『モモンガハーレム』そういう物騒な名前の部屋が作られているとは聞かされていた。
昔……この世界に移転してまもなく、アルベドに部屋を与えたのだが、スレイン法国を制した頃に「その隣にもう一部屋頂けませんか?『女子会』に使わせて頂きたいのです」と言ってきた。
一瞬 「女死会」と聞こえた。
アルベドがついにナニかに動き出すのかと体を震わせたものだ……。
しかし 実態は想像よりも恐ろしいものだった。
しばらくして『モモンガハーレム』という表札が掲げられたことをデミウルゴスから聞いた。
デミウルゴスはアルベドを叱ろうかと思ったが、よく観察すると「モモンガ」の「ガ」と「ハーレム」の「ハ」の間に小さく「様」と書かれていたので「ならばよし」と叱るのをやめたらしい。なにその部屋主の気遣い。そんな気遣いをするくらいなら、こんな恥ずかしい表札を出すことを
というかそこで叱るのをやめるんじゃないデミウルゴス。オマエには失望した。問題はそこじゃない そこじゃないんだ。
その部屋は私にとっては恐怖の部屋であり、恐怖公で云うところの『ゴキ◯リホイホイ』に違いない。何があっても近づくまいと心に決めていたのだ。
しかも、パンドラズ・アクターなどから聞いた話によると、始めはアルベドとシャルティアだけだったのが近年アウラも入り浸るようになったと聞いている。
アウラ……あんなに良い子だったのに悪い大人とアホの子の悪影響を受けたのだろうか……やまいこさんも「子供にとって環境ほど大切なものは無いの!」って言ってたしな……ごめんなさい茶釜さん……娘さんを守れませんでした。お詫びとして悪影響の片棒を担いでいるペロロンチーノという変態を差し出します。お腹か顔を素足でグリグリと踏んであげると悦びます。
そんな恐ろしい部屋の扉を遂に開かねばならない日が来るとは……。
いや まだ結婚するとか、そういうことを決めた訳ではない。敵情視察のようなものだ。
モモンガは死刑囚が刑場のドアを開けるような心境でドアに手を掛けてガチャリと開けた。
「あっ モモン……ガ様! ようこそだな!」
バタン 勢い良くドアを閉める。 今……イビルアイが居たような……。
恐る恐る再び扉をガチャリと開ける。
「どうして急に閉めたのだ?」と仮面を取った金髪赤目の吸血姫イビルアイことキーノ・インベルンが不思議そうに可愛く首を傾げる。
部屋の中を見るとアルベド、シャルティア、アウラ、イビルアイ……増えてる……。
そういや祝賀祭に合わせて帰ってきたんだよな イビルアイ……。でもイビルアイとは別に将来の約束とかはしていないハズだが?
……いや 逃げるのは止そう。 彼女はハッキリと私に好意を告げてくれたじゃないか
慌ててアルベドやシャルティアが立ち上がる。
「ああ……すまない。ノックをするべきだったな」
「いえ とんでも御座いません!」
アウラも立ち上がって小走りでやってくる。
アルベドがいつの間にかモモンガの脇に侍らうと
「では、モモンガ様……今日は誰に致しますか?」と尋ねてきた。
「誰?」
「はい 今日の夜伽の相手で御座います」
モモンガは骸骨でなければゲホゲホとむせ返っていたであろう自称第一夫人のショッキングな発言にドン引きするも、
そしてアウラやイビルアイが顔を赤くして頬を両手で挟み恥ずかしそうにモジモジとしている。 うん可愛い。
シャルティアがサムズアップした親指で自分自身をグッと指差してドヤ顔で「ありんす!」と言っている。意味が解らん。
「いや……その…つもりは無いのだが」
「えええ! セバスへと100年間もの愛を貫いた女性に対するお手本を示されるのでは無かったのですか?」
アルベドが白々しく大仰に驚いてみせる。
「いえ……そういうわけではないんですが……」
「さすが至高の御方にして世界の統治者であらせられます。信義約束を破るような事を危惧した私が愚かで御座いました。どの様な罰でも受けましょう。あ、あと姉さんが『よろしくお願いします』との事です」
モモンガは逃げ道を確実に塞いでくるサキュバスに「じゃ、罰としてオマエ抜きな」と言ってやりたいのをニグレドに免じて我慢する。
「罰などは与えないが少し待ってほしい。今日は敵情視察……じゃなかった。みんなの様子が知りたくて来ただけなのだ」
「そうで御座いましたか。呼んで頂ければ我々の方から行かせて頂きましたのに」
「う、うむ ……普段のオマエたちの姿を知りたくなってな」
「まあ! わたくし達に興味を抱いて下さるなんて! どうぞどうぞお入り下さいませ」
……入りたくないなあー
こわい……悪い予感しかしない……よし 逃げよう
「うむ またにしよう……みな息災のようで何よりだ。」
「有難うございます」
「イビルアイ……ちょっと」とモモンガはチョイチョイとイビルアイを手招きして一緒に恐怖の館から脱出すると通路を歩きながらイビルアイと話し込む。
「どうしたんですか? モモン……ガ様」
「いや……二人だけだからどちらでも良い。その……今回の話は聞き及んでいるか?」
「あ……」
