ラブライブ!~化け物と呼ばれた少年と9人の女神の物語~   作:そらなり

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どうも、そらなりです。

今回で凛回は終わりますが、それと同時に凛が成長する会でもあります。一体だれが凛を支え、包み込んでいくのか……。どうなるんでしょうね?

それでは、今回も成長する彼女と転機を迎える彼の物語をご覧ください!


停滞から進行へ

凛side

 

 アクシデントで穂乃果たちが出れないということになってから数日が経ち、今日がいよいよファッションショー当日になる。

花陽「すごいね~」

 舞台裏からステージに出ていくモデルさんたちを見るとそんな言葉が口から漏れる。

 

 それはそうだ。なんせ相手は何度もこのようなステージに立ったことのあるプロなのだから。

真姫「さすがモデルね」

 そのことが分かっていたとしても、

 

 目の前の光景を見てどうしてもプレッシャーが強くなってきてしまう。

にこ「そっそうね……」

 あの自信満々なにこでさえ堂々とステージの上を歩くモデルたちを見て驚愕していた。

 

 そんな中、時間というものは有限でμ'sの出番も刻一刻と迫ってきていた。

希「凛ちゃん、そろそろ準備せんと」

 今は全員制服姿。もちろんこのままステージに出てライブをするわけじゃない。

 

 希にそう言われた凛ははッと準備がまだなことに気が付いて、

凛「あ! うん!」

 まだステージの上を見ている花陽たちに準備をすることを指示して控室に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 μ's用に用意された控室で最後の準備を行う。

凛「じゃあみんな、着替えて最後にもう一度踊りを合わせるにゃ!」

 もう踊りを合わせてから着替えるほど時間に余裕がない。もし合わせている最中に順番が来てもいいように先に着替えておくという選択を凛は取った。

 

 凛の指示にみんながしっかりとした返事をする。

凛以外『はい!』

 いくら凛が初めてリーダーをやるといってもμ'sとして過ごしてきた時間は変わらない。まとまった6人は今回のイベントにやる気になっていた。

 

 そしてみんなが着替えるためにそれぞれの個室に入っていく中で花陽が凛の着る衣装がある場所を教える。

花陽「凛ちゃんの衣装そっちね」

 そう言った花陽は自分の衣装を着るためにすぐさま個室に入る。何か、今はばれたくないものがあるかのように。

 

 その言葉を素直に受け取った凛はすぐに花陽の指さした個室に向かう。

凛「わかったにゃ」

 閉じてあった個室のドアを開けて中を見るとそこには凛が着るはずだったタキシードはなく、あったのは花陽が着るはずでそのために調節していたウエディングドレスがあった。

 

 その光景を見た途端凛の思考が止まる。先ほどまでμ'sを引っ張っていったはずなのにただただウエディングドレスを見つめることしかできないでいた。

凛「え? あれ? かよちん間違って……」

 ようやく思考が戻り始めたようでそこにいるであろう花陽に話しかける。しかしそこには逆に凛が着るはずだったタキシードであろうものを着ている花陽の姿があり、そのこともありまた凛が戸惑ってしまう。

 

 先ほどの凛の発言には凛だけが知らない間違いがあった。

花陽「間違ってないよ」

 その間違いが冗談ではなく本気であることを花陽の目は物語っていた。確かな覚悟が瞳に見えたから。

 

 これは花陽が提案したことだとしても賛成したのはここにいる全員。その決まったことを真姫は凛に伝える。

真姫「あなたがそれを着るのよ。凛」

 ここにいる凛を除いた5人が話し合った結果そう決まったのだ。今までの凛の行動をしっかりと認識して。

 

 しかし、当日のしかも本番直前に変更と言われてもすぐに受け入れることなんて出来るはずもなかった。

凛「なっ何言ってるの……? センターはかよちんで決まったでしょ。それで練習もしてきたし……」

 そう。今までは花陽がセンターであると決めたうえでフォーメーションなどを決めて現状でできる万全の対策をして今日に挑もうとした。それなのに、センターが変わってしまうとなれば本末転倒になってしまう。

