ラブライブ!~化け物と呼ばれた少年と9人の女神の物語~   作:そらなり

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どうも、そらなりです!

今回の話は以前からずっと書きたいと思っていた話です。なぜ空也が化け物と呼ばれるようになってしまったのか。それは空也の口から語られましたが、ことの詳細は今まで隠され続けていました。それが今、明らかになります。

過去があるから今がある。さぁ、始めましょう!
空也が魔法使いとして、ひとりの人間として成長する物語を!


もうひとりじゃないよ

 あれは、中学1年生の半ばの出来事だった……。

 

 俺、こと時坂空也の耳にある話が聞こえてきたんだ。それは……

 

???「高坂って馬鹿だし、数人でかかれば簡単に堕ちるんじゃね?」

 

???2「そこから南と園田も呼び出せばきっと簡単だぜ」

 

 同じクラスの男子が俺の幼馴染に対して不愉快な話が聞こえてきた。

 

???3「でもさ。いつもあの3人と一緒にいる時坂ってやつ邪魔じゃね?」

 

???4「確かに……。あいつ勉強もできて運動も完璧とか調子乗ってるし、俺らでしめる? さすがに人数がいれば楽勝でしょ」

 

???5「そうだな。それに高坂達の話を出せばきっと簡単に来てくれるぜ。あいつ、余程大切に思っているみたいだしな。高坂達のことを」

 

 聞こえていないとでも思っているのだろうか? 教室でそんな話をこそこそとしている男連中にイラつきを覚えた。でも、最初に動いたら確実に相手のペースになるだろう。それに例え大人数でかかってきたとしてもあいつ等の運動能力なんて大したことはない。きっと大丈夫。

 ……でも、このことは穂乃果たちには教えないでおこう。怖がらせるだけだ。それに何も被害が起こらないように俺が動けばきっとどうにかできる。

 

 そう思っていたことが間違いだった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 いくら何でもすぐには動かないだろう。そう推測していた俺はとりあえず来た時にどう対処するのかだけを机に突っ伏しながら考えていた。

 

 アイツらはすぐに行動を起こす。その最初が俺に話しかけるところから始まった。

 

???「なぁ、時坂。ちょっとついてきてほしいところがあるんだけど、一緒に来てくれるよな?」

 

 先ほどの話題を最初に出した大将勝手が俺に話しかけてくる。

 

 何も知らないとでも思っているのだろうか? 大きい声ではないにしろ、教室内で堂々と話していたことに俺が気が付かないわけがない。それも、穂乃果たちの名前の出されたことに。

 

空也「何の用だ? ここじゃダメなのか?」

 

 でも、気が付いていないふりをすればきっと相手は騙される。そう思った俺は話しかけてきた4人に言葉をかけた。

 

勝手「ここじゃちょっとな。恥ずかしいって言うか……」

 

 思春期にありがちな理由を並べてどうにか俺を連れ出そうとしてくる。今回はその作戦に乗らせてもらう形で俺は答えを出した。

 

空也「まぁ、良いぜ。どこに行けばいいんだ?」

 

勝手「それはついてきてくれれば分かる。大丈夫、すぐに終わる」

 

空也「ふーん。わかった。じゃあ連れてけよ」

 

 大将勝手が歩き出すと残りの3人が俺の後ろに回り基本的に逃げられないように逃げ道を無くす。でも、さっきから何か違和感を感じる。それと同時に胸騒ぎも……。

 その正体がわからないから今はその考えを捨ててこれからどうするかだけを考える。相手は4人。武道を心得ているなんてことは全く聞かないし、体育の成績だってよくて中間にいるような奴らだ。しっかりと動ければきっと大丈夫。

 

 そんなことを考えているうちにどうやら目的地に着いたみたいだ。体育館の近くにある倉庫の前に。

 確かにここなら倉庫に目的がない限り人は立ち寄らないだろう。それに今は放課後の半ばの時間帯。体育倉庫に近寄る人はそんなにいないのが大将勝手たちにとっては好都合の場所だった。

