鈴木悟分30%増量中   作:官兵衛

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挿話集 キーノの恋。 to kick corpse

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「未来のことは、誰にも分からない。だからこそ自分で創るために私は冒険者になったの」

 

 

『リ・エスティーゼ共和国初代大統領ラキュース・アルベイン・デイル・アインドラが国葬にて弔われた。 

無垢なる白雪(ヴァージン・スノー)に包まれたまま棺桶に横たわり、生前に保有していた魔力の御蔭か、この国の平均寿命を遥かに越えた長命であったが、顔は若々しく四十代にすら見える。

「あの呪いの鎧、無垢なる白雪(ヴァージン・スノー)を早く誰かに譲りたい、誰かに受け継いで欲しい」と生前、身近な人達によく語っていたと言われているが、彼女愛用の鎧を着せた状態で埋葬されることになった。きっと彼女も愛用の鎧に包まれて安心して死出の旅へと向かったであろう。最愛の恋人『漆黒の英雄』モモン氏が待つであろうヴァルハラへと』

 

 そんな『リ・エスティーゼ共和国』の街頭提示板の羊皮紙に書かれたニュースを一読して「うわあ……」と小さな悲鳴をあげる。派手な国葬を見守り終えたイビルアイは数年間各地を放浪した後に約束の地、モモンことモモンガの居る地へと向かう。

モモンが「独りぼっちになったらおいで」と言っていた言葉に甘える形となるが、ラキュースとの人生を共に送る事で寂しくはない日々を送ることが出来たのは確かだ。ラナー姫なども随分面白い人になっていたし彼女たちの物語でもいつかは書いてみたいものだ。

冒頭の「未来のことは、誰にも分からない。だからこそ自分で創るために私は冒険者になったの」は彼女の言葉の中で最も心に残っているセリフだ。

イビルアイは胸元を弄ると全8巻にものぼる『ラキュースノート』に触れる。黒い背表紙と今でこそAOG製の安価な紙が出回っているが、昔に記された巻ですら貴重な紙が使用されており、ラキュースの拘りが見られる。

中身は日記と我々が知ることのなかった彼女と悪魔との死闘の記録であり、特に魔剣キリネイラムが持つ魔性との戦いが一番多い。私達も知らなかったが、何度も眠っている間に『魔空間』と呼ばれる異次元にキリネイラムに引きずりこまれて世界を救う戦いをしていたり、魔法学校の様な所で急に犯罪者組織に学校を占拠された場合の対処法などが書かれており、非常に興味深い内容であり、戦いに身をおくものにとっては学術書と言っても良い。しかもこのノートはイビルアイが偶然ラキュースの机の引き出しから発見したものである。

 彼女が亡くなり、形見に何か貰っておこうと考えて机をゴソゴソしていると左の引き出しの一番下の段に魔法反応が見られた。そこで慎重にディスペル・マジックで罠を解除して開くと二重底となっており、恐らくラキュース以外の者が引き出しを開けたら机ごと燃え上がり、ノートも燃えるようになっていた様である。

 ……良かった。 一般人が何も考えずに開けていれば、この貴重なラキュースノートは焼失していたことだろう。これはラキュースによる「イビルアイならちゃんと見つけてくれるはず」という信頼の現れとも云える。そういえば病に伏せっている時に見舞いに訪れた時などは何度もこの引き出しをチラッと見ていた気がする。あれがヒントだったのだな。

 

『ラキュースノート』をペラペラと捲る。

 

『ゴッドブロー ゴッドブローとは女神の怒りと悲しみを乗せた必殺の拳!相手は死ぬ!』

『凶器乱舞(アルマ・ラフィカ)』『エンド・オブ・エターナル・インフィニティ』『軟式・波曲剣』とあらゆる必殺技が記載されている。しかもこの辺りはすでに冒険者を退いた後であり、彼女が引退後も自己研鑽を怠らなかった事が伺える。我が友人ながら誇らしい気持ちになる。

 

 ……この必殺技の作成日と、国会の公開質問会の日が一緒なのは偶然に違いない。所々、技名の対象相手に野党の政治家の名前が書いてある気がするが……気のせいだよな?ラキュース。

とにかく、このノートだけでは良く解らない部分が多すぎる。魔剣キリネイラムは危険という事で封印をした上で国庫に厳重に保管してあるが、この世界でも屈指の賢者であろうモモン…ガ様の所で解析してもらった方が良いだろう。そしてそれは彼に会いに行く口実になる。口実? それは彼への言い訳では無い。私への言い訳だ。

 

 

