IS~あの娘だけのヒーローに~<凍結>   作:カタヤキソバ

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第八話

「すげぇ・・・」

 

 その光景を見て、一夏はそんな言葉を漏らす。

 にわかには信じられない光景だ。何故なら現代においてISとは最強の兵器の名前であり、ISはISでしか倒せないというのが定説だからだ。

 そんなISを、どんな手段を用いたのかは分からなくとも、生身の人間が倒したという事実だけは理解出来た。

 

 それは簪や本音も同じなようで、あまりの事に口をポカンと開けて、呆然とその光景を見ている。

 

 プロトゴーレムは動く気配も無く、完全に動きを停止させて横たわっている。あの惨状で横たわる、という表現が正しいのかは少々疑問が残るが。

 

「・・・」

 

 インパクトの瞬間にプロトゴーレムから飛び降り、間一髪で難を逃れた束は顔を伏せており、その表情は伺えない。

 

「・・・さあ、自慢のISは壊したぞ。大人しく帰ってくれ」

「・・・」

 

 剣斧を消し、身軽になった士郎は一息吐くと束に話しかける。庭をめちゃくちゃにされては居るが、それ以外にこちらに損害は無い。

 だから士郎は伝えた。これ以上争う気は無い、と。

 士郎としてもこれ以上は神秘の秘匿という面からも体への負担という意味でも、出来れば戦いたく無い。

 それにご近所さんへの対応、三人の子供たちへの対応。

 頭が痛いとはこの事だ。

 

「・・・」

 

 だが束は無言を貫いている。

 その態度に、士郎は嫌な予感を感じた。

 

「・・・やっぱり」

「ーーー!」

「やっぱり、魔術師相手にこれだけじゃ足りないよねぇ!」

 

 束は顔を上げ、狂気と狂喜をない交ぜにしたような表情と声で、天を指差す。

 それに釣られ、全員が天を仰ぐ。

 

「さあ出番だよ、プロトゴーレム君"たち"!」

「「!?」」

 

 今、非常に嫌な言葉が聞こえた。

 そして、得てして嫌な予感というものは当たってしまうものだ。

 

 黒い点は黒い塊に、黒い塊はゴーレムへと、近づく程にその姿を鮮明にし、またしても轟音と共に地に降り立つ。

 その数、実に20機。半数は宙に浮いているとは言え、庭はゴーレムで溢れ返っているという表現が相応しい有り様だ。

 

 地を覆う黒き怪物はその狙いを士郎へと定め、一斉に突撃する。

 

「アハハハハー!!誰がゴーレム君が一体だけなんて言ったかなぁー?」

 

 束は愉しそうに笑う。

 

「私の発明品を笑う奴は、みんな潰れてしまえば良いんだよ!!」

「ーーーッ」

 

 士郎は自身に強化を掛け、何とかその場からの離脱を図る。

 だが悲しいかな、その巨体の全てを避けきれる訳もなくーーー

 

 ーーーゴーレムは、暗い影に磔にされた。

 

「桜っ!?」

「こっちは任せてくださいーーーッ」

 

 影に纏わりつかれたゴーレムは動くことも叶わず、次第にその身を影の中へと沈められて行く。

 だが束がそれを黙って見ている事もまた、有り得ない。

 

「チッ。お前も魔術師か・・・。ならーーー」

 

 そう、ゴーレムが下手に動けないのならば自分が行けば良い。

 束は常人と掛け離れた身体能力で跳躍すると、瞬きする間に桜に近付く。

 あと一歩。

 手を伸ばす。

 その手は桜の頭を捉えーーー

 

 ーーー次の瞬間、気付いた時には埋められていた。

 

 はっ?

 疑問を感じたのは一瞬。瞬時に頭から地面に埋められた事を理解すると、全身の力を使って抜け出す。

 地面に立ち、目の前の女と対峙する。

 痛みは無い。ダメージは無いが、目の前の女にそんな芸当が出来るとは、到底信じられなかった。

 

「・・・」

「魔術でも使ったのか、って顔ですね。半分当たりですよ」

 

 魔術は使った、だが桜が使ったのは強化の魔術だけだ。

 あとは桜自身の身体技能。遠い親戚譲りの護身術だ。

 そしてその技は一般にこう呼ばれるーーージャーマンスープレックスと!!