 

 ただ、今回のライブはそこまで大きい動きをするパフォーマンスはない。それは来ている衣装が運動するように作られていないからだ。

絵里「大丈夫よ。ちゃんと今朝みんなで合わせてきたから。凛がセンターで歌うように」

 タキシードを着た絵里はここに来る前の時間にやっていたことを凛に教える。幸いにセンターが変わるだけで動きそのものは変わっていない。

 せいぜい立ち位置が変わる程度で元からセンター出なかった花陽も問題なくみんなに合わせられるようになっていた。

 

 土壇場でいきなりのセンター変更に凛の思考はついていっていない。

凛「そっそんな……、冗談はやめてよ」

 目を見れば冗談ではないことはわかるはずなのに、それすらも気が付かない様子でただただ凛は混乱していた。

 

 みんなは本気だ。本気で凛をセンターにしてライブをしようとしている。

にこ「冗談で言ってると思う?」

 いつもはセンターにこだわるにこも、

 

希「ウフフ」

 普段は自分の意見を前に出さない希でさえも凛がセンターをやるということに何の反対もしなかった。

 

 例え凛以外の全員が賛成したとしても本人にやる気がないのであれば意味はない。

凛「でっでも……」

 そう。やる気がない、のであれば。

 

 いつまでも口籠る凛に、今まで黙っていた花陽が口を開いた。

花陽「凛ちゃん。私ね、凛ちゃんの気持ち考えて困っているだろうなって思って引き受けたの。でも、思い出したよ。私が、μ'sに入ったときの事。今度は私の番。凛ちゃん、凛ちゃんはかわいいよ!」

 あの日、穂乃果が言ったことだ。『誰かが立ち止れば、誰かがひっぱる。誰かが疲れたら、誰かが背中を押す』

 今凛は立ち止まって動こうとしない状況にいるといってもいい。それはあの花陽の加入の時に似たような。

 

 突然自分のことをかわいいと言われて戸惑う凛。

凛「え?」

 今の彼女の頭の中は容量オーバーで処理しきれないでいる。

 

 しかし言葉を聞くことはできる。そんな凛に続いて話し合ったことを告げる真姫。

真姫「みんな言ってたわよ。μ'sで一番女の子っぽいのは凛かもしれないって」

 ただ猫が好きなのかもしれないけど語尾に『にゃ』とつけるのも女の子への憧れから。それにとっさの焦った時にお嬢様のような言葉が出てくる娘を女の子と呼ばずにどう呼べばいいのだろうか。

 

 多分今の凛にとって信じられないことが立て続けに起こっている。

凛「そっそんなこと……」

 だからこそ、素直に受け入れることができずに反論をしようとしてしまう。

 

 しかしそんなことを認めない、認めさせたくないと思っているのが長年ずっと凛のそばにいた花陽だった。

花陽「そんなことある! だって私がかわいいって思ってるもん。抱きしめちゃいたいって思うくらい可愛いって思ってるもん!」

 普段は声を荒げることをしない花陽が、珍しく大きな声で凛に向かって話しかける。凛の肩を抱きながら必死に訴えかけるように。

 

 面と向かってそんなことを言われるとどうしても恥ずかしくなってしまう凛は頬を赤くして花陽の後ろにいる真姫たち4人を見た。

真姫「花陽の気持ちも分かるわ。見てみなさいよあの衣装。いちばん似合うわよ凛が」

 真姫の言葉を受け、凛がもう一度衣装のほうを向く。花陽に背を向けながら。

 

 次の瞬間に憧れのまなざしてみている凛の背中を花湯と真姫は押した。それは花陽がμ'sに入ったときに凛と真姫がしたように。立ち止まっていた彼女を支えて歩みだせるように。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 今の行動で凛の中の何かが変わった。それはすごく単純なことで、でもなかなか難しいもの。

