IS~あの娘だけのヒーローに~<凍結>   作:カタヤキソバ

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第二十話

「圧勝だったわね・・・」

 

 観客席で一夏対セシリアの戦いを観戦していた鈴は、試合の結果をそう評した。

 鈴のその言葉に一緒にいた箒、簪そしてシャルロットが同意する。

 

「すごかったね。あの剣って織斑先生の雪片と同じだよね?」

「そうだよ。名前は雪片弐型だけど、機能は一緒」

「・・・だから一撃で勝負が決まったんだね」

 

 シャルロットの質問に簪が答える。

 

 雪片は対象の絶対防御を強制的に発動させ、一撃当てるだけで相手のシールド・エネルギーを大幅に消費させる。千冬がモンド・グロッソを優勝したのはこの雪片の功績も大きかった。・・・勿論、千冬の身体能力が他を圧倒するレベルなのが一番なのだが。

 閑話休題。

 

『次の試合は十分後に行う。織斑、ボーデヴィッヒ両名は試合に備えること』

 

 アリーナに千冬のアナウンスが響き、簪は席を立つ。

 

「ちょっと一夏の所に行ってくるね」

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 ピットに一人佇む一夏は、白式のエネルギー補給を待ちながら今朝の千冬との会話を思い出していた。

 

 ラウラ・ボーデヴィッヒという少女が左目の疑似ハイパー・センサー、越界の瞳《ヴォーダン・オージェ》の適合失敗の影響で落ちこぼれとなり、そんなラウラを千冬が指導した結果、落ちこぼれからドイツ軍IS部隊のトップにまで上り詰めた事。

 そしてーーー

 

 ーーーその事で千冬を心酔し、力に固執するようになった事。

 元々軍の道具として遺伝子操作で"作られた"ラウラは、その存在意義を自身の有能さ、力に見出だしていた。それが一度失われてからは更にそれが加速し、今のような性格になったという事だ。

 

『私はボーデヴィッヒに、"目的を達成するには力が必要だ"と教えた。それが落ちこぼれの烙印を押され、気力を無くしていたあの時のあいつには必要だったからだ。だが力を付けたあいつは、それを"力があれば何をしても良い"と思うようになった。それが昨日のあの言葉だ』

 

 教官がおっしゃったのではないですか、力があるものが正しいのだと。

 

『ーーーだから一夏。お前があいつの目を覚まさせてやってくれ。私の言葉は、もう届かん・・・』

 

 

「・・・良いぜ、千冬姉」

 

 一夏は声に出し、呟く。

 

 あのラウラって子は、俺と似てると思う。

 俺とは違った環境に居て、俺とは違った人たちに囲まれてた。・・・けど、根っこの部分はきっと同じだ。千冬姉に憧れて、近付きたいって思ってる。

 けどそれが千冬姉の思いとは別の方向に行くなんて、悲しすぎるだろ。だから俺が目を覚まさせてやるよ、ラウラ・ボーデヴィッヒ。

 お前の、俺たちの憧れた千冬姉は、ただ暴力的に力を振るう先には居ないって事をな!

 

「っし!」

「キャッ!?」

 

 一夏は勢いよく立ち上がり、気合いを入れる。・・・が、すぐ側で小さな悲鳴が上がった。

 

「え、簪!?」

 

 いつの間に来ていたのか。いきなり立ち上がった一夏に、簪は驚きの声を上げた。

 

「ビックリした・・・。気合い入っているね、一夏」

「悪い悪い。ーーーああ、勿論だ。勝ってあいつの目を覚まさせてやるよ」

「頑張ってね、一夏。みんな応援してたよ」

 

 一夏は頷き、エネルギーの充填された白式に近付き、手を添える。

 

「さあ、もう一度だ。力を貸してくれ、白式」

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 白式を纏い飛び出した一夏は高度を上げ、同時に飛び出したラウラと同じ高さに浮かぶ。

 一夏はラウラと向かい合い、問い掛ける。

 

「・・・お前、千冬姉に憧れてるんだろ。なのにどうしてISを戦いの道具に使うんだ」

 

 ラウラは一夏の言葉を心底嘲笑したように鼻で笑う。

 

「ISは戦いの道具だろう。こんなに高性能なものが、まさか戦いに利用されないとでも思っているのか?」

 

 一夏は首を横に振る。

 