 

 それを間近で見た一夏は後にこう評した。

ーーーあれほど完璧なジャーマンスープレックスを見たのは、後にも先にもこの時だけだ、とーーー

 

「・・・舐めてんの」

「舐めてなんかいませんよ、今のは全力を出しました。正直、どうして生きているのか不思議な程です」

 

 地を割り、人を一瞬で地中に埋めるほどの衝撃を受けて何故今だ立っているのか。桜はゴーレムよりも、束の異常な身体能力の方が恐ろしく感じた。

 

 そして、桜が集中を乱したと言う事はーーー

 

「ーーークーーーソッ」

 

 ゴーレムを拘束していた影が緩むという事だ。

 拘束を解かれたゴーレムたちは、再度士郎に狙いを定める。

 

「あっちは良いの?あの男、死ぬよ?」

 

 束の忠告は尤もだ。このままでは士郎は逃げ切れず、剣斧の投影では全てを破壊することは出来ない。

 では桜が加勢に向かうか?

 論外だ。

 束の狙いは簪だ。今はその障害となる士郎や桜を攻撃しているに過ぎず、束の意識は今でも簪に向いている。

 恐らく桜が士郎の加勢に向かった瞬間、束は何の躊躇も無く、何の抵抗も無く簪の息の根を止めるだろう。

 一夏や本音では簪を守れない。それは意思の強さなど超越した、純粋なスペックの問題だ。

 

 そんな絶望的な状態にあって尚、桜が心を折ることは無い。

 

「私はあの人の事、信じてますから」

 

「だから、この子たちは私が守ります!」

 

 あの夜のように、大切なものを守るために、桜は負けない。目の前の相手に、自分の心に。

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

「ーーッー投影、開始《トレース・オン》!!」

 

 黒弓を投影し、狙いを定める。

 

「ーーー赤原猟犬《フルンディング》!!」

 

 獲物を仕留めるまで止まらない猟犬《や》が、士郎の手《ゆみ》から放たれる。

 

 その矢は正確にゴーレムのISコアを射抜き、その活動を停止させる。

 それを繰り返す事、既に五度。

 だが六度目をつがえたとき、士郎は背後に悪寒を感じ、振り返る。

 ゴーレムが、その腕を引き、士郎の息の根を止めんと迫っていた。

 

 正面のゴーレム、背後のゴーレム。それらを同時に迎撃する事は士郎には不可能でーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・お待たせしました」

 

 ーーーここで助っ人の登場だ。

 

「ーーーッハァァァァアアア」

 

 士郎の背後に迫ったゴーレムは、ライダーによって投げ飛ばされる。

 地にめり込み、その活動を停止させる。

 怪力スキルを使用したライダーは、一時的に神話の怪物と同等の力を発揮する。

 

 魔眼は使えない。しかしそれはライダーの不利とはなり得ない。

 ここに、磐石の布陣が整った。

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

「こちらには援護が来ましたよ、いい加減諦めて下さい」

 

 束と千日手を行っていた桜は、ライダーの加勢を確認し、束に撤退を促す。

 だがそれで諦めているならば、束は『天災』とは呼ばれない。束はそんなに、聞き分けの良い人間では無い。

 

 無理だから諦める?有り得ない。私は"こんな事では諦めない"

 

 

 

「束さん、もう止めてくれ!」

 

 束が最後の手段に出ようとしたその時、一夏の声が響いた。

 

「・・・いっくん」

 

 束の目から剣呑としたものが消える。

 

「束さん、もういいだろう!俺を連れ帰る気なら、着いて行くから!」

 

 どうしてこんなことを・・・。もう止めてくれ・・・。

 

 自分は何も出来ない。自分のせいでこんなことになった。

 一夏は項垂れ、その胸中は無力感が渦巻く。

 

「・・・そうだね。何で・・・か」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そこの女を殺す為かなぁ!!!!」

 

 

 

 

 刹那。

 その手刀は肉を貫き骨を砕き、地に真っ赤な花を咲かせた。

 

 




 お読み頂きありがとうございました!

 束さん、ひどいゲス顔です。このままでは、ただのキチガイという印象しかありません。一応自分の信念に基づいて動いてるんですけどね。
 まあ、迷惑な事には変わりありませんが。

 ライダーさんはバイトに行っていました。青ペンとは違うのですよ。

 桜のプロレスネタはapoからです。あちらではエーデルフェルトの養子となって、義姉と一緒に高笑いしているそうなので、HF後でも可能性はあるかと。

 批評や感想・質問などいつでもお待ちしています!
 どれも私の書く原動力に成りますので、どうか気軽にお願いします!

 では、次回をお待ちください!

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