ラブライブ!~化け物と呼ばれた少年と9人の女神の物語~   作:そらなり

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どうも、そらなりです。

まずは、先週できればよかったんですけど、話の内容的に合わないと思ったので1週間の遅刻をしましたがここで失礼します。

絵里。誕生日おめでとう。今まで押さえつけていた分やりたいことができているあなたがすごく輝いていて大好きです。

とここまでにして……、

今回から『私の望み』回です。隠していた想いが告げられる。

それでは今回も新しい挑戦をするみんなを見ていってください!


ラブソング

 μ'sはラブライブの最終予選前のグループ紹介のイベントに来ていた。ステージ上にはA-RISEやμ'sをはじめとした東京地区で予備予選を突破した4つのグループがいる。五十音順にグループの説明がなされており、司会の人が最後のグループの紹介を始めた。

 それを客席から空也が見守っている。最後に紹介されるのは……μ'sなのだから。

司会「それでは、最終予選に進む最後のグループを紹介しましょう。音ノ木坂学院スクールアイドル、μ'sです! この4組の中から、ラブライブに出場する1組が決まります。では1組ずつ意気込みを聞かせてもらいましょう! まずはμ'sから」

 司会の人はハロウィンイベントの時にMCをしていた人で相変わらずのテンションのままμ'sの紹介をしていた。そして最後に紹介されたからか、意気込みを最初に聞いてくる。

 

 そのインタビューに答えるのはリーダーの穂乃果。客席には結構な人がいる中で少し声が上ずりながらも答えていく。

穂乃果「はっはい! わっ私たちはラブライブで優勝することを目標にずっと頑張ってきました。ですので! 私たちは絶対に優勝します!」

 それは今までμ'sが目指してきたこと。何の偽りもない事実で目標。

 

 ただ、この場でのその言葉の意味は少しだけ変わってくる。

司会「すっすっすごい! いきなり出ました。優勝宣言です!」

 優勝するということは、ここにいる他の3グループを倒す。そういう宣戦布告の意味に取られてしまう。

 

 だからこそ言葉を選ばないといけなかった。だけど自信満々に堂々と言葉にしてしまった穂乃果の行動に後ろにいるにこたち他のメンバーは、

にこ「バカ……」

 穂乃果に対して悪態をついたり、

 

花陽「言いきっちゃった……」

 逆におどおどしたりしていた。

 

 しかし、その中で一番力の入ってるメンバーがいた。それは……、

空也(希?)

 一番後ろにいた希だった。普段は柔らかい雰囲気をまとっている彼女が拳に力を入れやる気に満ち溢れていた。

 だけど、それがあまりにも不自然で、違和感で。確実に何かがあるということを空也は感じ取っていた。

 

 実際そうであるかのように希はステージ上で呟く。

希「ついに……、ついにここまで来たんや」

 その声は嬉しさと、喜びを多く含んでいたが、それとは違うまた別の想いも感じる。そんな声だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 イベントの時間は短く、紹介と意気込みが終わればイベント事態も終了になる。μ's意外のグループにも意気込みを聞いたためもうイベントは終わった。そして部室に戻ってくると話題は先ほどの穂乃果の言葉についてのことになった。

にこ「何堂々と優勝宣言してるのよ!」

 優勝を目指しているのは自分たちだけではない。それなのに他のグループがいるところでなおかつ観客がいるのに対してその宣言をしたということはかなり攻撃的な行動であったと言える。

 

 ただ、穂乃果がそこまで考えていったというわけではない。

穂乃果「いっいや~、勢いで……」

 あの場で何を話せばいいのかよくわからなかった穂乃果がとっさに考えたのは当然ラブライブのことについて話すということ。そこから自分たちのことを交えて話そうとすると必然的に目標である優勝についてのことしかなくなってしまう。

 

 それに、穂乃果が言ったことは間違いのない事実。この10人全員が優勝に向けて動いている。

真姫「でも、実際目指してるんだし問題ないでしょ」

 だから話したって問題はない。特に空也に関しては優勝しないと未来が遠のいてしまう。だからこそ、穂乃果があそこで宣言したのは他のグループへの宣戦布告のような意味もあるがμ'sとしても優勝しないといけないという気持ちを作り逃げ場を無くすような発言だったと言える。それは、活動を始めた時に空也が穂乃果たちに対してやったように。