「いや、それは否定しねぇよ。ISは使い方を間違えたら簡単に人を死なせてしまう、そういうものだ。けどーーー」

 

「ーーーだけど、それだけに使われるものでも無いと思う。ISは元々宇宙開発の為に開発されたし、何より千冬姉はこの力を俺を助けるために使ってくれた」

 

 ラウラはピクリッとその言葉に反応する。

 

「お前は昨日、千冬姉が力があるものが正しいと言ったって言ったけど、本当にそうなのか?」

「・・・」

「千冬姉は、お前にもっと違う言い方をしたんじゃないのか?」

「・・・まれっ」

「千冬姉はお前に、力を正しく使ってほしいって思ってたんじゃ無いのかよ!」

「だまれぇっ!!」

 

 ラウラは声を荒げると、専用機:シュヴァルツェア・レーゲンの肩部に搭載されたレールカノンを一夏に向け、撃ち放つ。

 一夏はそれを避けるが、ラウラの攻撃は止まらない。

 レールカノンの連射性を活かし、一夏の回避先にも弾丸をばらまく。

 対して一夏は回避可能なものは無理なく避け、避けられない弾丸は物質化させた剣を盾にして受け流す。

 この程度の弾幕は、一夏にとって苦もなく避けられるものだ。士郎との鍛練では、目に見えない速度の斬撃を相手の体の動きで先読みして回避するようなレベルが求められていた。

 発射口の見える銃撃ならば、避けるのは造作もない。

 

「ちぃっ!」

 

 業を煮やしたラウラは、ワイヤーブレードを一夏に向かって撃つ。その名の通りワイヤーの先に刃物のついたそれはラウラ自身がその軌道と動きを制御し、周囲から一夏を取り囲む。

 逃げ道を塞がれ、後はワイヤーに絡め取られるのを待つだけとなった一夏だが、焦ることはない。

 冷静に最もワイヤーの少ない箇所を見つけると、そこに全速力で飛ぶ。

 この光景は、ライダーと立ち合った時に見たことがある光景だ。あの時は生身でライダーの扱う鎖の包囲網から逃げるという内容だったから逃げるしか無かったが、今は特殊な鎖でも無ければ無手でも無い。

 一夏はワイヤーの密度の薄い箇所に近付くと雪片弐型を振るい、ワイヤーを断つ。

 

 二度の攻め手を防がれたラウラは苛立ち憤慨し、早々に奥の手を使っての攻勢に出る。

 

 それまで一歩も動かなかったラウラは、ワイヤーから抜け出したばかりの一夏を狙い、近付く。

 プラズマ手刀を振りかざしたラウラと、雪片を構える一夏。両者は激突し、金属同士がぶつかり合う甲高い音を響かせる。

 一夏はそのまま受け流し、斬りかかろうとしてーーー

 

 ーーー体が全く動かなかった。

 

 シュヴァルツェア・レーゲンの特殊武装、AIC(アクティブ・イナーシャル・キャンセラー)。慣性停止能力に依るものだ。

 動けない一夏にラウラは蹴りを叩き込み、一夏は地面に激突する。

 

「ーーーグッ!」

 

 地に倒れる一夏を、ラウラは上空から見下ろす。

 

「ふんっ。弱い、弱いな織斑一夏。・・・そんなお前が教官を語るなどーーー虫酸が走る!」

「ーーーったく、力が全てじゃないって言ってんだろっ」

 

 一夏はシールド・バリアで緩和されたとは言え遮断しきれない衝撃に表情を歪めながら、立ち上がる。

 

「・・・お前、千冬姉に憧れてるんだろ?なのに、千冬姉の事何にも分かってねえよ」

「なにっ?」

「お前の言い方じゃ、千冬姉は力でしか人を見ないみたいに聞こえるぞ? お前は千冬姉の事、そういう風に見てるのか?」

「ーーーっ!?」

 

 ラウラは弾かれるように、千冬が居るであろう管制室を見る。

 

「ちがっ、私はっーーー」

「ーーーそうだな。千冬姉はそんな人じゃない。そんな人だったら、千冬姉はお前に手を差し伸べる事は無かったと思うぞ」

 

 一夏は雪片を鞘に納めるように構え、ラウラを正面に見据える。

 

「はっ!」

 

 一夏は瞬時加速を使うと、瞬きする間もなくラウラに接近する。

 雪片を居合いの要領で振り抜き、

 

「くっ!!」

 