 トラウマを乗り越えるのは誰だって難しい。でもそれは1人での場合。辛かったこと、悔しかったことは仲間と共有する。そうすれば乗り越えられる。

 人間ずっと立ち止まっていることなんて出来ない。成長しない人間なんて死んでいるも同然なのだから。だから凛は再び歩みだす。真姫と花陽という確かな支えを受けながら。

 

 それを体現するかのように覚悟を決めた凛は個室の中に入っていきウエディングドレスに袖を通す。

 純白のドレスを着たμ'sの中で一番女の子らしい女の子がここにいる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ライブの時間が来たことで挨拶をするべく凛がステージに立つ。もちろん服装はさっきと同じウエディングドレスの姿。

凛「はっ初めまして。音ノ木坂学院スクールアイドルμ'sです」

 前で話している凛の姿を見た人は小さな声で『かわいい……』などいろいろな称賛の声が漏れていた。

 

 今までかかわったことのない人に自然とそう呼ばれ嬉しい気持ちになった凛は緊張した様子から途端に笑顔に変わり残りの話すことを話す。

凛「ありがとうございます。えっと、本来メンバーは9人なんですが今日は都合により6人で歌わせてもらいます。でも、残り3人と詩を書いてくれている同じ部活の仲間の分も思いも込めて歌います。それでは! 一番かわいい私たちを見て行ってください!」

 ここにいない穂乃果、ことり、海未、空也の分も頑張るということ。とても大事なことだから初めに話しておかないといけなかった。

 

 凛が最後の言葉を言うと舞台の上手と下手から花陽たちも入ってきた。みんながそれぞれの立ち位置につきいよいよイントロが流れる。

 今回初披露の『Love wing bell』が始まりみんなが盛り上がって終わった。

 

 終わった瞬間に誰かが膝を地面につく音が聞こえたとか聞こえなかったとかの話はあったがライブは大成功の裡に終了した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ライブが終わりほっとしていると凛の後ろから声がかけられる。

???「とっても良かったよ! 星空凛さん」

 腰にまで届くロングヘアーで黄色がかった金髪が印象の水色の瞳をした女性。ニッコリと笑顔を浮かべる彼女の口元には八重歯が見えた。

 

 彼女は中学時代から読者モデルをしていた経歴を持ち、その後陸上をやりながらもプロのモデルとして活動している。

凛「あっありがとうございます。えっと……。あ! 高坂桐乃(こうさかきりの)さん、ですよね」

 そう。彼女の名前は高坂桐乃。音ノ木坂学院の女生徒たちの行っていたトップモデルがこの桐乃だった。

 

 いくら同じ舞台で共演したからと言って個人的に話に来るかと言われれば内容次第だろう。

桐乃「えぇ。少し聞きたいことがあるんだけど、確か空也って子が作詞してるんでしょ? あなた達と共演できるっていうから少し調べちゃった」

 でも、桐乃にとってμ'sはある人物が自分の知っている人であるかどうかを確認するという意味もあり、声をかけたようだ。

 

 そして桐乃が言っている空也の存在は確かにある。

絵里「えぇ、時坂空也。彼が詩を書いてくれてます」

 初めて空也の存在を表に出したのはオープンキャンパスの時に作詞家として名前を出した。それ以降μ'sのサイトには名前を入れることになった。

 

 しかし、写真をサイトにアップしていたかというとそういうわけでもなかった。あれはスクールアイドルのサイト。アイドルではない空也の写真を載せるのは違いという結果になり直接会ったことのある人以外空也の顔を知る者はいなかった。

桐乃「空也君か。ちょっと写真見せてもらってもいい?」

 だからこそ桐乃は自分があったことのある空也が同じ人物なのかどうかを確認するためにμ'sに空也の写真を要求した。

 

 桐乃から頼まれた瞬間に凛はすぐさまスマホから空也が写っている写真を画面に出して、

凛「はっはい。これです」

 桐乃に見せた。

 