 

 他にもA-RISEなどの3グループもステージ上でインタビューを受けていたためその内容は穂乃果たちも聞いていた。こんな話題になるとA-RISEの言っていたことが印象に残っている。

海未「確かに……。A-RISEも本大会に匹敵するといってましたし」

 前大会の優勝者であるA-RISE。活動を始めて半年でランキング20位以上になったμ'sにA-RISEほどではないがずっと前から安定した人気を誇っている他の2つのグループ。またランキング形式でやったのなら確実にこの4グループは選ばれるだろう。だからこそ前回大会を経験したツバサは匹敵するという表現をしたのだろう。

 

 その話を聞いて言葉の意味を考えるとあの場にいたグループの中で前回大会に出場していないのはμ'sだけだったことに気が付いた。

穂乃果「そっか。認められてるんだね、私たち」

 ということはA-RISEに認められている。そういうことになる。予備予選では同じステージでライブをして真正面からやりあった。たとえ上の存在であったとしてもμ'sにとってA-RISEはライバルのようだと思える存在になったということだ。

 

 それが自信につながることで彼女たちのモチベーションも上がる。モチベーションが上がればそれがやる気につながり良い循環ができる。それに乗っかるように絵里が手をたたき注目を向けさせる。

絵里「それじゃあこれから、最終予選で歌う曲を決めましょう。歌える曲は一曲だから 慎重に決めたいところね」

 そして話し合うのは今後のこと。今は12月初めの時期で最終予選が始まるのは約3週間後。そのためにどういう歌を歌うのかを決めなくてはならない。

 

 そしてそれは……

花陽「勝つために……」

 花陽が言うように1番になるための選曲をしないといけない。チャンスは一度しかないそれをつかめるように10人全員で話し合わなければならない。

 

 曲にだっていろいろある。アップテンポな曲を歌うかローテンポな曲を歌うのかということもどうだし、既存曲にするかそれとも……

にこ「私は新曲がいいと思うわ」

 にこの言うように今まで出していないまったく新しい曲を出すのもいいかもしれない。

 

 新曲と聞くだけで穂乃果たちのテンションは上がる。

穂乃果「おぉ~! 新曲!」

 今まで歌ってきた曲を歌うのもいいのだが、新曲となればまだうたったことのないメロディーや想いを取り込むことができることから新しいおもちゃを買ってもらえそうな子供のようにはしゃいでいる。

 

 勿論それは穂乃果だけではない。

凛「面白そうにゃ!」

 同じような思考回路を持っている凛も、にこの出した新曲案に賛成する。基本的におもしろそうという単純な理由で成り立っている。

 

 ただ、今までの傾向を見るとあるものが見えてくる気がした海未も新曲案に賛成だということを表現する。

海未「予選は新曲のみとされていましたから、そのほうが有利かもしれません」

 そう、予備予選はふるい落としの意味も込めて新曲のみの参加にしてた。短期間で新曲を作るということで見えない点数がもらえる可能性があるのかもしれない。だからこそ新曲が有利なのではないかという推測を海未はしたようだ。

 

 でもそれが本当かどうかはわからない。

花陽「でも、そんな理由で歌う曲を決めるのは……」

 勝つために考えるのだから今は、面白そうという考えよりも自信をもって表現できるものを出したほうがいいとそう考える花陽。

 確かに今までやってきた曲ならより良いパフォーマンスをすることができるかもしれない。予備予選から少し時間がたって新しい曲が2曲追加された中で一番自信をもって出せるものを出したほうが最善であるとそういうことを言いたいのだろう。

 

 それに、海未の言ったことが正しいという確証はない。

真姫「新曲が有利っていうのも、本当かどうかわからないじゃない」

 ただ、ふるい落としのためだけにやったことで見えない点数なんてない。知っている曲を聴いたほうが周りの人も反応してくれる可能性が高い。そう考えて真姫は新曲案に反対する。

 

 そしてそれとは別に過去にやったことを踏まえてことりも新曲案に反対な雰囲気を出していた。

ことり「それに。この前やったみたいに、無理に新しくしようとするのも……」

 確かに、インパクトを求めた結果自分たちのままのほうがいいという結論に至りそれが正解だということを知った。

 であればこのままで自分たちのままで最終予選に出場するほうがいいのではないかとそういう考えのようだ。

 

