モモンガが、マーレの持つ神級武器(ゴッズアイテム)である「魔法の杖シャドウ・オブ・ユグドラシル」を興味津々で見せてもらっていると、コロッセウムのゲートに人影が見えた。
やや浅黒い肌に髪を後ろに撫で付けた髪型。理知的で精悍な顔つきに丸メガネ。そして悪魔の尻尾を左右に揺らしながら赤いストライプ柄のスーツを着込んで優しげな笑顔を張り付かせたまま、こちらに向かって歩いてくる人物はナザリックの防衛指揮官である智将デミウルゴスに間違いない。
「お待たせしましてすみません。第七階層守護者デミウルゴス 御身の前に」とモモンガの前にひざまづく。
「悪いなデミウルゴス。わざわざ来てもらって」
「なにを仰せでしょうかモモンガ様。お呼びして頂ければ、このデミウルゴス、いつでも何処にでも馳せ参じ致します」
「うむ オマエの忠義、有り難く思うぞ」
「とんでも御座いません! そう仰って頂けるだけで億万の褒美に勝ります!」
「そうかデミウルゴス。お前の忠義有り難く思うぞ。……ところで第七階層では、何か変わったことは無いか?」
「いえ 第七階層では特に何も変わった様子は御座いませんが……」
デミウルゴスは、そこで言葉を区切ると右手中指で丸眼鏡をクイと直し、一段階シリアスな表情を見せ「……もしかして、何か問題が起こったのでしょうか?モモンガ様」と言葉を続ける。
「うむ どうやら守護者には気づくことの出来ない差異でありながら、私にとっては看過し難い異変がナザリックに起こっている。それがナザリック内だけの問題なのか、もしくは世界に関わりのある事かを現在調査中だ」
「なんですと! 階層守護者たる大任を仰せつかっている身でありながら、それだけの異変に気づく事も出来ないとは、なんという失態を! どうか愚臣に罰をお与え下さいませ! そしてこの汚名を晴らす機会が与えられましたらそれに勝る喜びは御座い在りません!」
自らを激しく責め、顔を歪ませて平伏するデミウルゴスを見て、モモンガは哀しい気持ちにならざるを得なかった。
(……デミウルゴスも大丈夫そうだな……どうやら守護者たちは創造主たるギルドメンバーに対して一定以上の忠誠度を保持し続けているようだ。なのに俺は、恐怖心から猜疑心を抱き、みんなが残してくれた、みんなが預けてくれた彼らの子供達を、あたら試す様な事をするとは……なんという愚かで狭量な人間(骸骨だが)なのか……度し難いな)
「デミウルゴス、オマエの全てを許そう。なに、気にしなくとも良い。私もまだ解らないことだらけなのだ。このような非常事態にこそ、ナザリック屈指の知謀を持つオマエには存分に働いてもらう事になるだろう。期待しているぞ、デミウルゴス」
「ははっ 不肖の身への過分な慈悲と身に余るご期待に沿えるよう滅私奉公の覚悟で働かせて頂きます!」
「うむ よしアルベド。 コキュートスはもう来る頃か? では第一、ニ、三階層守護者のシャルティアも呼んで来てくれないか? セバスがそろそろ斥候から帰ってくる頃だから、報告を聞いてからみんなに知らせておきたい事がある」
、ニ、三階層守護者のシャルティアも呼んで来てくれないか? セバスがそろそろ斥候から帰ってくる頃だから、報告を聞いてからみんなに知らせておきたい事がある」
「はい」と返答したアルベドがコロッセウムから出ると、引き換えに水色透明の武人コキュートスが独特のオーラを纏いながら姿を見せる。
「遅クナリ 申シ訳ゴザイマセン 第五階層守護者コキュートス 御身ノマエヘ」
(おお 生で見るコキュートスは迫力あるな……)
2.5mの巨躯に4本の腕。それぞれにゴッズ級の武器を持ち自在に操るコキュートスは武人建御雷さんが「武人」をコンセプトに作った
「コキュートス よく来てくれた。第五階層は変わりないか?」
「ハイ、オ呼ビトアラバ 即座ニ! 第五階層ハ何モ 変ワリアリマセン」
「
「ハイ イツモドオリ、見回リナド 良クヤッテクレテ オリマス」
氷結牢獄真実の部屋……情報系魔術に優れたニグレドの部屋もコキュートスの管轄だったな。
解らないことが多い今、彼女には大いに働いてもらうことになるだろう。
