「ではセバスよ。お前が見てきたモノの報告を頼む」
セバスは一瞬だけモモンガの身を案じるような素振りを見せつつ、咳払い一つすると「では、私がモモンガ様の命により行わせて頂いた、周辺探索の御報告をさせて頂きます」と一礼をし報告を始めた。
その内容をかいつまむと、
1.大墳墓を出て周辺地理を確かめたが以前あった沼地は無く草原が広がっていた。
2.行動範囲は周辺1キロとされていたので行動範囲は1キロに収めたものの、同行したナーベラル・ガンマのフライによる高高度から更に3キロほどは視認出来たが、遠くに大きな森や山がある以外は何もなかった。
3.その様な状態だったため当然、知的生物に出会うこともなく、またユグドラシルに居た様なモンスターの確認も出来なかった。
という物だった。
「ふむ。ここから導き出されるのは『ここは我々の居たユグドラシルでは無い可能性がある』という事ぐらいか?」とモモンガは独り言のように呟く。
……そして それがもっとも大きくて、とんでもない事実でもある。
ただ、それはすでに覚悟できていた。
「ところで、ココはユグドラシルでは無さそうなのだが、皆は何故に我々がこんな所に居るのだと考える?」とモモンガは守護者に問いかける。
「あのー」とシャルティアがおずおずと手を挙げる。
さっき俺が倒れたせいで落ち込んでいたのに関わらず、至高の御方の問いかけに応えようとするとは健気だな……。
「よし ではペロロンチーノさんの娘であるシャルティアの考えを聞こう」と指名する。
「娘って!?娘って!?」と、シャルティアがアワアワとしながら答える。
「つ、つまりその……ユグドラシルで我々に恨みを持つ何者かが、超位魔法か何かで私達を違う世界へと飛ばしたんでありんすか?」
「……ほう」
全く期待していなかった吸血鬼(アホの子)から意外にも面白い答えが出た。
なるほどなあ ゲームの中で起こった出来事なのだから、そもそもがゲーム主導で起こったハプニングなのでは?という答えはユニークだ。
あまりにも大きな出来事過ぎたためマクロ的な事だけを考えていた自分には無い発想だ。
「うむ 良いぞ! シャルティア」と言うと「うっしゃあ!」とシャルティアは小さくガッツポーズをしたあとアウラに向かってドヤ顔をした。
ボソボソ……ねえ 良い答えだと誉められるシステムみたいだよ。お姉ちゃん。
ボソボソ……あの顔……私の中の何かが「ムカツク」と訴えかけてくるんだけど。
ボソボソ……奇遇だね。お姉ちゃん。ボ、ボクの中の何かもザワザワしてるよう。
「ナザリック一の知謀の主であるデミウルゴスよ。他にはどういう事が考えられるかな?」
「はい モモンガ様。全く情報が無い状態での、さっきのシャルティアの当てずっ……推理はなかなか良い線では無いかと思います。ですが私としましては、その逆もあるのでは無いか?とも考えます」
「ほう 逆とはつまり?」
「はい こちらの異世界の何者かに依って我々は召還された……と云うのはどうでしょうか?」
……なるほど 現時点でユグドラシルの世界観に捕らわれているのは仕方ないとしても、飛ばされたのでは無く、呼ばれた という事か。これも面白い説だ。
彼らがユグドラシルという世界観で物事を判断しているのと同じように俺だって22世紀の地球という世界でしか発想することが出来ていない。例えば宇宙の彼方に存在する平行世界的な異世界には実際に呪いとか魔法があって、彼らによりゲームの中からのデータベースごと強引に抜かれた。もしくは、23世紀、24世紀と更なる科学が発展した世界において、すでに終了した昔のゲームよりデータを引っ張り出されて未来のリアルとしか思えない高度なゲームの中で強引にマッチングされた……なーんてね ふふ
なにせアインズ・ウール・ゴウンと俺なんて「公式非公認ラスボス」って攻略wikiに書かれていたしなあ。実際プレイヤーの何割かはウチの事は運営が用意した解りやすい悪の秘密結社&ラスボスのNPCだと思っていた人も居る。まあ、あれだけ特別に可愛いかったり凝ってるNPCが勢揃いしていたから運営の人気取りや課金を促す罠(AOGのNPCの殆どは課金アイテムをフル活用して作られていた)だと思われていたから仕方ないが。
「デミウルゴス、それも良い考えだ。流石だな」
「お褒め頂き、有り難う御座います」
今のところは何も解っていないので、異世界に飛ばされた事はとりあえず置いておこう
「では、ここが未知の領域という事で、まずは早急に調べたいことがある。
1.今のところ見つかっていない知的生命体の再捜索
2.今のところ見つかっていないモンスターの再捜索
3.発見出来た場合、それら生命体が我々の脅威となるか
4.文化・文明があるとしてその進捗具合と文字、言語
5.付近の地図
また、3と4が我々より上であることを警戒して、ナザリックの隠蔽工作について考えた方がよいかな?」
「はい 仰せの通りだと思います」とアルベドから太鼓判を頂く。ふう 良かった、合格か。
「では、まず、①の知的生命体の捜索は絶対に相手を攻撃しない様に使い魔や下僕に言い含めることが重要である。対象に発見された場合の事も考え、柔軟で慎重な対応が出来る者に……デミウルゴス任せるぞ」
「はっ」
「まずは見つけるだけだ。見つけた後にその生命体の形や文化、強度に依って対応が変わるからな」