 でも、新曲というフレーズを聞いた希は1つだけアイディアがあったみたいで深く瞳を閉じた後に意を決してそのアイディアを口外する。

希「たとえばだけど、このメンバーでラブソングを歌ってみたらどうやろうか?」

 そう言っている希の目は普段よりも目じりが落ちていて、何かを包み込むような優しい瞳だった。でもそれが必死になって何かを離さないようにしているようにも感じられる。

 

 ただ、それに気が付くのは希の言ったことに驚かなかった人だけ。

希以外『ラブソング!?』

 急な提案で、それも今までにない曲のジャンルを言い出した希の言葉にみんなが驚く。1人の例外もなく。

 

 でも次の瞬間に、雰囲気が変わった花陽が興奮気味に希の言葉を聞いて反応をする。

花陽「なるほど! アイドルにおいて恋の歌……すなわち、ラブソングは必要不可欠。定番曲のうちに必ず入ってくる歌の一つなのにそれが今までμ'sには存在してなかった!」

 それは先ほどまで新曲のアイディアに反対していた花陽だけど、アイドルの曲の定番とまで言える曲ジャンルだったためアイドル好きとしての顔を出さざるを得なかったようだ。

 確かに、アイドルの曲でラブソングはかなりの数聞く。恋を応援するような歌、切なげな歌。そして幸せそうな歌。ラブソングにも数々のパターンがある中μ'sにはそのどれもないという現状を理解しながら花陽は言葉をつづけた。

 

 意外な提案。それも意外な人の意外なジャンル。意外が重なるとどうしてもそこには違和感というものが芽生えてくる。

絵里「希……?」

 それがたとえ先ほどの希の瞳に気が付いていなくても。そして長い時間を一緒にした人であればあるほど。だからこそ絵里は希の何かがおかしいとそう感じていたのだ。

 

 ただ、他の人は気が付かないしむしろ希の出したジャンルがなぜなかったのかそれについての話題になっていく。

穂乃果「でも、どうして今までラブソングがなかったんだろう?」

 穂乃果の純粋な疑問が出てくる。なぜないのか。それはμ'sの曲を作詞している人が強く関係している。

 

 何気ない穂乃果のつぶやきに一番ダメージを受けた空也が背後から穂乃果に対して語りかける。

空也「悪かったな。ラブソングをかけなくて」

 μ'sの曲は空也が作詞をしている。じゃあなぜ書かなかったのか。……いや、空也の言葉を借りるならなぜ書けなかったのかそれが一番の理由のようだ。

 

 空也の言葉の意味を察した希は左手で自分の唇を押さえながらたどり着いた答えを口にする。

希「もしかして空也君、恋愛経験なかった?」

 その目は少し人を馬鹿にしたかのようにおちょくりながらおもしろそうだと思っているのが見てすぐにわかるような口調で。

 

 そんな希のほうをジトッと見つめ返す空也は少しの間沈黙していたが次の瞬間に、

空也「…………あぁ、ないよ。悪いか!?」

 希の答えが正しいということを明かす。自分は恋愛経験が一切ないとアピールするかのように普段とは異なるテンションで大きい声を上げて。

 

 そんな空也の言葉でラブソングが作れるかどうかがある程度決まった。

真姫「にしても、今から新曲は無理ね」

 作詞をしている人が恋愛経験がないのではラブソングの詩を書くことなんてまずできない。経験していることだけを書いているわけではないにしろ、ラブソングに関しては人を好きになったことがなければ書くことはできないのだから。

 

 でも、そんな真姫の言葉に反論する人がいた。

絵里「でも、諦めるのはまだ早いんじゃない?」

 それは絵里。希の様子に疑問を持っていた絵里がようやく口を開く。そしてそれは希の意見に賛成する言葉だった。

 

 希同様に何の脈絡もなく賛成してくる絵里の様子に今度は真姫が疑問に思い始める。

真姫「エリー?」

 なぜそういう考えに至ったのかわからなくなっている真姫は言い出した絵里のほうを見て首をかしげている。

 