 たった数分でここまで考えられるのは確かにすごい。こんなことじゃなかったのなら素直に評価できるはずだった。

 ……でも、穂乃果たちを傷つけようとしている今、そんなことを考えている暇はない。相手が行動を起こしてから対応しないといけないからより素早く動かないといけなかった。

 

勝手「ここに呼び出した理由はな……。お前にこれから高坂達と関わらないように言おうと思ったからだ」

 

空也「はぁ? 何を急に言い出してんだよ。なんでそんなことをお前たちに言われないといけないんだ?」

 

勝手「はぁ……。これだから無能は困る。お前さ、成績がいいからって調子乗ってんだろ。だから周りが見えてないんだよ」

 

空也「そうだな。質問の答えになってないことを自信満々に答えるお前よりは成績がいい自信がある。周りを見る前に自分の実力を見たらどうだ?」

 

勝手「だから、お前に消えてもらおうと思ってな。これを見ろ」

 

 そう言って大将勝手は俺に携帯の画面を見せてくる。そこには体育倉庫の中にいるであろう穂乃果の姿。口にはガムテープが巻かれ、手足をビニール紐で拘束されている穂乃果の姿がそこにはあった。

 

 それを見た瞬間、俺は目の前の体育倉庫に走り出す。そこに穂乃果がいる。しかも閉じ込められ、拘束されて。我慢ができなかった。でも、最初にやるべきは穂乃果を助けだすこと。それが最優先だった。

 

 俺は大将勝手たちに背を向けて走り始める。体育倉庫に向かうため必死に。

 

 それがいけなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

勝手「作戦通りだ。くたばれ時坂!!」

 

 ドスッと鈍い音が鳴り響くと同時に背中に激しい痛みが襲う。振り向いてあいつらのほうを向いてみるとそこには……

 

 木製のバットを握りしめた大将勝手の姿と俺に向けて走り始めている3人の姿があった。急な背中の痛みで地面に膝をついてしまった俺のもとに3人は駆け寄り、1人は俺の右腕を、1人は左腕を、そして最後に1人は空也の首を押さえていた。

 

 ほとんど宙づり状態の俺に大将勝手がゆっくり歩み寄ってくる。

 

勝手「どうだ? 痛いか? 悔しいか? 目の前に大事な幼馴染が閉じ込められているのを知って何もできない自分が。所詮お前はその程度の人間なんだよ!!」

 

 そう言いながら俺の腹をバットでスイングする大将勝手。

 

 痛い……。身動きが取れない……。あいつの言うようにすごく悔しい。何もできない自分が……。

 

勝手「これで、高坂達は俺たちもんだ。さて……どんなことをしてあげようか。痛めつけて泣き叫ぶ様子。服を全部脱がせてしくしく泣き様子に、死んだお前を目の前に突き出したらどんな反応をするんだろうな!!」

 

 こいつは、なんて言った? 穂乃果たちを傷つけると言ったのか……? あいつらを不幸にするってそういったのか……?

 

 許さない。絶対に許さない……!! 穂乃果は……穂乃果たちは絶対に俺が助ける!!

 

空也「そんなことさせるか……。お前の貧弱な計画なんてここで終わりだ……。まだ黙っておいてやる。やめるなら今のうちだぞ」

 

勝手「はぁ~? お前、今自分が立たされている状況分かってる? これからどうにかしようなんて出来るわけないだろ。夢見すぎ」

 

空也「そうか……。それがお前たちの答えか……」

 

 俺はキレていた、怒っていた。だけど冷静を装って何とかしようと思って行動し、あっけなく打ち破られた。

 

空也「ふっざけんな!!!!! お前たちには絶対にあいつらを好き勝手させるもんか!!!!! ハァァァァァ!!!!!」

 