 すでにモモン様がアンデッドの不死王、骸骨であるオーバーロード・モモンガであることは告げられており、それに対する葛藤が彼の地へとそのまま向かうことを躊躇わせたのだが、放浪の中でアーグランド評議国のツァインドルクスの元を訪れて色々な助言を聞いた結果、少なくとも吸血鬼である自分の居場所としては申し分のないところであり、モモンガの事を、あの竜が珍しく褒めていたことが後押しとなったのだ。

別にモモンがモモンガだったとしてもそんなに問題は無かったし、人でない事は知っていたし同じアンデッドであり生殖能力の無い事は、むしろイビルアイをホッとさせてくれる事案であった。 やはり恋仲である二人がキチンと結ばれるのであれば生殖行動が伴い、そしてそれに付随して愛の結晶を授かるという過程があるのだが、アンデッドである自分にはそれが出来ない。誰かと愛し合ったとしても、その人の子を産めない申し訳無さはあまりにも大きな心的負担となり、いつかは心を歪ませ相手との離別へと繋がっていたかも知れないという恐怖、それがモモンがアンデッドである事で救われたという思いが実はある。

 モモン……モモンガの元にすんなり行くことが出来なかったのは自分に色々な覚悟が出来ていなかったという側面が強い。ラキュースの人生を見届けてから……と思っていたのだが、人間なのに凄く長生きしたからな……結局結婚しないままで、無垢なる白雪(ヴァージン・スノー)を装備できるまま……まあ 大統領を退いてから私設の孤児院を開いて沢山の子供達を育て上げた彼女は実に幸せそうだった。子供達の名前の付け方が割と……かなり独特だったのは気になるが、ラキュースノートを読んだ今なら、あれが他国の宝石の名前だったり、各国でいう天使の名前だったりと元ネタが解ったので腑に落ちた。

 

 私が畏れるのは、この気持ちが嘘になってしまうことだ。

もし、骸骨の彼を見てこの想いが揺らぐのなら、あれだけ好きだった自分の気持ちはなんだったのだろう?所詮は私も「吸血鬼は消えろ!」と私に石を投げてきた者達と一緒だ。本質は何も変わっていないのに、十三英雄と共に邪神退治に命を賭けた私の正体が吸血鬼だと分かった途端に手のひらを返した彼らと……脳裏に色々なあの時の光景がフラッシュバックする。 

 

 モモンさまには夢を見せて頂いた。長く綺麗な夢だった。

 

 さあ、いつまでも怖がってちゃいけない。私の恋に逢いにいこう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……あの時の自分を殴りたい。

 

「やめろおう~!うわあ~!?」

「良いではないか良いではないか!姉には妹の性徴……もとい成長を確認する義務がありんす」

「くふっ そ、そんな風に撫で回すな!」

「ふひっ 大きくしてあげるでありんす!」

「なるか!」

 

 シャルティアのセクハラが酷い。

 

 あの後、何度か訪れたことがあるトブの森にあるモモン様の別宅に行った。中に入るとホールで待たされ小一時間ほどするとモモン様が現れた。久しぶりだ。

私は気づかなかったがラキュースの国葬にも来てくれたらしい。すぐに観衆に見つかって「モモン様だ!?」「モモン様が黄泉の国より恋人を迎えに来たのだ!?」と大騒ぎになったので逃げ帰ったらしい……一般市民に発見されて「違うんです! 人違いなんです!」と涙目で逃げまどう世界の影の支配者……シュールだ。

 

 そしてそんな彼を可愛いと思った。

それから、何故か魔法学校の教室のような場所で「みんなの新しい仲間のイビルアイさんです。仲良くしてあげて下さい」とアインズ・ウール・ゴウンの幹部の人々に紹介された。

そしてナザリックでの私の暮らしが始まったのだが……想像とはかけ離れたものだった。まず、あれだけ相対することを恐れたモモン様とは中々会えなかった。いや、確かに思い返せばモモン様は「私たちの元に来ないか?」と言っていたのだが、もう少しプロポーズ的な何かだと思っていたのだが……。

 とりあえず半分ゲストのお試し期間という事で1階~3階層の責任者であるシャルティアの元に身を寄せることになった。シャルティアとは同じ吸血鬼ということで以前に紹介されているが、恐ろしく美しい顔立ちと目の前に立つだけで震えそうな怜悧さと強者独特の雰囲気を持つ真祖吸血鬼(トゥルーバンパイア)だ。

 当然私の良き先輩であり、彼女の妹分として何ら不足は無い。模擬戦の時に一蹴されたのも良い思いでだ。

 