 ただ、絵里の言っていることは間違っていない。時間は少ないかもしれないけど何もしないで諦めるのはまだ早い。

希「そうやね。曲作りで大事なんは、イメージや想像力なんやろうし」

 それに作詞だけに関わらず、創作活動全般において一番大事なのはイメージができるかどうか。それさえできれば何とかなる可能性が高い。だからこそ自分が体験したり、人からの実体験を聞けば何とか形にはなるだろう。

 

 そう言った話になった瞬間に空也の頭の中に1人の人物が浮かび上がってきた。それは……、

空也「まぁ、そうだけど。…………。こうなったら小恋にでも聞くか……」

 義之にずっと恋をしていた女性。月島小恋に今回のラブソング作成に手伝ってもらおうと考えた。

 

 ただ、希の言っていたイメージ、想像力をどうやって手に入れるか。

穂乃果「でもラブソングって要するに恋愛でしょ? どうする?」

 ことラブソングは穂乃果の言うようテーマを恋愛にした曲。一度も経験したことのないという空也にどういう風にイメージさせればいいのか穂乃果にはわからなかった。

 

 でもそこは提案した希が考えありのようだった。

希「そうやね……。例えば……」

 希の提案で空也との恋愛のシチュエーションはいくつか試すことになった。もうすぐクリスマスであることからプレゼントを渡すというシチュエーションと共に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

パート1

 

 最初にシチュエーションの相手に選ばれたのは花陽だった。……絵里と凛、それとにこの場合ちょっとだけ面倒なことになりそうだと思うのだが、きっと大丈夫だろう。うん、大丈夫であってほしい。

花陽「あっと……、えっと……。受け取ってください!」

 話は戻して階段側から急に出てきた花陽が空也に向けて赤い箱を渡す。自信がないようで目がきょろきょろと泳ぎながらだが、最後は目を思いっきりつぶって勢いだけで何とか渡すことができた。

 

 それを受け取った空也は頑張って渡してくれた花陽に向けて笑顔で言葉を返す。

空也「あ、あぁ。ありがとう。花陽、うれしいよ」

 流石に始まったばかりでいったいどうやればいいのか空也自身何もわかっていないため探り探りの演技だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 これでシチュエーション自体は終わり。今回はプレゼントを渡すだけという単純なものでやるということだったのだが……、

希「お! いい感じやん」

 明らかに楽しんでいるであろうカメラを持った希が言う。確かに、いまのは花陽らしさが出ていたものであったと言えるがそれと同時に奥手な少女の参考にしかならないともいえる。

 

 正直このパターンだけだと少なすぎてイメージできるのかどうかわからない。

海未「これでイメージが湧くんですか?」

 だからこそ出てくる疑問。これをやれば作詞にいい影響が与えられるのか。簡単に言えばそういう疑念のようなもの。

 

 でも、そんな海未の問いかけに望みは自信満々に答える。

希「そうや。こういう時とっさに出てくる言葉って、結構重要よ」

 確かに、人がとっさに言い放つその言葉にはその人の心からの感情がこもっている。だからこそ、言葉は人の心を動かすことができるのだ。

 

 ただ……問題があるとするのなら告白される側の人が空也であるということだ。

空也「なんで俺が告白される役なんだよ」

 アイドル研究部の中の唯一の男子生徒である子を考えたとしても、別にカメラに向けてプレゼントを渡す。それだけでも構わないはず。それなのに、空也が告白される側のポジションに立たされていた。

 

 勿論それにも理由がある。何事も体験してみることが大事だ。だからこそ、告白を体験していれば自分の体で覚えることができるし、

希「そっちのほうが緊張感も出るし、描くのは空也君なんだから体感しなくちゃやろ」

 告白する側の人も異性である空也の前で告白の行動をするとなればかなりの緊張感で行うことができるだろう。そうすればきっとより感情を込めた言葉が出せるはずだという考えのようだ。

 

 希の言ったように緊張感を与えることができるのだが、持っているそれは必要なのかと穂乃果が疑問に思う。

穂乃果「でも、なんでカメラが必要なの?」

 ずっとカメラを構え花陽と空也の姿をとっていた希。頑張って空也の方ほどの高さからとっているので空也の顔は写っていないがしっかりとそこにいるというのが分かるアングルになっていた。

 

 なぜそこまで力を入れて撮影しているのか。それは希にしかわからないが、表情を見る限り100%真剣に打ち込んでいるわけではないということが分かる。……ニヤニヤしながらカメラ回しているからね。

