IS~あの娘だけのヒーローに~<凍結>   作:カタヤキソバ

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第十六話

 IS学園。

 そこはISの操縦者、技術者の育成を目的に作られたIS教育の最先端であり、世界で唯一のIS専門学校だ。

 そこに入学出来るのは女だけであり、男が入学することは出来ない。技術者の育成よりも操縦者の育成を重視しているからだ。その為、ISに乗れない男は書類選考の段階で落とされるのが常であった。

 

 ーーーそう。男は普通ISに乗れないから、入学を許されないのである。

 

 ここに、その例外が存在した。

 

 

「・・・・・・」

 

(ねえ、アレが?)

(だって、世界で唯一の男のIS操縦者)

(へー、結構格好いいじゃん)

(あの千冬様の弟なんでしょ?羨まし~)

 

 一夏は教卓の真ん前、最前列の真ん中という学生にとっては最悪の席に座っていた。

 周囲から向けられるのは興味の視線とヒソヒソ声。

 そしてそれらに混じって、こちらに敵意を向けている奴が居ることを感じていた。

 

 仕方無い事だと思っていてもやっぱり気分の良いものでは無く、一夏は身の縮まる思いをして教師の到着を待っていた。

 

 それから数分経って、やっとの事で一夏は気まずい環境から解放された。

 教室に入ってきたのは緑の髪にフワッとした服装、そして眼鏡と豊かな胸部装甲を備えた若い女性だ。

 

「皆さん初めまして。私はこのクラスの副担任を務める山田真耶と言います。よろしくお願いしますね」

 

「・・・え、え~と・・・。ーーーじゃあ、皆さんに自己紹介をしてもらいますね!」

 

 前会ったときも思ったけど、やっぱり桜さんによく似た声だな・・・。

 一夏がそんなことを思っていると、真耶は空元気を出して司会を進める。

 クラスの全員が一夏に注目していて、真耶の自己紹介に何の反応も見せなかったからだ。

 

 そんな訳で始まった自己紹介だが、織斑という名字の関係上一夏の順番は早く来る。

 一夏は立ち上がり、後ろを振り向く。

 軽く50以上の目に注目されるが、気圧される事はない。

 それに多くの眼差しとは別に、簪は優しく自分を見ていてくれる。それだけで安心出来るとは自分も単純だな、と思うが、力になる事は間違いなかった。

 

「織斑一夏です。テレビなどで報道されている通り、ISを動かしたのでIS学園に入学しました。よろしくお願いします」

 

 一夏が軽く頭を下げると、それに釣られて殆どの生徒が頭を下げる。下げていないのは金髪の少女と銀髪の少女位か。

 

 よし、上手くいったぞ!これも簪との練習のお陰だな。

 

 頭を上げた一夏は、昨日した簪との自己紹介の練習を思い出して内心ガッツポーズする。

 そしてさあ座ろうと振り返ったとき、同時にドアが開いた。

 

「何だ、マトモな自己紹介が出来たようだな。下手な挨拶なら教育的指導をするところだったぞ」

「あ、千冬ねーーー」

 

 ーーーそれは凄まじい音だった。色々な意味で人の身で出せるのかという音が一夏の頭頂部から鳴り、発生した衝撃波は窓ガラスを震わせる。

 それは正しく鍛え抜かれた究極の一。

 その名はーーー

 

「っっっっっってぇぇぇぇーーー!?」

「・・・ほう。私の出席簿を受けても沈まないとは、随分鍛えたようだな」

「ったり前だろ、ちーーー織斑先生」

 

 ーーーその痛みは愛ゆえに《しゅっせきぼあたっく》

 

「・・・かんちゃん、何考えてるの?」

「名にだよ、本音」

 

 ちゃんと言い直した事に満足したのか、千冬はうむ、と頷くと真耶と一言交わして教壇に立つ。

 

 ・・・忘れてた、千冬姉に公私は分けろって口煩く注意されてたんだった。

 

 一夏は今更ながらにここに来る前に千冬に言われていた事を思い出しながら、席に座る。

 教壇に立った千冬は、大勢の生徒を前にしてこう切り出した。

 

「私が担任の織斑千冬だ。これから半年で、お前たちにはISの基礎操縦を覚えてもらう。ISの操縦には危険が伴う。だから私の言葉には従え、返事はハイかYESのどちらかだ、良いな!」

 

 それって従うしか無いじゃん。千冬姉の事、皆に勘違いされるんじゃ・・・あ、でもーーー

 

 一夏は不器用な姉の言葉の足らずな発言に、姉の人間性を誤解されるのではと心配する。それが至極当たり前な考えで、こんな物言いをされたら反発するのが普通だ。

 ・・・そうそれが普通のはずだ。

 

「キャァァァァアア! 本物の千冬様よ!」

「まさか千冬様に指導して頂けるなんて!」

「千冬様に会うために来ました、北九州から!」

「御姉様!」etcetc・・・

 

 千冬がそれらに呆れた反応を見せると、生徒たちは更に興奮して勢い付く。

 

 そう、これが織斑千冬のカリスマ性だ。何を言っても賞賛されて、何をしても勝手に憧れられる。

 否。勝手に聞いている方が良い方に解釈して、自分の都合の良い様に解釈する。

 この生徒たちはこれでも全然マシな方だ。

 一部では織斑千冬信者とも呼ばれるような女性が出るほどのカリスマ性は、千冬の手を離れて人を暴走させる。

 

