスした様子で呟く。
希「全く……。おせっかいやね。2人とも」
そう、所詮は空也と絵里がしたことはおせっかいなのだ。希本人から言われたことでもなく、自分たちが勝手にやったこと。でも希自身迷惑になんて思っていなかった。それどころか少しうれしい、そう感じさせるような笑顔が顔から漏れだしていた。
希と別れた後、空也が向かったのはとある小物専門店。置物や身につけるような小物も置いてある店のドアを開けて中に入った。
空也「お邪魔しまーす」
でも、ただの客として来店したわけではなく、どこか友達の家に入るような感覚で空也はやってきた。
そしてその店にいたのはどこにでもいる普通の青年だった。だけどその人を空也は知っている。ここで買い物をしたことがあるって言うこともあるがそれよりも前に空也はこの人に会っているのだ。その人物というのがファッションショーで空也との関係が明かされた高坂桐乃の夫に他ならなかった。
京介「いらっしゃい。空也、それで今日は何の用だ?」
高坂京介。桐乃の実の兄"だった"人。今は血の繋がりはなく、義理の兄弟関係から夫婦の関係になった2人、桐乃はモデルとして活動して、夫の京介はとあるコネでこの小物店を経営していた。
ただ、空也がこの店に来た時は穂乃果たちのためにリストバンドを買った時くらいのもの。しかもそれは京介の言葉から買ってみないかということで何を売っているのかということは把握していなかった。
空也「桐乃に聞いたんだけど、アクセサリーも作ってるんだって?」
だから桐乃に教えてもらったことを聞いてどうしてもやりたいことを思いついた。だからアクセサリーを売っているのではなく"作っているのか"が重要だった。
つまり、この質問をしてくるということは何かを作ってほしいと言っていると乃と同義である。
京介「あぁ、ってことは何か作って欲しいもんでもあるのか?」
その事をすぐに察した京介は空也が何を作ってほしいのかを尋ねる。
それは空也にとってプロになるきっかけを作ってくれたμ'sに向けての感謝の想いを伝えたいという理由からだった。
空也「まぁな。とっておきの、俺からμ'sへのプレゼント」
プレゼント。誕生日とか特別な日ではないけど、送りたいとそう思ったからこそ空也は京介に何かをプレゼントしたいということを告げた。
勿論何をどんなふうに作ってほしいのかとかも詳しく。みんなが身につけられる大切なものにしたいとそういう考えをもって。
京介「…………。たく、いい考えしてるぜ。それに、お礼って意味で作らせてもらうよ」
空也に対して京介は多大なる感謝が存在していた。それは桐乃よりも多くあるということは確かだ。なぜならこの仕事ができていることすら、空也がいなければ確実にかなわなかったことなのだから。
いろいろ貸しがあるということは空也も自覚していた。勿論見返りを求めて行動したわけではない。が、そういう行動が今こうして大事な時に返ってくるのは人のことを考えて自分のしたいようにした空也が起こした結果といえる。
空也「サンキュー。じゃあ伝えたいこと伝えたし、俺は帰るよ。っとそれと、プロになれるかもしれない」
だから、京介の言葉を受け入れ、今日一番言いたかったことを告げる。なんだかんだで生徒会の一件があったため報告が遅れてしまった。
初めての活動の時に少しだけでも力を貸してくれた京介にはしっかりと会って言葉で伝えたかった空也はしっかりとそのことを告げることができた。
空也の夢をしっていた京介はプロになれるかもしれないということを聞いて目を見開いだ。
京介「そうか! やったな空也。がぜんやる気出てきたぜ。それじゃあ気を付けて帰れよ」
まるで子供のように歯を見せつけるように笑う京介。まるで自分のことかのように嬉しそうに笑った。
自分のことを京介が嬉しく思ってくれていることに感激した空也は良い笑顔で店から出ていく。
空也「あぁ、じゃあまたな」
応援されているということが伝わってきただけでも次なる励みになる。これからできないことを克服していかないといけない空也に対してこれ以上嬉しいものは今はなかった。
気分よく空也は帰宅する。ラブソングを完成させるために。