とだけ言うとイビルアイは恥ずかしそうに俯きながら止まりそうな足をモモンガに遅れまいと無理に進めて歩く。
金色の髪から覗く耳が赤くなっていることが彼女の心情を表していた。
……えっ なんか今、高レベルなセクハラを敢行しなかったか?俺
事案が発生していることに気づいたモモンガは、わたわたと慌てたように手を振って話しだす。
「いや良いんだ! 知ってるなら良いんだ! その……彼女たちを100年も待たせた責任を取らねばという話なのだが……その権利はキーノにもあるぞ?」
イビルアイは少し膨れたように両頬を膨らませるとアウラに教わったのかジト目で隣を歩く愛しい骸骨を見る。
「……責任だとか権利だとか、そういうものじゃないと思うぞ」
「……ああ 確かに語弊のある言い方をしたな……すまない。ただなんとなく今の距離感が心地よくて、進むこともしない癖に皆を引くこともさせなかったのはこの私だ。そういう意味ではもう逃げないという意味での責任というか……な」
「ずいぶん難しく考えるのだな?」
「ううむ 恋愛とか未知の領域なんだよな……キーノの方が恋愛経験は上だと思うぞ?」
「なっ!? ばっ! あるかっ! そんなもの!」
「そうなのか? 言っておくけど、この世界で350年以上を生きるオマエは『スーパー人生経験豊富』な頼れる物知り吸血姫……というのが私のキーノ評なのだが」
「恋愛とかないないないない! 元々人間だったのが突然、吸血姫になって自分で身を守るしかなくって、で、自分がかなりの強者だったからみんなの面倒を見させられて……男女問わず『こいつら情けないなー』などという保護欲的な感情しかなかったのだ。モモン様が初恋……だと思う……」とイビルアイは段々声が小さくなりつつ、火照る顔を両手でパシパシと叩く。
「ええ……」
この世界での経験が豊富でツアーと同じくらいに頼りにしていたイビルアイの告白に、嬉し恥ずかしよりも不安が増大する。実は今も、アドバイスをもらおうと呼び出したのだ。
「でも……アルベドなどは契る契らないとか、子供のがどうのとか言ってたけど、私はどうせアンデッドで子供は産めないし……その、350年分の耳年増として好きな人と経験してみたいという想いは……あ、あ……るのだ……が……あの時、モモン様が言ってくれたように、ずっと一緒に生きていければそれで良い。それで満足で幸せだぞ?」
「子供か……」
モモンガは考える。今の自分には生殖器など無い。なのにみんなが『子供!子供!』とフィーバーしているのはきっと『大魔法使いであるモモンガ様なら……モモンガ様なら何とかしてくれるハズ……』とか考えているんだろうなー そんな魔法ねえよ……あれだけ倫理に厳しいユグドラシルの魔法に「生殖器を生やす」とかあったらコントローラー投げつけるよ。第何位階の魔法なんだよ……と、やさぐれそうになった。
「……キーノは子供が欲しいのか?」
イビルアイは一瞬、無表情になった後で少し泣きそうな顔になり、そして最後に「えへへ」と笑った。
「それは欲しいに決まってるけど……それが無理な事は解っている。それにモモンガ様が魔法で私の冷たい子宮に子供を創りだしてくれたとしても吸血鬼の赤ちゃんが育つことはないだろう。吸血鬼の赤ちゃんは赤ちゃんのままだ……不老不死とはそういう事だぞ? モモン様」
「つまり、吸血鬼が吸血鬼の子供を無理に産んだとしても育つ……成長しないのではないか?という事か」
「うん 確信を持っているわけではないが、吸血鬼でも極一部の種族を除いて……特に私の様に途中から吸血鬼になった者は子供を作れないし、成長もしないだろう。私もモモン様もアンデッドなのだから、どちらかの血を引いているということは不老不死で大きくなることの出来ないアンデッドの輪廻からは逃れられないんじゃないかな? そしてどちらの血も引いていない子供なら孤児院で養子を貰うのと変わらないじゃないか? そこまで無理して子供を得ることよりも共に生きていきたいのだ。モモン様と」
イビルアイの言葉にモモンガは考える。確かにそうかも知れない。しかし……チラリと自分が何か遭った時の切り札として装備している指輪を見る。
彼女達の顔を思い浮かべる。
キーノのお陰で踏ん切りはついた。
覚悟はまだだが……みんなとちゃんと話し合おう。
「ありがとうキーノ。 お陰で考えがまとまった。みんなのところへ戻ろう」
「そうか?」とだけ言ったイビルアイは「お駄賃だぞ?」と楽しげに呟くとモモンガの左腕にぶら下がる様に深く腕を組んで、モモンガと共に『モモンガハーレム』へと踵を返して歩き出した。
『モモンガハーレム』……そんな恐ろしいプレートが掲げられた扉を今度はちゃんと「コンコン」とノックする。
「モモンガ様!」というアウラの声が中から聞こえた。
なんだ? 確かに私はココに居るが?とモモンガが怪訝に思っていると、すかさずモモンガの腕にからみつくイビルアイが「萌え萌えー!」と元気に応えた。
「よし 入れ」
という、普段からは想像の付かないアウラの厳粛な声がドアの向こうから聞こえた。
……合言葉か!?