希「それは記録に残しておけば別のところにも気づけるかもしれへんし、後で楽しむためや」

 だが、希の言っていることが間違っているわけではない。体験したときに気が付かなかったことを映像と通して第三者視点から見ることで気づけることもできるということだって確かにある。

 

 でも、理由を話している時に面白がって言っているのが伝わってきたため話していた12つの理由のうちどっちが強い希の考えなのかが分かってくる。

にこ「明らかに後者が本音ね」

 そう。明らかに楽しむためにカメラを回している。……これはμ'sと空也の黒歴史が生まれるのではないかと、そういう考えがみんなの脳裏をよぎる。こと空也に関しては殺されるのでは? という物騒ながらも本当にありそうなことを考えながら。

 

 バレてしまった希はその会話を濁し次なるターゲットに狙いを定めた。

希「まぁまぁ。じゃあ次、真姫ちゃん行ってみよう!」

 希の目線の先にいたのは興味なさそうにして髪をくるくるといじっている真姫に話しかける。

 急に名前を挙げられたことに驚いた真姫は反論をいくつか並べているが希の言葉に言いくるめられて結局は真姫の番になった。

 

 シチュエーションが変われば適切な場所も変わってくる。花陽の場合は階段の前だったが真姫の場合は外でやるということになった。なぜそうなったのかは希の提案だったため希にしかわからない。

 

 その最中に、最近違和感を覚える希の行動をいくつか見てきた空也はみんなには聞かれないように希に話しかける。

空也「希、最近の様子がいつも通りじゃないことと今回のは関係あるのか?」

 絶対に何かがあるということはわかっている。でも、最近のことと今日のことが繋がっているという確証はない。だからこそ希に答えを任せる。それは本当だったとしても、嘘だとしても。

 

 きっと空也が違和感に気が付いていることは希自身も知っている。

希「……ん? 何のこと?」

 だけど……だからこそ気が付いていないフリをしてしまう。今までずっとそうだったように今回も……。

 

 今日まで希は自分のことを多く語ろうとしなかった。それに自分の意見もあまり言わない。行動で示すことが多かった。きっと今回もそういうことをしようとしているのだろう。

空也「…………。そうか、後悔はするなよ」

 何かを隠していることはもはや明確。語りたくないことを語らせるのは意味がない。なら状況から察して今できるのはこの状況での最善の言葉をかけるくらいだ。

 

 言葉というのは軽いものなのだろう。誰もが使えて、どんなに意味のない言葉も発せられる。でも、想いのこもった言葉には行動に見合うだけの重みがある。

 だからこそ空也の心からの想いを希に伝える。自分の行動で後悔することはひどくつらいことであることは空也自身が知っているから。

 

 だからそんな言葉を残し空也は足早に外へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 外にはもうすでに全員が集合していた。一番最後に来たのはカメラを持つ希。その希に指名された真姫は準備万端……なわけではないけどいつでもやろうと思えばできるという状況だった。

 

 時間も回数を重ねるのにはもったいないくらいなので早速シチュエーションをしてみることになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

パート2

 

 中庭の大きな木の前に連れてこられたと思ったら真姫が空也にきれいにラッピングされた箱を渡してくる。

真姫「はい。これ」

 短く、特に言葉を飾らずにそっぽを向きながらあたかも興味はないのだと態度で伝えようとしているようだった。

 

 ただ、なぜ渡されたのか理由も経緯もわかっていない。

空也「……これは?」

 だからこそ空也は真姫に対して抱いた疑問を聞いてみる。

 

 しかし返ってきたのはプレゼントを強く押し出される手と、

真姫「いいから受け取りなさいよ!」

 早く受け取れという言葉だった。でもそう言っている真姫の頬はほんの少し上気してどこか居心地が悪そうにも見て取れた。

 

 そんな状況で何が一番真姫のためになるのか。そんなのは簡単だ。

空也「まぁ、くれるならうれしいよ。ありがとう」

 経緯も理由も今は置いておいてとにかく意地でも渡してくる真姫のプレゼントを受け取る。それがベストな行動だから。

 そして感謝の言葉も忘れない。わざわざ渡す手間をかけてくれたのに無言で受け取るなんてことは常識知らずにもほどがある。

 