side out
希side
空也と別れた後、希はバイトのため神田明神へとやってきていた。
そして仕事をしている時に不意に出るため息。
希「はぁ……。あぁは言ったけど、今の感じだと難しいんよな……。恋、かぁ……」
頭にあるのはμ'sの今日の話。ラブソングを作りたいと言い出したのは希自身だ。どうしてもやりたいことがあった。だから作ることを提案した。だけど、みんなの様子からそれが難しいということも今日実感してしまう。
希の頭の中がラブソングでいっぱいになる。恋の1つでもしていればもしかしたら変わったのかもしれないけど、希にはその経験が全くなかった。
希「音ノ木坂にきてようやく……だからそれまではそんなにだった。これが今にきて致命的になってしまうなんて、人生分からないもんやな~」
今までで自分がやってきたこと、やれなかったことをいろいろと考えると少しだけ過去に後悔があったことを思い出す。もしもこの後悔がなかったら今がもう少しだけ変わっていたのではないかとそうも考えていた。
ただそんな希の後ろから冷静な低音ながらも落ち着くような声がかけられる。
???「そうですよ。人生何があるのかわからないんです。だから今の自分が満足することをやり続けることが大事なんですよ。希さん」
この神社に努めているのは明白である服に身をまとっていた。優し気な笑顔を浮かべて希のもとにやってくる。
彼の名前は
希「あ、藍斗さん。聞いてたんですか?」
時たまやってきて仕事が一緒になることから希とも顔見知り。だけど不定期にやってくるため来ていること自体に驚くこともあった。
ただ、盗み聞きをしたのは紛れもない事実。だから、謝りはする。
藍斗「すいません、偶然聞こえてしまったもので。でも、人生の先輩として言わせてもらえば後悔しないことが大事です。神様も、きっとやりたいことをしている人に微笑んでくれますから」
でも希が悩んでいることには明白。そんな希の力になるように、言葉を紡いでいた。この神社の神主の息子である藍斗は希にそうアドバイスをする。後悔しないことなんてないのかもしれない。いろんな選択肢があったとして、選ばなかったほうがどうなったんだろうとそういう後悔が付いてくる。
だから後悔しないなんてことはできない。でもその後悔を上書きすることができる。やりたいことをやっている人に後悔する暇なんてない。やりたいことをやっているならそれは楽しんでいる証拠。楽しさが上書きする大事なスパイスになる。
自分よりも歳を重ねて、こうして神社で生活をしているからこそ言えることが希のもとに届き、それは自然と心の中に入り込んできた。
希「後悔しない……。やりたいこと……ですか……。ありがとうございます。なんかすっきりしました」
先ほどの悩みは解消したわけではないがそれでも軽くなるには十分な言葉だった。自分のこと、自分の周りのことを考えて選択をする。
希の顔から悩みの色が薄れたことが分かった藍斗は来た時以上に優し気な笑顔になっていた。
藍斗「それならよかった。じゃあ僕はこれで」
そして、そう言って藍斗は希のもとを後にした。
そんな藍斗を見送ったあと、希は先ほどもらったアドバイスを身に染みつけようと言葉を繰り返し呟く。
希「私のやりたいこと……」
もらったアドバイスを胸に希はまた違った方向へ思考を巡らせることにした。ただそこには悩みはない。ある種の決意がそこにはあった。
それでは少しだけ場所を拝借して……。
凛、誕生日おめでとう! ようやく女の子らしさを目指すようになった君は一体どんな姿を見せてくれるのか。明るく元気で時に恥じらうその姿がこれからも見れますように。
っと誕生日メッセージはこの辺にして、今回の話から出てきました神田明神神主の息子藍斗君。一体どんなことをこの物語で起こしてくれるのでしょうか!
でもそれは今後のお楽しみです!
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次回『諦め』
それでは、次回もお楽しみに!
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