 力を振り絞って3人の拘束を振り払おうとする。首を押さえられているため下手をすれば死ぬ可能性だってあるのにそんなのも構わずに。

 

 刹那、俺を中心に周りに風の渦のようなものができていた。それは次第に大きくなり、拘束していた3人を吹き飛ばし、それでもなお強くなる風に大将勝手までもが飛ばされていった。

 

 もちろん俺は何も触ってない。なのに吹っ飛んでいった。自分でも何が何だかわからない。なぜこんなことになったのかということも何が起こったのかということも。

 

 でも、これで形勢逆転だ。これであとは何とかなる。自分の身が自由になったことを確認した俺はゆっくりと大将勝手たちのもとに歩み寄る。

 

 さっきの影響からなのか俺を見る目に恐怖が入り混じっている気もするがそんなことは気にしない。

 

空也「穂乃果たちに手を出そうとしたんだ。この後どうなるのか、覚悟はできてるよな?」

 

 もう許すことなんて出来ない。大切な幼馴染を汚そうとした。そしてその行動はもう始めている。すでに弁明の余地はない。この場で二度と手を出さないように痛めつけるしかない。

 

 ……もしも、さっきのが偶然じゃないならもう一度力を貸してほしい。

 

 俺は怯えている大将たちに手をかざす。そして目を閉じて想う。もう一度、吹き飛べ。と……。そうすると俺の目の前にいた大将勝手たちが後方にあるフェンスまで吹き飛ばされる。

 

勝手「ばっ……化け物!!」

 

 大将勝手は目を見開いて怯えながら急ぎ足で逃げ出した。それに続くようにして他の3人もそそくさと逃げていく。

 

 "化け物"そんな風に言われたのはショックだったけど、今はそんなことどうだってよかった。俺は踵を返し後ろにあった体育倉庫へと向かう。

 

 今、背中のほうで謎の反射した光があったことに気が付かないままで……。

 

 

 

 

 

 幸いにも、あの写真から穂乃果の様子は悪化していないみたいだ。それに今は気を失って眠っているだけでさっきのことは気が付いていない。

 俺は眠ったままの穂乃果の拘束を解き背中におぶってその場を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌日……。

 

 あれから特に変わったことはなくそのまま登校した。今、自分の身の回りで何が起こってるのかを知りもせずに。

 

 教室に行くと、なぜかクラスメイトの鋭い視線が俺を襲う。そのことを奇妙に想いながら自分の机に向かったのだが、その間誰も近づいてこないし、むしろ逆に遠ざかっていく。

 

 自分の机にたどり着くとそこには黒いマジックで"化け物"、"お前なんて人間じゃない"など様々な悪口がかかれている机があった。もちろん、俺の机。

 犯人はなんとなくわかる。この言葉を発したのはアイツしかいないから。……だけど。

 

『時坂空也君、至急校長室に来てください。繰り返します……』

 

 校内放送で呼び出されてしまった。

 

 とにかく机はそのままにして、これ以上被害が悪化しないように持ってきた荷物をもって校長室に向かう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 校長室にやってくるとそこには校長先生が1人重い空気を醸し出していた。

 

校長「時坂君。来てくれたね」

 

空也「はい。一体何の御用ですか?」

 

 さっきのことは置いておいてこっちの話に集中する。

 

校長「実は、昨日校内掲示板にある動画が張られていてね。それについて聞こうと思って呼び出させてもらったんだ」

 

空也「……? その動画を見せてもらってもいいでしょうか?」

 

 校長の前にあるパソコンからその動画を見せてもらった。……そこには昨日、大将勝手たちが勝手に吹っ飛んでいった映像が映っていた。しかも、俺が良くわからない間に手をかざしたところを狙って。

 

 明らかに偶然取れた映像ではなかった。それに、編集を加えられたわけでもない。

 

校長「これは君がやったのかね? 私からは何もしていないようにも見えるんだがな……」

 