 一夏の扱われ方がその最たるものだろう。

 だから千冬は、一夏の内心を想いチラッとそちらを見る。

 

「!」

 

 しかし、千冬は一夏を見て自分を恥じた。

 一夏は真っ直ぐ、そして揺るぎ無く千冬にその眼差しを向け、こう伝えてきた。

 

 ーーー心配するなよ、千冬姉。俺はもう大丈夫だ。

 

 いつまで過去の一夏のままだと思っているのか。千冬が側に居てやれなかった間に、一夏はその周囲の人たちの元で成長していた。

 寂しくはある。

 しかしそれ以上に嬉しかったし、感謝した。衛宮邸の人たちに、そして一夏と共に在ってくれた簪に。

 簪を見れば、簪も頷いて返してくれた。

 それだけで千冬にはもう、心配事はなかった。

 

「ーーー。静かにしろ!」

 

 その一言で、騒がしかった生徒たちはシンッと静まり返る。

 

「時間は限られている。さっそくISの授業に移るぞ」

 

 千冬は自己紹介もそこそこに、真耶と場所を変わる。その刹那ーーー

 

「真耶、今日は飲みに行こう」

「ーーーはいっ」

 

 真耶は千冬から聞いていた。弟の事も、その境遇も。

 だから千冬の表情を見て、心底嬉しかった。

 多くの生徒は気付かなかっただろう。

 だがしかし、真耶の憧れの先輩は今まで見たことの無いような晴れやかな表情で、弟の成長を喜んでいた。

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 初めての授業も終わり、一夏は達成感に浸っていた。

 

 よっしゃ、ちゃんと理解出来たぞ!

 

 一夏は約一年間の簪との勉強の成果を噛み締めていた。

 通常IS学園に入る生徒の多くは小学生の内からその勉強を始める。それはIS学園の定員が希望者よりも圧倒的に少ない為、そして覚える事柄が膨大な量になるからだ。

 IS学園では操縦者と技術者のコース分けは二年生から始める。つまり入試の際に行われる試験では、市街地での起動条件などの法律関連の事柄や機体の整備についてのメンテナンス技術など、操縦者と技術者両方の専門知識を求められるのだ。

 当然それらは入学してからも一から丁寧に教えてもらえるのだが、すんなり理解するための最低限の知識は入学段階で備えている事が、IS学園生には求められている。

 ここにいる生徒は例外を除き、それらの教育を幼い頃から受け、狭き門を潜り抜けてきたエリートたちだ。

 ・・・まあ、どうやらぶっ飛んだ子も多いようだったが。

 

 そんな環境に入るにあたって、一夏も苦手な座学に真剣に向かった。入学試験こそ政府の計らいでパスしたが、何もしなければ入ってから苦労するのは自分だし、何より簪にとって恥ずかしくない恋人でいたかった。

 そんな訳で、まだまだ覚えることは多いとはいえ努力が報われた一夏は達成感に浸っていた。

 

 そんな一夏に近付く者が一人。

 

「おい」

「ん?」

 

 一夏が声のした方に顔を向ければ、銀髪の小柄な少女が立っていた。

 左目に眼帯をし、珍しいズボンタイプの改造制服を着た少女は、その赤い目で一夏を見ていた。

 端からこちらの事を見下しているような、そういう目だった。

 

「・・・なんだよ」

 

 そんな風に見られれば一夏も良い気持ちはしないし、そんな特殊な趣味も無い。

 悪い癖だと思いながらも、つい喧嘩腰になってしまう。

 

「私はお前の事が気に入らない」

「・・・そうかよ」

 

 ここに来てもそういう輩かと、一夏は辟易する。

 

 ーーーお前があの千冬様の弟だなんて気に入らない。

 

 そんなことは昔から言われ慣れた事だし、今さら気にする事でもない。

 一夏は相手にするだけ無駄だと、少女を無視して次の授業の準備をしようとする。

 ーーーもしも次の言葉が無かったら、だが。

 

「第二回モンド・グロッソ」

「ーーーっ!?」

 

 何故その事を、と一夏は動揺する。

 あの事は一夏の夢の発端であると同時に、一夏に付きまとって離れない後悔の記憶でもある。

 そして同時に考えたのは、この少女が何者であるのかという事だ。

 あの事は日本とドイツの間で秘密とされ、公にはなっていない出来事だ。なのにそれを知っているこの子は何なのか?

 しかし幸いにも、それは少女の方から答えが与えられた。

 

「私は認めない。お前が教官の弟などと・・・強かったあの人を弱くする、お前の存在などっ!!」

 

 そう言うと、少女は自席に戻って行った。

 

 教官・・・ってことは、あいつは千冬姉がドイツに居た頃の教え子ってことか?

 

 一夏と少女のやり取りに騒然とする周囲の喧騒など耳に入らず、一夏は少女が座るまで、その背を睨み付けていた。

 

 ・・・取り合えずーーー

 

「あいつ、何て名前だよ」

 

 名前を教えてくれと、一夏は少女に言いたかった。




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 このクラスには一年生の全代表候補生+箒がすでに集まっています。
 自己紹介がすっ飛ばされて名前で呼ばれないラウラ・・・。
 
 
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 では、次回をお待ちください!

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