 でも、その感謝の言葉を聞いた真姫は頬だけでなく顔全体が赤くなり、勢いよくそっぽを向いた。

真姫「べっ別にあなただけにあげたわけじゃないんだからね。勘違いしないでよね」

 言葉が詰まり、早口になる。明らかに完全な本音ではないことを物語っている。ということは恥ずかしさからつい誤魔化すために言い放った言葉であることが推測することができる。

 

 そう考えれば真姫の言葉自体が反対の言葉であるということはなんとなく予想が付く。だからこそ、言葉では感謝を望んでいないように聞こえても感謝の言葉を口にする。

空也「あぁ、でも真姫からもらったってことだけでもうれしいよ」

 まぁ、普段真姫からプレゼントをされるなんて機械はそうそうないし貴重な経験をできるといった点でも空也にとって多少なりとプラスになるものがある。

 さっきの花陽とは違うタイプの恋愛パターンを見ればまた違った方向の詩が書ける可能性が出てくるから。

 

 そしてそんな空也の言葉で今回のシチュエーションは終わりを迎える。

希「おぉ~」

 真姫と空也のやり取りを見ていたほかのメンバーは真姫に対して驚きの声を上げる。それはなぜか……

 

 西木野真姫という人物を知ってその性格を考慮したうえでのやり取りだったこと。それがよりリアルに感じることができて、なおかつ実際に体験しづらい王道のツンデレを体験することができた、そしてそれを見ることができたことに対してだった。

花陽「パーフェクトです! 完璧です」

 その中でも花陽と凛の2人は他よりも大きな反応を示していた。花陽はアイドルのキャラとしてよく見てきたため。

 

 そして凛はよく読む少女漫画に出てくるヒロインの性格としてよく見たことがあったからだった。

凛「漫画で見たことあるにゃー」

 確かに現実ではなかなかお目にかかれない性格の彼女だ。しかも、漫画やゲームに出てくるような感じ通りに出てくる言葉を合わせるとかなり再現されている素である。

 

 周りの評価はかなり高いのだが、真姫のほほはまだ赤みを残しており、先ほどの空也の言葉を聞いたときとほとんど変わっていなかった。

真姫「どう? これで満足?」

 それでも言葉発して平静を保とうと真姫は頑張っていた。

 

 そしてその相方であった空也は普段はあまりしないようなことを続けて2回もしていることもあって疲れがだんだんと外に出てきた。

空也「はぁ、なんか疲れるわ……」

 それもそのはず。花陽や真姫に関しては素でやっていたためどう動こうとかをそんなに考えなくてもよかったのだが、空也に関しては相手が動きやすいように行動を選択して役を演じているのだから。演じること自体はうまくても慣れていなければ疲れはやっぱり出てくる。

 

 ただ、真姫の反応を見ていたにこはどこか気に入らなかった様子で意地になっていた。

にこ「フン! なに調子にのってんの」

 腕を組みながら真姫から顔を背けて言い放つその言葉。真姫が調子にのっているようだ。空也としてはその表現はあまり聞きたいものではないのだが、それでも今はとにかく新曲の詩を書くことを優先する。

 

 でも別段、真姫は先ほどのやり取りに関して調子に乗っているつもりは毛頭なかった。

真姫「別にのってなんかはいないわよ!」

 なぜならあれが真姫の完全な素だったから。空也にやりやすいように誘導されたからといって口から出てきた言葉は真姫が自分の意志で言ったものだし、普段と変わらない態度でやっていた。

 

 ではなぜ偉そうに見えるのか。それは……、

希「じゃあにこっちもやってみる?」

 にこがまだ今回のようなシチュエーションを体験していなかったからだ。であれば話は早い。にこ自身が自ら体験すればいい。だから希はそのことを提案する。

 

 勿論それを断る理由はない。……ないはずである。

にこ「全く、しょうがないわね~」

 しかも本人はかなり乗り気。宗平といい感じになっていたと思ったのだが……。

 

 でもそんなことは関係ないということなのか場所は飼育小屋の中でやるということだった。……告白は基本人に見られないところでするものだというにこの考えから選ばれた場所なんだけど……なぜ飼育小屋の中でなのだろうか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

パート3

 