扉を開くとアウラが「あ……モモンガ様」と少し驚いた様に目を見開く。むしろ色々と驚かされたのは俺だが……とモモンガは思った。
部屋の中を見ると銀髪の変態ロリ吸血鬼シャルティアと黒と白銀の髪の番外席次『絶死絶命』がお互いの頬っぺたを両手で広げあい「いふぁひでありんふぅ~」「……はなひて」と取っ組み合っていた。
……また 増えてる。
(なんで番外席次がこのタイミングでココに居るんだ?)
泣きそうになりながら、この部屋の主であろうアルベドをチラッと見ると「ええ ちゃんと呼んでおきましたよ……出来る妻でしょ?」とでも言いたげなドヤ顔をしている。
いや うん 確かにあの時に「オマエ(の中の宝具)が欲しい」とは番外席次に言ったよ? そのあと『番外席次』にも良い返事もらったよ? でもさあ……ギンヌンガガプを振り回す
モモンガに気づいた番外席次はシャルティアに両頬を引っ張られて面白い顔になりながら「おふぃひゃひふりでふ。ほほんがふぁま」と嬉しそうに挨拶をする。
ひぃー という感情で埋め尽くされたモモンガの心であるが、ここで「チェンジ」と言える勇気がリアル魔法使い(100年物)である鈴木悟にある訳がなかった。
逃げたくなる心を押さえつけて踏ん張り、先ほどのイビルアイとの会話や100年の月日を思い起こす。
モモンガも百年もの間、何も考えていなかった訳ではない。彼女たちとの付き合いの中で色々と思うところが無いわけではない。
もし、これが自分が設定を狂わせたアルベドだけだったら受け入れられなかっただろう。
もし、これが設定上の都合で死体愛好家であるシャルティアからの求愛だけでは逃げただろう。
もし、これが至高の御方として無垢に慕ってくれる子供のようなアウラからの恋慕だけだったら誤魔化しただろう。
しかし、ここにはこの世界で作り上げた関係の中で自分を好きになってくれたイビルアイがいる。
そして、この世界で、この姿のままの自分を好きになってくれた絶死絶命がいる。
鈴木悟の感覚で「ぐっ」と目を深く瞑りながら息を吸い込み、そしてゆっくりと目を開きながら息を永く吐き出す。
つねり合いを止めたシャルティアと絶死絶命がモモンガを不思議そうに見る。
腕を組んだままのイビルアイも動きの止まった愛しい人を不安気に見上げる。
アウラとそして何かに気づいたようなアルベドが困惑しながらお互いに目を一瞬合わせたあと主からの言葉を息を呑んで待つ。
「よし みんな……結婚するか」
その瞬間にモモンガハーレムの住人たちの目が一杯に見開かれ、今の言葉を確かめるようにお互いの目を見合う。
そして「ッッ」と息を呑んだ数瞬後に、空気が爆発した。
アウラとシャルティアはお互いの手を握り掲げながら歓喜の雄叫びを上げる。
イビルアイは呆然としたままモモンガのローブの中に潜り込むと「ぎゅっ」と両手でモモンガのローブを握り震えている。
番外席次『絶死絶命』は無表情のまま 「ぐっ」と小さくガッツポーズをしたあと、あれだけ「信じてない」と言っていたスレイン法国・国教の祈りの印を切った。
そしてアルベドは力なく腰砕けに床にへたり込んだまま「ふえーん」と、ただ可愛く泣いていた。
「それで……だ。 その結婚するからにはちゃんとしたいのだが……えーと第一夫人がアルベドで第二夫人がシャルティア……」
自分で言いながら、なんて恐ろしい文章なんだ……と、冷や汗が心を伝い早くも後悔をし始める自分が居た。
「はい。第三夫人がアウラ、第四夫人がキーノ、第五夫人が番外席次となっております」と目を赤くしたアルベドが気丈に答える。
「うむ それで……その、后としての関係というか……その……睦事を求める者や子供を求める者も居るとは思うのだが……」
「はい それは是非勿論宜しくお願い致します」とアルベドが早口で応える。
「う、うむ それらの考えや覚悟というか……家族計画みたいなものを一人一人と話し合いたいのでまずは番外席次より、我が私室へと順番に来るが良い」
「やった」
「ええっ 最初は第一夫人の私から……」
「ああ もう 違う違う何もしないしない! 色々と尋ねておきたいことがあるだけだ」
「ちぇー」と棒読みで番外席次が残念そうに口を尖らせる。
「では番外席次よ。来るが良い。」
「わかった」
「あなた……いい加減に言葉使いを直しなさいよ……」とアルベドが小声で注意する。
「………(無視)」
「……」 アルベドが少しイラッとした。