空也「えぇ、映像を見てわかる通り、私は手をかざしただけです。それ以上何もしてません。手を触れてないのに何ができるんですか」

 

校長「それもそうだな。わかった。これは嘘の情報だったということにしておくよ。……でも、この映像はかなりの人に見られてしまったと考えたほうがいい」

 

空也「私もそう考えてます。証拠に、教室の机には"化け物"とか書かれてましたから」

 

校長「それは……。私たちのほうで動いてみるよ」

 

空也「いいえ。大丈夫ですよ。確かにショックでしたけど、注意されたくらいでやめるような奴らでもないでしょうし、このまま放置しておきます」

 

校長「いいのかね? それで」

 

空也「……よくは、ないですね。多分、自分のことで手がいっぱいになるでしょうし、きっとこれがずっと続けば私は壊れてしまうかもしれません。だから……せめて幼馴染の高坂と、南と、園田の3人をよろしくお願いします」

 

 きっと、もう今までのような生活は送れない。人に印象強く残ってしまったことは簡単に拭い去れるものでもないから。……こんなことを考えてしまっている分、俺はきっと少なからず壊れかけてるんだろう。立場上、校長も味方にはなってくれるかもしれない。……でも、素直に信じることはできなかった。

 だって半年近く一緒に過ごしてきたクラスメイトですら俺を信じようとしない。それゆえのあの態度。

 

 だから、もう人を信じるのはやめる。信じられるのは……自分だけ。穂乃果たちであっても例外じゃない。

 

校長「しかし……。わかった。君がそう言うならしばらくは様子を見る。でも、危険だと思ったらすぐに行動させてもらう。これだけは了承してくれ」

 

空也「……わかりました。それでは、失礼します……」

 

 気分が落ちているのが分かる。こんなに教室に行きたくないと思ったのは初めてだ。教室に行けば周りは全員敵。オレの言葉を信じる人は誰一人としていない。……穂乃果たちと別のクラスでよかった。こんな状態のままアイツらといたらもしかしたら高坂達のも迷惑がかかるかもしれない。

 

 そんなことを考えながら教室に戻ろうとすると、目の前に見慣れた顔があった。

 

穂乃果「あ、空也君! おはよう!」

 

 高坂達だった。南も園田も3人そろっての登校だ。見慣れた光景、見慣れたメンツ。けど、今のオレにはそれがひどく不快だった。それに、いつもの穂乃果の笑顔がこんなにも見たくないと初めて思う。

 

 オレは3人を無視して教室に向かう。もう、一緒にいたくない。

 

穂乃果「いや~、昨日はありがとね。なんかよくわからない間に眠ちゃってたみたいで……ってあれ?」

 

 無言で、無表情で高坂達の横を通り過ぎる。高坂が何か話しかけてくるが聞こえない。

 

海未「ちょっと! 空也!」

 

 なにも反応を示さないオレが気にくわなかったのだろう。園田が怒りながら怒鳴り声をあげる。うざい……。

 

ことり「いったいどうしちゃったの!?」

 

 今までこういった態度は取ったことがなかったか。南がそう言ってくるがそんなこと知ったことか。今は、これからはもう一緒にいたくないんだ。だからもうオレにかまうな。穂乃果、海未、ことり。

 

 無視を決め込む。教室まであと少し。一番行きたくない教室に急いで向かう。高坂達を避けるために。教室に行けば事情をほかのクラスメイトが話すだろう。本当のことを何も知らないくせに知ったかぶって、人からただ聞かされたことを。

 でも、それでいい。そうすれば高坂達も離れていく。これでイライラするうちの一つが無くなった。

 

 案の定教室に向かえばさっきよりも悪化した机がオレを迎えてくれた。……お前は何もしてないのにな。ごめん……。そして追ってきた高坂達はオレの予想通り、何かを伝えられているみたいだ。

 それを聞くと教室から出ていく。自分たちのクラスに戻ったか。……これで一安心ってところか。

 