 飼育小屋の中に入るとそこには動物がいなかった。このシチュエーションのために飼育委員である花陽がスペースを確保したのだという。

 そして入って早々ににこは自分の結んでいた髪のリボンをほどく。普段はツインテールをしている彼女が髪を下した瞬間に空也の記憶によみがえったのは初めて取材を経験したときににこがやろうとしていたことだった。

空也「どうしたんだ?」

 だからだろうか。空也は突然のにこの行動にいともたやすくついていくことができた。確実ににこ自身が演技の中に入っていることを知ったから。

 

 アイドルではない、恋する少女を演じているにこと、流れをスムーズにしようと考えて演技をしている空也のやり取りがここで始まった。

にこ「どうしたかって、わからないの?」

 空也に背中を向けているため表情まではわからないけど確実に目が潤いに満ちていることは声で伝わってきた。

 

 きっと以前に髪を下すことに関してのやり取りをやったという設定の下にこは演技をしているのだろう。でも、その内容を空也が知っているわけではない。

空也「ごめん……」

 だからこそ探りを入れるために一言謝り、いったいどんなことがあったのかにこの口から引き出そうとする。

 

 そういう考えをしていたからだろうか。空也は謝りながらも顔を完全に下に向けていなかった。少しでもにこのことを見てどういう行動をとるのかを観察していた。

にこ「きゃ……、恥ずかしいから見ないで……」

 しかし、そんな行動さえもにこに利用される。やろうとしていたことは違ったとしてもやっていること自体はにこのことを見つめていることに変わりはない。

 

 これで分かったことが1つだけあった。それは演技という分野の中でにこと空也ではにこのほうが1枚上手であるということ。普段から慣れているのか、行動を観察しすぐさまその行動を自分の演技の中に組み込んでいく。それができるにこ相手では空也は真正面から太刀打ちできるわけがなかった。

空也「それより教えてくれ、にこは何が言いたいんだ?」

 でも、それを知れたのならやることは1つ。話が脱線しないように真っ直ぐゴールに向かうことくらい。だから空也は直接言葉で投げかける。いったいにこが何をしたいのかということを。

 

 その空也の言葉を聞いたにこは大きく深呼吸をした後、

にこ「しょうがないわね~。ちょっとだけよ? 髪、結んでないほうが好きだって前いってたでしょ?」

 向けていた背を回転させて空也のほうを向き、普段いうような自信満々な『しょうがないわね~』ではなく、優しく年下に対して向けるであろうやさしい視線と共に優しい声で話をつける。

 そしてようやくここでにこの中の設定が空也の中に入ってくる。

 

 これでなら記憶違いでという展開で行くよりも認めて次に進んだほうが話のゴールの近道になる。

空也「そうだけど……」

 だから空也は完全に身に覚えのないことも受け入れ、話を合わせる。髪を下したにこの姿のほうが好きというわけではないが、普段結んでいる人が髪を解いたときにできるギャップに関しては空也も少しドキッとしたこともあってそれなりにリアルな様子で言葉に出せたと思う。

 

 空也の言葉を聞いたにこは立っていた場所から少しずつ空也に向けて歩き始める。その際に胸についたリボンをほどきながら。

にこ「だからあげる。にこにーからスペシャルハッピーなラブリ……」

 確実にお色気成分を入れようとしているのが目に見えている今回のシチュエーション。真姫と花陽に比べるとどちらとも演技をしていたこともあってかなり長引いていた。

 

 そのせいか、希の構えているカメラに1つの動きがあった。

希「あ! バッテリー切れた」

 カメラのバッテリーが切れてカメラ自体が落ちてしまったのだ。

 

 いよいよ最後まで行けるという場面での出来事ににこは素に戻って反応する。

にこ「なんでよ!?」

 あとほんの少しだった。そうすれば何事もなく終わったはずで……。完全に悪意があるタイミングになったのかもしれない。どこかでだれかの想いがここで伝わって、という感じで。

 

 でも、このタイミングで終わってくれたことは空也にとって助かるものでもあった。普段相手にしている花陽と真姫を相手にしている時はいろいろ予測して動くこともできたのだがにこに関しては全く何も知らない状態からだったためかさっきよりも疲労感が強かった。

空也「あ~ぁ、しんどい……」

 膝に手をつき方で息をしている空也。雰囲気も何かと緊張した様子だったためかなり脱力している。

 