 初めは上手く行っていた。

彼女は「わたしの事はお姉様と呼ぶでありんす」とご機嫌な感じで告げてきて、猫っ可愛がりをしだした。確かに見た目は12、3歳でシャルティアよりわずかながら下の年齢に見えるだろうが、実は250年の月日を生きてきているのだ。酸いも甘いも噛み分けているのである。

 初めは強くて美しい同種族のシャルティアを慕っていたが、「コイツ……アホの子だな……」という事に気づくのに時間は要らなかった。

まず、言動がアホであり、行動がアホであり、あと無駄にエロい。

 モモンガ様好き好きーと公言しているのに「女の子はノーカンだから!」と言いながら凄いセクハラをしてくる。というかキスはすでに何度もされたし、お風呂は絶対に一緒に入らないと駄目だと言い放ち、湯船で無い胸を揉まれるなど日常茶飯事。階層を見回りながら後ろを歩くバンパイアブライドの人たちの胸を揉みながら「ふむ 今日はまずまずの感触でありんす」と真顔で言い出したり、先日などお風呂を借りるためにこそっとシャルティアの部屋に侵入したら、寝室から恐らく第七席次を相手にして「眼鏡は着けたままにしなんし!」「制服と靴下も着用したままだっつってんだろうが?!」という怒声が聞こえてきた。……ナニをしているんだ。

 

 そんな訳で初めこそ良かったものの今では「お姉様」→「シャル姉様」→「シャル姉」→「シャル子」→「シャル助」と、順調にランクダウンしていきつつある。

 一度、声に出して「これ以上セクハラしたらモモンガ様に言うぞシャル助」と脅したら、「言いつけられて叱られる事はむしろ望む所だけど、せめて「シャル姉様」でお願いするでありんす」と綺麗な土下座をされた。 こいつまさか「M」でもあるのか?! 「ひいー」と小声に出してドン引きする。なんだこの変態吸血鬼は……

 

 もしかして、コイツの面倒を見させるために私をココへと預けたのか?と疑心暗鬼になる。

 守護者統括のアルベド嬢に変な部屋に連れて行かれて、「抜け駆け厳禁」と書かれた掛け軸を怖い笑顔で見せられたりもした。

 歩いている時にシャルティアにまとわりつかれている所をダークエルフのアウラにジト目で見られたりもした。

 

 そんなある日、モモン…ガ様に執務室の方に呼ばれて出向く。

「ああ……イビルア……」と言ったところで、しまったという顔で御自身の頬を自分の骨の手の平で「ピシャンッ」と叩くと「キーノ 来てくれたんだね」と言い直した。

そうか、今は二人きりだ。二人っきりの時はキーノと呼んで欲しいとせがんだ事を覚えていてくれたのだ

 

 やはり可愛い人だと思った。

 浮かれた私は「ふふ 何か御用ですか? モモンさ……モモンガ様」と言ってしまう

するとモモンガ様は全然頓着しないそぶりで「ああ 二人のときはどっちでも良いよ キーノ」と手を軽く振りながら言ってくれた。 えへへ 二人だけの秘密が出来たようで私は更に浮かれた。

 用というのは私が放浪していた時に通った国々の食糧事情についてだった。

現在、世界は慢性的な食糧不足から脱出しつつある。それはアインズ・ウール・ゴウンの御蔭と言っても過言ではない。そしてアインズ・ウール・ゴウンは人類だけでなく亜人や異形種の暮らしをもサポートとしているのである。そこの最高責任者が忙しくないはずがなかった。

 

 そんな中で私とこうして二人きりの時間を作ってくれたモモンガ様に感謝していると執務室のドアをノックする音がして丸眼鏡を掛けたオールバックに三つ揃えのスーツを来た人物が「デミウルゴス参上致しました」と頭を下げて入ってきた。

 

 …………? なんだろうこの既視感は? この人?と何度も会った気がする。

 

「あの……すまないが私と何度か会ったことはないかな?」

「え? はい モモンガ様より紹介して頂いた時に私も居ましたので」

「いや もっと こう 濃密な感じで……その……失礼だがヤルダバオトに似てる……?」

 

 突然モモンガ様がジワリと光りだした。

 

「ああ ヤルダバオトですか。なるほど。彼とは同じ種族なのです。アーチデビルという種のね。似てますか?」

「はい」

「でも彼は顔に大きな傷があって独眼ですが、私はそうではありませんよ?」

「え?! そうなのですか? すみません顔は仮面を被っていたため傷などは確認出来てないのです」

「そうでしたか。それは残念」

「なるほど そんな傷があったからあんな変な仮面で顔を隠していたのですね」

「……変でしたか」

「はい 変な趣味だなあと思いました。」

 