 真剣な様子で空也の映る写真を見ている桐乃。空也のことが好きなのだろうか……? しかし、高坂桐乃という人物はすでに結婚していたはず。

桐乃「なるほど、同一人物か。ねぇ、空也君と連絡ってとれる?」

 そんなことを考えていると桐乃が納得した様子で呟く。そしてさっそくコンタクトを取るべくもう一度凛たちにお願いをする。

 

 いくら桐乃が知っていたとしても空也が知らなければ迷惑になりかねない。

希「どうしてですか?」

 だから何を話すのか、どうして話したいのかをあらかじめ聞いて電話ができるのかどうかをこっちである程度見極めようとしていた。

 

 ただ桐乃にとって空也と話すことにやましい気持ちはない。

桐乃「知り合いなのよ。っていうか恩人?」

 なのだからすぐに答えなくてはいけない。恩人である空也に感謝の言葉を言うために。

 

 恩人というフレーズにμ'sのみんなはあることが頭の中をよぎる。

真姫「もしかして秘密を知ってたり?」

 それは空也の秘密。もし空也の秘密を知っていたのであれば安心して空也と話ができるということになる。

 

 真姫のその発言に桐乃はすぐにあのことだということに気が付いた。それは自分たちが最高の幸せを手に入れさせてくれた者であることに気が付いた。

桐乃「えぇ、多分そうだと思うわ。話がかみ合っていればだけど」

 ただそれがここで言っていいことではないことはわかっていた。言ったとしても本気にしてくれる人はいないかもしれないけど簡単に言えるような内容ではない。

 

 この言葉が聞けば十分だ。凛は至急スマホを画像から通話画面に移動させ空也に連絡をかけた。

凛「あ! 空也君。ちょっと空也君と話がしたいって人がいるんだけど」

 幸いまだ携帯を切っていなかったみたいですぐにつながった。

 

 凛にそう言われた空也はその相手が誰なのかを考えつつ、

空也『誰だ? まぁいい。代わってくれ』

 電話を替わってもらうように言った。それが久しぶりの彼女とのコンタクトになるとは思わずに。

 

side out

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

空也side

 

 凛から連絡が来たと思えば急にほかの人が空也に話をしたいというらしい。イベントが終わっている時間帯であることにほっとすればいいのか、どうすればいいのか思考を巡らせながらとりあえず相手を知ろうとした。

空也「もしもし。時坂ですが?」

 誰かわからない状態の空也はまず名前を名乗ることから始める。

 

 すると空也の耳にある懐かしい声が聞こえてきた。それは空也がリッカたちを救った後、義之の問題も解決したそのまた後に救った人物の声だった。……もう一人のほうはちょっと前にあったみたいだけど。

桐乃『久しぶりね。空也君』

 前に聞いた時とは少し違う大人びた桐乃の声がスマホから聞こえた。

 

 だけど大本の声は変わっていない。瞬時にその声が誰なのかすぐにわかった。

空也「あぁ久しぶり、桐乃。最近、京介とはどうだ?」

 京介には少し前に見せであっていたのだが、そこまで長く話したわけではない。それに桐乃自身から今がどうなっているのかを聞いてみたいと思ったから空也はこのことを質問した。

 

 今の生活は桐乃にとって最初はあり得ないものだった。しかし……、

桐乃『えぇ。十分なほど幸せに暮らしてるわ。ありがとね。あなたお礼いう前に帰っちゃったんだもん』

 何らかの空也の介入があったおかげで桐乃は最高の幸せを手に入れることができた。それは京介も同じ。

 

 すぐに空也が帰ってしまったという点は空也自身仕方ないものだった。

空也「しょうがないだろ。あの魔法は一度しかできないし5分以内に元の時間に戻れないといけなかったんだから」

 だってそれは使った魔法のデメリット上のもの。生涯で1度しか使えない最高最大の大魔法を使ったが故に……。

 

 この事実を初めて知った桐乃は少しの驚きを感じながらも、ようやく感謝の言葉を言えたことに満足感を覚えていた。

桐乃『そうだったんだ。まぁ、お礼は言ったしちょっとこの子たちからあなたのメアド聞くから今度メールするわね。京介とあたしの連絡先も一緒に』

 それに、ここでコンタクトを取ったからにはこれから普通にやり取りができるようになる。以前あった時は生活している時間が違うためできなかったが今はそんなことはない。

 