「……行くぞ?」
モモンガは早くも大奥の不穏な雰囲気に色々と不安を抱きつつ番外席次を伴って私室へと移動する。
モモンガはチラリと後ろに付いてくる黒と白銀色の髪を持つ少女に目をやる。
番外席次は、あの第六階層での一騎打ちの後、しばらく消息不明になっていたのだが、10年ほど経った所で、デミウルゴスが「番外席次と思われる者が送り込んだ悪魔を倒してしまっているのですが……」と珍しく顔に怒筋を走らせて報告に来た。事実だった。どうやらあれから武者修行として世界各地を放浪しているうちにたまたまデミウルゴスの悪魔隊と遭遇して殲滅したらしい。シャルティアとコキュートスを送り抹殺しましょうと息巻くアルベドを制してモモンガが直々に会いに行くとすんなりと言うことを聞いたので「強いものと戦いたいなら2ndナザリックへ来なさい」と伝えてからは、2ndナザリックから転送されてナザリック本店の第六階層でシャルティアやコキュートスと手合わせを数カ月ごとに繰り返しているようだ。 新しい武器を手に入れたり、新しい剣技を習得する度に訪れるらしく、殆どはシャルティアが相手をしているのだが、確か「リ・エスティーゼ最強の二人組アダマンタイトチーム」から武技と不思議な形の刀剣(後で日本刀と判明)を譲り受けてシャルティアに挑んだ時に一度シャルティアを破っているはずだ。また、シャルティアが留守だったり面倒な時はコキュートスが相手をしているらしい。
歩きながら沈黙に耐えられなくなったモモンガが声をかける
「……どうだ? シャルティアとコキュートスは?」
「シャルティアには、たまに勝てるけどコキュートスは素晴らしい剣士。まだ勝ったことがない」
「ほう? 私は戦士職じゃないから分からないが、シャルティアの方が強いんじゃなかったのか?」
「うん シャル助はあれだな……3回戦えば1回くらい勝てるんだけど、それはあのバカがすぐに慢心し、油断して隙を見せるからな」
「……」 モモンガは残念な変態吸血鬼を頭に思い浮かべる。なんかホッペタにぐるぐるマークが付いた良い笑顔の美少女が脳内に現れた。
「それに色々とスキルとか奥義を私には使わない……見せないつもりらしく、いつも力攻めなので捌ききれれば何とかなる時もある」
「ふむ コキュートスは?」
「彼には始めの頃は二本の腕だけで相手をされたが、今は認めてくれたようで四本の腕で戦ってもらえる様になった」
「ふむ 確かにあくまで模擬戦で戦うならば技術レベルの高い剣士であるコキュートスは手強いだろうな」
「うん 終わった後も色々と指導してくれるので師匠に近い」
「そうか まあ楽しくやっているのなら良い」
「うん コキュートスには『爺ト呼ンデミテ欲シイ』と言われた」
「……あの
モモンガの私室に着いたので二人で中に入る。話す内容が内容だけに、天井のエイトエッジ・アサシンには席を外すようにすでにメッセージを送ってある。
部屋付きのメイド……眼鏡のリュミエールにも少し外してくれるように頼むと、リュミエールは訳知り顔で「では……3時間ほどしてから帰ってまいります」と顔を伏せたままモモンガに礼をすると、番外席次にウインクをして「頑張ってね」と小声で告げて退室する……何を頑張るんだ何を。「うん頑張る」とか番外席次が真顔で言っている。いや……頑張らせないからな。
「さて……ではそのソファーに掛けてくれ」
モモンガは執務室のソファーを指差す。
「うん」という返事とともにポスンとソファーに沈み込む。
可愛くソファーに埋まっていく姿は、見た目は中学生か小学生に見える番外席次にモモンガは器用にも複雑な表情を見せる。
「さて……ではこれからの話をしようか」
「あなたと私の子なら最強だと思う」
「うん 突っ走るのやめようか」
「間違えた」
「そうだな」
「よく間違えます」
「……あー うん それでな? 私としてはその、ちゃんと妻として迎えた上で男女は結ばれるべきだと思うのだ」
「ふむ モモンガは難しいことを言う」
「え? そ、そうかな……」
「うん 強い男、合体、子供作成、万歳で良い」
「どこの部族だよ。ほほう 強ければ良いんだ? へー じゃあ 俺より強い奴が居たらソイツが良いんだ? 居るかもねえ 世界のどこかにー」
モモンガは少し拗ねた。 番外席次は珍しく慌てながら