 妙に落ち込んだデミウルゴスさんは「では失礼致します……」と報告書を輝くモモンガ様に手渡すと退出する。

 

「ま、まあ 間違えるのも無理は無い。私も初めデミウルゴスが裏切って人間たちを襲いだしたのかと思ったからな」

「! そう言えば初めてヤルダバオトと会った時にモモン様、驚いてました!」

「そ、そうなんだ。まあ、ヤルダバオトと共にラキュースに奥義で吹き飛ばされたあと、死んだヤルダバオトの仮面を剥ぎとって顔を確認したが、デミウルゴスの言うとおり大きな傷と独眼の別の悪魔だったよ」

「なるほど、そうだったんですね」

「う、うむ ところで君が放浪した先ほどの土地で灌漑事業を考えているのだが、私と出かけてみないか?」

「え!」

「ずっとナザリックというのも飽きるだろう? もう少し自由に外を出歩いても良い様な役職を適当に与えるので少し待っていて欲しい」

「有難うございます!」

 

 

 

 

 

 

 その日、シャルティアの部屋のお風呂に入っていると「ふひっ」と言いながらアホの子が入ってきた。

 当たり前のように私の背後にするりと体技を無駄に使って回りこむと両腕で私の微乳を揉む。

「……んっ いや、何故揉むのだ……大きい方が揉み甲斐があるだろうに」

「ふふん 『大きいおっぱいには計り知れない夢が 小さいおっぱいにはささやかな希望が詰まっている』 ペロロンチーノ様の言葉でありんすえ」

 

 ペロロンチーノ……確かシャル助の造物主だったかな?

 

「『小さいおっぱいが好きなんじゃない。大きくならなかったおっぱいが好きなんだ』……素敵よねえ」ウットリとした顔でシャルティアがお湯に溶けている。

 

 いや 慈母の顔でナニ言ってんだオマエ そしてそいつは立派な変態だぞ?

 モモンガ様から至高の41人の悪口は禁句だと念押しされてるから言わないけどな

 

 そうか……変態に創られたからコイツも変態なのか……可哀想に……もう治らないんだな……よしよし

 

「姉の頭を撫でるんじゃないでありんすよ?!」

「ああ……良いんだよ シャルティア もう良いんだ」

「クッ 妹に頭をなでられるという屈辱ッッ……あ……でもなんか良い……」

「よしよし いい子だ」

「……その慈愛に満ちた表情が気になるんでありんすぅ……はふう」

「良いんだよ もう頑張らなくても……よしよし、ほら肩まで浸かって」なでなで

「ふうん……お姉さまぁ なんでありんすか この気持は……た、魂の奥底で姉を求める私が居るでありんす……ペ、ペロロンチーノさまぁ……」

 

 気づいたら レベルの高い百合プレイをしているイビルアイが居た。

 

 

 なんと言うか うん シャルティアとは、あれから少し仲良くなった。

 

 そして、モモン様と久々に外に出る。ゲートを使い視察の地へとやってきた。

「どうだ?イビ……キーノ。ナザリックでの生活は」

「うむ 結構慣れてきたのだ。ナザリックでのご飯が美味すぎて困る……特にデザート系はとんでも無いです」

「そうなのか?」

「はい こちらでは王侯貴族ですら味わったことがない逸品揃いです。特に『じぇらーと』という冷たいデザートは最高です」

「そうか……気に入ってもらえて嬉しい。シャルティアとは上手くやれているのか?」

「え……うん……最近随分仲良くなったのだ」

「うむ それは良かった。 アイツはアホだけど良い子……でもないか……まあ、見捨てずキーノの人生経験を活かして色々と導いてやって欲しい」

「は、ははは」

 

 キーノ・ファスリス・インベルンは満面の引きつった笑みを見せた。

 

 最近 「お手」と「おあずけ」を覚えましたなどとは言えない……

 

「君に渉外担当役の任に就いてもらおうと思っている。自由に出入りするためにも名目は大切だからね」

「気を使ってもらって申し訳ありません。でも、ナザリックに愛着も湧いてきましたし大丈夫ですよ?」

「そうかな? まあキーノがナザリックで居場所を見つけてくれたのなら安心だな」

 

 居場所……キーノは考える。

 

 シャルティアのところ? いや、断じて違う、 居場所……

 居場所は用意されるものじゃなくて自分で作るのだってラキュースが言っていたな

 そういえば 私が何故ナザリックに居るのか? 

 それはこの人が居るからじゃないか!