 それに、京介の店の電話番号は知ってても個人の連絡先を持っていなかった空也は素直にそのことを受け入れる。

空也「分かった。……なぁ、お前ってまだエロゲやってんの?」

 そして桐乃と言ったら今あの趣味はどうなっているのかという純粋な疑問を覚えすぐに聞いてみる。

 

 しかし、空也が言った言葉は普通に話していたら聞くことはないだろうものだった。

穂乃果「ちょっと誰と電話してるの。空也君!?」

 一体誰と話しているのか桐乃というのが苗字なのか名前なのかわからない現状で穂乃果はどうしてそんな話になっているのかツッコミを入れる。

 

 そんな叫び声は電話先の桐乃には聞こえず質問の答えを答える。

桐乃『えぇ、まぁまだ子供がいないからできるんだけど。でもそろそろいいかもね』

 きっと内容は電話先の空也のほうでしかわからないからすぐに答えられたのであろう。しかし、今の桐乃の考えを聞くとこれからの未来に期待したくなった。

 

 まぁ、子供を作るのは良いと思うが桐乃の性格上妹が好きな彼女だ。

空也「それはいいけど。うちの連中に手は出すなよ」

 μ'sには身長的に妹のような人や、性格的に妹的な人が存在する。そんな彼女たちを守るために桐乃に念を押しておく。

 

 勿論、恩人に関係する人に迷惑になる行動をするほど桐乃は無礼な人間ではない。

桐乃『えぇ、わかってるわよ。じゃあね。また今度』

 名残惜しいけどこれからはもっと話をしたりすることができる。だからこそ、今はひとまず電話を終わりにした。

 

 

 

 

 

 電話は終わったのだが、先ほどの穂乃果の疑問が解決していない。つまりここから質問の台風が始まる。

穂乃果「それで今の電話何!? エロゲって何!?」

 まずは、最初の質問。エロゲなんてまず普通に生活していたら聞かない単語だ。

 

 その疑問が出てくるのは当然だろうと話していた時に空也は思っていた。

空也「えっと、魔法で助けた人の1人だよ。なんかお礼いわれた」

 ただいきなり質問に答えられるほど穂乃果の質問は早口で行われる。だからまずは最初の電話の相手に関してどういう人なのかを伝える。

 それは、以前に魔法で助けた人。最高の幸せを願って助けたいと思ったから生涯に1度しか使えない魔法を……枯れない桜の範囲外でまともな大きな魔法を使うことができないようになってまで助けた。

 

 ただ、空也が魔法を本島でまともに使えないようになってしまった原因は海未たちは知らない。それに、今一番気になってるのはあの単語のこと。

海未「えっエロゲって何ですか!? なんでそんな破廉恥なことについて話してるんですか!?」

 女性からしたら確かにあまりいいとは思わないものだからこそ気になって気になって仕方ない。まぁ、話していた相手は女性なんだけど。

 

 しかしあれは彼女自身の趣味だ。あることが原因で惹かれていった1つの確かな趣味。

空也「桐乃の趣味なんだよ。知ってんか高坂桐乃、人気モデルなんだけど」

 ようやく空也が話していた相手の名前を言う。トップモデルの桐乃と知り合いということを空也は明かした。

 

 ただ、空也が先に魔法云々の話をしていたからか有名人と知り合いなことに驚きはさほどなかった。アイドルすら知人にいるのだ、いちいち驚いていられない。

ことり「知ってるよ。私たちはよく見てるよ桐乃さんの雑誌」

 そして確かにトップモデルの桐乃をことりたちが知らない可能性のほうが低いだろう。

 

 しかし、これからのことを知っている人物は少ない。魔法の話をしたからにはこのことも話しておかないと……

空也「あいつの旦那はあいつの兄ちゃんだ」

 桐乃の夫、高坂京介は二重の意味で兄妹の関係にあった。これを知っているのは空也と桐乃と京介の関係者くらいだ。

 