「いや……モモンガとは長い時間を掛けて色々良い所を知ったので他の誰かとかは考えられない。強い男というのは私より強いことが最低条件という意味。モモンガは私より強くて、それで、それで優しい。そして……格好いいと思う。在り方が。 ……一度に沢山話したから疲れた。私を困らせないでほしい」
「すまん。拗ねてしまった。誰でも良いのかと思って」
「……ふふ 可愛いよモモンガ。モモンガ可愛い」
「やめろ 俺を萌えキャラを見るような目で見るな」
「私 子供は二人欲しい」
「こら また飛んでるぞ」
「また間違えた」
「……」
「よく間違えます」
「……怖いよ!?」 なんで死んだ魚のような目で呟くのかな?カナ?
「よく間違えるのです」 虚ろな表情で番外席次が呟く。
……何かトラウマとかあるのか?
「あ、うん……それでその、我が妻の一人となり子供を欲するのならば、アインズ・ウール・ゴウンに正式に加入してもらう必要がある」
「良いよ」
「はやっ ……まあ 番外席次は規定を満たしているから大丈夫だろう」
モモンガは番外席次の特徴のある耳を見ながら呟いた。
もう一つの加入条件は……みんなが居ないのでギルマスとして独断で決めさせてもらう。文句があるなら言ってほしい。是非ここに現れて言ってほしい。
「ああ それと……今の私には生殖器は無い訳だが、どうやって子供を成すつもりなのだ?」
「それはアレでしょ? モモンガの大魔法か何かで、こー ババッと。ニョキニョキと。」
「女の子がその擬音は止めなさい……それは……やはりハーレムのみんなもそう思っているのだろうか」
「うん シャル助は『二本生やしてもらって特殊なプレイをお願いしてみたい』とか言ってたぞ」
「あの
懐かしい旧友の鳥顔を思い浮かべるとモモンガは珍しく舌打ちをして、一度 ナザリックの裏に呼び出さねばならんな……と不穏な言葉を呟いた。
「……出来ないの?」
「出来ない……ことは無いが……」
ユグドラシルの魔法にも変身魔法はあった。ここでも使えることは確認済みだ。
しかしあの魔法は対象相手に見せたい姿の映像を見せる魔法であり、本当に変身出来るわけではない。魔法耐性の強いものに効かないのはそういう訳であり、当然たとえ私が人間に変身したとしても皆からの見た目が変わるだけで中身は骸骨の私のままだった。
(つまり……ちゃんと結婚した上で夫婦生活を行うのならば……)
モモンガは自分の指に填まっている指輪を見る。
「出来ないことはない……そのために私は一定の期間、人間になろう……戻ろうと思っている」
「……モモンガは昔、人間だったの?」
「うむ そうだ。人間に戻っている間なら……その、生殖行為も行えるし、オマエの願いを叶えることはできるだろう」
「おお……あ、人間の時に結ばれたとして……弱い子が出来るのかな?」
「ん? まあ確かに人間種は下位種族なのでオーバーロードよりは魔法積載量も下がるし特殊スキルもなくなるが、レベルも下がらないし……まあそんなに弱くはないな」
「良かった。なら何の問題もない。よろしくお願い致します」
「あ、それゆえ一定期間の間だから二人作るとかは難しいと思うし、そもそもちゃんと子供が出来るかどうかは調べてないから分からないが良いか?」
「良くはないけど、良い」
「う……まあ とりあえずオマエをアインズ・ウール・ゴウン所属にするからな? では部屋に帰って……アウラを呼んできてくれ」
「分かった」
ドアを開けて出て行く番外席次を見送るとモモンガは「ふう」と溜息をつく。今まで放置していたことを一気に片付けるのはなかなか大変だ。
一分ほど経つと「タッタッタッタッ」と軽快に走る足音が聞こえる。アウラだ。恐らくモモンガを待たせないように走ってきたのだろう。
「失礼します」
コンコンとドアが鳴り、モモンガの返事とともに顔を赤くしたアウラ・ベラ・フィオーラが入ってくる。
この100年で最も心身ともに成長したのはダークエルフの姉弟だ。
ユグドラシルから、この世界に来た当時76才で身長も104センチしかなかったが、190才くらいになった今ではスラリとした体躯を誇っている。
人間で言うと高校生くらいの年齢に見えるが、褐色の肌と美しすぎる顔に映えるオッドアイ、そして男装ながら隠し切れないボリュームを誇る胸部が艶めかしさと神秘さを両立させた麗人としての魅力を日に日に増している。