 それからしばらくしてHRの始まりを告げるチャイムが鳴る。先生が入ってきた。もちろんオレのことは不干渉。校長にお願いしたことだ、それでいい。もうオレにかまわなくていい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それから一週間がたった。高坂達はオレに一切干渉してこなくなった。これで安心して学校生活が送れる。最悪のと前につくけど。

 

 金曜日、オレは帰宅しすぐにベットに倒れる。制服が汚れ、ところどころ切れてたりするその恰好のままで力なく倒れる。

 きっと父さんもオレに何かがあるということは気が付いているはずだ。でも、巻き込むわけにはいかない。攻撃を受けるのはオレだけでいい。

 

 いつも通り接してくれるだけで本当に助かっている。信じてるわけではないけど、この家だけが唯一心の休まる場所になっていた。

 

 ピンポーン

 

 インターフォンが鳴り響く。その少し後にガチャッと玄関を開ける音が聞こえると階段をどたどた上がってくる音が聞こえてきた。

 ……騒がしい。一体なんだ。もしかして大将勝手たちが乗り込んできたのか?

 今度は廊下を移動する音が聞こえてくる。そしてオレの部屋の扉の前でその足音は止まった。誰が来たのか、そんな考えをしそうになるけど関係ない。どうせ居るのは敵だけ。オレは部屋の鍵を内側からかける。この部屋は外からカギを外すことはできないから安心して無視を決め込める。

 

 ドアをドンドンと叩く音がする。煩い、ウザい。

 

穂乃果「空也君!! 開けて!! 話をさせて!!」

 

 高坂の声が聞こえてきた。けど、オレにとっては耳障りな音にしか過ぎない。

 

???「穂乃果ちゃん。ちょっとどいて」

 

 そんな穂乃果に声をかけるオレの父、時坂氷里(ひょうり)。一体何が起こるんだ。

 

 次の瞬間に大きな音とともに扉が吹っ飛んだ。は……?

 

穂乃果「ありがとうございます! おじさん! 空也君! やっと話ができるね!」

 

空也「……俺は高坂と話すことはない。帰ってくれ」

 

氷里「空也。行ってこい。話だけでも聞いておけ。その後どうするかはお前に任せる」

 

 今まで何も言わなかった父さんが……。

 

空也「……話を聞くだけだ。それ以外は何もしない」

 

穂乃果「じゃあ、公園に行こう! 話はそこでするから!」

 

 外に行くのか。まぁ、話は聞くと言ってしまった手前行かないとだめだよな……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そうしてオレは高坂と公園に行くことになった。……こうして穂乃果と一緒に歩くのはいつ振りか。あの時はおぶってたからカウントしないとしても、2人だけで歩くのは随分と久しぶりな気がする。

 

 この公園……。海未と初めて遊んだところだったっけ。あっ、あの木は4人で登ったやつだ。それといつもここは子供の楽しそうな歌が聞こえてくる。

 高坂と一緒に歩くことも懐かしく思ったけどこの場所に来るのも懐かしい。

 

穂乃果「空也君。あの動画、見たよ」

 

 公園の、あの大きな木の前にやってきたと思ったら穂乃果がオレのほうを向いてそう言った。……穂乃果に見られたくないことを見られてしまった。そのことが分かった瞬間に俺の中で何かが壊れる気がした。

 

空也「だったらなんだ? オレに何か言いたいからここに呼んだんだろ。オレに幻滅したか? 信じられなくなったか?」

 

 あぁ……。今までは無視を決め込んでいたのに嫌味なセリフを吐いてしまう。やっぱり何かが壊れているんだ。

 

穂乃果「そんなことない!! 穂乃果、知ってからいろいろ考えた!! 空也君が変わった時からその前に何があったのかも!」

 

空也「そうか。でもそれはお前の勝手な妄想だろ」

 

 穂乃果の考えていることはきっとあっている。でも高坂にそれを伝えるわけにはいかない。いらないことで傷つくなんてこと絶対にさせたくないから。

 