 つまり、穂乃果たちは混乱する。もしかしたら血の繋がった兄妹なのかもしれないという推測を立てながら。

穂乃果「え!? どういうこと?」

 

 当然の疑問だ。兄だったことを言われれば血縁関係があると思うのは無理のないものだった。

空也「アイツらは兄妹で恋愛をしていたんだよ。しっかりと血のつながった。でもそれぞれの卒業までという条件で付き合っていた2人は卒業と同時に別れる……はずだったんだ」

 それも紛れもない事実……だった。実際に血縁関係にあるものの結婚は認められていない。だからこそ付き合っていた当時の2人もルールを決めて付き合っていた。

 

ことり「はずだった?」

 空也の言っていた最後の言葉に引っ掛かりを感じたことりはそのことを聞き返した確認をする。

 

 疑問に感じた部分。だったとは過去形のもの。考えてみてほしい、一度は恋人関係になっていた2人がその後1つ屋根の下で過ごさないといけない。兄妹なのだから。

空也「あぁ、はずだった。その先の未来を俺は夢で見たんだよ。2人とも表面には出さなかったけど、だんだんと壊れていったんだ。今まで付き合っていた人と関係が変わってもずっと同じ場所にいて周りには気が付かれないようにふるまう。2人の心が休まる場所はなかったといってもいい。だから変えたんだ」

 家族にも友人にも完全な本当の自分を見せられない。偽りの自分を演じないといけないのならそれは落ち着いた空間になりはしない。

 

 ただこの説明だけでは何を変えたのかがわからない。

海未「……? よくわからないのですが」

 海未を筆頭に穂乃果とことりの頭上にもクエスチョンマークが浮かんでいた。

 

 ここから先が空也のやったこと。2人に幸せになってもらいたいその一心で犠牲を作ってまで助けた事実。

空也「世界の在り方を変える魔法。それで本当の兄妹だった2人の血のつながりを断った」

 この魔法は世界そのものに干渉して変える魔法。簡単に使えるはずがない。この魔法を使おうと決心した空也は枯れない桜を依り代にして犠牲を少なくさせてみたがそのせいで空也は初音島で魔法がまともに使えなくなった。

 

 ただ犠牲を作ったことは誰にも教えない。知っているのは俺とさくらだけで十分だ。

穂乃果「どうしてそんなことしたの?」

 だから疑問は1つのほうに誘導される。なぜやったのかという方向に。

 

 やった理由……それは当時の2人を見て思ったことがあったから。

空也「2人の気持ちは本物だった。じゃあなんで別れなきゃいけなかったのか。それは血が繋がっていたからだ。だから俺は血の繋がりを断って2人の最大の障害を無くした」

 似たような話として身分の違い、人種の違いのようなものがあるだろう。しかしどんな理由があったとしても当人たちの気持ちが本物であれば結ばれてほしい。今回はそれが物理的に変えることのできない血縁関係だった。それだけのことだ。でも、空也がそれを変えた。だから今がある。

 

 難しい話をしたと思う。だけど穂乃果たちはしっかりと空也の話を聞いていた。自分たちの知らない魔法使いの空也のことを知ろうとして。

ことり「そうなんだ。あ! 飛行機来たよ」

 夢中になって話を聞いているとやがて飛行機の搭乗時間になった。これで沖縄の地ともおさらば。

 

 待っているのは住み慣れた故郷の音ノ木坂だ。ファッションショーがどうなったのか気になりながら穂乃果たちは帰りの飛行機に乗り込んだ。

 

side out

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

タクトside

 

 あのファッションショーが終わって歩と一回別れ、会場の出口で凛のことを待っていた。

タクト「どうしても直接感想を言いたいからね」

 勿論準備があるからすぐに出てくるわけではなく少しの時間待つことになる。

 