「そうか ならば良い。ここでシャルティアと、斥候に出したセバスを待て」
「ハッ」
待てよ そう言えばセバスに第六階層に移動した事を伝えていないな。ユグドラシルと同じように一度会った相手と云うことでメッセージを飛ばせないだろうか?と思い指をコメカミの辺りに添えて、セバスを思い浮かべつつ『セバス、セバスよ』と呼び出してみる。すると『はっ モモンガ様』とセバスとのチャンネルがアッサリと開いた。まさかこんなに上手く行くとは……。
『セバス、どうだ? 状況は?』
『はいモモンガ様。何やら不可思議な事態が起こっている様でございます』
『ふむ? どうした』
『まず、ナザリック大墳墓の地表と周囲ですが……広々とした草原地帯になっております』
『なに? ……わかった。今、階層守護者を集めて第六階層のコロッセウムに居るので、みんなにオマエの見た事実を伝えてくれ』
『はっ 解りました。では帰投致します』
……草原だと? いかん、また身体中から緑の光が溢れだした。どれだけ動揺しているんだ俺は
ナザリック大墳墓は沼、それも毒の沼に囲まれていたハズだ……ユグドラシルが実体化した。もしくは俺がユグドラシルに取り込まれたと思っていたが違うのか?しかし守護者各位は何の問題も無く、各階層も変化は無いという……。
むむむ? と、なると……
仮説.1「ナザリックという拠点が移転した」
仮設.2「アインズ・ウール・ゴウンという勢力が移転した」
……あまり変わらない様でいて意味が違ってくる。仮説①だと「あの時、ナザリックに存在した有機物も無機物もナザリックごと移転」、仮説②だと「ナザリックという勢力下の者が移転」という事になり、未だアインズ・ウール・ゴウンに登録されている他のギルド…メ……ん?
突如、目の前3メートルほどの場所に「ブォン」と云う音がして暗闇の穴が現れる。
なんだ……あれは?とモモンガは身を硬くする。
するとそこから紫色のボールガウンに包まれた「芙蓉の
そうか!ゲートか!?
シャルティアはペロさんが
美少女は首を振って周りを見渡すとモモンガを発見し、手に持っていた日傘を投げ捨て走り出す。その後ろから同じゲートを潜り抜けて来たアルベドが「待ちなさい! シャルティア!」と手を伸ばす……が、それからするりと逃れると
しまった! よりによって自分との相性の問題で、最も要注意人物として危険視していた対アンデッド能力に優れるトゥルー・ヴァンパイアが、一気に距離を詰めてモモンガの懐に飛び込んでくる! モモンガは必死に近くに浮遊させていた『スタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウン』に手を伸ばそうとするが間に合わない。
「ああっ!愛しの
と感極まった様に嬌声を上げながらシャルティアは猫がじゃれるかの様に頭をグリグリグリーとモモンガの胸に当てながら「愛しのモモンガ様あ~!」と強く抱きついていた。
……はふう よ、良かった。
モモンガはキラキラキラとした光に包まれながら力が抜けていく。
いや 待て! 良くない! こ これはダメだ! 良い匂いだし! 熱烈な告白されてるし! 条例とか! 事案が起こっている! お巡りさんコイツです! これはダメ。ゼッタイ! yesロリータ!noタッチ! 生シャルティアが美少女すぎる! ペロさんの言っていた「14歳最強説」の意味が今わかった気がする。妖艶な美女アルベドでもなく、可愛さ満点のアウラでもない。完成された美少女に抱きしめられ、胸元に頭ぐりぐりとか!あとなんか柔らかいのとか当たってる! そもそもリアル魔法使いだった俺にこんな精神攻撃とかオーバーキル過ぎる?! というか魅了されてる!? 頑張れ俺の精神異常沈静化! ああっ もう無理! 無理無理無理無理かたつむり! あと全身から湧き上がる光が更に凄いことに為ってる! 今なら蒼き衣をまとった姫姉様が降臨出来そう! 嫌だ! 俺は事案じゃない! 事案じゃないのにぃ! くやしぃ! こんなので! ビクンビクンッ ……もう……ゴールしても良いよね?