見た目で言うならアルベド以外で唯一、ギリギリ犯罪臭が少ない妻(予定)ではあるが子供時代を知っており、我が子のように可愛がっていた時代が長かったため、血の繋がらない娘が無垢であることを良い事に父性愛か恋愛かの区別をつけないまま結婚するような後ろめたさがモモンガには色濃く載しかかっている。
「よく来たなアウラよ そこのソファーに座ってくれ」
アウラは一瞬座って良いのか躊躇したあとに素直にソファーに腰を沈める。
「いえ……あの、第三夫人としての心構えを教えて頂けるという事で宜しいでしょうか?」
「いや違う。先に言っておくがオマエを決して疑っている訳ではないと前置きした上で聞きたいのだが」
「はい」 コクコクと可愛くアウラが頷く
「オマエの……その気持ちは本当に女性が男性に向ける恋心なのだろうか? 至高の御方への敬慕の念であったり、娘が父へ向けるソレではないのかな?」
「……敬慕の念であり、父への思いであり、そしてモモンガ様という存在への尊敬と憧れ。モモンガ様の優しさや憂いに触れると、こう…お腹の辺りがキュンとします。全て、それら全てが足し算や掛け算で増幅されて、今の気持ち……恋情に辿り着いたのだと思います」
真っ直ぐなアウラの視線にモモンガはタジタジになっていく
「そうか……なんというか、子供だと思っていてもやはりオマエは本当に成長したのだな。あんまり早く大人にならなくても良いのだぞ? 私を置いてけぼりにしないでくれ」
そう言って苦笑いをするモモンガにアウラは目をつむって首を左右に振ると、昔には無かった憂いを帯びた瞳でモモンガに語りかける。
「置いてけぼりなど……行き着く先にモモンガ様がいつも居て下さっているからこそ、今まで頑張ってこれたのです。今まで、そのローブの端っこを手で掴みながら必死にモモンガ様やみんなの後をついてまいりました。でも、もう不敬ながらそれだけではイヤなのです。モモンガ様の隣を歩きたい。まだまだ愚かで未熟の身ですが、モモンガ様と同じものを見たいのです。おそばに置いて下さい。別に后や側室でなくても良いのです」
アインズ・ウール・ゴウンの中で最も娘のように思い成長を見守り愛でてきたアウラの健気な言葉にモモンガの心は震えに震えた。もちろん凄く光り輝き、アウラは少し細目になっていた。
「そうか……アウラよ オマエの覚悟はしかと聞いたぞ。 アウラの様な可愛い子をお嫁さんに出来るなんて私は幸せ者だな。……我が妻としてこれからは隣を歩いてほしい。」
「……はい……はい」
モモンガは泣き続ける娘を優しく抱きしめると、ああ……本当に大きくなったんだなあ……と昔とは違うアウラの頭の位置に感慨深げに目を細める。
アウラがひとしきり泣いた後、イビルアイを呼ぶように頼む。
ふうーと長い息を吐く。ある意味、最も色々と懸案していたアウラが終わってホッとしたのだ。
「あの子たちへの覚悟というよりは、自分が覚悟と納得をするための儀式に近いなこれは……」
そう一人つぶやくと、天井を見上げてエイトエッジ・アサシンが居ないことを思わず確認してしまう。
コンコンと執務室のドアをノックして「失礼します」とイビルアイが入ってくる。
彼女とは先程話せたので意思の確認をするだけだ。
「キーノ、ソファーに座ってくれ。話そう」
「はい」
「先ほど大まかなことは話せたから良いのだけれど、まず私の話を聞いてほしい」
「はい」
「まず 私は君たちを妻として迎えようと思う。そして子を欲する者には出来れば子を成したいとも考えている」
イビルアイはモモンガの言葉で「妻として迎える」の瞬間パアッと顔が輝き、「子を成したい」の所で表情が暗くなった。
「子供が欲しいものには……と言うが、モモンガ様自身には子供が欲しいという気持ちは薄いのか?」
「うーん そこが難しいところなんだよな」
「?」
「実を言うと、昔、人間の頃は自分のことだけで精一杯で子供が欲しいとかそういう余裕も無かったし考えたことが無かったんだ」
「ふむ」
「それでこの世界になりオーバーロードとして生活をし始めた時にはアンデッド化しており、性欲などを含めた『欲』自体がかなり薄くなってしまったのだ」
「難儀だな」
「うむ まあ御蔭で間違いを犯さずにこれたのです。とも言えるが」
「ふふ そんなお人では無いけどな」
「それで正直、子供と言われてもピンと来ない。そもそも子供というのは自分の跡を継ぐものだろ? 資産とか姿形や才能とか……
「これは重症だな……」
「そ、そうかな?」
「そもそも必要・不必要で考える物じゃないと思うぞ?」