穂乃果「確かにそうかもしれない。けど、あの日……空也君が私を家に届けてくれた日にあんなことがあったら、穂乃果を助けるためにやったんだってわかるもん!」

 

 穂乃果が心から叫ぶように言ってくる。やっぱり……。穂乃果は推測とはいえ、事実にたどり着いた。確かにオれは穂乃果を助けに行ってあの結果が出た。

 でも、認めるわけにはいかない。きっとそのことを知ったら穂乃果はもっと踏み込んでくる。そんなのを俺は認めない。

 

空也「大した妄想だな。高坂、お前小説家にでもなったほうがいいんじゃないか?」

 

穂乃果「……。それって認めてるようなものだよ。空也君」

 

 ここに来るまでの間も、話している時だったオれは冷静だった。だから静かに話だけ聞いていたし、感情も表に出さないようにしていた。

 だけど、穂乃果が落ち着きを取り戻し、俺の行動を観察するように言い放ったその言葉がこの会話において高坂が優位に立ったと感じられてひどく動揺してしまう。

 

 だからだろうか……。

 

空也「黙って聞いていれば好きかって言いやがって、ふざけるんじゃねぇぞ!! だったらなんだよ! 結局やったことは変わらない。もうオれは人間じゃないんだよ!!」

 

 あぁ……やってしまった。穂乃果に対して怒鳴り散らしているこの状況、言葉にして外に出したからだろうか。オれの心の中はこんな状況でも冷静になっていた。それでもオれの今まで隠してきたものが漏れてしまったことは変わらない。クラスメイト達に化け物と呼ばれた。中学生であるオれはその言葉をただの冗談で流せるほどしっかりとした対応なんてできない。自分自身でも人が持たない何かを持っているという自覚がある。

 だからオれは人間として生きるのをもうやめる。人が信じられないんだ。支えあうのが人だとしたらもう人として生活できないから。

 

 そんなことを考えていると俺のほほに鋭い痛みが走った。

 

穂乃果「空也君のバカ!! どんなことが起きたって空也君は人間だよ!! 今までも、これからも絶対に変わらない!」

 

 穂乃果に叩かれたのか……。やめろ……穂乃果は傷つけたくない。嫌だ! いやだいやだいやだ!!

 

 そんなことを想っていたからかどうやらあの力は穂乃果に出ることはなかった。そして次の瞬間柔らかい感触が少しの衝撃とともにやってくる。

 

穂乃果「もう……しないでよ。独りで閉じこもって自分を傷つけるのは。穂乃果、これでも怒ってるんだよ。空也君の周りの人たちにも、空也君にも、そして穂乃果自身にも」

 

 穂乃果がオレを抱きしめながら耳元で呟いた。

 

空也「な……にをいってるんだ……?」

 

 どういうことだ? オレに怒ってるならまだわかる……。そうなってもおかしくない態度をとってきたのだから。でも、周りと……何より穂乃果自身が自分に対して怒っていると聞いて訳が分からなくなった。

 

穂乃果「だって何にも言ってくれないんだもん、空也君。それに初めて空也君のやったことを聞いたときなにも知らないのにそれだけが真実みたいに話してた。それに空也君がやられてることも本当に怒ってる」

 

 オレがやられていること……。初日からあった机の落書き。そして俺を罵ろうとやってくる人たちの言葉。最後に、心に深く響いた、何も言わずにただ離れていくクラスメイト。この短い期間でいろいろとやられた。そのことを、穂乃果は知っている……?