 その間に、希は持ってきていた予備のバッテリーと交換してもう一度カメラを構えていた。

希「はい。バッテリー変えたし、次誰行こうか?」

 にこのシチュエーションはもう終わりに近かったこともあり、にこのモチベーションが低下したため次の人の番となる。

 

 今回は誰が次にやるかが決まっていないため完全な立候補制。一番最初に手を挙げたのは、

ことり「じゃあことりが行くよ?」

 空也の幼馴染であることりだった。手を挙げた瞬間目線が他の幼馴染の1人に流れていた気がするがそれも一瞬のことで目線を届けられた本人しかわかっていない。

 そのあとに立候補者が出ることもなく次はことりの番になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後残り全員のシチュエーションを行いかえることになった。ことりは保健室でけがの治療をしながら、凛は運動場で一緒にランニングを終えた後に、海未は弓道場に呼び出しやってきた空也にプレゼントを渡すというやり方で。

 絵里は生徒会室の椅子に座りながら会長としてプレゼントを渡す。希は校門前で幻想的に空也が下校する時を待ってやってきたところにプレゼントを渡すという方法でやっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 結局9人全員のパターンになる運びになって最後の最後に穂乃果とのやり取りになった。

 

 場所は体育館前の廊下。

 

穂乃果「空也君、今日はあげたいものがあるんだ。受け取ってもらえる?」

 

空也「あぁ、でもそれはどこに……?」

 

穂乃果「…………」

 

 穂乃果は目を潤ませながら空也のほうを見つめている。その頬はわずかに上気し薄いピンク色に染まっていた。

 ゆっくりと目を閉じる穂乃果。そしてわずかに顔が上に傾き何かを待っているかのようなそんな雰囲気を醸し出していた。この状況はさっき体験したにこのパターンとよく似ている。ただ、言葉として表現するのではなく、行動で表すだけの違い。

 

 キス。きっとこの状況で待っているのはそれだけだろう。きっとそれは誰もが想像することで空也も同様にそう考えていた。そして、見ているほかのメンバーも頬を赤らめながら空也と穂乃果のやり取りを見ていた。

 

 でも、次の瞬間穂乃果の行動の意図を考えていた空也の答えを打ち砕くかのように穂乃果は再び目を開く。

 その穂乃果の行動に空也の目が丸くなり、何が何だか分からなくなる。キスするつもりはなかったのだが、この状況で穂乃果が何をしたいのか、本格的にわからなくなってきた。

 

 穂乃果は少しだけ空也の方向に飛び跳ねて前に進む。その距離はほんの少しでそんなに距離としては変わっていない。だけど穂乃果が前のめりになっているからか2人の距離感は実の距離よりも近く感じてしまう。

 空也の目線は先ほどのキスだと思われた行動で顔に集中している。でも空也の目には穂乃果の顔が写ってはいなかったのだ。それはなぜか……穂乃果と空也の間の空間には赤いハート型のプレゼントが割り込んでいたからに過ぎない。

 

 そのプレゼントを顔から避けて穂乃果は再び口を開いた。

 

穂乃果「穂乃果からのプレゼント! はい!」

 

 片目を閉じながら小悪魔っぽい笑みを浮かべる穂乃果がそう言ってきた。どこまでもいたずら的で楽しそうにしながら。

 

空也「あ、あぁ……。ありがとう」

 

 普段は太陽のような笑顔をする穂乃果だけど、してやったり顔の普段とは違う穂乃果に見とれていた空也が生返事で答える。それは今まで告白される役として演じてきたものではなく完全な素の空也として。

 

 こうしてプレゼントを渡して恋愛を体験してみるという希の作戦は最後までやり切った。……手応えは。

 

 




えっと……前回作った詩に関してはまだ打ち明けないみたいです。きっと時期が来たらみんなに伝えてどういう曲をつけるのかが決まることでしょう。

そして始まった希回。今まで自分からアイディアを出すことをあまりしてこなかった彼女がこれからどうなっていくのかおたのしみに!

新しくお気に入り登録をしてくださった柊 琴葉 (風宮 優香)さん、suraimさん、しんぱっちさんありがとうございます!

次回『分裂』

それでは、次回もお楽しみに!



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