「うむ そうだよな……そういう意味でも解決法として、私が人間に戻るという物がある。ある一定期間の間だけだが」
「ほう……そんな魔術があるのか……」
「うむ 魔術でもあるしアイテムでもある。魔術として使用するとペナルティが大きいからアイテムを使うつもりだ」
「なるほど……アルベドや番外席次が『子供が欲しい』とか言っていて、どうやって叶えるのかな? と思っていたが、流石モモンガ様だな。そんな大魔法があったとは」
「人間に戻ってみることによって『欲』が復活する可能性は高いと思っている」
「ふん 性欲も含めてだな」
「……女の子がそういうハシタナイことを言ってはいけません」
「ふはっ! 360才児だぞ!私は! 可愛いなあモモンガ様は」
「おい 私を萌えキャラとして認識するのは止めてもらおうか」
「はいはい」
「で、キーノも人間に戻ってもらおうかと 二年ほど」
「ふーん……?! は? はぁうあっ!?」
「人間の私と人間のキーノ。結ばれるのになんの問題もあるまい?」
「いや! え!? えっ?」
「とりあえず、アンデッドでは無く、人間の子供が産まれるな」
「いや……待って…その…ついていけないんだが……脳とか」
「……いやなのか?」
「そうじゃない! そうじゃないんだが……つまり、私が350年ぶりに2年間限定で人間になる……と」
「うむ そうだ」
「その……いや、まあモモンガ様なら何でも有りなんだろうなっ! うん! そこに疑問は挟まないが、何故2年間なのだ?」
「まあ 妊娠期間と出産、そして育児の際に母乳をあげる期間が必要かなと」
「ぼっ!? 母乳……ああ……うん お気遣い頂き有難うございます」
「どういたしまして」
真っ赤に茹で上がった顔のイビルアイをモモンガは微笑ましく見つつ、あっ これ超セクハラだ……と冷や汗が流れた。
「ふあー 私が赤ちゃんを……」
想定外のモモンガの提案と、これから自分に起こるであろう出来事を想像して顔が茹で上がったイビルアイは、熱い顔を両手の平でパタパタと仰ぎながら「次はシャルティアを頼む」と後背に声を掛けられながらモモンガの部屋からフラフラと退室していく。
……人間の私と人間になったキーノか……そして生まれるのは人間の子……。
感慨深げにそう呟いたあと、人間の13歳の金髪少女……犯罪臭が半端ないのだが……。と心の中で何かとペペロンチーノに懺悔した。
「え? シャルティア……良いのか?」
「はい! 本当に申し訳ないでありんす! モモンガ様!」
そういってシャルティアは五体投地で平伏する。
いや 別に平伏するようなことでは無いんだが……とモモンガは困惑する。
シャルティアはモモンガが人間に戻り、それによって生殖行為を可能にした上でみんなと交わると告げると困惑した上で拒否したのだ。
「わたしは死体愛好趣味であり、今のモモンガ様こそ、まさに私の好み通りのお方で御座います。人間に変身されるのであれば……その間は私の出番ではありんせん」
「ふむ まあ筋は通っているな……イビルアイは人間化して子作り希望とのことだが……オマエは違うのか?」
「はい イビルアイは確かに部屋に帰ってきた時も燥いでました。あの子は幸せそうでしたけど……私は子供が好きというわけではありんせんし、むしろ今の姿のモモンガ様に抱かれたいのでありんす」
「ふむ」
「指とか肋骨でお願いします」
「指は分かるけど肋骨……をどうする……? あ、良いです聞きたくないです」
「ふひっ」
「ブレないな オマエは……」
「あ もちろん第二夫人の座は誰にも譲りんせんので、妻としてこれからは宜しくお願い致します」
退出するシャルティアにアルベドを呼ぶように頼んだモモンガは椅子に深くもたれかかると、拍子抜けした様に体の力を抜く。
「そーかー シャルティアの分も使う必要があると思ったんだがなあー まあ助かったと言える」
まてよ?よく考えたらシャルティアは人間時以外の時も愛でねばならないということか? アイツ一人勝ちじゃ……でも子供を作らないという事を考えれば仕方ないな。
口にはしなかったが人間に成らないというのは吸血鬼という造物主ペロロンチーノさんの意志に反したくないという気持ちも強いのだろう。アイツ、ペロロン大好きっ子だからな。
ふふ 昔なら至高の御方に黙って抱かれることを選んだだろうに……成長しているのだな……驚くべきことに。信じられないことに。……成長しているんですよね?