混乱の中、薄れゆく意識の中で「ステイステイステイ! シャルティア! ステイ!」というアウラの声が遠くから聞こえた気がした……。
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「モモンガ様!? モモンガ様!?」
「ももんがさまぁ~!」
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みんなに呼ばれる声がする。
そうか、あんまりにも色々あり過ぎて精神作用無効化が追いつかず、心がキャパオーバーしてしまったか……
もっと完全なアンデッドだったら精神作用による負荷など気にならないハズなのにな……
しかし、不完全だからこそ、今、こうしてみんなに呼ばれていることが、こんなにも幸せで嬉しいのだろう……
必要は無いが、すうーっと一息吸い込んでから、ゆっくりと吐き出す。
「すまない みんな、心配を掛けた」とモモンガはムクリと起き上がる。
シャルティアとアルベドとアウラとマーレは泣きながら私の名前を呼びながら体を揺すっていてくれていたのだな……。みんな酷い顔をしているな。可愛い顔が台無しだぞ
「ありがとう。もう大丈夫だ」
「ごめんなさいモモンガ様! ごめんなさい! 久しぶりにモモンガ様に逢える事が嬉しくて!堪らなくて!」
ははは……ニセ廓言葉を忘れているぞシャルティア ペロさんに詰め込まれた設定を忘れちゃ駄目じゃないか。
「良い良い シャルティア おまえの全てを許そう。色々あってちょっと疲れていただけだ」
「でも! でも!」
「……ずっと心配していたのだ。今回、ある大きな異変……守護者には気付けないが、この世界を覆す程の大きな異変があったんだ。この非常事態を乗り越えるのには私一人ではどうにもならぬ。守護者とナザリックの皆の力が必要なのだ。しかしあまりに大きすぎる世界の歪みにより、今までの法則も常識も無くなってしまった。私はそれによりナザリックの皆も、同じように法則が崩れ、在り方が変わってしまっている可能性もあると、悪という本来の本能に目覚め叛意に身を委ねる者が現れても仕方ないと心配してしまったのだ」
「そんな!至高の御方に対して裏切るなど守護者の誰が致しましょうか!」と普段、冷静沈着なデミウルゴスが叫ぶ。
「我々を創造し、我々が存在する意義そのものである御方に身が粉になるまで尽す事こそが我らが本望で御座います!」といつの間にか帰っていたセバスが怒った様な顔で宣言する。
「うむ、全くである。全て私の杞憂であった。最後に現れたシャルティアが無邪気に私を慕ってくれているのを表してくれた時、ああ我が守護者たちは大丈夫だ。と安心し緊張の糸が切れてしまっただけなのだ。だからシャルティアは何も気にするでないぞ」
「モモンガ様ぁ……」
シャルティアは泣きながらモモンガを抱きしめる。なにか……こう……ドサクサまぎれに体を色々と
「……無邪気? 邪気の塊だった気がするんだけどワタシ」
というアウラの小声が聴こえる。
いや 今 良い感じに終わる所だったからな?
ゆっくりしていきやがれ様、ペリ様、kubiwatuki様、誤字脱字修正有り難う御座います