「はい お任せ下さいませ。必ず成果を上げてみせましょう」
そう言って深く御辞儀をしたデミウルゴスは、ナザリックに生みだされて初めて至高の御方より勅命を拝命した喜びを隠しきれずに体を少しだけ震わせた。
「うむ 山があれば河が出来る。河がある所に文明は生まれる。地形を良く考察し推理して知的生命体が棲みそうな所に当たりをつけて捜索にあたるが良い。また、彼らが住んでいる場所からも文明の形態が推測出来るであろう。 では②、モンスターの捜索は北に広がる大きな森を中心に探してもらいたい。森の中であり探しものはモンスター(獲物)。これはテイマーのアウラに任せるのが一番だろう」
「はい お任せ下さい!」
と無邪気に笑い嬉しそうなアウラに、モモンガは思わず親心の様な心配をしてしまう。
「大丈夫か?迷うなよ?テイマーだから遭った時点でモンスターの強さは解るよな?危険な相手だったらちゃんと逃げるのだぞ?」
「確かに外に出るのは初めてですが、どんな森も「森」である時点で全てワタシの庭の様なものです。それにフェン達も一緒ですから」
「うむ 安全第一で頼むぞアウラ。 続いて③の現地生命体の強さの考察だが……。この中で戦わなくても見ただけで相手の強さが解る者は居ないか?」
「ハッ ワタシデアレバ、観察スルダケデ、装備ヲ含メタ戦闘力ヲ、アル程度判別デキマス。 マタ、セバス モ 肉弾戦ノ強サデアレバ、判別可能デアリマス」
「そうか それは助かる。実はデミウルゴスが生命体を発見したらミラー・オブ・リモート・ビューイングというマジックアイテムで観察しようと思っていたのだが、戦ったりせずに強さが解るのは非常に有難い。では両者とも宜しく頼む」
「「ハッ」」
「うむ では④についてはデミウルゴスが対象を発見し、我々が安全地帯から観察後、対応を考えよう。⑤の地図については、デミウルゴスとアウラが捜索し、安全が確認された地に沿って詳細な地図を作成せよ。これはアルベドが指揮せよ。姉のニグレドの力も借りて入念に頼む」
「はい お任せくださりますよう」とアルベドが優雅に一礼する。
「さて、では現地生命体が強者であり、友好関係を築けなかった時のことを考えて、安全が確認出来るまではナザリックの隠蔽を行う。これは高度な地形操作系魔法が扱え、丁寧な仕事が得意なマーレ以外には考えられない。出来るか? マーレ」
「は はい、でも草原の真ん中にある今のナザリックを隠すとなると、土を外壁に集めて小山を作り中に埋没させるしかありませんけど……」
「! 栄光在るナザリックの壁を土で汚すと?」
一瞬にしてアルベドから黒いオーラが放出される。怖い怖い怖い怖い。 いきなりスイッチ入れるの止めてあげてくれないかなあ 俺の心のために……。 ほら またキラキラと緑に光ってるじゃないか。 しかしこの精神作用無効化の光って誰も何も言って来ない所を見ると、どうやら自分以外には見えないみたいだな。光ったとしても変なリアクションはしない方が良さそうだ。
「良いのだアルベド。 確かにナザリック、アインズ・ウール・ゴウンは、かつて素晴らしい仲間達によって栄光に包まれていた、私の誇るべき宝だ。 しかし、今は仲間も一人二人と去って行き幾久しい。そんな中で誰がアインズ・ウール・ゴウンを支え、守ってきたのか?それはオマエたち守護者を含むナザリックのみんなだ。私とオマエたちこそが、アインズ・ウール・ゴウンである。大切なのは過去の栄光では無い。私にとって大切なアインズ・ウール・ゴウンという宝とは、仲間たちが残してくれたオマエたちなのだ。オマエたちこそが我が宝であると思え。その宝を守るためにナザリックが土にまみれることに何の
………。
あれ? シーンとしている。 しまった。クサすぎたかな……ここぞと云う時に上司からの愛情表現は大切だと経営学の本で読んだんだが……。
突然、耐え切れないダムが決壊するかの様に「「ぐはぁ」」という言葉と共に守護者の全員が大号泣を始めた。
蟲王のコキュートスは涙が出ないので泣いてないが、体を震わせながら「ゥオオオオオオォゥ!」と叫んでいる。
アウラとマーレは子供らしく二人で抱き合って「モモンガ様ぁ~」とワンワン泣いている。
セバスは閉じた目元に手をやり「勿体無いお言葉で御座います……」と涙を溢れさせている。
シャルティアとアルベドは壊れた音楽プレーヤーの様に「宝物……宝物……私がモモンガ様の宝物」とボーっとしたまま呟き続け
そして冷静なはずのデミウルゴスが、意外にも歯を食いしばり過ぎて口唇から血を流し、手で掴んでいる太腿からも爪が食い込んで肉に刺さり、血でズボンを濡らしているという地獄絵図を呈しながら「有難きっ 有難き幸せにございます!」と感涙にむせび泣いていた。
すまん やりすぎた。
後書き
「裏切る?裏切る?」
「すでに忠誠度200でありますっ 至高の御方41人分への忠義をモモンガ様に捧げます!」
「信頼する君たちが居ればどんな困難も大丈夫!」
「ちゅ 忠誠度310 320! なっ まだ伸びるだと!?」
「君たちは何よりも大切な宝物なんだ!」
「やめてください しんでしまいます」
yelm01さん、ゆっくりしていきやがれ様 まりも7007様、ペリ様、kubiwatuki様、湯呑様 丁寧な誤字の報告と訂正を有り難う御座います。