廊下から抑えきれないと言わんばかりに「わっさわっさ」という羽ばたくような音がする。きっと黒い羽だろう。不穏と不安と不吉の全てを兼ね備えた音に、今のモモンガには聞こえた。怖い。
ラスボスの登場にモモンガは自然と力が入る自分に気づいた。
コンコンと静かにノックされモモンガの返事と共に「失礼致します」と嫋やかにドアを開けて守護者統括が扉から体を滑り込ませる。
「うむ アルベドよソファーに掛けるが良い」
「……いえ モモンガ様の前でそのような」
「かまわぬ 私の妻となるなら、プライベートでは今までの上司部下という関係を越えて接しなさい」
「……つ……ま」
ふるふると小さく感極まっているアルベドが頬を染めると「分かりました。……アナタ」と小声で囁いてソファーに軽く腰を掛ける。
そんなアルベドの可愛いさの破壊力に「おおう」と心のなかで動揺しながらもモモンガは心を強く持つ。
「うむ……アルベド……オマエに話したいことがある」
「モモンガ様……」
「今更オマエに覚悟とかを聞く必要は無いだろう。他の者に聞いたと思うが、私はお前達を妻に迎えるからにはしかるべく交わり、そして望むものとは子を成せれば良いと考えている」
「はい」
アルベドは、くふぅと一鳴きする。
「そのためにしばらくの間、 この指輪 『シューティングスター(流れ星の指輪) 』に込められた超位魔法『
「……はい」
「私がリアルという世界では人間だった事は伝えてあるな?」
「はい お聞き致しております。もちろん異存はありませぬ。それに……サキュバスは元々、人間の精を搾取する悪魔でありますので、人間とは相性がよう御座いますれば……その……契を結ぶのも、跡継ぎを得るのも容易いかと」
「うむ まあ……その……うん」
「モモンガ様……」
「オマエは昔から私を想っていてくれた」
「……はい」
「上司だからなどだけではなく私を慕ってくれていた」
「……はい」
アルベドは憂いを帯びた目でモモンガの眼孔の光を正面から見据える
「しかし それに応えることは出来なかった。お前のことだ、100年という期間が時間稼ぎでしかない事は解っていたハズだ」
アルベドは何も言わず、哀しげに微笑む
「それは……」
モモンガは言い澱む。
これからの話は自分が楽になるためだけのためにする話。
それは彼女を傷つけ苦しめるだろう。
「そんなオマエの愛に答えないのに他の誰かに応えて良い訳が無い。 私が誰かを求めるならばそれはオマエであるべきだし、そして事実としてそうだったのだ。アルベドよ。……オマエを愛している。」
「ああっ……」
小さく悲鳴をあげたアルベドは涙を大きな瞳に蓄えて目を見開き両手で口元を押さえる。
しかし モモンガの言葉には続きがあった。 その言葉によりアルベドはもう一度悲鳴をあげる事になる。
「だからこそ迷った。オマエの私への想いが自分、私の創りだしたものであるという疑念と確信があったからだ。オマエを歪めたのは私であり、それによってオマエが私を愛してくれたのならば……オマエを解放しなければ……」
「……解放?」
「ああ 先ほど言った通り、私が人間に戻るために使う魔法は、超位魔法『
「そ、それは……何で御座いましょうか」
アルベドは愛しい人の言葉が不穏な空気を奏でだし、深まりゆく恐怖に目を見開く。悪い想像が幾つも思い浮かんでは心の中で跳ね返りながら自分の心臓や肺を突き抜けて死んでしまうのではないかと思うほどの痛みをジワジワと受け続け今にも悲鳴を挙げてしまいそうになりながら次の言葉を待った。
「アルベドよ オマエの歪みを修正する。オマエを元の状態に……タブラさんが創りだしたオマエの設定に直す」
ronjin様 誤字の訂正を有り難う御座います。少し言い回しも修正させて頂きました。