 言いたいことがいっぱいある。綺麗だったとか可愛かったとか自分の言葉で表現しなくちゃだめだとそう思っていた。

 

 すると凛たちが出てくる。

タクト「凛ちゃん!」

 いつもの見慣れた制服に身を包んでいるのについ先ほどのウエディングドレス姿の凛が歩の頭の中にフラッシュバックした。

 

 ただ、凛は何でここにタクトがいるのかよくわかっていない。確かにμ'sが出るということは決まっていたけど関係者しか参加できないファッションショーに男性のタクトが来ても何もできないと思っているから。

凛「タクト君? なんでこんなところにいるの!?」

 だから予想外過ぎる出来事に驚いてしまう。

 

 タクトの顔を確認した花陽は彼がここにいる意味を瞬時に察した。普通なら来ても意味のない男性が来たんだ。しかも開口一番に誰を呼んだのか。それだけである程度のことは想像がつく。

花陽「あ、私たちあっちで待ってるからお話して来たら? 凛ちゃんに話があるみたいだし」

 だからここで凛とタクトを2人にする。花陽がアイコンタクトを取って絵里、にこに合図を送ると似た感情を理解しているからなのかすぐにうなずき花陽の言葉に従う。

 

 花陽の言うようにこの場を後にする5人。

凛「え? ちょっとみんな!?」

 自分を残して立ち去って驚く凛。何が何だかを理解しきれていない。

 

 この場を離れようとした花陽はタクトの横を通り過ぎるとき花陽は

花陽「凛ちゃんのこと、少しだけ貸してあげる」

 ぼそっとタクトにそう呟いた。通り過ぎていく花陽を目を見開き眺めていたタクトはこころの中でチャンスをくれたことを感謝した。

 

 

 

 

 

 目をつぶって今話したいことを頭の中で整理する。そして今日やろうとしていることへの覚悟を決める。

タクト「凛ちゃん……驚かせてごめんね。実はさっきのライブ、会場で見てたんだ。それでどうしても感想を言いたくて……」

 まず話したかったことはさっきのライブの感想。今すぐに伝えたい。今の感情ごと思ったこと全部を。

 

 タクトがここにいた理由を知った凛は、ライブを見てくれたことに純粋に喜んだ。

凛「そうなんだ! 見てくれてありがとう!」

 どれだけライブをしてもこうして感想を言われるのはすごくうれしい。それも自分の身近で本来ならこの場に来ることもできないはずだった男性の意見だったらなおさら。

 

 凛のありがとうを聞いた後、タクトは先ほど感じたすべてを言葉に乗せ、凛に伝える。

タクト「すっごく良かったよ! 凛ちゃんのあの衣装すっごく似合ってた。めちゃくちゃ可愛かったよ!」

 今まで見たことのない凛の服装。初めて凛がセンターに立ったという事実。曲、そして歌い方。ライブを構成していた全部が彼の感情を大いに奮い立たせた。

 

 勢いのある感想、そしてさっきまでは自分のことをかわいいと想えていなかった凛が同姓ではなく、異性から言われたことに頬を赤く染める。

凛「そう……かな……?」

 ただ、実感は湧いていないようだ。だけど初めていわれたことだから余計にうれしい。嬉しさと今までにない感覚に浸っていた。

 

 でも、実感を得ていないことについてタクトは不満に思っていた。凛が可愛いということは紛れもない事実で、変わることのないもの。

タクト「そうだよ!! 最初見た時からずっと目が離せなくなって、気が付いたら凛ちゃんのことを目が追っていたんだ。だから、わかったことがある」

 それは初めて会った時も感じた感覚だと思う。……あの日、同じ苗字だとわかってお互いに名前で呼ぶことになった時から凛に惹かれ始めていたことを再確認した。

 

 最後の意味深な言葉に凛は疑問を浮かべた。

凛「タクト、君?」

 

 意を決して今日分かったこと、思ったことを話す。それはこの人生でそう何回もしないであろう大切な言葉。

タクト「俺は凛ちゃんのことが好きだ!! ずっと俺の天使でいてほしい!!」

 好きという感情をありったけ込めた気持ち。変に飾らず、思ったことをストレートに。

 