 

穂乃果「……でも一番は、今日まで何もできなかった穂乃果に怒ってるんだよ」

 

空也「そっそんなことないだろ……。みんなの行動は仕方ないことだし、こう……穂乃果は何もしてないだろ……」

 

 人外な力を持っている人が周りにいて、その人が何か悪いようなことをした場合、恐怖と一緒に避けたいと思ってしまうのは仕方のないことだ。そんなのはわかってる。だから今までに気にせずにやり過ごしてきた。

 

 でも、それで穂乃果は納得しない。長い時間を一緒に過ごしてきて分かっているはずなのに、俺の口からはクラスメイトを擁護する言葉だった。

 

穂乃果「だから怒ってるんだよ。こうして話をしてたらきっと何かできてたかもしれない。空也君の支えになれたかもしれないのに。それに原因になったのは穂乃果のせいなんだから……」

 

空也「……そんなことを思ってほしくてやったんじゃない!!」

 

 穂乃果の言葉に俺は反論する。俺は穂乃果たちを助けたかっただけだ。そのために校長に頼み込んだのに意味はなかったのか……?

 

穂乃果「そうだと思ったよ。けどね、やっぱり考えちゃうんだ。考えないわけがないよ。自分の親しい人がこんなことになったら」

 

 抱きしめたまま穂乃果は弱弱しい声で呟いた。そんな震える声を聞いたら……

 

 壊れていた何かの時間がゆっくりと、ゆっくりと戻り始める。そんな感覚がすると、目が熱くなってくる。

 

 あれ……? 視界がぼやけるな……。俺ってこんなに大事にされてたっけ? おれってこんなあたたかいところにいたんだっけ? だめだ……。もう何が何だか分からなくなってくる。

 

穂乃果「泣きたいなら泣こう? 穂乃果も一緒だから。そのままでいいから聞いてほしい」

 

 穂乃果のその言葉を聞いて俺の涙は止まらなくなった。止まることを知らないかのように流れるその涙はぽたぽたと地面に落ちる。

 

空也「わ、かっ、だ……」

 

穂乃果「うん。穂乃果はね、空也君の味方だから。もう、ひとりじゃないんだよ。言いたいことがあるんだったら聴くし、泣きたいときはこうやって抱きしめてあげる。ずっとため込むなんてだめだよ。想いが……心の中にあるものが重くなっちゃったら苦しくなっちゃうでしょ。もうこんなことやめようよ。私が……穂乃果が一緒にいるから!!」

 

 だから……と穂乃果は続ける。

 

穂乃果「いつでも私を思い出して。絶対に空也君のことを支えるから。どんなことがあっても絶対に」

 

 涙がこらえられない。必死になって涙を止めようと空を見上げる。変わらず涙で視界はにじんでるけど……こんなにきれいな夜空の下で俺のためにここまで言ってくれる彼女に嬉しく思った。

 

 そう、理解した瞬間にまた涙が出てくるのが分かる。さっき以上に目頭が熱い。

 

空也「あり、がどう……。ありが、とう……」

 

 俺は壊れたレコードのようにただただ穂乃果に感謝し続けた。今までと一緒でいいんだ。そう、穂乃果が教えてくれたことが嬉しくて……嬉しくて。

 

 しばらく俺の嗚咽が公園の中を駆け巡り、それを抱きしめながらうっすらと涙を流す穂乃果がなだめるように俺の背中をなでる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

空也「はぁ……」

 

 泣き終えた俺はため息をつきながら黒い闇が広がる空を見上げる。でも、闇だけじゃない。星々の輝きが夜空を照らしたいように反射したやさしい光を月が届けてくれていた。

 

空也「もう、大丈夫だよ。ありがとう。穂乃果」

 

穂乃果「どういたしまして。良かった~。空也君がもとに戻って」

 

空也「本当に助かったよ。それにしても、穂乃果に助けられるなんてな」

 

 いままで俺は穂乃果たちを助けてきた。それはこの公園にいるからこそ思い出せるもの。それなのに、ここで俺が助けられるなんて、この場所はいったいどうなってるんだか……。

 

穂乃果「空也君も人間なんだから助けられて当然だよ! だから、もう一人じゃないよ」

 

空也「……あぁ。はぁ……なんか一週間本当に疲れたな~」

 