 またしてもラウラの直前で動きが止まる。

 

「・・・っ」

 

 だがラウラの表情は良くない。この力を使うたび、相当疲労が溜まっていくのだろう。

 一夏は動きを止められたまま、ラウラに語りかける。

 

「なあ、お前が最初に憧れた千冬姉はどんなことを言ってた? いつ、千冬姉に憧れたんだ?」

 

 そう問いかけられて、ラウラが思い出すのは自分にとって運命のあの日。

 落ちこぼれの烙印を押され、燻っていた時の事だ。

 

『お前、そんなところで何をしている。・・・立てないのなら立たせてやる、歩けないのなら手を引いてやる。だから顔を上げろ。・・・辛いなら、力を貸してやるぞ』

 

 そう言って、手を差し伸べられた時の事だ。

 

「その千冬姉は、どんな顔をしてた? きっと、優しい顔をしてた筈だ。そんな人が、力こそが全てなんて言うわけ無いだろ」

 

 お前は決定的に間違っている。

 一夏は正面から、ラウラにこの事実を突きつける。

 

「私は・・・」

 

 拘束が緩む。AICの発動にはかなりの集中力が求められるにも関わらず、ラウラが動揺を隠しきれないからだ。

 一夏は一旦下がり、ラウラと距離を取る。

 

「なあ、ラウラ・ボーデヴィッヒ。俺も千冬姉に憧れてるんだ。俺も、俺を救ってくれた千冬姉みたいに、誰かを守れる人になりたいって思ってる」

 

「ーーーだから一緒に目指そうぜ、あの高みをさ。ーーー取り合えず、その始まりとしてこの戦いに決着をつけようぜ」

 

 一夏は今度こそ、決めにかかる。

 雪片を居合いの要領で構え、心を研ぎ澄ませる。狙うは必殺、一撃だ。

 

 一夏に触発され、ラウラも構える。

 動揺は消えていないし、心は纏まらない。けれど無様に負けることだけはしないという、軍人としての矜持がそうさせた。

 

「ーーーふっ!!」

「く・・・っ」

 

 今度は二段階瞬時加速でラウラに迫る。その速度は先ほどの瞬時加速の比ではなく、そして今度はAICが一夏を捕らえることは無かった。

 

 AIC発動の瞬間。

 白式が一瞬金の光を放ち、その真価を発揮する。

 

 『零落白夜』

 白式の単一使用能力《ワンオフ・アビリティ》であるそれは、全てのエネルギーを無力化させる効果をもつ。

 

 その力を全身に纏い、AICというエネルギーからの干渉を無力化する。

 

 雪片がラウラを捉える頃にはその輝きの痕跡は微塵もなくーーー

 

 ーーー雪片はラウラの絶対防御を発動させ、シールド・エネルギーを削りきった。

 

「俺の勝ちだ、ラウラ・ボーデヴィッヒ」

「・・・私の敗け、だな・・・」

 

 ラウラのISはエネルギーを失い、その姿を粒子に変える。

 試合終了を告げるブザーが鳴り響き、一夏の勝利が示された。

 一夏はラウラを抱き抱え、ピットに戻る。

 その途中、

 

「・・・私は、羨ましかった・・・」

「ん?」

「・・・羨ましかったのだ。教官が気にかける、お前の事が・・・。だから、教官が何としてでも助けようとしたお前の事を認めたく無かったーーー・・・んだと思う」

 

 その言葉に、一夏はふっと息を吐く。

 

「千冬姉はちゃんとお前の事も心配してたぞ。千冬姉は不器用だから分かりにくいけどな」

「・・・そうか・・・。だったら、嬉しいな」

 

 そう言って頬を緩めるラウラの表情には、年相応な、憑き物の落ちたような柔らかさがあった。




 お読み頂きありがとうございました!

 これでシリアスラウラは終わり、次回から天然系少女ラウラちゃんが見られるでしょう。
 千冬さんがずっとラウラに付いていれば、こんなに拗らせる事も無かったと思いますね。
 生まれ、憧れ、嫉妬etcetc
 それらがあって、ラウラのあの態度が生まれたんじゃないかと。

 白式の零落白夜が雪片にしか発動できないとかないですよね?一次移行の段階で発動するのに必要なだけだと記憶しているのですが・・・

 批評や感想・質問などいつでもお待ちしておりますので、お気軽にお願いします!

 では、次回をお待ちください!

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