 ただ、タクトの言った言葉を聞くと、それはまるで……

凛「え? …………え~!? そそそそそれって……プロポーズ!?」

 まるでプロポーズのような愛の告白に聞こえた。凛にとって今日で何回目の初めてだろうか。でも、これが一番インパクトの強い初めてだったのかもしれない。頬だけでなく顔全体が赤く染まっていた。

 

 凛のツッコミにようやく自分の言った言葉の意味を理解したタクトは今の凛以上に顔を赤くして、自分の言ったことを訂正する。

タクト「あ……、違う違う!! そうじゃなくて……俺ともっと親しい関係になってくれませんか?」

 今言いたかったのはプロポーズではなく、ただの告白だ。凛と付き合いたい。もっと親しい関係になりたいそう強く思っていた。

 

 人生で初めて告白を受けた凛。なんて答えればいいのかわからない……。だけど不思議と嫌とは思わなかった。だから思った言葉をそのまま口にして答えとする。

凛「……えっと、急にそんなこと言われて頭パニックになってるんだけど……。凛も……タクト君と一緒にいる時間、悪くないと思ってるんだ。だからまだ付き合うとかはできないけど、もっと一緒に過ごせたらって思ってる」

 冷静に今考えられない状況で何とか言葉を出した凛。

 

 しかし答えを聞くとどんどんとネガティブな考えが頭の中を支配する。

タクト「……つまりごめんなさいってこと……かな?」

 自分はフラれた。タクトはそう思って肩を落とす。

 

 でも凛が断りのつもりでさっきの言葉を言ったわけではない。

凛「そうじゃない!! 凛はもっと女の子らしくなってからタクト君とそういう関係になりたっ……!! あ、何でもない!!」

 ついつい、口から漏れだす自分でも完全に理解していない本音が凛自身にダメージを与える。

 

 お互いの顔が真っ赤な状況で凛の本音が聞こえたタクトは真剣な表情から自然な笑顔になった。

タクト「ハハッ、そういうこと! じゃあ俺は待ってればいいのね。もっと凛ちゃんに近づきながら凛ちゃんが納得するまで。これからよろしくだね。凛ちゃん!」

 つまり、凛も拓斗もお互いのことを大切な人だと思っている。そのことが分かれば後は待つだけ。

 

 凛が自分に納得できるようになれば2人は結ばれる。ようやく凛らしい話し方に戻ったようでタクトの笑顔が移り、凛も自然な笑顔になった。

凛「うぅ……。もう! しょうがないな! タクト君は! これからも凛をよろしくにゃ!」

 最後にはいつも通りに戻った2人はそう遠くない未来の約束をここでした。猫の少女とベース少年の恋愛物語はここから始まる。

 これからどうなるのかは、きっと誰にも分らないことだろう。それはたとえ神様だとしても。

 

side out

 

 

 

 

 

 

 

 

 

空也side

 

 ファッションショーのライブが終わって穂乃果たちが合流した初めての練習で、凛は練習着がスカートに変えていた。突然の変化にμ'sのみんなは興味津々。

凛「よ~っし! 今日も練習! いっくにゃ~!」

 

 テンションは今までと変わらない、だけど確かに凛自身に変化があった。それは外見的にも内面的にも。

 この成長は凛にとってどんなことよりも大きいものになった。大好きな人たちのおかげで。

 

 




凛回が終わりました! アニメ1話分を4話で終わらせているつもりだったのに今回はオーバーしちゃいました……。

ようやくタクト君が自分の想いを告げましたね。最初はプロポーズになってしまいましたけど。これからと今までが気になるところではございますが、それはまたいつかの機会で……。

新しくお気に入り登録をしてくださった水岸薫さん、不二 北斗さん、羅玖熾阿@鄂爾多斯さんありがとうございます!

次回『前哨戦の前哨戦』

それでは、次回もお楽しみに!



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