穂乃果「ごめんね。もっと早くに行動するんだ……。あ!! 空也君、見てみて!! 流れ星!!」

 

空也「本当だ……。これは、もうこの話をするなって空が言ってるのかな?」

 

 柄に合わないメルヘンチックなことを言ってしまった……。どうやら俺はまだ本調子じゃないらしい。

 

穂乃果「空也君。お願いしようよ。これからも変わらず生活できますようにって」

 

空也「……そうだな」

 

 穂乃果にそう言われた俺はこころの中で願いを言ってみることにした。正式な方法じゃないけど、心から叶いますようにと想うようにして。

 

空也(これからも穂乃果と、穂乃果たちと一緒に生活できますように。そしてこの恩返しがいつかできますように)

 

 最初のほうは本当のお願い。そして後半は自分に誓うように。

 

穂乃果「ねぇ。一緒に帰ろ?」

 

 願いをし終わってみると穂乃果が俺のほうを向いて首をかしげながら言ってくる。まったく……。

 

空也「そうだな。それにしても穂乃果、月が綺麗だな」

 

穂乃果「あ、本当だ!! 流れ星に気を取られてみてなかったよ。今日は満月なのかな?」

 

 ……伝わらないか。でも、今回のことは悪いことばかりではなかったのかもしれない。助けるべき存在から助けられた。心の支えがあると実感できた。そして何より俺は、穂乃果のことが一番大切だということに気が付けた。

 伝わらなかったこの言葉は言葉通りの意味として穂乃果に受け取られ、やり切ったとそう言いたげな目で月は穂乃果に見つめられていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それから俺たちはそれぞれの自宅に戻り、さっきまでとは違う、今まで通りの生活に戻った。海未とことりにも事情を説明したら不思議とすぐに受け入れられたことに驚いたけど、これでしばらくは平穏が続きそうだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 穂乃果、本当にありがとう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 過去のことを思い出しながら、俺は穂乃果に告げた。

 

空也「穂乃果。俺、中一の時に穂乃果に言われたことを詩にしたい。やってもいいかな?」

 

穂乃果「……大丈夫なの? 穂乃果は空也君が決めたんならずっと支え続けるよ」

 

空也「俺自身、成長しないといけないんだ。あのことを詩にしたら今までよりもいいものができると思う。感情を載せて想いを載せて……」

 

穂乃果「わかった。じゃあもう一度言うね。空也君、ひとりじゃないよ。私が、穂乃果がいる。だからいつでも頼ってよ。私の感情も、一緒にね!」

 

 穂乃果がウインクをしながら言ってくる。……まったく。

 

空也「ありがとう。じゃあ、早速取り掛かりますか!!」

 

穂乃果「うん!」

 

 俺たちは夜遅くまで過去を思い出して、当時の気持ちを思い出して作詞に没頭していた。気が付けばもう朝日が昇っている。

 

 暗い過去が、形を変え明るく未来を支える光になるかのように。

 

 横で寝ている穂乃果を見つめ俺は……

 

空也「お疲れ様。助かったよ」

 

 穂乃果に感謝した。その言葉が聞こえていたのか穂乃果の口角が少し上がったような気がする。

 まだ出すことはないにしても今できる中で最高の詩ができた。この歌が歌えることができるのはきっと……。だから、まだみんなには秘密。俺と穂乃果だけが知っている共通の話。

 

 




ここまで読んでいただきありがとうございます。

今まで語られなかった分、大事な大切な回になったと思ってます。そしてさらりと登場した空也の父親、母親はどこにいるんでしょうか……?

気になる謎はまだまだ残っていますが、それはこれからどんどんと明らかになっていきます。まずはその序章として今回の話を書きました。これで、空也のことを深く知ってくれたかな? 気になるところではありますが今回はこの辺で……。

新しくお気に入り登録をしてくださったHempfieldさんありがとうございます!

次回『ラブソング』

それでは、次回もお楽しみに!



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