 なら私の居場所はモモン様だ。

 それはきっとナザリックの他の人達もそうなのだろう アインズ・ウール・ゴウンの居場所はモモン様なのだ。そういう意味で私は彼らの正しい仲間だったんだ。

 

「居場所は……」

「ん?」

「私の居場所はモモン様です。今は違うとしても、いつか私の居場所はモモン様のココに作ります」

 

 と不敬かも知れないが、モモン様の本来は心臓があるであろう位置に手を這わせる。

 

「お、おう」

 例え鈍いモモンガでもハッキリと伝わる告白にドギマギとして体をほんのりと輝かせる。

 

「そんな未来が来ると良いんですけどね!」

 とキーノは悪戯っ子の様に舌を出して溢れるような笑顔を見せた

 モモンガは昔見た漫画かアニメの台詞を重ねる

「未来のことは、誰にも分からない。だからこそ、この再会が意味するように、無限の可能性があるんだ。」

「ももんさま……」

 それはまるで昔ラキュースに聞いた台詞の続きの様だった。

「君が私に会いに来てくれたから作れた未来が今、ココにあるのだよ。 キーノ」

 

 ああ……やはり私はこの人が大好きだ

 

「も、ももんさまあああーーーーーー」

 キーノはモモンガの首を纏わりつくように抱きしめて泣いた。

 初めから居場所があったことに感謝しながら。

 

 バサッ

 

「ん? キーノ? なにか落ちたぞ?」

「ああ これはモモン様に見せようと思っていたのだ。ラキュースが生涯を掛けて記した『ラキュースノート』だ」

「ラキュースノート?」

「まずは見て欲しい。彼女が発明した無数の必殺技や、魔法が書かれているのだ」

ぺらぺら

「こっ これは?!」

 余りの内容にモモン様が震えだし、体を輝かせる。先ほど自分が一世一代の告白をした時より輝いているのが気に入らないが、ここはラキュースに華を持たせてやろう。

「ふふん 凄いだろう」

「すごいなっ ほんとにっ 主にラキュースへの死体蹴りが凄いな!」

 モモン様は震える手でページをめくり続ける。

 そうだ、もう一つ聞いておきたい事があった。

「モモン様。『ラ・ヨダソウ・スティアーナ』という言葉の意味を知らないだろうか?」

「なっ?! どこでそれを?!」

「ふむ やはりモモン様なら知っていたか……よくラキュースが疲れた様に大統領府の食堂で外交官から国際情勢の報告を受けるたびに「それが世界の選択なのね……」と寂しそうに呟いて、メッセージの魔法で連絡を取るかのように「私よ、彼は私達とやる気らしいわ……」等と話した後「あぁ、わかってるわ。あの人なりの考えでしょう。ラ・ヨダソウ・スティアーナ」と言い放って、寂しそうに御飯を食べていたのだ。」

「ぐっはあっ?!」

 まるで血でも口から吐くように苦しそうにモモン様が苦しむ というか泣いてる?!

「ど、どうしたのだ? モモン様」

「うぐぐぅ 古傷を抉られているかの様だ……ラ、ラキュュュュュスゥゥゥゥゥ! 私に何の恨みが……あるか…あるよな。くっ」

「?! まさかラ・ヨダソウ・スティアーナとはモモン様のような高位アンデッド用の退魔呪文か何かなのか?!」

「やめるんだ。キーノ もう俺のHPも0だ」ハッハッハ

「なぜ 爽やかな顔で?!」

「こ、このノート、俺しか見せてないよな? な?」

「いや 内容を知りたくて情報総監(パンドラズアクター)に見てもらった結果、感動して複製品を作っていたぞ」

「よし 終わった!」

 

 なぜか良い笑顔でサムズアップする全てを諦めたオーバーロードがそこには居た。

 というか私の好きな人だった。

 

 

 

 

 

 

 

 この数日後、ご機嫌でお風呂に入ろうとしたシャルティアの部屋で、ピーにピーしている尻尾と首に着けた首輪の姿のクレマンティーヌにピーでピーしながらピーしているシャル◯ピーさんの光景を見て『シャル姉様のアホバカ変態! 不潔だーーー!!』と叫んで家出することになろうとは考えもしなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

おまけ

 

〜ニグレドの部屋〜

 

 

 

「だから近い近い近い近いっつってんのよ!」

 

「痛い痛い痛い痛い?! アルベド?! 落ち着きなさい?! 姉さんにアイアンクローをかけないで! 色々とむき出しだから! ね!」

 

「なに抱きついてるのよ?!」

 

「痛い痛い痛い痛い?! あっ 今、「ミシッ」って言ったから?! コメカミから素敵な音が聞こえたから!」

 

 

 

 

 

 

 

 








代理石様、ゆっくりしていきやがれ様、誤字脱字修正有り難う御座います

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